“電力クライシス” ぜい弱な日本の電力システムが露呈したものとは…

NHK
2022年6月13日 午後6:08 公開

「日本は停電がいつ起きてもおかしくない、“途上国”になってしまった」

経済産業省の幹部のひとりがこう打ち明けました。

いま、日本には電力が足りていない―

ことしの夏、私たちを直撃するのは、電力不足からくる「節電要請」。「計画停電」の可能性もゼロではありません。

しかし、なぜいまになって、電力が足りないのか?

その背景には日本の電力供給システムの構造的な問題がありました。もはや、当たり前とは言えなくなっている電力安定供給の課題を検証します。

                      (経済部記者 五十嵐圭祐・西園興起)

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3月から続く“電力不足”

ことし3月、日本の電力不足が露呈する出来事がありました。

震度6強を観測した東北地方の地震の影響で一部の火力発電所が緊急停止、また季節はずれの寒波から電力消費量が急増し、東京電力管内と東北電力管内に初めて「電力需給ひっ迫警報」が出されたのです。

このとき、首都圏は、大規模停電の瀬戸際に立たされました。

そして、いま、再び同じ危機への警戒が高まっています。

先週、政府は電力ひっ迫に備える、緊急閣僚会議を開催。7年ぶりに「節電要請」を行いました。また、万が一に備え、計画停電の準備も進めると宣言。実施されれば11年前の東日本大震災以来のこととなります。

原発事故で一変した日本の安定供給

なぜ、こうした事態に陥っているのか―。

その根本的な要因を探るためには、甚大な被害をもたらした2011年に起きた福島第一原子力発電所の事故に立ち戻る必要があります。

原発事故の前、日本は、石炭や石油、天然ガスを燃料とする火力、原子力、水力をバランスよく組み合わせる政策をとってきました。

何かひとつが調達できなくなっても、ほかの電源で賄うことができるようにする、「エネルギーミックス」という考え方に基づくものです。

しかし、原発事故によって状況は一変。

全体の発電量のうち、およそ3割を占めていた原発が停止することに。

代替手段となった火力発電の割合はおよそ6割から、その後、およそ9割に高まりました。

再エネ普及の影で…廃止される火力発電

火力発電への依存度が高まる中、国は、2012年に太陽光などの再生可能エネルギーで発電した電力を固定価格で買い取る制度を導入。

普及を進めるため買い取り価格を高く設定したことを背景に太陽光の累計の導入量は約6000万キロワットと、この10年で20倍以上に増えました。

現在の東京電力管内の太陽光の供給力は、約1800万キロワット。最大出力だけで言えば、大型の発電所18基分にあたります。

発電時に二酸化炭素を排出せず、脱炭素に向けて非常に重要な電源ですが、弱点となるのが、発電量の不安定さです。

昼間の晴れている時間帯は、発電量が増す一方、曇りや雨、雪が降る日、また夜間には十分に発電ができないのです。

この分を埋め合わせるのが、火力発電です。太陽光発電の供給量に合わせて出力を上げ下げする、調整弁としての役割があります。

しかし、火力発電所には、維持費や人件費は変わらずかかってしまうため、稼働率が悪くなると、採算が悪化してしまいます。

その結果、火力発電所の休止・廃止の動きが相次いでいます。

さらに、世界中で急速に進む脱炭素の動きも強い逆風となっています。二酸化炭素の排出量が多い火力発電は、新規の建設や投資に理解が得られにくくなっているといいます。実際、金融機関の間では化石燃料の上流開発などから投融資を引き上げる“ダイベストメント”が広がり始めていて、発電事業者も建設をためらうようになっているのです。

減少した540万世帯分の供給力

今回、資源エネルギー庁への取材で、2017年度からの5年間で休止となったり、廃止されたりした火力発電所の供給力を足しあげると、1600万kW以上。これはおよそ540万世帯分を賄うことができる出力です。

また、2021年以降、新たに動くはずだった、およそ1000万kW分の火力発電所の建設計画が中止になったことも明らかになりました。今後も火力発電所の計画を増やすのは難しい情勢です。

