“サイバー攻撃=犯罪だが…” ウクライナ「IT軍」の日本人 参戦の理由

NHK
2022年6月27日 午後4:15 公開

「私のしていることは犯罪行為です。でも、これは間違った戦争なんだ。戦争を早く終わらせるために、 “やらなければいけないこと”なんだと、自分に言い聞かせていました―」

  

侵攻開始から4か月。ロシアとウクライナは、実際の戦場だけでなくインターネット上の「サイバー空間」でも激しい戦いを繰り広げています。そこには、世界中の市民も参戦。取材の結果、その中には複数の日本人もいると判明し、その一人がインタビューに応じました。

ウクライナ政府の呼びかけに応じて、ロシアへのサイバー攻撃に協力する「IT Army of Ukraine(通称:IT軍)」に参加しているという男性。ウクライナに協力している一方、

「これ以上来なくていい。参加しないほうがいい。戦争ですから」

と、これから「IT軍」に参加しようという人が出てほしくない、という心情を吐露しました。

その理由は何なのか。カメラの前で明かしました。

 

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ウクライナ政府の呼びかけに応じた“25万人”

「サイバー攻撃は多くの国で違法性が高く、捕まる可能性があることを認識しておいてください」

 

ウクライナ「IT軍」の“マニュアル”には、参加者に対する注意喚起が書かれています。実際に日本では違法になる可能性があります。

「IT軍」はロシアの侵攻開始から2日後に創設。SNSでの呼びかけに応じて世界中から集まった25万人以上の登録者(6月27日時点)が、ロシアへのサイバー攻撃に協力しているといいます。

今回インタビューに応じた男性は、長くITエンジニアとして働いてきました。これまでサイバー攻撃をしたことは、もちろんありませんでした。その彼がなぜ「IT軍」に参加したのか。そのきっかけについて、まず聞きました。

 

「2月24日、ロシアの侵攻が始まって、これはおかしい、間違った戦争だと感じました。

人の自由を踏みにじる、やりたいことを邪魔する、それはダメだと思います。今、ロシアがウクライナにしているのは、まさにそういうことじゃないですか。僕はそういうのが許せない。

すぐにウクライナ人の知り合いに連絡を取って、自分に何かできることはないか聞きました。26日に、ウクライナの副首相がツイッターで“IT Army of Ukraine(IT軍)の結成を呼びかけたと知りました。その時は呼びかけから6時間後くらいだったのですが、すでに20万人以上のアカウントが集まっていて、これは世界中のITエンジニアに発せられた“檄(げき)”だと感じたんです。戦争が早く終わるために、自分たちのやることで、少しでも戦争にストップがかかることに意義があればいいなと思い、その日から毎日活動しています」

 

初めての攻撃で感じた震え

この男性いわく、「IT軍」が主に行っているのは、「DDoS攻撃」というサイバー攻撃。企業や団体のウェブサイトやサーバーなどに、大量のデータを一斉に送り続けることで大きな負荷をかけ、機能停止に追い込みます。

 

「IT軍」から、攻撃するロシアのサイトなどが指示され、それに従って攻撃を行っていると言います。政府や公的機関のサイトだけでなく、交通、金融、メディアなど市民生活に関わるサイトも攻撃対象。 ロシアの市民生活に影響を与え、厭(えん)戦気分を高めようというねらいです。

ウクライナ側の「IT軍」としてロシアを「攻撃」してどう感じたのか。男性は参加当初を振り返り、サイバー攻撃という犯罪行為を行うことへの葛藤を語りました。

  

「犯罪だという自覚はもちろんあります。でもこれはもう、やらなければいけないことだと言い聞かせて…。私もエンジニアですから、攻撃した先のサイトの関係者、利用者、同業者がどれだけ困っているかイメージできますから、相当精神的に不安定になりました。手が冷たくなったり、体に震えが来たり、そんな状態が1週間くらい続きました。

もっと平気でやれるものだと思っていました。やっている行為自体は、キーボードを打っている、普段の仕事と変わりませんが、“戦争に参加している”という精神的なプレッシャーが大きかったです」

 

攻撃は“ルーティンワーク” に

当初は抱えていた、「サイバー攻撃」への葛藤。しかし、毎日指令にあわせて攻撃を続けていくうちに、次第に感覚が麻痺(まひ)していくのを感じたと男性は言います。

「今は『IT軍』自体が、組織的に動いています。命令が来る時間もだいたい決まっているので、それを淡々と実行する。

僕の場合は、今はルーティンワークで攻撃しています。時間が来て指令が来て攻撃、というのを毎日繰り返しています。そういう人間が、世界中に今25万人以上いるんですよ。感覚が麻痺(まひ)してくると言うか…。戦争が馴染んでしまっている、生活の一部になってしまっている」

 

「この戦争が終わった後、サイバー攻撃のやり方を覚えた人間が25万人以上、野に放たれるかと思うと、この先はかなりやばい気がしています。25万人以上のハッカーが、今まさに養成されているわけです。

今から『IT軍』には、できれば来ないでほしい。参加しないほうがいい。戦争ですから

  

専門家が指摘する「危険性」

地上戦とサイバー攻撃を組み合わせた「ハイブリッド戦」が、本格的に行われたのは、今回のロシアによるウクライナ侵攻が初めてだと言われています。

サイバー戦は世界中に拡大し、ウクライナの「IT軍」だけでなく、様々な集団で世界各国の市民が戦いに加わっています。

サイバー空間での戦いに詳しい慶應義塾大学の土屋大洋教授は、市民がサイバー攻撃に加わることの危険性を指摘します。

 

土屋大洋教授:

「サイバー攻撃に参加することは、日本に限らずいろいろな国で犯罪行為として認められています。身元が特定されれば、報復を受ける可能性もあります。

ウクライナの人たちを助けたいという気持ちはよくわかりますが、非常に危険です。報復が行われれば、家族や同僚まで巻き込んでしまうかもしれません」

土屋大洋教授:

「これまでサイバー攻撃で人は死なないと言われて来ましたが、病院が攻撃で動かなくなれば、人が死んでしまうかもしれません。

政府・軍だけでなく、民間企業、それに一般市民が参加する形になっていることで、新しいハイブリッド戦が展開されていて何が正しいのか、わかりにくくなっています。このことを日本政府、私たちは考えていく必要があります」

 

今の戦争が終わるまでは

男性が「IT軍」に参加し、ロシアへのサイバー攻撃を続けて4か月。今の胸の内を聞くと、「不毛だと感じることがある」と語りました。

 

「いくらDDoS攻撃でロシアのサイトを落としても、それが直接戦争を終わらせるわけではない。むしろ、終わる雰囲気すら見えない状況に陥っています」

最後に、今後もサイバー攻撃を続けるのか、質問しました。

 

「いまの戦争が終わるまでは、ずっとやるでしょうね」

 

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