アイスランド首相に聞く ジェンダー平等社会へのヒントとは? 

NHK
2022年1月4日 午後6:50 公開

2022年最初のクローズアップ現代+は、2人のキャスターが世界で注目されるキーパーソンにインタビューしました。私、保里小百合が話を聞いたのは、「世界で最もジェンダー平等な国」といわれるアイスランドのカトリン・ヤコブスドッティル首相。その手腕が世界から注目される45歳の女性リーダーです。

(保里小百合キャスター・クローズアップ現代+取材班)

 

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「世界一ジェンダー平等な国」の女性リーダー

去年、新語・流行語大賞のトップテンにも選ばれた「ジェンダー平等」。SDGs(持続可能な開発目標)の目標のひとつでもあり、性別にかかわらず平等な社会を目指す動きを、クロ現プラスでも継続して取材してきました。

しかし、男女の格差を測る「ジェンダーギャップ指数」で日本は世界120位。男女の収入にはまだ大きな差があり、女性議員の数は1割以下。コロナ禍で、格差がさらに広がる現状があります。

対して、アイスランドは「ジェンダーギャップ指数」で12年連続1位となった、世界で最もジェンダー平等な国として知られています。

アイスランドでは、どのように平等な社会を実現しようとしているか聞きたい、そして日本の課題解決に向けて、一歩でも前に進めるヒントを得たい。首相にインタビューを申し込むと、多忙なスケジュールの合間を縫ってリモート取材が実現しました。

世代を超えて支持される首相は質問に対して、印象的な笑顔とナチュラルな佇まいで、インタビューに答えてくれました。

 

 

保里小百合キャスター

首相、こんにちは!今日は、お時間いただきありがとうございます。

 

カトリン・ヤコブスドッティル首相

お会いできてうれしいです。カトリン・ヤコブスドッティルです。

 

保里

では、さっそくインタビューを始めさせていただきます。まず驚いたことなのですが、首相になってからも変わらず、一般の市民と同じマンションに暮らし続けてているのですね。市民の近くに住むことは、なぜそれほど重要なのでしょうか。

 

カトリン・ヤコブスドッティル首相

国際的なランキングによれば、アイスランドは世界で最も安全で最も平和な国のひとつです。だから、だから私たちは政治家になっても自分のマンションに住み続けることができますし、ボディーガードに常にとり囲まれている必要はありません。世界中の首脳陣がセキュリティーに囲まれている姿を見ると、アイスランドで政治家になるのは恵まれたことだと思います。 私が首相になっても、もともと住んでいた家に住み続けようと決めたのは、自分に合っているから。そして、政治家も市民の一員であり、ほかの市民たちの近くにいるべきだと私は思うからです。

 

  

保里

仕事に行くとき、オフィスまで歩いて行くのですよね?

 

カトリン・ヤコブスドッティル首相

運転手もいますし、運転手付きの車も手配はされていますが、時々は歩いて通勤しますし、オフィスから国会までも歩きます。アイスランドは、とても小さな国ですからね。レイキャビクの中心部を歩いていると知り合いに会うこともありますし、とても家庭的で、みんなが近しい存在なのです。

 

賃金の格差をなくすには?

 

2017年に首相が就任したとき、すぐに取り組んだのが、男女の賃金格差をなくすことでした。世界的に見ればその差は小さいと言えるものでしたが、首相はそのわずかな格差も見過ごしませんでした。企業に対して、賃金に性別で格差が出ることを禁じ、さらに男女同一賃金の証明を世界で初めて義務付け、違反した場合には罰金を科すという、踏み込んだ法律を施行したのです。賃金の平等を貫く理由を聞くと、それが「より良い社会」を実現するために、必要不可欠なものだからだと言います。

 

保里

首相に就任した時、アイスランドはすでに「最もジェンダー平等な国」としてよく知られていました。でも、そこでとどまることなく、男女同一賃金の証明を義務づける取り組みをしました。どうして、この政策が必要だと思われたのでしょうか。

 

カトリン・ヤコブスドッティル首相

まず、みなが賃金平等であるべきというのは明白なことです。その差の大小は関係なく、そもそも賃金に格差などあってはならないのです。私たちは男女の賃金を完全に同じにするために、この法律を施行しました。働いている男女が同じ仕事をしているなら、同じ賃金をもらう。それは、女性の経済的自立にかかわる非常に重要な事です。アイスランドは、その目標に近づいていると思います。

 

保里

日本では、男女の収入にはまだ大きな格差があるのが実情です。しかしアイスランドでは男女の格差がたとえ小さいものであっても、その解消に取り組んだ。男女平等の賃金は絶対に必要なものだ、というのが、あなたの考えなのですね。

 

カトリン・ヤコブスドッティル首相

はい、それは不可欠なものです。 賃金格差はご存知の通り、他の多くの事に影響を与えますからね。

 

ジェンダー平等な社会が経済の助けになる

 

保里

ジェンダー平等のために、困難でも努力をし続ける原動力は何でしょうか?

