第7波による感染急拡大が続くなか、医療機関では今、何が起きているのかー。
聖マリアンナ医科大学病院の新型コロナ重症者病棟の「今」をお伝えするシリーズ記事。
第6波の感染も下火になった7月上旬、病院はコロナの入院患者もゼロとなり、コロナ以外の救急患者を治療するICUに戻っていました。それが7日にコロナの新規入院患者が入院するや否や、一気に患者が急増。20日現在でコロナの重症患者を受け入れるための病床11床のうち9床が、他に受け入れ先のない中等症や軽症の患者ですでに埋まっていました。熱中症やコロナ疑似症の患者も病院にどっと押し寄せるようになり、病院内は緊張感が高まっています。こうしたなか、同病院救命救急センター長の藤谷茂樹医師に話を聞きました。
(報道局 社会番組部 チーフディレクター 松井大倫)
「第7波」襲来・多くの病棟でマンパワー不足が
(聖マリアンナ医科大学病院 川崎市)
おととし4月から長期取材を続けている聖マリアンナ医科大学病院救命救急センター(川崎市)。藤谷医師によると、現在入院患者の8割以上を占めているのが、70歳代以上の高齢者。第6波の時のような高齢者の重症患者はまだいないものの、「施設でのクラスターで管理ができない」といった社会的入院や、その他の基礎疾患に加えて軽微な症状のコロナ感染が合併しているといった軽症・中等症患者がほとんどを占めています。
爆発的に増える患者に対して医療スタッフ、特に看護師の増員も今後、考えなければいけないと藤谷医師はいいます。
聖マリアンナ医科大学病院救命救急センター長 藤谷茂樹さん:
「現在、新型コロナは軽症・中等症の患者がほとんどで重症者はいませんが、じきにICUいっぱいに重症者があふれる事態に直面するのではないかと危惧しています。重症者が増えるとスタッフは、フルPPE(防護具)といって、マスク、フェイスシールド、ガウン、キャップといった装備で、飲水もままならない状態での勤務が続くことになります。スタッフの精神的、肉体的な苦痛をいかに和らげるか、医療ひっ迫を招いたデルタ株の感染拡大の時と同じ悩みがのしかかってきています」
今回のオミクロンの変異株「BA.5」。症状が通常のかぜ症状と似ていて、発熱、のどの痛み、せき、鼻水といった症状の患者が多いことが特徴です。
感染力が従来のオミクロン株よりも高く、ワクチンや感染による免疫をかいくぐる「免疫逃避性」があることが、爆発的な患者増につながっていると見られています。
藤谷茂樹さん:
「救急外来には発熱、鼻汁、咽頭痛などの風邪症状や、PCR検査についての問い合わせがひっきりなしに来て、一時、電話はパンク状態になりました。
(私たちの病院の他の)コロナ診療に携わってくれている施設が、かなりの軽症・中等症の患者を引き受けてくれていますが、多くの施設で院内での職員が感染、もしくは濃厚接触となって自宅療養をしており、マンパワー不足が深刻化しています」
藤谷茂樹さん:
「ワクチンの4回目接種が60歳以上の高齢者や基礎疾患を持った方、医療従事者に行われることになりますが、現在のコロナ患者の激増に対して、この接種の効果はすぐにはあらわれないと思われます。各医療機関で、医療従事者の就業制限、コロナの新規入院患者の増加などがあり、接種に数か月はかかる可能性があります。
4回目のワクチン接種に関してのエビデンスは、60歳代以上であれば効果があるといわれていますが、医療従事者で効果があるかどうか、今後の調査が待たれるところです。
ワクチン接種をしたとしても、感染率を軽減することはできるかもしれませんが、罹患をしないということにはなりません。現に3回のワクチン接種をした医療従事者でもコロナ感染をしている事例が多く、医療従事者の就業制限は大きな問題となっています」
「経済活動には、医療体制の構築が不可欠」
感染が急拡大する中、政府は社会経済活動を回すために、現時点では行動制限は行わない方針です。また、濃厚接触者に求める自宅などでの待機期間を、原則7日間から5日間に短縮することを決めました。
藤谷医師は現場の医師の立場で、経済活動を回していくためには、「コロナ診療に関わる医療体制の構築」が不可欠だと話します。
藤谷茂樹さん:
「現在までに日本において、全人口の延べ10%がコロナに罹患(りかん)をしています。そして、毎日20万人近くの新規陽性患者に加え、検査ができていない人も多くいることを考慮すると、集団免疫の概念も浮上してくるころです。海外で患者数が爆発的に増加した後に減少に転じたところは、ワクチンと集団免疫との効果が相まって、減少しているものと予測されます。
国が社会経済活動を活性化して『ウィズコロナ』を掲げているということであれば、いかに国民に対するコロナによる害を最小限にするかということ、つまり医療体制に帰着します。
今までコロナ診療に関与してこなかった施設が、積極的に関与をしてくれるようになったことは喜ばしいことですが、未だに消極的な施設も多くあるのが現状です。クリニックなどの外来で発熱患者が混じることは、脅威であることは想像に難くないですが、現在病院は24時間コロナ患者の検査などで、ひっ迫している状況です。24時間の検査対応ができる施設の設置など、検査試薬の確保、人員の選択と集中を行い、救急医療がひっ迫することはぜひ回避していただければ、とお願いをしたいです」
救急医療を崩壊させないために
藤谷さんの勤める高度医療センターでは、重症患者がほぼいない状況であれば軽症・中等症の患者の入院を引き受けています。しかし、今後も常に「コロナ診療以外」の救急患者も受け入れる必要があるため、地域の救急医療が崩壊しないよう、医療体制の構築を図っています。
藤谷茂樹さん:
「救命病棟以外の新たな病棟に『コロナ病棟』を立ち上げました。救急病棟は、コロナ重症患者専用の隔離された数床の確保を除き、非コロナ患者以外の受け入れをする体制に、7月25日から変更をします。
今まで、コロナ患者は病棟単位で『ゾーニング』と言って、入り口から、“yellow zone”(PPE装着・着替えなど)から“red zone” (コロナ患者が入院をしている部屋)に入るという流れになっていましたが、今後はより簡略化します。“yellow zone”がなくなり、病室(4人部屋)ごとにコロナ患者が入室をして、病室の入り口でPPEの装着を行い、病室で脱衣を行うという流れになります。患者の無駄な滞留をなくすのが狙いです。
おそらく今後、コロナ入院患者が多くなれば、救急の“たらい回し”はかなり高い確率で起こってきます。いまでも4~5時間たらい回しでようやく病院にたどり着いたという患者さんもいます。
いかに医療を崩壊させないか、社会活動を維持していくかということを同時に考えていく必要がありますが、そのために医療体制が維持できるかが重要な分岐点になります」
取材後記「特効薬がない今、私たちは~インタビューを終えて~」
主にコロナ重症者病棟の取材を続けて2年半が経とうとしています。
この間、多くの患者と退院後も取材を続けてきました。コロナは脱したものの1年以上も後遺症に悩み続けている方も少なくありません。高齢者だけでなく働き盛りの人や、若年層も苦しんでいます。1日におよそ20万人もの人々が感染する事態になった今、重症化しなくとも後遺症に悩む方が万単位で現れることも予想されます。
行動制限が出されていないとはいえ、今一度、基本的な感染対策をして、律していかないといけないと思います。
関連番組:クローズアップ現代 「徹底検証・新型コロナ第7波」