供給サイド 国はどうするのか

もはや当たり前とは言えなくなっている日本の電力・安定供給。

原発事故の前は、大手電力会社が、発電から送電、小売りまでを一貫して担ってきました。電力を安定して供給するという義務を国から課せられるかわりに、地域を独占して事業を行い、発電に必要な燃料費や人件費などのさまざまなコストを電気料金で回収できる「総括原価方式」という、いわば特権が認められていました。

しかし、原発事故後、国は、戦後60年余りにわたって続いたこうした仕組みを抜本的に変える、「電力システム改革」に乗り出しました。

電力会社間で電力を融通しあう際の司令塔となる新たな機関を発足させたほか、6年前には電力の小売りが全面的に自由化。

異業種を含めたさまざまな企業が「新電力」という形で参入し、競争が始まりました。

しかし、ウクライナ危機などによる燃料費の高騰で発電コストが上昇。

発電事業者によってつくられた電力が取り引きされている「卸電力市場」の価格が跳ね上がり、「新電力」はこれまでのような安い価格で電気を調達することができなくなって、販売する電気代の値上げや、最悪の場合、経営破綻・事業撤退に追い込まれたのです。

一連の改革を急速に進めたことで電力の安定供給を損なってしまったのではないか―。

こうした指摘に対して、経済産業省は、「地域間での電力融通の円滑化やさまざまなサービスメニューの出現により需要家の選択肢が拡大するなど、一定の成果が現れた」とする一方、供給力不足や新電力の撤退・受付停止など新たな課題が生じているとして、制度の見直しを進めるとしています。

具体的には、必要な供給力を確保するため、発電事業者が長期間にわたって、収入が得られるような市場(容量市場)を、2024年度に創設し、発電所の新規建設や投資を促す仕組みを作る。

さらに、水素やアンモニアを燃料として使うなど脱炭素に貢献する新たな電源投資を進める制度の検討も急いでいます。

国は、夏と冬の需給ひっ迫を改善するため

再生可能エネルギーや原子力の活用を打ち出しています。このうち原子力発電は、火力発電のような燃料価格高騰のリスクを抑えられるうえ、脱炭素電源としても期待できるという意見がありますが、

再稼働するには厳しい安全基準をクリアしなければならず、稼働を増やせるかは不透明です。

求められるのは行動変容

仕組みが確立されない中、この夏と冬、あるいはその先の停電をいかに防いでいくか―。

国は、老朽化した火力発電所をフル稼働させるなどして、供給力の確保を急いでいますが、稼働数には限界があり、新規の建設は間に合いません。

このため、ことし国は、全国に10ある電力管内すべてで7年ぶりに節電要請を行います。

節電頼みという極めて厳しい状況ですが、電力会社の間でも新たな動きが出ています。

東京電力はこの夏、自由料金プランを契約している家庭を対象に「デマンドレスポンス」と呼ばれるサービスを展開すると発表しました。

電力の需給が厳しい時間帯日に節電すると、ポイントを付与するというサービスです。

のべ45万世帯の参加を見込み、大型の発電所3基分の供給力にあたる300万キロワットアワーの節電効果を見込んでいます。ほかにも東京ガスやSBパワーなども同様のサービスを展開する予定です。

さらに、電気の使い方を変える新たな取り組みも始まっています。

天気のよい日中、太陽光の発電量が多くなると、市場で取り引きされる電力の価格は安くなる傾向があります。

福岡に拠点を置くベンチャー企業は、1日の発電量の推移などをAIで解析し、30分ごとに電気料金を細かく設定。

顧客にこまめに伝え、電気料金が安い昼間の時間にできるだけ使ってもらうなど、電気の使い方を変えるよう促す仕組みを作りました。

こうした取り組みが広がれば、火力発電への依存度を徐々に抑え、脱炭素にも貢献できると考えられています。

取材を終えて

いま私たちが直面している危機は、「電気が送られてくるのは当たり前ではない」という現実を突きつけています。

限りあるエネルギー源を、大切に使うための方策を急いで整える必要であると同時に、国や電力会社任せではなく、“自分たちの電気”として、利用者である私たちが今一度、使い方を考えること、その重要性を再認識しました。

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