 

カトリン・ヤコブスドッティル首相

アイスランドで私たちは、よりジェンダー平等に近づいた方が、家族のため、子供たちのため、すべての人にとっての「より良い社会」になるということを経験してきました。それは経済においても同じです。アイスランドは労働市場において、女性の参加率が世界的に見ても最も高い国のひとつです。そのことが、経済にとって非常に有益だと証明されているのです。

 

保里

なぜジェンダー平等が、経済が良くなることに結び付くのでしょうか。

 

 

カトリン・ヤコブスドッティル首相

女性が提供できる「リソース」を使わないということは、社会にとって損なのです。女性が労働市場に参加していなければ、彼女たちが提供できる多くのもの、その全てを市場は失ってしまいます。言い換えれば、男女が平等に働く環境になければ、その社会は持っている資源を十分に生かしきれていないということなのです。私は政治家ですが、アイスランド議会の男女比率は比較的良いものです。男女の比率が平等であれば、良い政治的決定を下せると考えていますし、それは経済のためにもなるのです。

私は、ジェンダー平等とは正しいことであり、公正な事だと思います。ですから、より良い社会、より良い経済は、正しいことを行った結果の、副産物なのです。

 

数値目標だけでない 実効性ある政策のために

 

アイスランドの話を聞いていると、日本では課題が山積みであることを実感させられます。もちろん日本でも、政治や企業がジェンダー平等に関する具体的な目標を掲げています。しかし、ただ数値目標を設定するだけでは、なかなか実効性が伴っていかないというジレンマに直面しているように感じます。アイスランドはどのようにして、実効性のある政策につなげてきたのか。首相に尋ねると、彼女が見てきたアイスランドの政治の歴史に絡めて、政治参加への重要性を語りました。

  

女性だけの政党誕生(1982年)

 

カトリン・ヤコブスドッティル首相

ジェンダー平等を達成するためには、しばしば根本的な対策が必要ですね。アイスランドでは同一賃金を義務付ける法案、育児休暇を延長し「使うか失うか」という法制度の導入、さらに保育園の建設を優先的に行うこと、みな政治の決断によってジェンダー平等のための政策がすすめられてきました。しかし、これは女性が政治に参加するようになるまで実現しなかったことです。

私が6~7歳だった1980年代前半、アイスランドの政治情勢は大きく変わりました。1982年に女性だけの政党ができるまでは、他の政党は、こうした問題に優先的に取り組んでいなかったのです。女性だけの政党を作るという革命的なアイデアによって、アイスランドの政治や政府の変化が始まりました。そして、政治が市民の価値観にも大きな影響を与えました。例えば、アイスランドの男性への調査では、多くの人が男女共に育児休暇を取ることに非常に前向きだという結果が出ています。女性だけでなく、男性もジェンダー平等な社会に前向きなのです。

 

保里

首相には、ジェンダー平等にとどまらない、もっと大きな目標があると聞いています。どのような社会を目指しているのか、教えて下さい。

 

カトリン・ヤコブスドッティル首相

“Wellbeing economy”――「幸福経済」と呼ばれる考えですね。経済的な成功だけでは、社会の成功は測れない、社会や環境についても考慮しなくてはならないということです。経済成長が達成できても、人々が不幸であれば、社会は成功したと言えるでしょうか。私たちの答えは「ノー」です。私たちは、社会、環境、経済すべての分野での「幸福指標」も開発してきました。その社会的な要因の一部に、男女間のさらなる平等だけでなく、人口全体の平等もあります。労働時間を短縮して、私生活と仕事のバランスをとることもあります。社会の成功を測る上では、こうした包括的なビジョンが重要なのです。

 

理想の未来を目指して

 

保里

アイスランドでは、子どもたちが幼い頃から政治に大きな関心を寄せていると聞きました。子どもたち、若者たちの声を大切にしていることが、将来作りたい社会につながっているのでしょうか。

 

アイスランドで行われる「子ども選挙」

 

カトリン・ヤコブスドッティル首相

すべての年齢層、さまざまなグループが政治に積極的に参加することは、どんな社会にとっても非常に重要なことだと思います。わが国では非常に高い選挙投票率を誇っています。それは、私たちが健全な民主主義社会に住んでいるという、とても良いサインです。私たちは、子どもたちが声を上げられるように、政府の政策決定に影響を与えることができるように、その能力を高めようとしてきました。

