5万人以上が犠牲となったトルコ・シリア大地震。
現地の2月6日未明、マグニチュード7. 8の大地震が眠りについていた人々を突如、襲いました。その後も大きな揺れが続き、トルコでは17万棟が倒壊するなどの被害を受け、隣国シリアの北西部でも甚大な被害がでています。
地震の発生から3週間。救助から生活支援へとシフトする中、助かった命をつなぐための支援は人々に行き届いているのか。
見えてきたのは被災地の厳しい現状でした。
(クローズアップ現代取材班)
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国をあげて復旧進めるトルコ
地震から2週間あまりたった今月21日の朝。
大きな被害を受けたトルコ南部ヌルダーで、仮設住宅の取材に訪れ驚かされました。水道と電気が通ったコンテナハウスと、その周辺には商店や理髪店、さらには道ばたには鉢植えまで設置された地区が突如、整備されていたのです。
取材中、にわかに周囲が慌ただしくなってきました。何が起きているか聞くと、警備員が耳打ちをしてくれました。
「大統領が来るんだよ」
そして待つこと半日、複数のヘリコプターがコンテナハウス裏の未舗装の路地に、砂ぼこりを巻き上げながら降り立ちました。
エルドアン大統領は仮設住宅に暮らす被災者を見舞ったあと、詰めかけた被災者にこう語りかけました。
「私たちは団結することで困難を克服することができる。被災した地域の復興を迅速に後押ししていく」
この日、エルドアン大統領は被災地で27万戸の住宅を建設することを約束しました。
「あす生きられるかもわからない」
歩み出した復旧への動き。しかし、取材を進めると、被災者が助かった命をつなぐ援助物資の支援すら、思うように進んでいない実態が浮き彫りになってきました。
被災地となったトルコ南部は、中心都市イスタンブールなどと比べ経済的に貧しかったり、少数派のクルド系の住民や内戦が続くシリアからの難民など社会的立場が弱かったりする人たちも多く住んでいます。
そうした被災者も含め、190万人以上がテントなどでの避難生活を強いられています。
震源地に近いカフラマンマラシュで、広場に被災者用のテントを張って家族5人で寝泊まりしている女性は、不満げにこう漏らしました。
「水、服、食べもの、すべてが必要です。今、援助はありません。いつまでこの状態が続くのかと、憂えています」
隣接する青果市場では、テントの支給を待っていて、シートや毛布を使って、なんとか雨風をしのいでいる人たちの姿がありました。ここには1000人が身を寄せていますが、そのほとんどが内戦を逃れてきたシリア難民です。
2歳半の息子と手作りのテントで暮らしているシリア難民のタグリド・トブルさん(22)は内戦で両親を失い、夫は地震で怪我を負い入院。親戚9人も亡くしました。暖を取るための薪を手に入れることができず、ゴミを燃やして、厳しい寒さに耐えていました。
「私たちはきょうのことしか考えられない。あすを生きられるかすらわからない。私は飢えてもいい。でも、子どものミルクが欲しい」
地震国トルコを襲った想定外の被害
日本と同様に世界有数の地震国といえるトルコ。
過去にもたびたび大地震に見舞われ、災害当局とトルコ赤新月社(赤十字社と同様の社会貢献団体)であわせて15万張のテントの備蓄があったとされています。しかし、そのテントをはじめ支援が行き届かない事態となったのは、広範囲に強い揺れが襲ったからです。
今回の地震、日本の面積でいうと関東から関西にかけての広い範囲が被災したことになります。さらに、被災した人の数は1350万人ほどと試算されています。これは東京都に住む人が全員被災した際に、果たして全員に必要な支援を届けられるかということになります。トルコ政府にとっても、今回の地震は想定外の被害の大きさだったといえます。
「人災」と指摘する声も
また、被災地では、被害拡大の背景にあるのは「人災」だとの指摘もあがっています。
トルコの建築基準法では、日本と同様、厳格な耐震基準があります。しかし、耐震基準を満たしていない建物でも所定の金額を支払えば、登記が認められ、法律の抜け穴となってきました。
さらに、違法な改築も問題視されています。被災地では、1階がつぶれて倒壊した建物を多く見かけました。
このうち、南部アダナの倒壊した高層マンションの救出現場では、「商業目的が優先で、人命は二の次だ」と訴える人々の姿がありました。
住民に話を聞くと「1階に入居する家具店が商品陳列のために柱を切った」という証言が相次いで聞かれました。
責任を追及しようと、全国から弁護士のボランティアが駆けつけ、倒壊した建物を写真などに収め、今後の訴訟に向けた記録として残そうという動きも出ています。
被災者の声は届くのか
一方、批判の高まりを受け、エルドアン政権は司法省に特別捜査チームを設置し、倒壊した建物の施工主が相次いで拘束されたほか、被災地の市長も逮捕される事態となっています。
トルコでは、ことし5月には大統領選挙と議会選挙が予定され、被災地の復旧と復興は、間違いなく選挙の争点となりそうです。
