9年前(2013年)、「王将フードサービス」の大東隆行前社長が凶弾に倒れ、未解決となっていた事件。先月28日に殺人などの疑いで工藤会系の暴力団の幹部、田中幸雄容疑者が逮捕されました。事件を知る上でのキーワードをまとめました。
殺害された大東隆行さん(当時72歳)とは
国内外に734店舗、年間847億円を売り上げる「餃子の王将」(昨年度)。 大東さんは創業2年後に入社し、2000年に4代目の社長に就任。 当時、経営難に陥っていた会社を再建したカリスマ社長として知られていました。
2013年12月19日の早朝、車で京都市の王将フードサービスの本社に出勤し、駐車場で車を降りた直後、至近距離から胸や腹を4発撃たれ亡くなりました。
田中幸雄容疑者(56歳)とは
北九州市の特定危険指定暴力団、工藤会の2次団体・石田組に所属する暴力団員。 捜査関係者によると、大学を中退後、サラリーマンも経験した異色の経歴の持ち主です。
田中容疑者は、2008年1月に福岡市博多区で大手ゼネコン「大林組」の九州支店の社員が乗った乗用車が拳銃で銃弾4発を撃ち込まれた事件で、実行役を務めたとして4年前に逮捕・起訴されました。
裁判で事件への関与を否定しましたが、判決では「直接の動機は不明だが工藤会や石田組が自分たちの利益のために大手ゼネコンを威迫する意図があったことがうかがわれ、反社会的な犯行として厳しい非難に値する」として懲役10年を言い渡され、確定しています。
田中容疑者はこの事件の後、工藤会内部での役職が「専務理事」から1つ上の「上席専務理事」に昇任したといいます。
警察は先月28日、福岡県の刑務所で服役中の田中容疑者を、王将フードサービスの大東前社長を拳銃で撃って殺害した殺人などの疑いで逮捕しました。
工藤会とは
今回の事件があった2013年当時、田中容疑者が所属する特定危険指定暴力団・工藤会は、北九州市を中心に市民を標的にした襲撃事件を繰り返していました。
福岡県内では…
▼2011年。暴力団への利益供与を断るよう業界の関係者に呼びかけていた建設会社役員が射殺される。
▼2012年。長年、工藤会捜査を担当した福岡県警の元警部が銃撃され大けが。「暴力団員立入禁止」の標章を掲げていた飲食店の女性経営者が刃物で切りつけられる。
▼2013年。工藤会トップで総裁の野村悟被告が施術に不満を持っていたとされる美容外科クリニックの看護師が、帰宅途中に顔などを刃物で刺される。
これらの事件すべてが、裁判で工藤会による犯行と認定されています。
一方、北九州市では、京都で王将フードサービスの事件があった翌日(2013年12月20日)、過去に工藤会に殺害された漁協の元組合長の弟で、別の漁協の組合長をしていた男性が何者かに拳銃で撃たれて死亡。警察は暴力団が関わったとみて捜査を続けています。
市民を標的とした襲撃事件を繰り返した工藤会に対し、警察は「壊滅作戦」と呼ぶ徹底的
な取り締まりを行い、2014年、トップの野村被告を逮捕。あわせて4人の市民を死傷させた事件で、去年8月、福岡地方裁判所が死刑判決を言い渡し、野村被告は控訴しています。
一連の取り締まりの結果、福岡県内の構成員は去年末の時点でおよそ200人と、ピークだった2008年の730人と比べ3分の1以下に減っています。
調査報告書とは
王将フードサービスは事件から2年後の2015年、弁護士などによる第三者委員会を設け、翌2016年3月、「調査結果」を公表しました。
この中で、取引先などを調査した結果、会社と暴力団などの反社会的勢力との関係は確認されなかったと結論づけています。
一方、報告書は、王将フードサービスでは大東さんが社長になる前、創業家が経営権を握っていた時代に特定の企業グループと不適切な取引が繰り返されていたことを明らかにしています。
不適切な取引とは
報告書によりますと、不適切な取引が行われたのは1995年ごろから2005年ごろにかけてで、創業家出身の役員が主導して企業グループとの間で経済合理性のない多額の貸し付けや不動産の売買が繰り返され、およそ170億円の損失を出していたとしています。
こうした取引などで経営危機に陥った会社を立て直そうとしたのが、2000年に社長に就任した大東さんで、債権の放棄や不動産の売却などを行って、2006年にはすべての清算を終えたとしています。
その後、会社は東証1部への上場を目指していましたが、証券取引所などからこの企業グループや創業家との関係を問題視され、2012年に自力での上場を断念せざるを得なかったということです。翌2013年の7月になって、上場していた大証(大阪証券取引所)の統合に伴う形で東証1部に移行しました。
この企業グループについて、会社側は反社会的な勢力という認識はないとしています。
企業グループの元代表とは
「王将フードサービス」と取り引きがあった企業グループ 上杉昌也元代表
報告書では、王将フードサービスと巨額の取り引きをしていた企業グループの元代表との関係についても指摘しています。
元代表との関係の始まりは40年ほど前。京都に新店舗を開店させようとしたとき、行政との間に問題が起き、その解決に頼ったのが、この企業グループの元代表でした。大東さんが社長に就任した頃には、創業家出身の役員と男性側との取り引きが常態化。海外の不動産の購入や貸付など巨額の資金が流出し、負債総額は452億円にものぼっていました。
元代表はNHKの取材に対し、事件との関係性について否定した上で、「何が不適切なのか取引方法なのか、これだけ高額な金額が一私企業の中から行方不明になっていて、当事者として指摘されている私に対して何の調査もない、何の確認もない、そういう書類の作成だった」と述べています。
また、工藤会との接点について、「全くないわけではない。私は地元でゴルフ場を経営していたので、どういう理由かはわかりませんが、ゴルフに何回かお見えになったことを認識しています。ただし深いつきあいはありません。逮捕されているといわれる田中容疑者とは面識はありませんし、なぜそういう事態になったのか、事実関係がはっきりしているのか、それについてはすごく疑問を持っています。(事件との関わりは)全くありません」と話しています。
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