旧統一教会 “養子縁組”の2世 ~私は何のために生まれてきたのか~

NHK
2022年11月15日 午後6:30 公開

世界平和統一家庭連合=旧統一教会をめぐりこれまでクローズアップ現代が報じてきた数々の問題。「高額献金」、「宗教2世の人権」…。現在、国会で被害者の救済法案の議論が進んでいます。

さらに、いま教団内部から取材班に寄せられた情報から、“新たな問題”が浮上しました。信者の子どもの「養子縁組」のについてです。子どもを授かった家庭から授からなかった 家庭に積極的に養子をだすことを、教団が奨励しているのではないか。

取材班は実際の「養子に出された宗教2世」当事者に面会。長時間のインタビューで、「教義の道具として生まれてきたのではないか」と、自らの存在意義について悩み苦しんできた体験を語りました。

  

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◆当事者の方の声をお寄せください


  

なぜ自分だけが養子に…?2世の葛藤

 

取材に応じてくれた、元信者のようじよさん(仮名・20代女性)。今も信者の母親、そして脱会した父親と同居しています。物心ついたときから、夫婦関係は険悪、いまでは彼女を通してしか両親は意思の疎通を図ろうとしないといいます。近い将来、家を出たいと考えているようじよさん。しかし経済的な事情から1人暮らしの部屋を借りることができないといいます。

彼女が同居している「両親」は“育ての親”で、“生みの親”は他にいます。

ようじよさんは、生後まもなく旧統一教会の信者だった実の両親から、別の信者家庭に養子に出されたのです。自分が養子であることを知ったのは4歳の時でした。

育ての両親の写真 抱かれているのがようじよさん

 

ようじよさん:

「子どもの好奇心で、『わたしってどうやって生まれたの?』みたいな話をしたときに『あなたは、よそのお家から来たのよ』という感じでさらっと言われました。のちにわかったのは、私以外にも3人、本来はきょうだいがいて、なぜかわたしだけ実の本当の家族から離れてひとりだけよそのお家に出されたということ。なんでわたしだけが養子に出されなきゃいけなかったんだろう、と自分なりに考えたときに、『わたしの何かが悪くて捨てられたんだな』と感じました」

 

わたしは教義の道具として生まれてきたのではないか

 

日本の法律では未成年の養子縁組は、子の利益を重んじなければならないとしています。

しかし、教団の教えを書いた本には「子女のいない家庭に(子を)分かち与えることは神様の願いに応えること」、「家庭連合の養子縁組は一般で行われている養子縁組とは違い神様の心情を中心としてなされるもの」と記載されていました。

さらに教団では、自らの子を養子にだした信者を表彰するなどして、養子縁組を促しています。ようじよさんは、年齢を重ねるにつれ、教団の教義の道具として生まれてきたのではないかと、自分の存在意義について悩み苦しむようになりました。

 

ようじよさん:

「モノです、本当に。教義をなし得るために利用されたモノ。とにかく旧統一教会の中では子どもをたくさん作りなさい、子どもがたくさん出来たら子どもの出来ない他の夫婦のもとに養子にだすように言われる。子どもを幸せにするために子どもをつくるのではなく、親たち、ひいては教団を幸せにするために子どもをつくるので、利用されているというふうにしか思えない。わたしは一体、誰なんだろう、何者なんだろう、何のために生きているのか…。どんどんどんどんわからなくなっていきました」

 

自分の存在意義が見いだせなくなったようじよさんは、3年前に自ら命を絶とうとしたといいます。その後、搬送された病院で、養母からかけられた言葉が、さらに彼女を追い込みました。

  

ようじよさん:

「第一声で、『自殺したら地獄に行っちゃうんだよ』って言われたんです。教団では自殺すると、その自殺した本人、家族が地獄に落ちると言われている。『ああ、こういう状況でもそういうことを言えちゃうんだな』と洗脳の恐ろしさを感じました。形だけ教義をなし得た“家族ごっこ”というか、本当に中身のない家族みたいな関係。もうその状況がわたしのなかでは生き地獄でした」

 

専門家が見る問題点

  

2014年に発行された教団のハンドブックによると、養子縁組について「両家で合意がなされたら、 必ず家庭教育局に報告が必要」とするなど、組織的に管理するルールを信者に定めています。また、教会の元職員によると、教会本部の「家庭部」という組織が中心となり、各地域の教会家庭部を通して養子縁組の申請を募り、本部が「マッチング」を行っていたといいます。

専門家は、旧統一教会の行いは、都道府県知事の許可が必要な、 養子縁組の「あっせん業」を無許可で行っている、法律違反の疑いがあると指摘します。

早稲田大学法学学術院・棚村政行教授(国の養子制度に関する研究会の委員):

「今回の問題は、児童福祉法や、民法、養子縁組斡旋法に触れる可能性が出ていますので、行政に実態調査をぜひして頂きたいと思います。

一般的に、宗教団体が慈善目的や宗教活動の一環として、子どもの福祉のために、「あっせん業」の許可を取って適法で行うことに問題はありません。ただし、旧統一教会の今回の行為は、信者の中だけで、子どもが多い家庭から子どもがいない家庭に、という風に子どもを移動させること。形式的には子どもの利益について言っているかもしれませんが、『子どもがいないと完全な家庭ではない。愛が完成しない』と、かなり大人の目線、組織の目線であっせんが行われてしまっているのではないか。ここが非常に大きな問題であると感じています

信者の中で教義を第一に養子縁組を行うとすると、無理に子どもを養子に出さなければならないという圧力が生まれるのではないか。子どもにとって養子縁組が必要なのかという中立公正に判断ができず、利益相反が生じるのではないか。信者同士、理想の家族のあり方を実現するために、信者同士のバーターのような行為は、子どもの福祉から言って違うのではないでしょうか」

