「クローズアップ現代」放送までの24時間に2年目カメラマンの私が潜入してみた

NHK
2022年4月27日 午後8:08 公開

ことしで放送開始から30年目を迎えた「クローズアップ現代」。普段番組がどのように作られているのかをご紹介します。NHKの若手職員が、生放送までの24時間をリポートします。

リポートを担当したのは…

私は報道技術センターという部署でカメラマンをしている、入局2年目の高橋万奈です。

オリンピック中継に携わりたいという思いからNHKに入局。希望が叶い中継部に配属され、この1年「NHK杯フィギュア」「全日本アイスホッケー」などのスポーツ中継や「国会中継」「総理会見」などの報道番組をメインに仕事をしています。

しかし、「クローズアップ現代」などのスタジオ情報番組は担当したことがなく、どんな風に作られているのか興味津々で、今回この取材記事を書かせていただきました。

 

「クローズアップ現代」ってどんな番組?

「クローズアップ現代」は1993年に始まった番組です。私が生まれたのは1997年。その時すでに放送を始めて4年がたっていました。 

クローズアップ現代 全記録|放送記録一覧

 

正直に言うと、入局するまで「クローズアップ現代」を見たのは数回程度でした。しかも、新型コロナウイルスなど注目度の高いテーマのものしか見たことがありませんでした。

昨年度までの「クローズアップ現代+」は、「ニュースウオッチ9」のあと、夜10時という遅い時間のスタート。そこから情報量の多い番組を見ることは、学生の私にとってはハードルが高かったのですが…今年4月からは放送時間が夜7時30分に。

「時間帯を早めることで、いままで見ていなかった若い世代にも見てほしい。」

番組側には、そんな思いがあるそうです。

また、今回のリニューアルにあたっては、「固い、暗い、イメージを脱却し、時には教養番組や科学番組の間のようなテイストも盛り込んでいくことで、より幅広い年齢層に愛される番組にバージョンアップする」というねらいがあるとも聞きました。

 

放送前日、いざ、取材開始

 さて、そんな私が取材を担当することになったのは、4月5日放送「体の不調 天気のせいかも!? 最新研究で分かる対処法」。  

テキストダイジェストを読む

まず向かったのは、生放送前日の編集室です。

放送前日 17時30分 放送センター編集室

緊張しながら編集室に入っていくと、担当のプロデューサー、ディレクター、編集担当の方がいて、翌日に向けて出演者の方とオンラインで打合せをしたり、番組の台本の打合せをしたりしていました。

プロデューサーは番組全体の責任者、ディレクターは実際の取材や撮影の担当者です。

プロデューサーに今回、なぜ「天気痛」をテーマに選んだのか、番組のねらいを聞いてみました。

 

「新型コロナウイルスの感染拡大による在宅勤務の増加により運動不足になり自律神経が乱れ、それらが天気痛に繋がります。いわば天気による頭痛や関節痛は“現代病”と捉えて、テーマとして選びました」

 

なるほど・・・現代病!

次に話を聞いてみたのは映像の編集担当者。
多くの情報の中から大切なポイントを、皆さんにお届けするため、撮影した素材をおよそ2週間かけて編集(テーマによりますが)し、VTRを作り込んでいくそうです。

  私の取材時は、オープニングの映像を編集していました

 

 

編集する時はまず初めにロケしてきた多くの素材から、重要な情報、心が揺さぶられる映像に目をこらしていくそうです。 

私自身、2年目カメラマンとして気になったので、「VTRに使いたいと思う映像の基準は何か?」を質問してみました。

すると、「これといった基準はないが、いいカメラマンが撮った映像は“感情が伝わる画が多い”」とのことでした。

その言葉を聞いて、私は背筋が伸びる思いでした・・・。
テーマの意図を汲み取り、カメラマンの嗅覚で要のシーンが撮れているかはVTRのクオリティに直結するのだ!と改めて実感しました。

また、編集室の後ろには多くの付箋がずらりと並んでいました。

 

 

 番組構成やVTR構成を考えるボード、通称“ペタボード”です。
どんな映像をどの順番で使うか、どんなナレーションを入れ込むか、このボードで情報共有しているそうです。付箋を使うことで入れ替えるのが効率的ということで、NHKでは長年使われているとのことでした。  

 

 

最新のパソコンを何台も駆使して編集をしている後ろに、紙の付箋がぎっしりと貼られたボードがあり、デジタルとアナログが融合された編集室は少し異様な光景に感じました。

 

そして、放送当日

 

