北朝鮮ミサイル開発は“計画通り” 軍事研究者が警戒 『核抑止』の行方とは

NHK
2022年5月10日 午後8:55 公開

今年に入ってから過去にないペースでミサイル発射を繰り返している北朝鮮。「長距離化」「多弾頭化」「極音速」などミサイルの能力も次々に向上させています。そのねらいはどこにあるのか? 北朝鮮の軍事研究の第一人者に取材すると“計画通り”の動きだ、という答えが返ってきました。いったいどういうことなのでしょうか。

(「クローズアップ現代」取材班  ディレクター中村光博)


 

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軍事研究者「開発は“計画通り”」


大量の資料の山に囲まれた研究室。今回話を聞いた防衛大学校の倉田秀也教授は、長年、北朝鮮の核・ミサイル開発の動向を読み解き、軍事戦略を分析してきました。

北朝鮮は4月25日、平壌で軍事パレードを実施し、ICBM=大陸間弾道ミサイル級の「火星17型」や最新型の戦術ミサイルなどを披露するなど、ミサイル開発を巡る動きを活発化させています。

キム・ジョンウン総書記は演説で「核武力を質・量ともに強化し、核戦闘能力を発揮できるようにすべきだ」と述べています。

こうした北朝鮮の動きについて倉田教授は“計画通り”だと話します。


 

倉田教授:

去年1月にキム・ジョンウン総書記は国防5カ年計画を示しましたが、そこで挙げられた目標をどんどんクリアしています。国内経済は厳しい状況ですが、軍事技術開発ではすでに多くの成果をあげています。

(北朝鮮の「国防5か年計画」)

 

 

最新ミサイルは「長距離化」「多弾頭化」

3月24日に北朝鮮が発射実験したICBM級ミサイル

 


「多くの成果」の1つとして倉田教授が注目しているのが、北朝鮮が3月24日に発射実験に成功したと発表したICBM=大陸間弾道ミサイル級のミサイルです。

松野官房長官が「これまでとは次元の異なる深刻な脅威」としたこのミサイルは、高度6,200キロまで上昇し、1時間以上にわたって飛しょうしたとされています。防衛省は、弾頭の重さにもよるものの、その射程は1万5000キロを超え、アメリカ東海岸を含めた全土が含まれる可能性があると分析しています。


 

(1万5000キロの射程範囲)

 

――3月24日に発射したICBM級のミサイルをどう分析していますか?

 

倉田教授:

かなり大きな進歩と言っていいと思います。北朝鮮から1万5000キロ飛ぶということは、アメリカの東海岸を越えてカリブ海まで飛ぶということです。

今回の飛距離があれば、仮に弾頭が重くなったとしてもアメリカの東海岸に届く。遠くに飛ばすということに関しては、一番大きなハードルはクリアしたという認識です。

そして弾頭を重くするということは、複数の弾頭を積む「多弾頭化」を意味しています。北朝鮮がいま推進していると思われているものです。

 


「多弾頭化」とはミサイルの先端に複数の弾頭を搭載できるようにすること。大気圏を抜けて再突入する際に弾頭が分かれて落下します。一発のミサイルで複数の地点を攻撃できるため、迎撃を逃れて着弾する可能性が高まります。


 

倉田教授:

そもそも北朝鮮のICBMは、ニューヨークやワシントンなどの大都市をターゲットにしていて、そこに一発でも落ちればいいわけです。

単弾頭だと迎撃される可能性も高いですが、多弾頭は一発のミサイルから複数の弾頭が落ちてくるので迎撃しきれない可能性が高まる。つまり一発でも着弾する可能性が高まり、北朝鮮からすると『抑止効果』が高まるということです。

 

 

開発の意図を知るカギはミサイルの「目的」


北朝鮮が軍事力強化を進める意図を正しく理解するには、想定されるミサイルのターゲットを、しっかりと認識する必要があると倉田教授は言います。


 

倉田教授:

北朝鮮のミサイル開発を理解するために大切なのは、その目的を「カウンターバリュー」「カウンターフォース」に分けて整理することです。

カウンターバリューは「対価値攻撃」と訳すことが多いですが、ターゲットにする国の「価値体系」そのものをたたく。つまり多くの人命を奪う、あるいは大都市に壊滅的な被害を与えるだけの破壊力をもつことを目的にしたものです。ICBMはアメリカ本土への「対価値攻撃」を目的にしています。

 

(3月24日に北朝鮮が発射実験したICBM級ミサイル)

 

倉田教授:

他方「カウンターフォース」は「対兵力攻撃」と呼ばれ、例えば、基地や司令部などの非常に常に狭いところをターゲットとし、確実に命中率を高めてたたくことを目的とするものです。爆発力や射程距離は相当制御しています。