 

教会側の主張は

旧統一教会は、NHKの取材に対して回答し、1981年に誕生した子女が養子縁組された最初の記録であり、これまでに745人の養子縁組が行われたとしています。

その上で、次のように述べました。

 

▼今回の取材で、互いに面識のない信者家庭が教会を介してマッチングされ、養子縁組が行われたケースが複数確認されました。弁護士は「養子縁組のあっせん業にあたる行為が行われている」と指摘します。教会は「民間あっせん機関による養子縁組のあっせんに係る児童の保護等に関する法律」に基づき、事業所の所在地を管轄する都道府県知事の許可を受けていますか。

 

 【回答】

「当法人で行われている養子縁組制度は、民間あっせん機関による養子縁組とは性質を異にするものであり、養子縁組を取り持つ教会が金銭的報酬を受け取ることは一切ありません(以上の理由から民間あっせん機関等の認可は受けていません)」

「尚、最近20年間においては、教会が関わる養子縁組制度から養子縁組を希望する家庭間で執り行われる養子縁組制度へと移行しております」

  

▼養子縁組について「使命と責任がある」と教えられていること、妊娠前に養子の約束を交わすこと(養子縁組みすることを前提にした妊娠)が推奨されていることなどについて、弁護士や元裁判官など複数の専門家が、「親の信仰のための養子であり、子どもの福祉のためではなく、宗教の道具にされている」として、未成年養子縁組制度、特別養子縁組制度の趣旨に反する疑いがあると指摘しています。また、「子どもの権利条約 第7条」および「児童福祉法」にも反する疑いがあるとの指摘があります。教会の見解をお答えください。

養子として他家に出された複数の2世当事者が、自らの出自を知り、「自分は宗教の道具として生まれてきた」と、人権が侵された苦しみを訴えています。教会としてどのように受け止めますか。

  

 【回答】

「当法人の信者間で行われる養子縁組は、養子を捧げる家庭と養子を受け入れる家庭同士が密接に交流しながら、養子となる二世の幸せを願って進められるものであり、『親の信仰のための養子』といったご指摘は事実に反します。ましてや、子どもに恵まれない家庭において、『子どもを持ちたい』と願うのは、宗教を信じる・信じないとは全く無関係であると考えます。にもかかわらず、一般にも、法律的にも認められ、行われている養子縁組について、当法人の信者が養子縁組をした場合に限っては、養子が『宗教の道具』であるかのようにみなすご質問は、それ自体が差別であり、極めて不当であり、貴局の当該番組の編成方針自体が、偏向し、差別を助長する許されざる報道であると考えます。仮に、そのように考える二世信者(養子)が存在するとしても、それをもって全体が同様であるかのような報道をされるとすれば、当法人の信者間の養子縁組で誕生した全ての子どもたちが世間から『宗教の道具』とみなされることにつながり、それこそ深刻な人権侵害を招く恐れがあります。このような、偏向・差別報道は絶対にやめて頂きたいと思います」

 

厚生労働省の見解は

養子縁組制度を所管する厚生労働省は、取材に対して次のように回答しました。

 

「養子縁組のあっせんとは、親や子どもの間をとりもって、養子縁組の成立が円滑に行われるように第三者として世話をすることで、報酬を伴うのかどうかに関わらず、一定の目的をもって反復継続的に『業』として行う場合は、都道府県の許可を受ける必要があると定められています」

  

「助けて」と言えない 2世を救えるのか

実の両親から別の信者家庭に養子に出された、ようじよさんは、子どもの幸せよりも教団の教義が優先される養子縁組を、これ以上続けてほしくないと訴えています。

  

ようじよさん:

「養子縁組制度自体は本当にすばらしい制度だと思います。ただ、宗教の教えを成し遂げるためだけに養子縁組制度を利用するのは間違っていると思いますし、養子縁組制度の理にかなり反しているので、私たち2世の代で、こうした不幸は終わらせて欲しいです」

現在議論されている、旧統一教会の「被害者の救済」について、ようじよさんは淡い期待を寄せている一方で、自分たち「宗教2世」については難しい面もあるのではないか、と法案の議論の行方を見守っているといいます。

 

ようじよさん:

「たぶん、2世の子は人に頼ることが出来ないタイプがすごく多いと思います。何か困った時に『助けて』と言えない人がほとんどじゃないかな。だからそうさせない環境、世の中になってくれたら理想的ですが…。実際にそういう受け皿の場が出来るのは、いつのことだろう…。正直、今はわかりません。本当に、2世の救済を具体的に行うのは、思っているより難しいと思います」

 

取材後記

養子縁組制度は、子どもの福祉のために必要な制度です。旧統一教会の中でも、養子縁組の結果、幸せな人生を送っているという声もあります。この問題は、いま国会で議論されている法案の被害の規定には当てはまらないかもしれませんが、まずは実態調査が求められるのではないでしょうか。

ようじよさんは私たちの取材に対して答える際、「自分の経験を話すことで、同じ思いをする人がでないようにしたい」と語気を強めた姿が印象的でした。そして、「十数年前に脱会したとはいえ、旧統一教会というタグが自分にずっとつきまとい引っかかっているような一生を過ごしていたかもしれない」とも語ります。

ようじよさんのように、“埋もれている被害者”はまだまだいるのではないか。

本当の意味で彼ら彼女らが自分の人生を生きる日がくることを願ってやみません。


◆旧統一教会による養子縁組の実態 当事者の方の声をお寄せください

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