企業や研究機関の発明を保護し、独占的に利用できるようにする特許。国内の登録数約166万件中、その半数が利用されておらず「埋もれた特許」となっています。
その活用を目指すため、いま注目が集まっているのが「開放特許」と呼ばれる特許です。
大企業が利用しない特許を比較的安い契約料で使うことができ、ポストコロナの業績アップを目指す中小企業を中心に、次々とヒット商品が生まれています。
発明がきっかけで生まれた意外な商品の数々とは、一体。
(クローズアップ現代 「発明の底力」取材班)
こんなところにも見直された発明が!?
シュー皮のサクサク感が特徴のシュークリーム。作られたあと数時間たっても、その食感が保たれることを売りにしています。
この商品、皮に大手食品メーカーが開発した技術(特許4381194号)が使われています。
卵の殻を細かく砕いた粉が皮の部分に含まれていて、それによりクリームからの水分の侵入が防がれ、サクサクの食感が長持ちするそうです。
「特許」を比喩的に説明するならば、発明などのアイデアを金庫に入れて守ることをいいます。ほかの人はこれを使おうと思っても、交渉や多額の契約料が必要になるのが一般的です。
(特許とは、いわば発明などのアイデアを金庫に入れて守ること)
ところが、国内で登録された166万件ほどの特許のうち、約半数が大企業が目指す数十億円の市場規模に合わないなどの理由で利用されていないのが現状です。
そこでその金庫の扉を開けて、比較的安い契約料で中小企業に使ってもらおうというのが「開放特許」です。
中小企業側はもちろん、大企業側もメリットがあります。得た契約料を特許の維持費(1件あたり年間数千円~数万円程度、企業によっては累積で億単位)にあてることができ、社会貢献にもなってイメージアップにつながります。
(富澤正さん)
特許の活用に詳しい 弁理士・富澤正さん 「『特許の技術が優れていないから使われない』というわけではありません。あくまで市場規模が合わなかったから眠ってしまっただけです。技術として優れているものを(中小企業が)有効活用して商品開発することで、いままでにない製品ができるのが魅力だと思っています」
(森永卓朗さん)
経済アナリスト・森永卓朗さん 「中小企業はニッチなニーズやどんどん変化するニーズに対応するのが得意で、特許を使って新しい商品・事業分野を立ち上げられる。一方、大企業にとっては眠っている特許ですから、それを中小企業に提供することによって契約料が入ってきます。ウイン・ウインの関係になっています」
ポストコロナの“救世主”!?
こうした埋もれた特許を使った商品開発はいま、中小企業の経営の起爆剤として注目されています。
例えばこちらの扇子は、持ち手の金属のところに抗菌に関する特許が使われています。
もともとは、1996年に起きた病原性大腸菌「O-157」による集団食中毒で、抗菌剤に対する注目が高まったことから大手製鋼所が開発した技術(特許4068879号)。しかし、メッキの製造ラインの設備投資や人件費を入れるとコスト高になり、製品への採用は見送られました。
その技術を開放特許として、京都の中小メーカーがおととし利用。新型コロナのまん延でイベントなどがなくなり業績が落ち込む中、感染対策として功を奏し、商品の販売開始でその年の売り上げを前年の1.5倍に押し上げました。
同じ技術は、大阪の包丁製造会社によるこちらの包丁の刃にも使われています。水回りでのバクテリアの活動が抑制されるということです。
さらにこの包丁には、持ち手の部分に別の大手IT企業の開放特許の技術も使われています。元は自社製パソコンのキーボードやマウスなど周辺機器のために開発された、紫外線が当たると菌が分解される技術(特許3928596号)。コストなどとの兼ね合いから、採用が見送られていました。
包丁を洗って乾かしている間に、太陽光や蛍光灯の紫外線と反応して持ち手の抗菌ができるという仕組みです。同シリーズは約3万本を売り上げるヒット商品になったとのこと。
ほかにもこちら、ノロウイルスの働きを失わせるハンドソープです。
使われた技術は、大手食品メーカーの開発特許(特許6799904号)。この食品メーカーは、卵製品を多く扱う会社で、卵白中のたんぱく質「リゾチーム」を加熱変性させることで抗ウイルス成分ができる仕組みを発見しました。これが、ハンドソープに利用されることになりました。
データベースで分かるアイデアの結晶
こうした「開放特許」の数々は、インターネットで誰でも簡単に調べることができます。
「開放特許情報データベース」 (※NHKサイトを離れます)※別タブで開きます
こちらは約2万3千件の特許がデータベース化されているサイトで、特許庁の外郭団体が運営しています。
大手IT企業の開放特許である芳香発散技術(特許5595698号)が使われた、こちらの虫よけベルトについて調べてみました。
(「特許情報プラットフォーム」芳香発散技術(特許5595698号)の図面から引用)
サイトでは、こうした特許のアイデアの内実が、詳細な図と文章により詳しく説明されています。
この技術、もともとは2009年に携帯電話に内蔵する目的で開発されました(図・左)。
腕時計型の形状をした本体にセラミックチップが内蔵されており、そこに虫が嫌がるアロマオイルなどを入れると香りが発散する仕組みとなっていて(図・中央)、取り外して簡単に洗うことができることも説明されています(図・右)。
ただし、こうした技術の詳細をしっかり読み解くためには、弁理士など知的財産に関する専門家の力が必要になります。
マッチング事業で新たな活路を
宝の山ともいえるこうした開放特許ですが、一方で、現実に商品化にこぎ着けられるのは「1000件に2件」とも言われるほど厳しい道のりでもあります。
そんななか、行政と地元の信用金庫などが一緒になって中小企業を支援し、開放特許のマッチングを行う事業も登場しています。特に川崎市は積極的で、これまで30件あまりの製品化に結びつけました。「川崎モデル」と呼ばれ全国に広がり始めています。
(福岡県 大牟田柳川信用金庫のマッチング事業)
こちらは、福岡県の大牟田市と地元の信用金庫が開いたマッチングイベントの様子です。特許の内容について企業担当者が説明し、興味をもった参加者がいれば、つないでマッチングさせます。
また信用金庫では顧客を訪問して、企業の課題を解決できるような「開放特許」を直接提案します。
(QRコードなしで動画が流れる技術)
福岡県柳川市にある住宅資材を扱う会社に提案したのが、印刷物に特別な加工をし、専用のアプリで読み取ると、QRコードがなくても動画が流れる技術(特許第4260781号ほか)。
この会社では、関連団体で障がい者を積極的に雇ってきましたが、高齢化が進んだことで、木材を運ぶ代わりの事業を増やしたいと考えていました。
マッチングの理由は、新たな設備投資が一切いらないこと。特別な加工は別の企業が担い、パソコンとプリンターがあれば製作できるため導入しました。
担当者 「最初から信用金庫のアイデアがある程度できあがっていますので、そこにワンアクセントを入れることでオリジナル商品になって商品化が早いです。決してものおじすることなく取り組んでいただけたらなと思います」
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