娘が、ママが、妻が選挙に出たら… 立候補した女性と家族の話

NHK
2023年4月24日 午後3:22 公開

「反対しました。線が細い子なので、心配だし…応援はしていますけど…」

(娘が立候補する母親)

「ママが議員になったら…毎日お弁当になったらどうしよう。忙しくなって」

(母が立候補する小学生の娘)

もしあなたの母が、娘が、妻が選挙に出るといったら、どうしますか? 過去最多の女性候補がチャレンジした今回の統一地方選挙。いわゆる“男性社会”が色濃く残る政治や選挙の世界に女性が飛び込むとき、家族は応援したい気持ちの一方で、心配の種がつきません。今回選挙にチャレンジした女性候補とその家族の本音とは。

当事者にとって必要なものを

2月半ば。統一地方選の2ヶ月前。茨城県日立市にある小さなクリニックで、石川香さんが事務作業に追われていました。石川さんは、仕事をしながら6歳と2歳の子供を育てています。日立市で生まれ育ち、子育てを期に故郷に戻ってきた石川さん。かつて栄えていた街が寂しくなっていることに、ショックを受けました。

クリニックで働く石川香さん

石川さん:

「私は長女が生まれる時に日立にUターンしてきたんですが、昔に比べて日立に元気なくなったなというのをまず感じました。それで、何かできないかなっていうのを思っていました」

さらに実際に地域で子育てを始めると、様々な制度が働く親たちの現状に追いついていないことを実感しました。しかしその制度の方向性を決める市の議会には、“当事者”がほとんどいませんでした。26人の市議会議員のうち60代から80代の議員が半数以上。男性議員が20人を占めていました。

石川さん:

「今、子育て真っ最中の女性が考えている政策っていうのは、子育てにあまり参加してこなかった世代の男性の方が決める政策と、やっぱり違う。私たち子育て中の女性が案を出せば、当事者にとって本当に必要な政策が、やっぱり生み出されてくるんじゃないかなっていうのはあります」

親ブロック、夫ブロックは?

“夢にも思っていなかった”議会への立候補を決めた石川さん。“夢にも思っていなかった”のは、母親も同じです。石川さんの父・悟さんはクリニックの医師で、母・都さんは事務を担当しています。悟さんは、すぐに応援してくれましたが、都さんは当初は、反対でした。

石川さんの両親

母の都さん:

「最初は、もう、、、まったく賛成できませんでした。どう考えても心配です。ちょっと線の細いところがあるので、かなり太くやっていかないと、色んな経験をすると思うので、それがプラスに働けばいいですけど、ちょっと間違ったら本人は大変かな、というのがありまして、母親としては賛成できませんでした。私も市の活動をしていたので、大変さが分かります。ただまあ、どう転んでも社会勉強させて頂くというか、あまり結果うんぬんではなくてということで、いまは後方支援しています」

いまは、ポスター貼りや選挙の準備の裏方など全力で応援している両親。ただ世代的に、選挙といえば男性社会のイメージが強く残っています。その中に娘が飛び込んでいくことを思うと、心配の種はつきませんでした。

実はこうした女性候補に立ちはだかる壁でよく口にされるのが、「親ブロック」と「夫ブロック」。内閣府による、立候補を断念した人たちへのアンケート調査によると、女性で出馬を目指した人の49.6%が「家族の理解やサポートが得られない」ことを断念した理由にあげています。(※出典 内閣府男女共同参画局 令和2年度)

石川さんの場合の「夫ブロック」はどうだったのでしょうか。

石川さんの夫は、イギリス出身で大学に勤めるマークさん。石川さんが立候補すると聞いて、真っ先に応援してくれました。しかし同時に心配もあったといいます。

石川さんと夫のマークさん

夫のマークさん:

「すごくびっくりしました。しかも政党ではないので、全部自分でやらなければいけないし。日本の選挙だと駅前に立ったり、選挙カーに乗ったりしなければいけない。僕だったら、とてもやらないです。

日本はやはりジェンダーギャップが大きいと思います。経営者や地位のある仕事は女性が少ないですし。私が生まれた時はイギリスの首相はサッチャーでした。そのことによって、私たちの世代の女性たちは、女性が社会で責任ある地位につくことが当たり前だという感覚があったと思います。ですから同じ事が日本でも起きて、医師、弁護士、経営者、なりたい仕事なら何にでも女性がなれる社会になってほしいと思います。

