国内で相次ぐ、住宅を狙った強盗事件。その背景には、個人情報の記載されている「名簿」が出回っていることがわかってきました。
「実際にどういう人たちが狙われてしまうのか」
「自分の身に起きたらどうすればいいのか」
被害を未然に防ぐため、私たちにできる対策を防犯のプロに聞きました。
(クローズアップ現代取材班)
👉関連番組(~2月14日まで見逃し配信中)「強盗から「家」をどう守る 進化する“闇名簿”の実態」
裏社会で広がっている“闇名簿”
今回私たちは、犯罪グループに名簿を売り服役していたという男に行き着きました。
男が見せた「闇名簿」。ターゲットの絞り込みに使われているとみられます。
記載されていたのは、「氏名」「電話番号」「住所」「年齢」「職業」などの基本情報のほかに、「タンス預金の有無」「株や土地などの資産情報」や「性格」など通常知られるはずのないものまで記されていました。
どうしてここまでの情報が集めることができるのでしょうか。
犯罪グループは、有名大学の同窓会や大企業の社員名簿、また最近では町内会の名簿を入手。
その後、企業のアンケートや世論調査などに使用されている自動音声サービスを使って電話をかけます。
あらかじめ設定した質問を指定した電話番号に一斉に発信。正式な調査だと勘違いした人達に回答を入力させるという手口です。
対象者の性格や詐欺の被害の有無、健康状態、タンス預金など、自動音声サービスではわかり得ない情報は、アルバイトで募集した一般人を使い電話で収集するといいます。
個人情報を勝手に取られないためにはどのような対策をすればいいのか。
2人の専門家に聞きました。
“不審な電話には出ない” 個人情報が“抜かれる”可能性も
警視庁で20年以上、テロ対策やセキュリティー関連の仕事をしてきた、防犯コンサルタント松丸俊彦さん:
まずできることは、銀行や警察を名乗る電話、そしてメールなどのアンケートに不用意に答えてはいけないということ。個人情報をそこで抜かれる可能性があります。
具体的な手口は?
松丸さん:
たとえば、「テレワークのアンケートを実施しています」という電話をかける。
そして「ご夫婦でコロナ禍で大変ですね」という質問をすると、「いや、私は主人に先立たれて独りです」という回答をする。すると、いま1人暮らしであることがわかってしまう。
ほかにも「老後2000万円問題というのがいま話題になっています。ところで、どのような内訳で持たれていますか」とか、「投資に回せるお金としたらどれぐらいありますか」とか、会話をしながら探っていくんですね。
そして、「100万円をいま、投資できますか」と質問したときに「え!」と驚くようであれば、100万円を高い金額と見てる人。逆に「100万ならどうにかなりそう」ということなら、100万円を安く見ている人。こうやって、おおよその現金を絞っていきます。
悩んだら警察相談ダイヤル「#9110」へ
松丸さん:
知らない人や企業、銀行、行政をかたる電話をとってしまっても、最優先に考えることは「電話を切ること」です。個人情報を求められてもすぐに答えない。
相手の名前、連絡先、銀行名など企業名を聞いて、いったん電話を切る。そのあとに、相手から聞いた番号ではなく、自分で調べた正規の代表番号にかけます。そして、「○○さんからこういう連絡をもらったんですが…」ということを確認してもらう。
メールもすぐに返信をせずに、必ず誰かに相談することを徹底してください。相談できる人がいない場合や不安なときは「警察相談ダイヤル #9110」に連絡しましょう。
身に覚えのない来訪者への対応
犯罪集団は、下見と称して実際に家を見に来ることもあります。その際にも注意が必要です。
松丸さん:
一般的な宅配業者やリフォーム業者であれば、制服を着て、身分証を携帯しています。ですから、基本はどの宅配業者であろうと、自分が呼んだ覚えがないなら“絶対に開けない”。
そして、いったんはのぞき窓やインターフォンのカメラ越しに対応をして、宅配業者であれば制服、身分証、郵便局であれば制服と顔写真つきの身分証、そして、郵便局の場合は所属を言ってもらうようにしましょう。
家への侵入を防ぐため“5分の時間稼ぎを”
セコムIS研究所 研究員 濱田宏彰さん:
泥棒は5分以上かかると7割が諦める傾向にあります。家の侵入を5分以上防ぐ工夫が効果的です。具体的には、防犯フィルムや補助錠の設置です。泥棒は人目を嫌うこともわかっているため、植木の剪定などで見通しをよくすることも重要です。
“無施錠”に注意
濱田さん:
強盗に限りませんが、泥棒は無締まり(無施錠)の家に侵入するケースが半数以上となっています。
ゴミ出しなどちょっとした外出、また在宅中も鍵をしっかりかけることが大事。また配達などを装って来ることがあるので、荷物を受け取る際も扉を全開にはせず、チェーンをかけたまま対応したり、置き配も利用したりしてほしいです。
普段の生活から警戒を
松丸さん:
また、「おはようございます」でも「こんにちは」でもいいですので、人を見かけたらあいさつをするのも彼らが嫌がる行動のひとつです。
それから、生活をパターン化させない。毎日同じ時間に外出をして、同じルートを通って、同じ目的地や方角に行く生活をしているとしたら、彼らが犯行計画を立てやすくなります。留守になる時間もわかりますし、通るルートもわかります。複数のルートを使う、帰宅時間や出発時間を若干変えるなどの工夫も必要だと思います。
また、周囲を警戒するような行動も効果的です。歩いているのであれば、時々振り向くような行動も彼らにとっては「警戒しているな」「見られているな」と、警戒心の強い人だとアピールすることにもなります。
濱田さん:
防犯は家の敷地内に限りません。帰り際に強盗に狙われることもあります。
たとえば最寄り駅から自宅までなどはイヤホンを外すなど回りを警戒してほしい。それでも強盗に遭遇してしまったら、基本的には抵抗しない、お金を要求されたら素直に渡す、というのが大事です。
日頃から大金を自宅で保管しない、高価なものを置かないことも大切です。
侵入されたら…命を守る最後の砦(とりで)パニックルーム
海外でセキュリティー対策の仕事もしてきた松丸さん。
もし犯人たちが自宅に侵入してきたら、携帯電話で助けを求めるための“逃げ場所の確保”が命を守る最後の砦(とりで)になるといいます。
松丸さん:
「パニックルーム」や「セーフヘブン」ともいわれますが、主に寝室の前に鉄格子をつけて立てこもり、助けを求めるという考え方があります。
ワンルームマンションのように、物理的にそういう場所をつくれない家もありますが、そんなときは「トイレ」です。そこに立てこもって時間を稼ぐという必要が生じたときには、通常の鍵のほかに“補助錠”をかけて時間を稼いで、助けを待つ。
普段は使う必要はないのですが、立てこもったときだけ使う鍵を設置しておく必要もあると思います。
私たちの個人情報をめぐるルールは?
私たちの個人情報を守る国のルールはどうなっているのでしょうか?
個人情報の売買は、一定の制限のもと認められています。住所や名前などの個人情報は、いわゆる“名簿業者”などの個人情報取扱事業者によって売買され、ダイレクトメールの送付といった営業活動などに利用されています。 業者は原則、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならないことになっています。
ただし、国に届け出た業者は、名簿に載っている本人の同意がなくても、届け出さえあれば、売買はできることになっています。また国のルールでは、名簿を販売する場合、相手に使用目的を確認する義務はないことになっていて、事実上、取り扱う業者任せになっています。
令和2年の法改正で、国は不正な手段で取得された個人データは提供禁止とし、ほかの業者から入手した個人データも提供禁止にしました。
例えば“ある人物が、会社を退職する際に不正に持ち出した個人情報”など、これまで見過ごされてきた不正流出した個人データの売買を防ぐ狙いがあります。
行政による、勧告や命令などに従わない場合、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処され、法人の場合は、1億円以下の罰金を科される場合があるということです。
このように個人情報を保護する動きは進んでいます。
一方で、今月2日に発表された警察庁の犯罪情勢統計によると、去年1年間の刑法犯認知件数は20年ぶりに増加しました。
専門家は、個人情報の取り扱いには注意し、個人でできる対策も徹底してほしいということです。
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