「円安の今はチャンス」日本企業へ ジョセフ・クラフトさんの提言

NHK
2022年7月27日 午後4:33 公開

ここ20年、なかなか賃金が上がらない日本。そこに歴史的な円安も加わり、「安い国」日本へ、海外の企業が投資する動きが広がっています。

海外企業の狙いとは?そして、日本企業がいま取り組むべきことは?

経済アナリストのジョセフ・クラフトさんに聞きます。

(クローズアップ現代取材班)

関連番組:クローズアップ現代「バーゲン・ジャパン 世界に買われる“安い日本”②労働力」

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ジョセフ・クラフトさん

経済アナリスト。世界的な証券会社や投資銀行でマネージャーを歴任。現在はソニーなど日本企業の社外取締役も務める。日本の人材について高く評価しつつ、問題はそれを率いる経営陣にあると指摘する。


 

日本への投資の理由は「リスクコントロール」

経済アナリスト ジョセフ・クラフトさん:

「海外から日本への投資が進む理由として、日本の労働力の価格が相対的に低下してきていることもありますが、労働において重要なのはやはり『質』です。日本人は勤勉でルールを守る。質の高い労働力を安価で獲得できることが、海外企業にとってはメリットなのは間違いありません。

加えて、『日本は法に基づいた社会で、治安が良い』ということも投資先として考える上で大切な視点です。

いま求められる経営は『コストコントロール型』から『リスクコントロール型』へと変わっています。以前は、最もコストが安いところに一極集中して生産することが一般的でしたが、その集中した拠点で事業が阻まれると大きな打撃になります。地政学的なリスクや災害のリスクなどを分散するために、近年は複数の拠点で製造をすることが重視され、その拠点のひとつとして、『安定』が期待できる日本が選ばれているのです」

 

 

円安がいつまでも続くとは限らない

クラフトさん:

「歴史的な円安と言っても、為替は常に変わっていきます。今は1ドル140円近くても、来年には1ドル80円になっている可能性もゼロではないわけです。経営者から見れば、その時々の為替で長期の事業体系、サプライチェーンを決めるのは非常にリスクです。為替の要因以上に、日本に投資する理由としては、安定した事業環境が期待できるという要因が大きいのだと思います」

 

(日本人の勤勉な仕事を求め大阪にマスク工場を作った中国企業)

 

日本に感じる魅力と伸びしろ

クラフトさん:

「総合的に見ると、10年前20年前と比べ海外企業から見た日本は魅力的になっていると思います。近年は消費者の志向も安さだけでなく、安心安全、人権や倫理、環境への配慮、など求めるものは増えています。『メードインジャパン』であれば、高い品質に加え、こうした要素に配慮した生産ができると期待されているのです。

もともと『メードインジャパン』の質の高さは折り紙付きですが、これまでは価格が高かった。しかしいまは、比較的安価になったことで、さらに魅力が増加したというわけです」

 

(アパレル企業ではメードインジャパンの強みを生かすために工場の国内回帰の動きも)

 

日本企業は「インバウンドM&A」で買われる時代に

クラフトさん:

「日本のデフレ経営の弊害ですが、まだ日本には競争にさらされず非効率な経営をしている、いわゆる『ゾンビ企業』は多いと言われています。海外の投資家は、これほどの円安の状況であれば、非効率な企業を買収して効率的な経営に変えることで、さらに競争できるとチャンスだと考えるでしょう。『いい技術がありながら生かしていない。質の高い労働者に大したことをさせていない。自分たちなら、さらに価値を上げられる』と。

こうした、海外から日本企業への、『インバウンドM&A』が大きく増えていくと思います。今までは、日本の企業が海外の企業を買収して、さらなる成長路線を見出していく、『アウトバウンドM&A』が主流でしたが、これまでと逆の動きですね。

これは、必ずしも悪いことではありません。非効率な企業を効率よくしてくれるなら、消費者にとっても企業にとっても労働者にとっても株主にとってもプラスですから。国内の経営者が効率的な経営をできないのであれば、海外の経営者にやってもらうしかない。一時的にでも海外から経営者たちをかき回してもらって、日本経済に危機感が生まれてほしいと思います」

 

円安はチャンスだと捉えるべき

クラフトさん:

「『安い日本』のまま進化しなければ、為替が変わって円高になったら淘汰(とうた)されるだけです。内向き志向の人は、『円安で海外から企業が買われてしまう』と、今の円安をマイナス面で考えがちです。しかし、為替というのはプラス、マイナスの両面が必ずありますから、今こそプラス面を追求していくべきです。円安ですから、海外に飛び出して商品を売って、自分たちのブランドを確立する、

これまで海外進出してこなかった企業にとっては、今の円安は一時的かもしれないけれど、海外に飛び出すチャンスでもあるわけです。それが10年後20年後につながるかもしれない。この円安は日本企業にとって、めったにないチャンスですよ。

日本企業は今変わらないといけない。むしろ、今がチャンスだと思います」

 


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