”サービスエリア×地域” の象徴 「刈谷ハイウェイオアシス」の歴史

NHK
2022年9月6日 午後5:02 公開

地域経済の救世主として、いま期待を集めているサービスエリア。

2005年の道路公団民営化にともない、民間業者が運営するようになったサービスエリアが収益を上げるために打ち出したのが各地の“地域性”でした。「そこにしかない」という特別感を出したことで、「経由地」だったサービスエリアは「目的地」となり、その経済効果は年間およそ5,300億円(2019年度)にものぼります。

なかでも成功例といわれている「刈谷ハイウェイオアシス」は、施設全体で毎年数十億円を売り上げています。その成功の背景にあるのは、“サービスエリアと地域の結びつき”。今回は、その「刈谷ハイウェイオアシス」が地域の“核”となるまでの歴史をご紹介します。

(クローズアップ現代取材班)

 サービスエリアが地域の将来を救う!?

全国に900カ所以上あるサービスエリア。その年間売上げは、5,297億円にものぼります(2019年度時点)。その背景にあるのが、2005年に行われた道路公団民営化です。

民営化する以前は、「日本道路公団」という国の全額出資によって設立された特殊法人が高速道路の管理を行っていました。しかし、国に対する負債が積み重なり、その額が38兆円にものぼると、収益をあげて返済スピードを速めるために、高速道路は2005年に民営化されることとなりました。

公団が管理していたときには、ほぼ均一的なサービスが提供されていたサービスエリアですが、民営化されたことで収益を出さなければいけない状態となりました。そこで、各地のサービスエリアが打ち立てた戦略のひとつが“質の向上”。さらに、人を呼び込むために、各サービスエリアは差別化を図ろうと取り組みます。そのなかで、各地のサービスエリアが追求していったのが、施設が所在する土地の”地域性“でした。

地域の特産物が並ぶ店内

<地域の特産物が並ぶ店内>

地域性を前面に打ち出したことで、大成功を収めたサービスエリア。民営化直後は4,000億円ほどだった年間売上げは、2019年度には1,300億円以上伸び、およそ5,300億円にのぼっています。まさに、サービスエリアは地域経済の救世主のような存在となっているのです。

サービスエリアの理想形「刈谷ハイウェイオアシス」

なかでも、地域との結びつきが強く、理想形とされているサービスエリア・パーキングエリアがあります。愛知県豊田市と三重県四日市市を結ぶ伊勢湾岸道路上にある「刈谷ハイウェイオアシス」です。

特産の果物や魚介類を安く買える産直市場や、名物の「えびせん」をお買い得に買える店など地域の特産品を販売しているのはもちろん、屋外には観覧車やメリーゴーラウンド、ゴーカートも備えた、まさにテーマパークのようなサービスエリアです。

敷地内にある観覧車

敷地内にあるゴーカート

敷地内には温泉もあり、“目的地”として1日過ごせる大型施設となっています。

敷地内にある温泉

特に目を引くのが、総工費4億円と莫大な建設費用がかかった豪華なトイレ。ただ豪華なだけでなく、高速道路の利用者を取り込むための重要な狙いがあるといいます。

施設内の豪華なトイレ

<施設にある豪華なトイレ>

刈谷ハイウェイオアシス担当者 加藤英樹さん:

「このトイレでバスガイドさんを狙うんですね。バスガイドさんに、きれいなトイレだからあそこへ行きましょうってお客さんに言っていただく。それで来ていただいて、バスに乗っている方々がトイレ使った後にえびせんを買います。それを持ってバスに戻ると、『こんなのあったわよ』って宣伝してくれるんです。そうすると、また5~6人降りて買いに来てくれるんですね」

こうした戦略で利用者数を増やしてきた「刈谷ハイウェイオアシス」。開業から5年後の2009年には、東京ディズニーリゾート(3,129万人)・ユニバーサルスタジオジャパン(1,100万人)に続き、テーマパーク年間入場者数は830万人と日本3位になりました。

官民一体で導いた、一線を画すサービスエリアの誕生

「刈谷ハイウェイオアシス」をここまで導くことができた要因の一つとして、官民連携でお互いを補ってきたことが大きいと刈谷市役所公園緑地課の小川正洋さんは言います。

市役所の担当者 小川正洋さん

刈谷市役所公園緑地課 小川正洋さん:

「こちらが平成3年の航空写真。まだハイウェイオアシスがなかったころですね。こちらが令和3年。大きく違うのが、平成3年の時にはまったく高速道路が無い」

平成3年当時の刈谷市航空写真

令和3年の刈谷氏航空写真

<(上)平成3年の刈谷市 (下)令和3年の刈谷市>

もともと高速道路がなかった愛知県刈谷市。1993年に第二東名高速道路の建設計画が立ち上がり、その計画の中で刈谷市にサービスエリア・パーキングエリアが建設されることが決まりました。

しかし、小川さんによると、当初、市側はあまり歓迎ムードではなかったといいます。

小川さん:

「結局、高速道路の利用だけで、刈谷は通過されるだけになってしまうと思っていました」

愛知県の大都市である名古屋市と豊田市の間に位置する刈谷市。他と変わらない従来のようなサービスエリアでは通過点にしかならず、地域への還元は見込めないと考えていました。

他のサービスエリアと差別化を図り、「経由地」ではなく「目的地」となるサービスエリアを作ろうと、刈谷市がまず始めたのがサービスエリアに隣接する土地を公園として整備すること。この一帯が町おこしの起爆剤になることを第一の目標に、整備費用には採算度外視で90億円もかけました。

小川さん:

「公園の部分というのは、市のほうが整備しています。市のほうで整備しているゴーカートなどといった遊具は、無料のものもあれば、有料であっても安く提供しているような形を取っています」

敷地内にある遊具は、安価で誰でも気軽に利用できるように50~100円ほどで提供することにしました。

しかし、市が提供できるサービスには限りがあります。そこで、民間の事業者と連携して、店舗複合施設の建設に取り組みます。飲食できる場所を作りだすことで、公園の利用者が休憩場所として店舗を利用するようになり、そこにお金が落ちるようになります。こうして、利用者のニーズを満たす仕組みを作り出した「刈谷ハイウェイオアシス」は、開業から5年後に国内3位の入場者数を誇るサービスエリアとなったのです。

小川さん:

「公共でできないサービスを民間の方に提供していただいているというところが強みというか、特色ですね。例えば、トイレをデラックスにするとか、飲食を提供するということは公共ではできません。だけど、利用者の方は公園に遊びに来て、のどが渇いたからジュースを飲みたい、なにか食べたいといったニーズに答えられるのが強みかと思います」

<敷地内の公園で遊ぶ家族連れ>

地域の“核”に サービスエリアの恩恵を地域に還元

他に類を見ないサービスエリアで町のシンボルともなった「刈谷ハイウェイオアシス」。サービスエリアが地域の魅力を発信する拠点ともなっています。

小川さん:

「高速で通られる方が『刈谷市ってハイウェイオアシスがあるところだよね』っていう、地域のひとつの魅力として刈谷市を知っていただくとともに、こんなにいいところがあるんだよっていうことを発信できているのかなと思っています」

また、「刈谷ハイウェイオアシス」は高速道路からだけでなく、一般道から車やバスでもアクセスできるようになっています。それぞれの利用者数は、だいたい半分ずつぐらいになっていますが、公園の利用者には地元の人々が多く見られるといいます。

一般道からの入り口

<一般道からの入り口>

地域のお客さんも気軽に利用できるようにしたことで、「刈谷ハイウェイオアシス」は地域の“核”のような存在となっています。また、ここで働くおよそ900人の従業員は地元住民となっており、雇用を生み出し、サービスエリアの恩恵は地域へと還元されています。

小川さん:

「地域の活性化につながるような、刈谷市の地域の拠点となるような施設として、効果を発揮できればと思っていましたので、地元の方に多く来ていただくというのは当初の狙い通りなのかなと思っています。

小さな頃から楽しい思い出を刈谷で感じていただくことで、大人になっても刈谷市に対して非常にいい思い出を持ってもらう、いいイメージを持ってもらうということは大切かなと思っています」

幅広い世代に愛されるサービスエリアを目指して

サービスエリアの効果もあってか、人口も増加傾向にあるという刈谷市。地域の“核”となる理想のサービスエリアを目指して、「刈谷ハイウェイオアシス」では今後もさらなる整備を予定しています。

小川さん:

「現在のハイウェイオアシスは、まだ未整備の区域があります。未整備の部分も含めて、公園の魅力を向上していく必要があると考えています。

少し年齢層が低いお子さま向けの遊具が多いという意見をいただいているので、まだ構想段階ですが、少し年齢層の高い人も楽しめるように、ジップラインのようなアクティブな遊具や温泉を生かしてグランピングのような施設を整備していいのではと考えています」

地域活性化を担う存在となった「刈谷ハイウェイオアシス」。全国から高速道路を利用して訪れる人だけでなく、地域の幅広い世代の人にも愛されるための成長が続いています。

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