9時30分 放送センターMAルーム

放送当日は、音の仕上げから始まりました。
やってきたのはMAルームと呼ばれる部屋。MAとはMulti Audio の略で、映像に入っている音声(インタビュー)や、スタジオで吹き込むナレーション、そして効果音やBGMなどを調整して、仕上げる作業です。ナレーションや音響によってVTRが命を吹き込まれる制作過程です。

まず始まったのは、声優さんによるVTRへのナレーション入れです。

2年目カメラマンの私は、先輩から、「音声がなくても伝わる画を撮るように心がけることが大切」とこれまで何度も教わってきました。ナレーションが入る前のVTRもその言葉通り、内容は伝わり、問題がないように制作されていました。

しかし声優さんの高度な技術による抑揚や強弱、また再現ストーリーの前後は少し声のテイストを変えるなど細部へのこだわりを施すことで、流れてくる情報に命が吹き込まれ、より魅力的なものへと進化していきました。

まさにテレビ画面から文字が飛び出してくるような、2Dの映像が3Dの映像になっているような感覚でした。

  声優さんがナレーションを読むブース内

 

VTRに入るBGMも話し合いを重ねて一つ一つこだわって選曲されています。

 

(内容やナレーションと合うBGMかどうか綿密な打ち合わせ)

 

さらに言葉のイントネーションに疑問を感じたら、スタッフ全員で「日本語発音アクセント辞典」を手に取り、その都度確認する場面も。

 

本音を言うと、入局するまでテレビ局は華やかな世界だと思っていた部分が大きかったのですが、今回の取材では、このように泥臭く作り込んでいく姿が多く見られたのが印象的でした。

 

12時30分 放送センター会議室

 桑子キャスターとの打ち合わせに参加

ナレーション収録が終わると、プロデューサーとディレクターは会議室へ移動。今年度から新しく「クローズアップ現代」のキャスターとなった桑子真帆アナウンサーとの打ち合わせです。スタジオでどんなことを話すのか、ゲストにどんな質問をぶつけるのか、内容のすり合わせを行っていきます。

 

奥にいるのが桑子アナウンサー 

 

私は普段カメラマンとして、自分の撮っている画で視聴者に情報が伝わるかを常に気にしながら番組制作に臨むように心がけています。

でも、時間をかけて繰り返し一つのテーマについて考えリハーサルをしているうちに、初見の視聴者にとっては飛躍しすぎてしまっている、あるいは、伝わりづらい内容になってしまっているかもしれないことがあります。

打合せでは、桑子アナウンサーは番組の中に多くの情報を盛り込むことで視聴者を置いてけぼりにしていないか、視聴者の意見や悩みを解決し理解を広げてもらうにはどのような構成や演出にした方がいいか、多くの意見を提案していました。

桑子アナウンサー自身、このテーマに対する立ち位置はどうするのかを考えながら、情報をフリップで伝えるのか、バーチャル(デジタル映像)で伝えるのかまで話し合いを重ねていました。

私はアナウンサーとの番組打合せの場に同席したのは初めてで、アナウンサー自身が番組の構成に対して意見や提案をしていることは知らなかったので驚きました。

 

16時30分 放送スタジオ 技術打合せ

 

バーチャルとリアルが合体したスタジオセット

放送に向けて制作スタッフや技術チームとの打ち合わせが放送スタジオで始まりました。

そこで私が驚いたのは、一面、緑になっているスタジオの壁です。

「クローズアップ現代」のスタジオはセットの後ろをグリーンバックにすることで「開放感」を演出。放送ではバーチャルを駆使して様々な情報をお届けできるスタジオになっています。

(緑の壁しか見えませんが、カメラで撮影するとバーチャル空間が)

 

私が初めて見た興味深い最新アイテムがこちら!

この黄色の丸で囲まれた木で出来ている棒状のもの、これがバーチャルを撮影するには欠かせないアイテムです。

どのカメラで撮っても同じようにバーチャルの映像が撮影出来るよう位置の基準を決めるアイテムです。こんなに小さいアイテムが壮大なバーチャルを撮影するために必要不可欠だということに驚きました。

目の前にあるものを撮影するのではなく、画面上でしか映し出されないものを撮影するため、どのあたりの所にバーチャルが出現するのかどのように指せば分かりやすいか入念にチェックしていました。

私が普段担当しているスポーツ中継や国会中継ではバーチャルを使った撮影は滅多にないのでとても新鮮でした。

 

18時00分 ゲスト打ち合わせ

 

放送1時間30分前。
ディレクター、アナウンサー、そしてゲストで放送内容の最終打ち合わせが行われました。

まず、ディレクターから番組内容の説明が行われます。
それを受けて、ゲストをまじえ、視聴者に誤解を招くような表現は無いかを徹底的にすり合わせしていきます。

前日までもVTRの内容に誤りはないかなど、リモート会議でゲストに入念に確認してもらっていましたが、スタジオでの掛け合いのニュアンスのすり合わせは対面で行っていました。