北朝鮮は朝鮮半島内部で戦争が起きた場合「在韓米軍が介入するかもしれない」と考えているので、その介入を阻止するために、在韓米軍の司令部に着実に攻撃できるミサイルを持つ。あるいは射程を伸ばして在日米軍をたたけるようにして、在日米軍の介入を阻止するためのミサイルを持つということです。

つまり北朝鮮は大きく分けて、『アメリカからの攻撃への抑止』『朝鮮半島内部での戦争の抑止』の2つを推進するために、ミサイルを開発しているとみるべきです。

 

 

警戒すべきは「カウンターフォース」

 

――北朝鮮の『カウンターフォース』の脅威はどう評価していますか?

 

倉田教授:

カウンターフォースには逆説があって、ミサイルの命中率を高くするほど、撃たれる側からみれば自分のところに飛んでくるミサイル軌道は明らかになるので、撃ち落とされやすくなります。ですから北朝鮮は「命中率を高めたままどうやって迎撃を回避するか」を考えています。

その方法の1つが『飽和攻撃』、たくさん撃つことです。

そしてもう1つがミサイルの軌道を不規則にすること。それによって相手の弾道計算を攪乱させるねらいです。

2019年と2020年に撃ったミサイルも『飽和攻撃』『軌道を変える』の2つでした“北朝鮮版イスカンデル※”とも呼ばれる「KN-23」というミサイルの発射がこれに該当します。

(※イスカンデルはロシア製の短距離弾道ミサイルのこと)

 

(北朝鮮がことし1月「極超音速ミサイル」だと主張して発射したミサイル)

 

 

倉田教授:

そして飽和攻撃と不規則な軌道に加えて、去年から実験をしているのが速度を高めることです。「極超音速ミサイル」の開発がそれで、音速の何倍という高速度で攻撃をおこなうというものです。

普通の弾道ミサイルは、大気圏の外に出て単純な弾道で大気圏内に再突入し、着弾します。ところが極超音速は基本的に大気圏のなかで不規則な軌道をとって着弾します。

地球は丸いですから、防衛する側からすると低空からすごいスピードでやってくるので対応が難しくなります。多くの国が念頭に置いていたミサイル防衛の間隙を縫っていると、言えると思います。

 

 

核・ミサイル開発のねらいは?


北朝鮮の軍事力強化のねらいはどこにあるのか――

発射実験の派手な演出の映像や、過激で独特な言説が目を引きがちですが、倉田教授は、安全保障の理屈からすると“理にかなっている”と分析します。


 

倉田教授:

北朝鮮の核・ミサイル開発における行動原理はどこにあるのか考えたときに、いわゆる「外交カード」を主目的にしているかというと、私はそうは思っていません。

アメリカに対してなんのメッセージもないとは思いませんが、それよりも、アメリカからの直接の攻撃、あるいは朝鮮半島内部で始まった戦争がどんどんエスカレートしていくことをどう抑止するのか、その二つに対する抑止体制を構築することを念頭に置いているとみています。

日本が北朝鮮の武力行使をどう抑止しようか考えるのと同じように、北朝鮮も日米韓の攻撃をどう抑止しようか考えて、そのための抑止体制をこの10年間、相当程度築きあげたということだと思います。

北朝鮮が使うレトリックは確かに強烈ですが、そのレトリックをはがしてみると彼らのやりたいことは非常によく分かり、抑止論としては成り立っています。決してやみくもに核・ミサイル開発をしているわけではないということです。

それは裏を返せば、我々の抑止が効くということでもあります。相手に“原則”がなければ抑止するのは難しいですが、原則があるからこれまで抑止できてきたと思うし、将来も抑止できると考えています。

 

 

日本や国際社会はどうする?

 

――核・ミサイル開発を着実に進めていく北朝鮮に対して、日本や国際社会はどうしていくべきなのでしょうか。

 

倉田教授:

一番怖いのは、北朝鮮が「自分たちの抑止体制が相手の抑止体制より勝っている」と思ってしまうこと。そして抑止の主導権を北朝鮮が持ってしまうことです。

「これだけのことをやってもアメリカは攻撃してこない」「抑止できている」と彼らが思ってしまうと、軍事行動を起こす可能性が出てきます。

北朝鮮に主導権を持たせないためには、我々の抑止体制の強化を進めなければいけないですね。そして抑止の主導権を持ちつつ、北朝鮮を実務協議に引っ張り出さなければいけないと思います。

対話をしようと思っても対話してくれる国ではありませんから、“対話せざるを得ない状況”に追い込んでいくことだと思います。

 

 

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