ただ、被災者が望むのは、この大災害が政争の具になるのではなく、大統領自身が宣言したように「団結して困難を克服」できるのかどうかです。
支援の“空白地帯” シリア北西部で何が
各国による緊急支援が被災地に向けられる一方で、特に支援の遅れが懸念されている地域が、震源地に近いシリア北西部です。
10年以上続く内戦で反政府勢力側の“最後の牙城”となっている地域で、戦火を逃れた多くの避難民が暮らしています。
今回、現地から遠隔での取材に応じてくれる人たちの協力を得て、被害の大きかったシリア北西部の実態が、少しずつ分かってきました。
“助けられた命があったのではー” 被災から3週間 現地の苦しみ
外部からの支援がほとんど届かない中、被災者に寄り添い続けてきたのが、およそ3000人のシリア人隊員からなるボランティア団体「ホワイト・ヘルメット」です。
内戦下のシリアで、空爆などの被害を受けた人々の救助や救出を行ってきました。
地震発生直後から、人々の要請に応じて倒壊した建物からの救助活動にあたりました。
発災から2日後の2月8日の日本時間夜、「いまから10分なら話せる」とインタビューに応じてくれたのが、メンバーのひとり、イスマイル・アルアブドゥッラーさんでした。
イスマイル・アルアブドゥッラーさん:
「広範囲に深刻な破壊が及ぶ自然災害は、(これまで対応してきた)空爆と異なります。私たちは100カ所以上で活動していますが、すべての場所で建物の多くが倒壊し、がれきと化しています。持っている機材やメンバーを総動員して、なんとか対応しようとしていますが、重機、発電機、ディーゼル、医療器具、連絡手段、毛布、食料、避難所、衛生用品、そして飲料水さえ、地震によって家を失った人たちにはない状況です。あまりにも多くのものが足りていません」
現地から届く映像には、生き埋めになった人々を手探りで救出しようとする人々の姿が記録されていました。ひとりでも多くの命を救うために50時間以上も休まず動き続けていました。
「もう助けられるはずの命を失いたくない…」
(マフムード・アルオスマンさん 「Syrian Women Association」ケースマネージャー)
シリア北西部・イドリブ県に暮らすマフムードさんも、地震発生直後から支援活動に加わった一人です。
今回、マフムードさんの家族は幸い無事でしたが、親戚や友人の多くが犠牲となりました。
発災後の5日間は、とにかく下敷きになっている人を救いたいと、住民たちと救助活動に取り組んだと言います。
重機が不足し、国際支援も届かない中で救助にあたったマフムードさん。被災者を救えなかった後悔の念を抱えていました。
マフムード・アルオスマンさん:
「地震から数日が経っても全く重機などの支援が入ってきませんでした。必要な救助器具などがあれば被害者の数はずっと下げられたでしょう。いまも助けられなかった子どもや、両親を亡くした子どもの顔が夜になると頭に浮かんで苦しいです」
助かるはずの命をこれ以上失いたくない。もともと、地域でケースワーカーとして働いてきたマフムードさんは、被災した人たちの家々をまわり、必要な物資や支援を届けるためのニーズ調査を行っています。
(避難生活の窮状を訴える住民)
地震で家を失い、破れたテントに親族一同で身を寄せ合って暮らす男性は、マフムードさんの聞き取りに、地震から2週間近くが経っても十分な支援につながれない窮状を訴えていました。
「支援はささやかなもので、3袋のパン以外は何ももらっていません。(支援団体の)車が来て停まっても、支援はまだ先だと言われています。もう地震から10日以上が経っているのに。このテントに4世帯、子どもたちも大勢一緒に暮らしています。テントや食料の支援が早く届くことを願っています」
夜には現地は気温が氷点下になる日もあるほど冷え込んでいました。
マフムードさんのインタビューに答える被災した子どもたち。
「遊ぶものも何もなくなってしまったけれど、いまとにかく必要なのは暖をとれるものと、食べるものです」
マフムードさんは人々の声に耳を傾けながら、このままでは助かった命が物資の不足で失われかねないと危機感を感じていました。
内戦で疲弊したシリアを襲った地震
今回、地震で被害を受けた人たちの多くが、シリア内戦で避難民となった人たちです。
シリアでは、2011年3月15日、「アラブの春」と呼ばれる民主化運動が波及するかたちで反政府デモが各地に広がり、これをアサド政権が武力で弾圧。 “今世紀最大の人道危機”ともいわれる激しい内戦に発展しました。
アサド政権は一時劣勢となるも、2015年からロシアによる空爆の支援を受けて優位に。
反政府勢力は、北西部イドリブ県とその周辺に追い詰められ、インフラも多く破壊されました。戦火に追われた住民たちの多くが、避難生活を送っていたこの地域を、大地震が襲ったのです。
支援どう届ける?日本からの模索
なんとか日本から支援の手を届けられないか、模索を続ける人たちがいます。