プライバシーのことも、とても心配です。人前に立つことになって、誰もが名前も顔も知ることになりますし、家族のこともみんなに知られてしまいます。実際いろんな人もやってきますし、ストレスフルではあります。でも日本の選挙戦は1週間なので、短いからそこは助かっていますが。イギリスだと数週間続くので」

実際に、選挙戦が始まると四六時中石川さんに電話がかかってくるため、夕食時は話し合って「電話禁止」タイムを設定し、プライベートが最低限守れるよう話し合ったといいます。それでも看板を立てるなどの力仕事から、育児や家事なども含め全面的なサポートをしている、マークさん。石川さんにとっては、一番の心強い味方です。

家族を犠牲にするのは本末転倒

子供はどうでしょうか。この春に小学校1年生になる娘は、政治家という言葉が分かってきた年代。

石川さん:

「この間、ママ、今度選挙出るんだーって言ったら。『ママ選挙出てほしくないな』っていわれて、深い意味はないと思うんですけど…」

ただ石川さんは、自分が選挙に出ることも子供たちが社会に関心を持つことのきっかけになればと考えています。大事なことは、選挙に出ることが自分や家族にとって、ポジティブであること。子育て政策を前面に出している石川さんは、家庭を犠牲にしてまで選挙に出るのは本末転倒だと考えています。そのため街頭演説は行わず、選挙カーもなしで、SNSを中心に政策を訴える選挙戦を行っています。あくまで生活の延長線上での選挙を心がけ、家事や育児、仕事も選挙戦のさなかでも並行しています。その選挙戦のスタイルも含めてSNSなどで打ち出すことで、同世代の共感を得られるのではないかと考えています。

シングルマザーの挑戦を娘たちは?

カメラの前で話す高橋佳子さん

シングルマザーとして仕事と家事や育児を並行しながら、今回の統一地方選に挑んだ女性もいます。長崎市議会議員選挙に挑戦した高橋佳子さん。高校3年生と小学5年生の娘を育てながら、イベントなどでの司会業もこなしつつ選挙戦を展開しました。組織的な支援もなく、基本的にすべて自分中心でこなさなければなりません。家事育児・仕事・選挙という、いわば3足のワラジの選挙戦を続ける中で、シングルの女性が挑む大変さを強く実感していました。

高橋さん:

「子育てしながら政治活動するとなると、本当だったら仕事のウエイトを減らさないといけない。でも子育ては減らすというのは難しいので、となると仕事を減らす、でも子供を育ていかなきゃいけない、となると資金があるほうが有利な現状があります。その中で勝ち抜くっていうのは、大変だなっておもいます。子育て世代の男性議員でも、ママがいてそこに任せられる人が活動するのと、主力となって子育てしている人が活動するのはやっぱり違うなと思います」

娘たちの反応は、それぞれ。小学5年生の次女は、イベントとして一緒に楽しんでいるといいます。選挙事務所に遊びに来たり、選挙のチラシなどに使う写真を一緒に選んでくれたり。一方で高校3年生の長女は、高橋さんが選挙に出ることについて肯定的ではなかったといいます。人前で過度に母親が目立つこと、そして家事が回っていくのかも心配していました。

高橋さんと小学5年生の次女

高橋さん:

「下の子は、全然ママ頑張ってという感じなんですけど、上の子は私が表に立つのが好きではないので、たぶんこれからも嫌だと思うんですけど。たぶん本心は諦めていると思います。自分が言って聞くママじゃないみたいな。本当、自分がやりたい仕事をやってしたいことをしてというところをずっと見てきているので、多分どこかで諦めているというか、自分のやりたいことに突き進んでいるよねという感じはあるかな。いまは分からなくても、これから分かるかも知れないですし」

取材を終えて

少しずつ変わってきているとはいえ、地方議会はまだまだ男性が多数を占める社会。先の内閣府の調査では、立候補を断念した理由として、「仕事や家事・育児・介護などのために選挙運動とその準備にかける時間がない」ことを挙げた女性は61.7%。当選した場合に家庭生活との両立が難しいと答えた人も47.8%に上りました。

8割以上を男性が占める日本の地方議会。選挙に立候補した女性たちの家族に聞くと、やはり日本の従来の政治や選挙の世界の“当たり前”が、壁として立ちはだかっていることを感じます。家族が心から応援でき、女性の思いがより地方議会で反映されるために、さらに社会の意識が変わっていく必要があると思います。

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