原子力発電所から出る“核のごみ”。その最終処分場選定に向けた国内初の調査が、北海道寿都町で始まっています。“核のごみ”をめぐる地域の問題を、私たちはどう考えればいいのか。
原発をテーマとした小説を数多く執筆している真山仁さんは、「この町だけの問題ではない」と語ります。
(クローズアップ現代+取材班)
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真山仁さん(小説家)大阪府生まれ 元・新聞記者
企業買収の舞台裏を描いた『ハゲタカ』で小説家デビュー
『ベイジン』『シンドローム』『コラプティオ』など原発を扱った作品を多数執筆
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小説で描いた「お金目当てに手を挙げる」の現実味
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―― “核のごみ”をめぐる問題について、真山さんはどのようにお考えですか?
真山さん:
私は原発を題材にした小説を何作か書いてきたので、この問題の深刻さはよくわかります。
自治体と“核のごみ”をめぐる問題については、2017年に出版した『バラ色の未来』でも取り上げました。青森県のある町長が、町おこしのためにカジノを誘致しようとする話なのですが、その財源を得るために“核のごみ”の最終処分場選定に手を挙げ、交付金をもらった・・・というストーリーを書きました。
“核のごみ”の最終処分場選定に手を挙げると、まず「文献調査」が2年間あり、応募するだけで国から最大20億円が交付されます。調査はあわせて20年ほど続きますが、途中で辞退することもでき、その場合もお金は返さなくていいんです。
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日本中の市町村はとにかく財源探しで必死なわけですから、その足元を見ている交付金制度だと思います。首長にとっては「地元の経済が少しでもマシになるのなら引き受ける」という考え方もできるわけです。
寿都町の町長の腹の内はわからないですが、途中まで調査を続けて「これ以上は住民のひんしゅくを買うから、これでもうやめます」と言ったとしたら、「町長は、大胆だけど良いことしたよね」という風向きになるかもしれません。
もちろん核廃棄物をどう処分するのかという問題からはもう目をそらせないところに来ているので、簡単に「やっぱりやめます」とはいかないかもしれませんが・・・。
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情報が増えるほど住民は不安になる
札幌から西へ直線距離で約100キロ、日本海に面した北海道寿都町。
人口約2800。主力産業の漁業は、年々水揚げが減少している。
去年“核のごみ”の最終処分場選定に向けた調査に応募し、全国初の文献調査が進む。
しかし住民からは“町長の独断だ”として反発の声もあがっている。
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――寿都町の状況を、真山さんはどうご覧になりますか?
真山さん:
住民側が不安を感じるのは当然だと思います。
まずは国が「最終処分場とはどういうもので、なぜ必要で、その安全性はどうなのか」ということをわかりやすく説明しないといけません。誰にでも理解できるような言葉で説明をしないと、住民は判断できません。
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おそらく住民はいろいろなところから話を聞くと思うんです。
役場の言い分だけでなく、ネット上では反対派・賛成派それぞれが意見を述べます。そうした情報が増えれば増えるほど、不安になっていくと思うんです。
だからまずは政府が正しくてわかりやすい説明をすることが絶対条件だと思います。
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「安全」はデータ、「安心」は信頼関係
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――寿都町では住民との“対話の場”が設けられ「NUMO(原子力発電環境整備機構)」が安全性やリスクの説明をしています。それでも住民の反発が多い状況についてはどう思いますか?
真山さん:
先日の東京オリンピック・パラリンピックでも「安心・安全」という言葉がさかんに使われていましたが、「安心」と「安全」の差が日本ではすごく重いんです。
たとえばかつて地方に原発を誘致していたときのことです。電力会社や当時の通産省の官僚たちは説明に通いました。それこそ会議室の天井に届くくらいの膨大な資料を持ってきて「安全だ」と説明する。ところが住民は、「文書を見せられてもわからん」と言うわけです。では何を求めているかというと「自分の口で、自信を持って“安心だ”と言えるのか」と。
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私が考えるに「安全」というのはデータ的・数値的なものです。確率計算や過去の事故事例を踏まえた具体的なデータを示すことが「安全」なんです。
では「安心」とは何かというと、データではなく「信頼関係」なんです。
「ここで働く私たちが、絶対にあなたたちを守る。信じてください」と言って、住民が納得したときに「安心」が生まれます。
新潟県に柏崎刈羽原発をつくった際、地元出身の田中角栄元首相が「俺を信頼しろ。安心だから大丈夫だ」と言うと、「東京の頭のいい人たちが言っていることはよくわからんけど、角さんが言うならいいか」と納得する。これが「安心」なんですよ。
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寿都町の“核のごみ”をめぐる問題についても、この「安心」を住民側が感じ取れているかどうかが、ひとつの大事なポイントだと思います。
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“分断”がより顕著となった町長選
今年10月、寿都町では“核のごみ”を最大の争点として20年ぶりの町長選がおこなわれた。
結果は、最終処分場選定に向けた調査を進める片岡春雄町長(写真左)が1135票で再選。
一方で、敗れた越前谷由樹さん(写真右)も900票を集め、住民の二分化が顕著となった。
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――選挙の結果を、真山さんはどう考えますか?
