ピークアウトまで医療はもつのか―新型コロナ“第7波”真っただ中 病棟を取材すると

NHK
2022年8月10日 午前10:22 公開

いったんは収まったかに思えた新型コロナの感染。しかし、7月7日にコロナの新規入院患者が入院するや否や、聖マリアンナ医科大学病院では一気に患者が急増しました。

8月5日現在、コロナの患者を受け入れるための病床を11から32に増床していましたが、すでに24床が数名の重症者と院内発生患者や、他に受け入れ先のない中等症や軽症の患者で埋まっていました。8月7日には、さらに病床数を56床に増床。通常診療とコロナ以外の救急診療を何とか維持しています。

熱中症やコロナ疑似症の患者も病院にどっと押し寄せ、ひっ迫の度合いが増しています。なるべく遠方の都内からのコロナ患者の受け入れをやめ、病院がある川崎市内からの患者受け入れに特化しようとしていますが、それでもベッドがどんどん埋まっていく状況。

同病院救命救急センター長の藤谷茂樹医師に話を聞きました。

(報道局 社会番組部 チーフディレクター 松井大倫)


 

数が膨大!受け入れも拒否 医療はどうなる

 

おととし4月から長期取材を続けている、聖マリアンナ医科大学病院救命救急センター(川崎市)。爆発的に増える患者に対して病床をどこまで増やせるか議論がされていました。

“第6波”以上に感染者の「数」が膨大な“第7波”の患者に対して、今の医療態勢で乗り切ることができるのか――医療スタッフの間でも感染者が増え、また濃厚接触者となり働けないスタッフが出続ける状況で、ベッドを増やすことができても、従事対応できるスタッフがいないといった厳しい状況を藤谷医師は指摘します。新型コロナは軽症、中等症の患者がほとんどで、今は重症者は2名しかいませんが、じきにICUいっぱいに重症者があふれる事態に直面すると危惧しているからです。

 

 

また、後方病院の多くが、これ以上のコロナ患者の受け入れを拒否するようになり、危機を脱した患者の受け入れ先を確保することがも困難になっています。特に子どもの感染が増えていますが、子どもの患者は手がかかるため、ギリギリの人数のスタッフで対応している病院では、受け入れを拒む傾向にあるといいます。

“第7波”真っただ中、医療現場はこの危機をどう乗り越えようとしているのか。藤谷医師からのメッセージです。

 

 

社会経済の活性化と医療体制の継続の狭間で

聖マリアンナ医科大学病院救命救急センター長 藤谷茂樹さん

 

(※藤谷医師から寄せられたメッセージ)

「2年半もの間、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に苦しめられてきました。若年者での死亡率の高かったデルタ株の“第5波”、高齢者の死亡率が高かったオミクロン株(BA.1)の“第6波”、そして、爆発的な感染者数を引き起こしているオミクロン変異株(BA.5)により、今、特に中等症ベッドの使用率が全国でひっ迫しています。

今回のオミクロン変異株であるBA.5の特徴として、強い感染力と免疫回避が挙げられており、ワクチンの接種に関わらず多くの方が感染を引き起こしています。

ワクチン接種率の低い20代以下では、より感染率が高くなっています。実際に当院に入院された患者は、高齢者が多く、7月の入院患者数94名中、65歳以上が44名(46.8%)、12歳以下が29名(30.9%)と約4分の3を高齢者と小児が占めています。残りの多くは基礎疾患を持った患者が占めています」

 

 

「ワクチン接種率の低い20代以下の若年者が感染源となること、もしくは、活動範囲の広い20代~30代の若年層がワクチン接種をしていても、免疫回避で感染したとしても、重症化はしないという気のゆるみ、そして行動制限がなく個人のモラルに委ねられている現状、さらに猛暑による冷房による密閉など複合因子により、家庭内、医療施設内での感染のまん延をきたし、免疫の低下している高齢者が多く入院をしているというのが現状です。

これに追い打ちをかけているのが感染症法2類による、さまざまな縛りが挙げられます。医療従事者自身の感染や、濃厚接触者の隔離が医療従事者の就業制限につながり、コロナ確保病床のひっ迫に加え、患者管理をするマンパワー不足という二重の足かせが我々医療従事者を苦しめています」

 

 

ピークアウトまで医療はもつのか

 

「医療制度の強化で『“第7波”を乗り切ることができるのでは』という淡い期待がありましたが、いよいよ臨界点に近くなりつつあります。

連日20万人を超える新規コロナ感染症の発症が続いています。この新規発症がこのまま持続するとは思えず、どこかでピークアウトする可能性が高いです。しかし、ピークアウトするまで、この急増に医療現場が耐えられるかが大きな問題となっています。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)オミクロン変異株(BA.5)の重症度に関して、COVID-19そのものによる重症患者は、非常に少なく、高齢者や免疫低下の基礎疾患を持った患者が入院の大半を占めています。重症者に分類をされている患者も、基礎疾患の悪化が相まって重症となっていることが多く、厳密なコロナ感染症による重症肺炎かどうかの識別は国内では行われていません。現に、8月5日現在の神奈川県の重症患者病床の利用率は27.1%、中等症84.7%、軽症・無症状17.8%となっている。

この中等症患者は入院の必要のある患者であり、“コロナベッド”といわれる感染隔離の必要な病床を占拠しているのが大きな問題となっています」

 