また、桑子アナウンサーが放送の中で紹介する情報についてのみならず、その周辺情報についてゲストの先生に質問することで、ゲストの緊張をほぐしながら情報の裏付けに努める姿がとても印象的でした。

ゲストの先生からは何点かご指摘を頂き、補足情報を台本に入れ込んでいきます。ここからさらにディレクターと桑子アナウンサーは台本の修正に取り掛かりました。

 

19時00分 最終リハーサル

 

台本の修正が終わるといよいよ本番に向けてのリハーサル。
ゲスト打ち合わせによる変更点を他のスタッフに共有し、リハーサルをすることで、情報が伝わりやすく、より深まっているかを最終確認します。

まず、オープニング部分についてリハーサルを行いますが、ここでもまた変更点が…。
この時点ですでに放送20分前。

私は後ろから見ていて、「きょう本当に放送できるのか?」とドキドキしていました。普段の中継現場では直前に大きな変更点があることがあまりなく、10分前には万全の状態で放送開始に臨んでいることが多いからです。

しかし、あたりを見まわすと誰も慌てることなく、冷静に理路整然に打ち合わせを進めていきます。

 

打ち合わせを隣で聞いていましたが、とても速いスピードで話し合いが進んでいくので私には追いつくことは出来ませんでした。

結局、すべての打ち合わせが終わったのは放送7分前の19時23分でした。

そして、放送開始2分前。スタッフ全員定位置について放送準備が整いました。

19時30分 生放送開始

 いよいよ放送が始まりました。スタジオで撮影している映像にテロップなどをのせ、放送する映像を制作するのが、副調整室です。

みなさんもどこかでこういう写真をご覧になったことがあるかと思いますが、ここで何台ものカメラの映像やVTRなどを切り替えていきます。

(左がタイムキーパー、右が送出担当者)

 写真の右側にいるのが番組を届ける部分の全責任を担う”送出ディレクター”。

副調整室は放送中にあらゆる指示が飛び交う場所です。「カメラマンに何を撮ってほしいか」やバーチャルを入れるタイミング、演出の意向などの指示をスタジオにいるアナウンサーやディレクター、カメラマンを束ねるテクニカルディレクターなどに伝える姿はまさに聖徳太子のあの逸話をほうふつとさせます。

 

「クローズアップ現代」は他のスタジオと違いバーチャルが多いので、それぞれのバーチャルを桑子アナウンサーの下手(向かって左側)に出すのか、上手(向かって右側)に出すのかを把握し、正確な指示を出さなければいけません。

また他の番組に比べても、バーチャル担当など様々なところからの意見を橋渡しをして、全体の構成に無理が無いかなどを確認しなければいけないため、困難を極めるそうです。リハーサルで直前まで修正された部分を全て頭にインプットして本番に臨んでいました。

そして上の写真の左側にいるのが、生放送には欠かせない放送時間を管理する“タイムキーパー”。

主な仕事は生放送の尺を確認しながら、あと何秒でVTRにいかなければいけないのか、何を削るべきなのかを瞬時に判断してスタジオにいるディレクターに伝えることです。その他にも画面の上の方にあるテロップを変えたり、時間に合わせてVTRを出したりする業務も掛け持ちで行っています。

一度にこれらの多くの業務を行う様子は「千手観音」を連想させるような姿でした。

今回の番組の構成は、最後はVTRで終わる順番になっていたため、19時54分46秒ちょうどに、最後のVTRをスタートさせないと、そのVTRをまるごと落とさざるを得ないかもしれない、という状況でした。

スタジオでは、その直前までゲストとのトークが続きます。桑子アナウンサーは「最後のVTRまでの数十秒、数秒が本番で一番緊張する」と話していました。

 

5,4,3,2,1・・・19時54分46秒。Vスタート!

スタジオ内との連携のもと、無事に最後のVTRを入れ込むことが出来た時には副調整室に安堵の声が響き渡っていました。一人副調整室の後ろで放送される様子を見学していた私ですが、生放送でしか味わえないこの充足感は私が学生時代に部活動で感じた達成感に似たものがあり、もう味わうことのない感情だと思っていたので少し満たされた気持ちになりました。

 

19時57分 放送終了

 

皆様、「クローズアップ現代」の裏側はいかがだったでしょうか? この記事が「クローズアップ現代」をご覧いただくきっかけになれば幸いです。

私自身今回の学びをこれから視聴者のみなさまに還元出来るように、精一杯番組制作に取り組んでいきたいと思います。ありがとうございました。

(報道技術センター 高橋万奈)