子どもに「つらい」「 死にたい」と言われたら 専門家が解説

NHK
2022年12月6日 午後4:25 公開

子どもから「つらい」「死にたい」という言葉を言われたら、大人はどう子どもの心に向き合ったらいいのでしょうか。もちろん万能薬のような魔法の回答があるわけではありません。ただ、その“心づもり”をしておくだけでも、大きく違います。

番組で取材をさせて頂いた3人の専門家の方々に、そのヒントを伺いました。

(クローズアップ現代 取材ディレクター・荒井 拓)

子どもの感じた感情は、「その通り」なんだと思う

診察する児童精神科医の井上祐紀さん

10月にオープンした福島県立ふくしま医療センターこころの杜の副院長で、児童精神科医の井上祐紀(いのうえ・ゆうき)さん。「うちの子は大丈夫」で終わらせているケースでこそ、立ち止まることが必要だと語ります。

井上さん

「まず、子どもといえども、本当に心の健康を崩すことってあるんだという事実からスタートしていただけるといいなと思います。問題を抱えた子どもたちが自分1人で医療機関を受診するということは、正直まだまだ難しいので、やはり身近にいる大人が誰か気付いてくれるところがスタートになりますよね」

「例えば大人から見て分かりやすい行動の変化であれば、大人も気付いてあげられやすいのですが、気分の落ち込みが激しかったり、中には死にたい気持ちが強かったりという子どもが、必ずしも行動上の問題を出すわけではないんです。普通に学校に行ってテストも受けて、部活動もやって、本当にギリギリまで普通をある意味装っているというか、普通を保っている子たちが多いと思います。なので、学校に行けているから大丈夫という前に、『子どもが本当はどんなこと感じてるのかな?』 『子どもにとって今の生活ってどう映ってるのかな?』という目線で、いろんな人がちょっと想像して下さるといいなと思います。子どもの行動だけで判断するのではなく、子どもにとっての感じ方や視点を想像してくれる大人が増えてくれると、自分のつらさを態度に表せない子ども達が、相談に繋がりやすかったりするようなきっかけが得られるのではないかと思っています」

児童精神科医の井上祐紀さん

〈児童精神科医の井上祐紀(いのうえ・ゆうき)さん〉

大人に見える世界と子どもに見える世界は違います。だからこそ「正しさ」や正解不正解ではなく、子どもが感じていることそのものを大事にしてほしいと語ります。

井上さん

「どんなネガティブな気持ちであれ、子どもの感じた感情は間違っていない、その通りなんだと思います。大人から見ると『今、こんな状況でそこまで考えなくてもいいじゃないか』 『あとちょっとだから頑張れ』など、意図していなくても過小評価してしまいがちです。ただ、子どもが言ってくれたことは、子どもにとっては本当にその通りなんだと思うんです。だから、そう受け取っていることを伝え、子どもが思っていることを一緒に感じてあげる。余計な解釈を加えないことが大切だと思います」

“いい言葉”より、気持ちを受け止めるゆとりを

児童精神科医の岡琢哉さん

〈児童精神科医の岡琢哉(おか・たくや)さん〉

杉並区で子どもに特化した精神科訪問看護ステーションを昨年4月に立ち上げた、児童精神科医の岡琢哉(おか・たくや)さん。子どもから「死にたい」「つらい」と言われた時に、大事なのは“言葉”よりも“受け止めるゆとり”だと言います。

岡さん

「まず『死にたい』というのは、本当に死にたいというよりも、そのくらいの言葉を出さないと助けが求められない状態にあるSOSだと受けとめることが大切です。では、その言葉にどう向き合うか。よく『子どもに向き合う』ことが重要と言われますが、向き合うための準備について語られることはあまりありません。

『しっかりと向き合う』ためには、『十分な時間と適切な場所(あるいは空間)』が必要不可欠です。子どもの言葉を受け止めるための時間を確保すること、そして受け止めるためにはどんな場所が適切なのかを考えること、は一見当たり前のことのようですが、実践するには多大な労力が必要です。子どもに安心感が与えられるのはどんな場所なのか、自宅なのか、それとも外にあるスペースなのか。子どもの言葉にならない強い感情を受け取ることは一筋縄ではいかないことなのです」

「だからこそ、親や支援者は何か子どもに教えを授けたり、引っ張り上げたりしようとするのではなく、子どもの言葉にならない感情や記憶を一緒に見つけて、名前をつけていく作業を共に行っていくことが重要なのです。子ども自身も分からないことに向き合う作業だから、無理に分からないことを言葉にする必要ありません。それよりも、ただ耳を傾けて、受け取る姿勢が大事だと思います」

「死にたい」「つらい」という言葉はなくても、ちょっと気にかかる子どももたくさんいます。そんな子どもたちに対しても、必要なのは、同じく“姿勢”だといいます。

家庭を訪問し、子どもを診察する様子

岡さん

「『しんどいことがあったら、いつでも言ってね』と大人が言っても、その大人が常に忙しそうにしていたら、子どもは言いません。『子どもと向き合うことが必要だ』と言われるとすぐに向き合って、解決しようとするかもしれませんが、むしろ必要なのはゆとりで、実はそのゆとりを作る方が難しいんです」