 

「院内でどのようにベッドが増減されているか、多くの方々はご存じないかと思います。短期間に“コロナベッド”を増加させるのは、容易ではありません。私たちの施設は高度医療センターであり、本来であれば、軽症・中等症の患者は重点医療機関が受け入れることになっていますが、今は緊急事態であり、受け入れをせざるを得ない状況になっているのです。

8月5日現在、発熱患者の救急車要請に関しては、たらい回し状況になっており、川崎市以外からの救急車受け入れ要請がありますが、やむを得ず断らざるを得ない場合もあります。救命センターでは、少なくとも7床のコロナ患者の受け入れ病床を確保しており、毎日、日中にベッドをできるだけ空床にして、コロナ救急患者の受け入れを行い、救急車のたらい回し防止と、本来の三次救急を維持しており、一般病棟の夜間の負担を軽減をしています。

夜間急患センターでは、毎日40~50名の患者が受診をしますが、発熱でコロナ検査を希望される方も多くいるのが現状です。職員に関しては、発熱があれば、現在の疫学状況からして、コロナ感染の確率が高いので、夜間は受診をせずに、上長に報告をして、コロナ検査の結果が出るまで、コロナ感染症に準じて自宅待機をしてもらうようにしています。

現在、PCR、 抗原検査の試薬が不足しており、今後、発熱のみの患者であれば、夜間の緊急性がない場合、コロナの検査ができなくなりつつあります」

 

 

ベッドを占める高齢者患者

 

「今回のBA.5株は、通常の風邪と同じような症状を示しますが、高齢者は、“風邪は万病のもと”といわれるように、食欲低下、脱水、基礎疾患の悪化など、若い年齢層では起こらないような合併症を起こしやすいです。そのため、中等症用のベッドが高齢者で埋められてしまっています。

免疫回避によるワクチン効果も限界があり、高齢者自体が感染リスクの高い行動をしているのではなく、むしろ、家庭や医療施設などで感染をしてしまっている被害者的な存在となっているのです」

 

 

院内発症が医療ひっ迫に拍車を

 

「現在の状況に追い打ちをかけているのが、院内発症のコロナ患者、職員のコロナ感染症もしくは、家族の感染による濃厚接触による就業制限など、医療施設内部からの新型コロナのひっ迫が拍車をかけています。

ワクチンの接種率の低い、10代、20代が感染することで、家庭内感染により院内での働き手である医療従事者が濃厚接触者、もしくは感染してしまうことが多くなってきており、この現象は、今やどの医療施設でも大小はあれど、大きな問題となっています。多くの施設では、5日目の検査が済むまで就業制限がかけられているのが現状ではないでしょうか。

私たちの施設では、職員の自宅待機期間が、最終接触日を0日目として、① 3日目にコロナ遺伝子検査で陰性確認できるまで、もしくは、②5日間(6日目解除)のどちらかの隔離解除基準を設けています」

 

  

「ただし、復帰後に患者に接触する業務に就く際は、5日目まではN95マスクを装着して勤務をするようにしている。コロナ中和抗体による免疫回避がある状況で、オミクロンワクチンの入荷がこの秋に入るという情報もありますが、ワクチンの効果は1~2か月で期待をするのは難しく、いかにピークアウトして医療資源が有効に利用できる状態を維持することができるのか。行動制限をしないということは強制力を行使することはできず、疲弊した国民に自己努力を強いるのも限界に来ており、現状の国策では、海外のようにコロナ感染がピークアウトしてくるまで医療機関に持ちこたえてくれということを意図しているのではないかと受け止めています。社会経済の停滞で多くの方が被害にあっており、社会経済の活性化と医療体制の維持のてんびんの中で、医療従事者は満身創いで闘っています」

 

 

取材後記 “第7波”真っただ中、私たちは…

聖マリアンナ医科大学病院救命救急センターのコロナ重症者病棟を取材し続けて、2年半が経とうとしています。毎回、「波」が現れるとセンターの空気がきゅっと締まったような感じになります。事務員の方々も、N95という特殊な医療用マスクを医師や看護師同様に装着し、電話応対をするようになります。とても緊張する仕事だと思います。

重症者の容態は、これまでの「波」とは違い、コロナによる特有の肺炎ではなく、心臓などを直接ウイルスが侵す病態も確認されています。現在、入院している重症者の中で、比較的若年の重症者の方は、ワクチン未接種で基礎疾患はありません。咽頭痛からショック状態になり、ウイルスによる心筋炎を引き起こし重症、生命維持装置でもあるECMO=人工心肺装置の管理によって呼吸を管理しなければならなくなりました。感染がわかってから、ECMO管理になるまで、わずか1日。肺はコロナ肺炎とは違い、比較的きれいなのが驚きでした。

「ピークアウトするまで医療がもつかどうか・・・」話す藤谷医師。「とりあえず8月を乗り越えよう」とスタッフに感染対策の檄を飛ばしているのが印象的でした。

 

 

あわせて読む

 

“第7波”に医師は…「後遺症の大きな波もやってくる」

記事を読む

【緊急報告】“第7波”最前線から コロナ病棟の今

記事を読む

徹底検証・新型コロナ「第7波」 対策の“新常識"は

番組ダイジェストを読む