【性加害問題】“実態を知ってほしい” ジャニーズ事務所 元所属タレントたちの声

NHK
2023年5月17日 午後7:06 公開

3月、イギリスBBCが、ジャニーズ事務所の元所属タレントが、亡くなったジャニー喜多川氏から性被害を受けていたという番組を発信。その後、被害を訴える声が相次いでいます。

なぜ、この問題を報じてこなかったのか。私たちの取材でもこうした声を複数いただきました。海外メディアによる報道がきっかけで波紋が広がっていることを、私たちは重く受け止めています。

私たちは、元所属タレントや事務所の元スタッフなど、100人を超える関係者に取材を申し込み、被害を受けたという複数の元所属タレントから話を聞くことができました。

(「クローズアップ現代」取材班)


 

※この記事には、性被害に関する具体的な証言が含まれます。あらかじめご留意ください。記事の最後には、男性が性被害に遭ったときの相談窓口をまとめた記事へのリンクも掲載しています。

 

「心と体が別々になった・・・」

「自分が出ることで、これから証言してもいいという人が増えるんじゃないか」

取材を受けてくれた理由をこう語ったのは、元所属タレントの二本樹 顕理(にほんぎ・あきまさ)さん(39)です。

芸能界にあこがれ、中学1年生のときジャニーズ事務所に応募した二本樹さん。デビュー前のジュニアとして、日々ダンスなどのレッスンを受けていました。

入所から3か月ほどたったある日、ジャニー喜多川氏から東京・赤坂の高級ホテルに泊まるよう促されたといいます。

 

二本樹 顕理さん

 

二本樹さん:

「夜になったら『消灯時間だ』『ユーたち、もう寝なよ』みたいな、そういう感じの流れになってきますね。寝入るころぐらいになってジャニーさんがベッドの中に入ってきまして、最初は肩をマッサージしたり、体全体を触られるような感じで、足とかをもまれたりする感じですね。そこからだんだんパンツの中に手を入れられて性器を触られるようになったりして、そこから性被害につながっていくような流れです。

そのあとは手で触られたり、そこからオーラルセックスをされました。あとは勃起した性器とかを体にこすりつけられるなど、そういったことがありました」

 

――どのような心理状況で受け止めていたんですか。

「性経験とかまだなかったので、まずすごく困惑するというか、自分の身に起こっていることがよく理解できない部分と、あと体が硬直してしまって、どうリアクションを取ったらいいか分からないという感じで。最後までもう私がやっていたことといえば、どちらかというと寝たふりですかね。

本当にセルフイメージというか、自分の中が崩れ去っていくような感じで。心と体が別々になるっていうのかな、自分の体に何か起こったことは理解できるけど心がそれについていかないというか。そうした状況だったと思います。

翌日、それで1万円渡されました。『自分ってこれだけの価値のものなのかな』という、そのお金で買い取られたというか、売春みたいだなとも思いましたし、自分の価値をお金で決められたみたいなところはありましたね」

 

 

「仕事がなくなってしまうんじゃないか」

それ以降、ドラマへの出演や雑誌の撮影など、仕事が増えていったと感じた二本樹さん。“合宿所”と呼ばれるジャニー喜多川氏の自宅に頻繁に誘われるようになり、10回から15回ほど被害を受けたといいます。

 

――誰にも相談はできなかったんですよね。

「(ジャニー喜多川氏は)絶対的な存在なんですよね、事務所の中で。『仕事がなくなってしまうんじゃないか』『ここで断ってしまうと事務所にいれなくなるんじゃないか』とか、やっぱり思っていましたね。

自分は純粋に夢を追いかけたくて入所したのに、こういう形でしかのし上がっていけなかったり認めてもらえなかったり、もしかしたらそれが全てではないのかもしれないですけど、そのことに対してはすごくショックでしたね。で、そういう世界に身を置いてる自分もすぐ嫌になってしまいました」

 

 

二本樹さんは2年ほどで事務所を退所しました。その後も、当時の記憶に苦しめられてきたといいます。

 

二本樹さん:

「かなりトラウマが残りましたね。当時のジャニーさんと同じぐらいの年齢の男性を見るとすごく拒絶反応が起こるというか、普通に接することができなくなる状態がしばらく続きました。例えば仕事に就いて、上司の人が50代、60代ぐらいの方だったりすると、妙な恐怖感がその人に対してわいて、もう普通に接することができなくなる。

あるとき、食事をしていたら食事中にその当時の様子とかをちょっと思い出したことがあって、フラッシュバック的に食事を吐きそうになりました。私にとってはそれぐらいインパクトのある衝撃的な体験でした」

 

 

性被害は仲間内の“公然の秘密だった”

今回、私たちの取材に対し6人が実際に被害を受けたと告白しました。

その1人、50代の林さん(仮名)は、1980年代後半に事務所に出入りしていました。仲間内で性被害は“公然の秘密だった”といいます。

 

林さん(仮名・BBCの番組にも出演)

 

林さん(仮名):

「『ユー、お風呂入っちゃいなよ』と言ってお風呂に案内されて。上着を脱がされて、ズボンに手が掛かったときに『自分で脱げます』って言ったんですけど、それから無言でそのままズボンを下ろされました。そのまま全部脱がされて、風呂に入って全身を洗われて。

やっぱり『自分は汚いもんだ』って・・・そういう思いがすごくありましたね」

 

 

――周りのジュニアとはどんなふうに話していましたか。

「『きのう来た?』とか『うわ、かわいそう』みたいな。まあ半分、なんですかね、男の子ですし、強がりもあったと思いますけど、だから最初のときは僕も落ち込みましたけど、『来た?来た?』みたいな、そんなノリでしたね」

  

  

元少年たちがいま思うこと

被害を訴えた元少年たち。どんな思いを抱えながら、その後の人生を歩んできたのでしょうか。

 

二本樹 顕理さん:

「声を上げた被害者の方たちの姿も見てきて、でも結局もみ消されてしまっているような印象だったので、仮に声を上げたとしてもどこにも届かないんじゃないかと。

城壁に向かって小石を投げるようなもんなんじゃないかとか、まったくその無駄な努力にしかならなくて消されてしまうんじゃないかとか。それに対してやっぱり声を上げる自信とか、抵抗できる自信がなかったですね」

 

林さん(仮名):

「人とは違う人間になっちゃったんだなみたいなというのがいちばん・・・はい。うん。親にも相談できることじゃないですし、すればよかったのかもしれませんが、学校にも友達にも言えないし。こういう被害をなくすためには、一度大きな問題になったほうがいいと思います」

  

 

今回、複数の方が苦しい胸の内を語ってくださいました。私たちはこれからも問題に向き合っていきたいと思います。

  

 

男性の性被害 全国の相談窓口

性別や年齢を問わず、望まない性的な行為はすべて性暴力です。

しかし性被害に遭った男性から多く聞かれるのが、「恥ずかしくて誰にも言えなかった」「相談してもむだだと思った」「どこに(誰に)相談してよいのか分からなかった」「男性の性被害を誰も信じないだろうと思った」といった声です。

性暴力の被害に遭った人たちが安心して相談し、適切な支援を受けられるように、すべての都道府県に「性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター」が設置されています。男性の性被害への対応状況について、こちらの記事にまとめました。

 

 

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