世界の核弾頭マップ 総数↘でもリスク↗ その理由は?

NHK
2023年5月22日 午後5:01 公開

G7広島サミットでの主なテーマの1つ「核軍縮・不拡散」。

「世界の核弾頭の現在の状況」、そして「この10年間の核弾頭の変化」を、もう1つの被爆地・長崎にある長崎大学核兵器廃絶研究センターの調査をもとにまとめました。

データの検証を続ける専門家は「核使用のリスクがキューバ危機以来最も高まっているのではないか」と警鐘を鳴らします。

世界の核弾頭数

長崎大学核兵器廃絶研究センターは核軍縮・不拡散を巡る調査や研究のために、スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)や米国科学者連合(FAS)のデータをもとに毎年、核弾頭についての変化をまとめています。

世界の核弾頭数の推移(2013年~22年)

世界の核弾頭数を2013年と2022年で比較すると、17,300→12,720発。総数を見ると核軍縮は進んでいるようにも見える。しかし、専門家は「むしろリスクは高まっている」と警鐘を鳴らす。その理由は…。

軍用核弾頭数と退役・解体待ちなど

内訳を見ると、減っているの灰色の部分は「退役・解体待ち」など軍用任務から退役したもの。一方、オレンジ色の部分で示す「軍用核弾頭」はほとんど減っていない。

長崎大学 鈴木達治郎教授

長崎大学 鈴木達治郎教授(核軍縮・不拡散政策が専門)

「核弾頭の総数は減っているという数値だけ見ると誤解を招きます。 減っているのは、退役・解体待ちのものが中心。一方、いわゆる軍用核弾頭に注目するとそれほど減っていない。むしろ増えている国もある」

※軍用核弾頭とは 作戦配備(部隊に配備・貯蔵され、そのまま使用できる状態に置かれている弾頭)と作戦外貯蔵(作戦配備はされていないが、将来の使用の可能性を想定して貯蔵されている弾頭)の合計。

米ロは減少 しかし増加している国が5カ国も

世界の軍用核弾頭数の推移(2013年~22年)

この10年でみると軍用核弾頭数も全体としては減っている。しかし、減らしているのは新戦略兵器削減条約(新START)の履行義務があった米ロが中心だった。

一方で、グラフで示した緑の部分、米ロ以外の7か国の軍用核弾頭数を合計すると、その数は増えている。内訳で見てみると…

増加)中国:180→350発

   パキスタン:120→165発

   インド:110→160発

   イスラエル:80→90発

   北朝鮮:10→40発

横ばい)イギリス:225→225発

減少)フランス:300→290発

米ロ以外の7か国の合計でみると、1,025→1,320発

鈴木達治郎教授 「米ロ以外の、軍用核弾頭の数はこの10年間でむしろ増えていいます。かつては、米ロがお互いに核戦争をしないという目的で合意し、総数を減らしていれば良かった。しかし、今は、インド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮も核兵器を持ってしまっている。今までの米ソの核軍縮対話だけでは核兵器使用のリスクを下げることが難しい状況になってしまっていのです」

さらに、長崎大学核兵器廃絶研究センターでは、近年のロシアの軍用核弾頭数の推移にも注目している。2013年から2022年の10年間で見ると減ってはいるものの、2018年からの5年間に区切ってみると一転してその数は増加。129増えている。

鈴木達治郎教授 「米ロの新戦略兵器削減条約(新START)の核軍縮義務遂行の履行期限だった2018年2月以降を見ると、ロシアの軍用核弾頭は増加しています。核弾頭総数の9割以上を占める米ロをはじめ、各国のさらなる削減努力が急務なのです」

人類最後の日までの残り時間1分30秒 過去最も短く

「終末時計」

アメリカの科学雑誌は「人類最後の日」までの残り時間を象徴的に示す「終末時計」について、これまでで最も短い「残り1分30秒」と発表。

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻などを受けて、世界は前例のない危険な状態にあると警告した。

◆これまでの「残り時間」

1947年「7分」
1949年「3分」
1953年「2分」
1960年「7分」
1963年「12分」
1968年「7分」
1969年「10分」
1972年「12分」
1974年「9分」
1980年「7分」
1981年「4分」
1984年「3分」
1988年「6分」
1990年「10分」
1991年「17分」
1995年「14分」
1998年「9分」
2002年「7分」
2007年「5分」
2010年「6分」
2012年「5分」
2015年「3分」
2016年「3分」
2017年「2分30秒」
2018年「2分」
2019年「2分」
2020年「1分40秒」
2021年「1分40秒」
2022年「1分40秒」
(毎年発表し始めたのは、2015年以降)

長崎大学 鈴木達治郎教授 「核軍縮交渉が進めば針は戻るんですけど、核弾頭の数が急激に減っていく2000年代に、むしろ針は進んでいます。核弾頭の数を見るのは重要で、核軍縮交渉がうまくいっているという1つの証拠ではあるんですけど、それと核兵器使用のリスクは必ずしも相関しない。 今まさに、核兵器使用のリスクが、おそらくキューバ危機以来もっとも高まっている状況だと思います」

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