認定NPO法人「REALs 」では、現地の団体と連携をとり、まずは、シリア国内の被災していない地域で支援物資を調達して北西部に届けようとしています。
しかし、もともと内戦による影響で国内の物資には限りがありました。さらに地震発生後のニーズの高まりを受けて、テントが通常の1.5倍の価格に値上がりするなど、必要な物資が高騰していました。
(トルコからの支援ルートを模索するNPO法人「REALs 」)
シリア北西部は、アサド政権と対立する反政府勢力の影響下にあり、地震前は国外からの支援ルートが、トルコ側から1カ所開かれているだけでした。
今月13日、支援ルートを3か月の間、3か所に増やすことが合意されたものの、トルコも被災しているため、物資の移動が難しい状況が続いているといいます。
“政権の支援だけはどうしても受けられない” 住民たちの苦い記憶
一方で、シリアの首都ダマスカス側から北西部への物資支援も進んでいません。
今回私たちはシリア北西部で支援物資を待つ人々数名から、ある共通した思いを聞くことになりました。
「アサド政権が関わる物資だけは、どうしても受け取れない」
その胸の内を、イドリブ県・ハリム地区を拠点に物資の調達や配布に当たっているNGO職員のムハマッド・クタイニさんが語りました。
(ムハマッド・クタイニさん(WATAN Foundationフィールドコーディネーター))
ムハマッド・クタイニさん:
「政権が今になって住民を支援する側になるとは絶対に信用できません。12年にわたり、住民たちを空爆し、砲撃してきた政権だからです。私の暮らしていた地域では化学兵器が使われました。たくさんの人が亡くなるのを目撃し、重大な犯罪で子どもたちが亡くなるのもこの目で見てきたのです。シリア政権は私たちの人道的パートナーには断じてなりえません。私たちの地域の住民は、アサド政権が関わった支援物資を受け取ることだけは、どうしてもできないのです」
住民たちを苦しめてきたアサド政権が行ってきたことは、人々の間で深い憎しみとして刻まれていました。
“いまも揺れている気がする” 震災から3週間
地震直後にコンタクトをとってから、継続的に現地の状況を報告してくれていた、「ホワイト・ヘルメット」のメンバーのイスマイルさん。
今月26日。
少し落ち着いた表情ではありましたが、余震が続き、3週間たっても先の見えない状況を前に、疲れが見えました。
イスマイル・アルアブドゥッラーさん:
「地震でけがをした多くの人がいまだに治療を待っている状況が続いており、亡くなった人もいます。早く本格的ながれき撤去をはじめとする次のステージへ進められることを期待しています。家を失った人たちへの物資のほか、地震や余震による精神面でのケアも必要とされています。きょうも、いまあなたと話しているこの瞬間にも、私自身、なぜだか分かりませんが、地面が揺れるように感じるのです。生きていること、安全が確保されている、という感覚が持てないのかもしれません」
2月6日の地震のあとも、大小さまざまな余震が続く被災地。
「ホワイト・ヘルメット」はいまも、救助活動や救急医療・搬送などの傍ら、がれきの撤去やテントを建てるための土台整備などを続けています。
イスマイル・アルアブドゥッラーさん:
「私たちのメンバーの中も4人が犠牲となり、重傷を負った人たちもいます。でも、人々が私たちを信じている限り、活動していきます。少しずつでも、状況が改善していくことを期待しています」
日本から現地へ “見捨てていないと伝え続けたい”
NPO法人「REALs」理事長・瀬谷ルミ子さん
トルコやシリア北西部の被災者に緊急支援を行うNPO法人「REALs」理事長・瀬谷ルミ子さんは、内戦と地震、何重にもつらい経験を重ねる人々を、再び支援から取り残さないことが大切だといいます。
瀬谷ルミ子さん:
「世界でいろんな危機が起きるなかで、シリア難民のことは、ほとんどみんなが話題にもあげなくなっていた。支援が届かないと、それなしには生きていない人がますます困窮しますし、その先に命を落とす人も出てくるでしょう。彼らが国際社会にこれ以上絶望しないためにも、世界は見放していないと伝えたい。できる限りの支援を届けていきたいです」
トルコ、そしてシリアへの取材を通して聞こえてきた、被災者たちの不安や絶望の声。
支援を届ける難しさがある中でも、震災の痛みを経験してきた日本だからこそ、息の長い支援を続けていく必要があると強く感じました。
記事で紹介した団体の支援情報まとめ
記事で紹介した以下の団体では、今回の地震を受け、被災地支援のための寄付を各ホームページから受け付けています。
▼「ホワイト・ヘルメット」
https://whitehelmets.org/en/ (※NHKサイトを離れます)※別タブで開きます
▼NPO法人「REALs」
https://reals.org/ (※NHKサイトを離れます)※別タブで開きます
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