新型コロナウイルスの感染拡大によって、自由に行くことが難しくなった旅行。今年は、ようやく行動制限のない夏休みになりそうと、ひさびさの旅行を心待ちにしていた人も多いかと思います。しかし、7月に入って急速に拡大した「第7波」が、私たち旅行者と同じように動き出そうとしていた観光地にも大きな打撃を与えています。感染防止と観光は両立できるのか?感染防止を心がけながら、いま観光地のために出来ることを、航空・旅行アナリストの鳥海高太朗さんにお聞きしました。
(クローズアップ現代取材班)
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観光地に大きなダメージを与えた新型コロナウイルス第7波
急速に感染拡大が進む新型コロナウイルス「第7波」。今年は3年ぶりに行動制限のない夏になると万全の準備に臨み、再起を図りたいと意気込んでいた観光地では、突然の事態急変に戸惑いが広がっています。
7月14日には、政府が新型コロナウイルスの感染拡大を受け、7月に開始を予定していた観光需要の喚起策「全国旅行支援」の延期を発表。“行動制限のない夏”と“全国旅行支援”を頼みの綱に、コロナ前と同等もしくはコロナ前以上の売り上げを見込んでいた観光地は再び窮地に追い込まれる状況となりました。
今回の感染拡大や全国旅行支援延期の影響について、航空・旅行アナリストの鳥海高太朗さんは観光業界にとってかなりの痛手になるのではと分析しています。
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<鳥海高太朗さん>
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鳥海高太朗さん:
観光業界全体で、この夏休みは非常に期待していました。少なくてもコロナ前の9割、もしくはコロナ前以上に売り上げが伸びると期待していましたが、今回の感染拡大で当初の予定の2~3割減になる見込みです。コロナ前の売り上げの6~7割あたりになりそうということですね。
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長引くコロナ禍 苦境にあえぐ観光業
長引くコロナ禍とそれに伴う行動制限で、特に観光業界は厳しい状況に置かれてきました。
東京商工リサーチが今年4月に実施した全国旅行業業績調査によると、2021年(1-12月)の旅行事業者の売上高はコロナ前の2019年(同期)から73.8%減少しています。
他の業界と比べても宿泊業界の落ち込みは激しく、資金繰りの深刻な実態が明らかになってきています。中小企業がどのくらいの負債を抱えているかを調査したデータによると、他業種はコロナ前と比べても微増程度に収まっていますが、宿泊業は会社の資産に比べ14.7倍の負債を抱えていることが分かります。コロナ前の3倍以上に負債が膨れあがっているというのです。
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観光業界で特に深刻な問題が、平日と休日の需要の差だと鳥海さんは指摘します。
鳥海さん:
外国人と高齢者が旅行しないようになってから、いま非常に平日と休日の格差が大きくなっています。今回の全国旅行支援では、そこを解消するために平日のほうがクーポンを手厚くするという政策に転換しました。しかし、延期したことによって、夏休み中も含めて平日の落ち込みを解消することが難しくなりました。
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コロナ禍で大きなダメージを受けてきた観光地。再起に向けて動き出そうとしていた矢先の今回の感染拡大と観光需要喚起策の延期は、観光地にさらなる打撃を与えています。負債がこのまま膨らめば倒産する事業者数も増え、地域経済の損失だけでなく私たち旅行者が訪れる旅行先も失われてしまう可能性があります。
今、私たちひとりひとりが感染防止を心がけながら、瀬戸際に立たされた観光地を支えるために出来ることは何かあるのでしょうか。
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観光地を支える旅行 休日ではなく平日に訪れる
鳥海さんが、私たち旅行者がいま出来ることとして挙げるのが、密を避けて平日に旅行をすることです。
鳥海さん:
平日に旅行をすることで、宿泊施設側の収入が増えます。徐々に旅行客が戻りつつあるいま、土日は人が必要だけど平日はいらないという状況が生まれています。こうなってしまうと、安定して働くのが難しいので、雇用するのも難しく人手不足がなかなか解消できません。旅行客が平日に訪れるようになれば、平日に仕事が生まれるので働く人を増やすことが出来る可能性があります。