アイスランドの子ども議会と呼ばれる特別な場で、全国から集まった多くの子どもたちが政治家と面会し、発言したりしています。彼らは、気候変動問題や学校の教育システムなど、自分たちの社会が抱える課題を明確に考えています。アイスランドの子供たちは、政治への意識がとても高いのです。

 

保里

アイスランドの将来を考えた時に、もっと進歩させたいこと、解決したいことはありますか。

 

 

カトリン・ヤコブスドッティル首相

アイスランドはジェンダー平等ではうまくいっていますが、まだ理想には届いていません。政府の優先事項のひとつは、いかにしてジェンダーに基づく暴力を根絶するかということです。この問題については、各国でも取り組まれていますが、ここ数年、アイスランドで多くの議論が交わされています。

 

保里

最後に、新年を迎える日本の人たちにメッセージをお願いします。

 

カトリン・ヤコブスドッティル首相

私はまだ日本に行ったことがないので、いつか行ってみたいですね。アイスランドがしてきたことが他の国の参考になればうれしいですし、アイスランドも他国の人々から多くを学ぶべきことがたくさんあります。私たちが目指しているのは、多様性がありながら、平等である社会です。これは難しいことかもしれませんが、より良い社会を手に入れるため、何より大事な挑戦なのです。

 

保里

いつか、首相に日本でお会いできることをとても楽しみにしています!お待ちしております。本当にありがとうございました。

 

カトリン・ヤコブスドッティル首相

ありがとうございました。SAYONARA!さようなら。

 

ジェンダー平等をはじめ、多様な人の意見と力をあわせることで豊かさを生み出していくという、首相が目指す社会のありようや、彼女自身の信念を強く感じさせられました。

今回、私たちは、カトリン・ヤコブスドッティル首相を大学時代から知る友人、ハウクル・イングバルソンさんに話を聞くことができました。  

 

“見て見ぬ振りができない”学生時代から変わらない人柄

 

ハウクル・イングバルソンさん

 カトリンは昔からよく笑うとても明るい人で、会うと元気になれるような人でした。カトリンと私たちは、よく集まり、文学や政治のことを語り合いました。

彼女は、今も昔もとても面倒見のいい人です。誰かがつらい経験をしたときや、病気になったとき、まず一番に電話をかけるのがカトリンでした。つらい経験をした本人は話す勇気を持てないことも多いですし、まわりにいる人は声をかけることを躊躇してしまうことが少なくないですが、カトリンは迷いなく駆け寄ることができる人でした。それは今でもかわりません。本当に“放っておくこと”ができないんだと思います。

“emotional intelligence(感情知能)”という言葉がありますが、彼女は頭がいいだけでなく、感情知能が高い人なんだと思います。周りの人がどんな気持ちなのか理解することができ、そして、みんなの意見や気持ちを尊重することができる人でした。

学生時代から、彼女は、「答えはひとつではない」ということを常に強調していました。そして、ものごとを様々な角度からみて、他の人の意見を聞くのが好きでした。彼女は、政治の世界でも同じアプローチをとっていると思います。

  

“争わずに巻き込む”新たなリーダーシップ

 

ハウクル・イングバルソンさん

政治家になってからも交流を続けていますが、カトリンの強みは、「交渉すること」だと思います。問題があると、彼女は人と話をして解決策を見出し、交渉を重ねて結論を出していく人なんです。人と争って勝とうとしたり、強さを誇示したりすることはありません。カトリンは元来とても賢いので、自分の有能さをアピールして人々を強くリードしていくこともできると思いますが、そうはしません。こうした彼女の特性を政治家としての“弱さ”と見る人もいますが、そうではないと思います。

教育科学文化相(2009~2013)を務めていた頃も、すべての子どもたちの問題を「自分ひとりで解決することはできない」ということをいつも意識し、たくさんの人たちを巻き込んで、様々な協力を得て解決に動いていました。政界でも高く評価されるのは、このときの彼女のやり方、彼女のもとに人々が解決策を持ち寄るありようをほかの政治家たちも見ていたからだと思います。彼女は自分の声や意見を強く持っていますが、それはほかの人たちも同じであることを常に想像しています。だからこそ、国民も彼女が何をしようとしているのか、そのビジョンが知りたくなるのではないかと思います。

 


ひとりひとりの人をしっかりと見つめ、その声を聞き、現代の社会に向き合っていく。その姿勢を体現する女性リーダーの言葉に、自分も番組を伝えるキャスターとしてそうありたいと、強く感じたインタビューでした。

格差や分断が深刻化し、パンデミックも終わらないまま迎えた2022年。

クロ現プラスは報道を通して「課題解決」へのヒントを探り続けます。

 

クロ現プラス新春インタビュー 1月4日放送 見逃し配信はこちら

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