午後1時ごろ:「船首が浸水し、沈みかかっている。エンジンが使えない」
午後2時ごろ:「船が30度ほど傾いている」
この連絡を最後に消息を絶った、北海道・知床半島の観光船。乗客・乗員26人が乗っていましたが、これまでに救助された11人全員の死亡が確認されました。(25日16時時点)
船はどのような状況だったのか。船舶事故に詳しい、神戸大学大学院・海事科学研究科の若林伸和教授に分析してもらいました。(「クローズアップ現代」取材班)
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“船が30度傾いた”状態とは
(船舶事故に詳しい神戸大学・若林伸和教授)
Q. 船はどんな状況だったと考えられる?
神戸大学・若林教授:
あくまで手がかりを元に想像するだけですが、最初の通報で「船首が浸水している」という言い方をしているので、だんだん船首が下がっていく感じだったんじゃないかなと思います。その状態で浸水していき、どんどん沈んでいく形になると思います。
Q. 徐々に浸水がすすんだ?
(船長は)通報したよりもだいぶ前の段階で、前方が沈んでいるのを感じていたと思います。30度も傾くと、通常に動いていたエンジンでも止まってしまう可能性があります。
これは結果論ですが、かなり陸岸に近いところにいたようですので、エンジンがまだ動いている間にわざと陸に上がるように座礁していれば、沈むことは避けられた、助かったことも考えられます。
Q. 船が30度傾いた状態とは?
船長も含めてみなさんイスに座っていたと思うんですが、30度傾くと、座っているのもかなり難しくなります。滑り台を滑るような感じで、手を離したらそのまま前に落ちる感じになると思います。通常では起きない傾きです。
もう少し大きい500トンぐらいの練習船を操船しているときでも、計器の前にあるイスに座っていると、イスごとこけて、転げ落ちることになると思います。
Q. お年寄りや小さなお子さんも乗っていたが?
最近は、海の上で船に乗る経験は少なくなっていますので、普段は経験しないようなシビアな状況です。子どもさんも含めて、とても怖い思いをされたことだと思います。
船の運航管理はどうなっていたのか
Q. 船長に対して同業者は、出港を見合わせるように伝えたというが?
神戸大学・若林教授:
当日の波の高さが3メートルと言われているが、この船体だと上から波が降ってくるように見えるはずです。これはお客さんより乗組員が恐怖を感じる。この状況で運航するのは通常ありえない判断だと思います。
Q. 観光船のコースを見ると、岸に接近して運航することもあるようだが?
通常は陸岸に近づくほど水深が浅くなる。あの辺りは急峻な地形なので、岩礁や岩場もかなりあると思います。船に乗っているときに見えるのは水面から上の景色だけで、海底がどうなっているかわかりません。危険なところには近寄らないのが基本です。
遊覧船のお客さんへのサービスというのはわかりますが、当然安全な運航をとらなくてはいけません。
Q. 船の運航管理体制については?
通常であれば、出航するかどうかを判断する「運行管理責任者」がいるはずです。経験を積んだ人が、海や船の状況を総合して判断します。そういう人が適切に置かれていたかどうかかなり気になります。
また船の運行基準(運航する際の気象条件などを定めたもの)をつくって、運輸局に提出する必要があります。(今回の観光船の場合は)1メートルの波ぐらいが限界かなという気がします。
そして緊急時の避難誘導に関しても、乗組員が十分な研修なりを受けていたかどうかという問題もあります。そのあたりも含めて運行管理体制がどれだけしっかりされていたか、大変気になります。
Q. このあとの大型連休で、旅行先で船に乗る人も多いと思うが?
お客さんの側からすると、まさかそんな事故が起こると思って乗る人はいないと思いますから、気をつけるのは難しいと思います。これは運行側の責任で細心の注意を払って、これ以上ないくらい、安全を考えた運行をしてもらいたいと思います。