「まだ自分のつらさを口に出来ない子は、荷物をしょいこんでいて誰にも渡せない状態です。なので、その荷下ろしをするために一緒に支えることを意思表示し、そのための場所や時間を用意していることを示すのが大事だと思います。いま世の中には、いろいろな優しい言葉や見栄えの良い言葉が溢れています。しかし、本当に必要なのは、『言葉』ではなく、そうした姿勢を示し、時間を共に過ごすことだと思います」

「コロナでみんな大変なんだから」ではなく

イメージ)ふさぎ込む子ども

番組のスタジオにご出演頂いた中央大学客員研究員で、毎年70校を超える学校で子どもや先生と対話を重ねてきた精神看護が専門の髙橋聡美(たかはし・さとみ)さん。

子どもが「つらい」と言った時、多くの大人がしてしまいがちな「評価を下す」ことや「アドバイス」に警鐘をならします。

髙橋さん

「頭から評価せず、アドバイスも先走らないで、とにかくその子がどう感じているかということを大事にしてほしいです。その子に見えている場景を見させてもらってくださいといつも言っています。大人は分かったふうに、『それってこうだよね』ってなってしまいがちです。例えば成績下がったら『だって勉強しないんでしょ。ゲームばっかりしてるからじゃないの』とか言ってしまいがちですが、そうではなく『成績落ちたんだね。何ができなかったの?』とか、そういうふうに場景を見させてもらうのが大事だと思います。その子に何が起きたかっていう事を丁寧にやるというのが、私は大事かなと思っています」

子どもにとって自分の思いを的確に言葉にするのは、とても難しいことです。そんな時にも、具体的にこんな声がけを提案します。

髙橋さん

「言語化できない子たちもいるんです。例えば『消えたい』って言った時に『どんなふうな時に消えたいって思うの?』って言われても、分からない。そういうふうに言語化出来ない子に対して、無理に言語化することを促すよりは、一緒にいて『そうなんだね』 『また何かそういう気持ちになったらお話しに来てね』 『いつでも聞くよ』というような。そういう安心で安全な大人であることが大事かなと思っています」

また「コロナ禍の大変さ」について、子どもたちと向き合う時に気をつけたいことがあるとも。

精神看護が専門の髙橋聡美さん

〈精神看護が専門の髙橋聡美(たかはし・さとみ)さん〉

髙橋さん

「やっぱり『みんな同じだよ』 『みんな我慢してるよ』 『コロナだから仕方がないよ』って片付けられてしまいがちなのですが、大変さは平等じゃない。『みんな大変』ではなくて『大変なんだね』と聞く姿勢を持たなければならないと思っています。その子の感受性であったり、家庭の経済の問題だったり、さまざまな状況が違います。例えばエッセンシャルワーカーの家の子どもさんだったら、この3年間はすごく寂しい思いしているかもしれない。だから大変さというのは、みんな同じじゃない。そこに耳を傾ける事は、謙虚にやらなければと思っています。それぞれ違うということを感じ、そこでサインをどう見つけるか、どう子どもと接していくかが大事だと思います」

とかくネガティブな面ばかり強調されるコロナ禍の子どもたち。もちろん課題は適切な対応をして取り組みつつ、ポジティブな捉え方を伝えることも大事にしたいと語ります。

髙橋さん

「コロナであれやこれが出来なかった可哀想な世代だというふうに見てしまうと、子どもたちも自分たちは可哀想な世代ってなってしまうじゃないですか。そうではなくて、コロナ禍でこの学校を過ごしたから、優しさとか思いやりとか持てる世代の子たちになったとか、そういうふうに変わっていければいいなと思っています。あなた達の時からみんなが端末を持って授業が出来るようになった。教育全体が変わっていく先駆的な教育を受け始めた世代なんだとか、なにかポジティブなメッセージを伝えていきたいと思います」

・・・・・・・

私には小学生の子どもが2人います。子どもたちが悩んだり、壁にぶつかっていたりしたら、気の利いた言葉でアドバイスし、解決してあげたいと思ってしまうところがあります。ネットや書籍には、そんな言葉が溢れています。

でも3人の専門家の皆さんが、表現は違えどおっしゃっていたのは、それ以前の“姿勢”や“態度”について。どうしても「解決したい」という親の欲望がウズウズしてしまい、即効性のある言葉を求めがちですが、まずは子どもの気持ちを想像してみる時間を作るところから、始めてみようと思いました。暇さえあればスマホを開いてしまうような昨今、そんな“悠長”な時間を持つことさえ、忘れていたような気もします。

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●クローズアップ現代 2022年12月6日放送 ※12月13日まで見逃し配信

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