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観光地では、コロナ禍で落ち込んだ売り上げを回復させるため、人を増やして旅行客の大幅な受け入れに転じたい一方で、平日と休日の仕事量の差から安定した雇用を生み出すのが難しいという声が上がっています。今年春以降からは感染拡大も落ち着き、客足が徐々に戻りつつある中、人が足りないという理由から、新規予約を断る宿泊施設もあるといいます。
観光地を持続的に支えるには、安定した雇用で経営を立ちゆかせていくことが大切です。そのためにも、混み合う休日を避けて平日に観光地を訪れることで、観光地の経済、さらにはその地域の雇用を支えていくことが出来るといいます。
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観光地を支える旅行 都市部で“接触しない”癒しを楽しむ
今回の新型コロナウイルス第7波では、これまでに比べてキャンセル増加の傾向は低いものの、リゾート地よりも都市部や市街地など繁華街にある宿泊施設のほうが影響を受けているといいます。
鳥海さん:
今回の第7波を受けては、密にならない沖縄のリゾートホテルなんかは相変わらず入ってるけども、同じ沖縄でも那覇の国際通りにあるようなビジネスホテルとか、そういう繁華街に近いところのホテルはかなり空いているかなっていうところはありますね。
こうした中、都市部にある宿泊施設などを支えるのに考えられるのが、設備が充実したホテルでの“おこもり”を楽しむといった旅行方法です。
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鳥海さん:
コロナによって外出が難しくなった中、テレワークによって家も職場になってしまい、リラックスできる場所ではなくなってきましたよね。いつもと雰囲気を変えるという意味でも、ホテルはリラックス出来る場所になりますし、なによりもテレワークが進んだことで、ホテルのWi-Fi環境は非常によくなってきています。ホテルに滞在して、快適なネット環境で動画サービスを楽しむという過ごし方もあってもいいと思います。
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いまだからこそ出来る旅行 “今だけ”の穴場へ
観光地を支える旅行の仕方を教えてくれた一方で、鳥海さんは私たち旅行者がいまだからこそ味わえる、この夏に出来る旅行についても教えてくれました。
鳥海さん:
もうそろそろ秋以降に外国人旅行客が戻ってくることを考えると、コロナ前に外国人が多かった旅行先がいまの狙い目かもしれませんね。以前は外国人観光客が多かったことで高かった宿泊費も、いまは少し抑えられているので手が届くようになったりしています。
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新型コロナウイルスによって入国制限が行われ、海外から来る外国人観光客は急激に減少しました。インバウンド需要の高かった観光地には痛手となりましたが、国内旅行客にとっては観光客の減少による観光のしやすさ、需要減による宿泊費の価格低下などといったメリットも生まれているといいます。
入国制限が徐々に緩和されつつあり、秋頃には外国人観光客が戻ってくることが見込まれています。海外から日本を訪れる観光客の数が回復する前のこの夏の間に、外国人観光客に人気のある観光地へと少しお得に一足早く訪れる旅行をしてもいいかもしれません。
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観光地を支えることが私たちの旅行も支える
長引くコロナ禍で大きなダメージを受け、窮地に立たされてきた観光地。その観光地を支えるために私たちが行動を起こすことは、私たち旅行者自身のこれまでとこれからの旅行を守ることにも繋がります。
行動制限により旅行客が大幅に減少し、厳しい資金繰りを強いられている観光地。なかでも旅館やホテルといった宿泊業界は過剰な債務を抱え、倒産の一歩手前に迫っている企業も多くあるといいます。
観光地を支えてきた企業がなくなることは、私たちが旅行で訪れる観光地を失うことにも繋がります。いまのコロナ危機を乗り越えるためだけでなく、新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着いた後も継続的に旅行を楽しめるようにするためにも、いま観光地を支えることが必要とされています。
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クローズアップ現代 2022年8月2日放送