真山さん:
普通に考えたら、地元に“迷惑施設”を誘致しようとしている人が首長に選ばれるのは難しいですよね。それでも再選したのは、それくらい町が疲弊している表れだと思います。
その中で最終処分場に手を挙げて交付金をもらうことに、「目のつけ所が素晴らしい」と思う人と、そうでない人で意見が分かれるのは当然です。
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録音して、黙って聞くだけでもいい
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――選挙後も行政側と住民側の“対話の場”は設けられていますが、反対派の住民はほとんど出席していません、この状況を真山さんはどう思いますか?
真山さん:
地元の人にとっては、一度芽生えた切迫感や不信感はなかなか拭えないと思います。
ただ住民側が「何を言われても信頼できない」と席を立ってしまうと、行政側にとっては「我々は対話の場を設けたが、住民側が勝手に降りた」と、逆にアリバイになってしまいます。それが社会の常ですし、民主主義社会では議論の場に参加しない人は“ゼロ”とみなされます。
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テープレコーダーを回して黙って聞いているだけでもいいと思います。
行政側が説明することを冷静に記録して、わからなければ専門家などに録音を聞かせて解説してもらうということをしなくてはならない。
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また「電力会社が関わっている会は信用できない」とはいえ、電力会社の情報がなければ、もっと信用できない情報を流布する人が出てきます。反対するのであればなおさら、電力会社は巻き込み続けなければいけないと思います。
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『本当の悪者はいない』からこそ難しい
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真山さん:
議論する上で気をつけなければいけないのは、感情論にならないことです。
以前、使用済み核燃料の再処理工場建設が進む青森県六ヶ所村を取材したのですが、親戚同士や兄弟が敵と味方に分かれ、いまもそのしこりが残っているという話を聞きました。議論の場に感情を持ち込むと「俺は、前からあいつが嫌いだった」という話にもなりかねません。
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――まさにいま寿都町ではそうした状況が起き始めています
真山さん:
こういう問題で一番難しいのは「本当の悪者はいない」ということです。
町長だって「町の疲弊を食い止めたい」という思いがあるはずです。相手が悪者に見えがちですが、よくよく聞くと悪意を持って行動している人は誰もいない。だから、つらいんです。
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――住民同士の溝ができている状況を改善するには、どうすればいいと思いますか?
真山さん:
「この町だけの問題にしないこと」しかないと思います。
欧米だと、弁護士などが第三者委員会を作ってくれます。日本にもこうした問題に関心がある専門家や弁護士がいると思うので、地元のドロドロした関係ではなく、利害関係なくニュートラルな考え方ができる人たちが、そうした場を作ることを検討した方がいいと思います。
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問題の核心は『電気を無尽蔵に使う社会』
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真山さん:
東日本大震災の原発事故以降、「“核のごみ”が大変だ」と言う人が増えていると思います。“核のごみ”を理由に「原発はもうこれ以上やめましょう」と主張する人もいます。
たしかに原発を止めてしまえば“核のごみ”の問題はなくなります。しかし私は感情的に「すぐに原発を止めてしまえ」とはあまり思っていません。
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――それはどうしてですか?
真山さん:
日本の産業は、サービス業の比重が高まっているとはいえ、今でも輸出を支えているのは製造業です。製造業は「電気」がなくては回りません。車の塗装から鉄の鋳造まで、電気にものすごくお世話になっているわけです。
日本中に新幹線を走らせ、リニアモーターカーまで作ろうとしていますし、都心ではタワーマンションがたくさん立っています。これらはすべて、潤沢な発電能力があるからこそ成り立っています。
もし原発に反対するのであれば、「電気はいくらでも使える」「電気は空気と同じようなもの」といった価値観そのものを変える覚悟や勇気があるのか。そこから話をしなければいけないと思います。
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再処理工場を建設中の青森県六ケ所村には、すでに使用済み核燃料が山のように保管されています。ここから先も『電気を無尽蔵に使う社会』を続けるかぎり、“核のごみ”をどうやって処理するかという深刻な問題から逃れられないと思います。
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まずは国民一人ひとりが「電気って何だ?どうやって発電しているのか?」ということに思いを寄せること。これが一番重要なのではないでしょうか。
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