BTSの“次”を日本から生み出す ~HYBE JAPAN代表 独占インタビュー~

NHK
2022年8月31日 午後5:09 公開

圧倒的なパフォーマンスで世界を席巻する韓国発の「BTS」をはじめ、「SEVENTEEN」「TOMORROW X TOGETHER」など、世界で活躍する数々のアーティストを擁するレーベルを傘下に置く企業「HYBE(ハイブ)」。

彼らがいま取り組んでいる、一大プロジェクト。

それが、“日本発で世界を目指す” 新たなグループの公開オーディションだ。デビューが決まっているメンバー4名と練習生11名が、今後日本からのデビューを目指すという。

BTSで大成功した彼らがなぜ、いま日本発のアーティストなのか―

今回、NHKは新グループの戦略を担うキーパーソンの一人、HYBE JAPANのハン・ヒョンロックCEOに独占インタビューを行った。

「日本から、世界へ」―その戦略を読み解く。

                         (クローズアップ現代 取材班)


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HYBE LABELS JAPANが仕掛けるオーディション「&AUDITION」

BTSを世に送り出したプロデューサー陣が現在進める公開オーディション番組、それが「&AUDITION」。

参加しているのはBTSなどのアーティストにあこがれ、世界を目指す10代から20代の若者たち。

課題となる歌やダンスを完璧にこなせるかどうかが厳しく審査されるオーディション。その様子はインターネットを通じて全世界に配信され、彼らの努力や成長していく姿を見ることができる。

8月下旬、HYBEの日本法人であるHYBE JAPANの本社近くのスタジオで、独占インタビューは行われた。

現れたCEOのハン・ヒョンロックCEOは、優しい笑顔を浮かべながら「どんなことを聞かれるのか緊張しています」と流ちょうな日本語で話した。幼いころの数年間と大学時代を日本で過ごしたのだという。2年前にHYBE JAPANのCEOに就任し、事業を拡大してきた。

最初の質問は、単刀直入に「なぜいま日本に進出するのか」ということ。

ハン・ヒョンロックCEOは、日本が育んできた「ファン文化」に期待を寄せていると語った。

 

ハン・ヒョンロックCEO)

『注目したのは、日本の音楽市場はアメリカに次ぐ2番目の大きさであり、かつ昔からアイドル産業というものに非常に成熟した環境を持っているという点です。

もともとファンとのコミュニケーション、「ファンダム(ファンの集団)」を対象とした事業が産業としても非常に成熟していますし、ファンもコミュニケーションを取る、楽しむという文化自体が非常に浸透しています。

プラスアルファとして新たにK-POPという新しいジャンルのファンたちも非常に多い国です。このような環境の中で、私たちの事業としては、より日本に寄り添った形でファンとコミュニケーションを取りながら、グローバルに活躍できるアーティストを増やしていくことは非常に意味のあることだと判断をしています』

 

他の国には見られない「ファンクラブ」に着目

ハン・ヒョンロックCEOは日本の「ファン文化」について、他の国では見られない明らかな違いがあると指摘した。

それが「ファンクラブ」というシステムだという。

企業が有料(入会金や年会費)で会員を集めて運営費を捻出、ファンは入会することでさまざまな特典を享受できる会員制の仕組み。

一方、韓国ではファンクラブのような集まりは、ファンどうしが無料で立ち上げたコミュニティーから発生することが多い。

この違いを理解したうえで、双方の良さを活かした仕組み作りをしていきたいと語った。

 

ハン・ヒョンロックCEO)

『どちらが正しい、正しくないということではなく、K-POPアーティストのコンテンツの「提供の仕方」と日本のアーティストコンテンツの「提供の仕方」というのが、実は違っている部分がいくつかあります。例えば、私たちのグループのようなK-POPアーティストですと、シーズンに1回、1年間の活動を映像などに収め、商品化するということが定番になっています。K-POPアーティストだからこそ提供できるコンテンツがあります。一方で日本においては、例えば有料コンテンツの内容が多少違ったりもするんですよね。さまざまなジャンルのアーティストが、少しずつお互いのところのいいところを取り入れて、より多くのお客様にいろんなコンテンツを提供しようとしている動きの中で、私たちはそれをよりロジカルに分析をして、両方のファンの方々が、新しいものでもあり、慣れ親しんだものでもあるという形で提供していければなと思っています』

  

強みはテクノロジーを駆使した"ファンとのつながり"

BTSをはじめ海外のファンも多く獲得しているHYBEのアーティストたち。海外のファンとのコミュニケーションをとるための独自の戦略もあった。

HYBEが独自で開発したアプリ「Weverse」(ウィバース)。

アーティストと相互のコミュニケーションができるプラットフォームになっている。

情報発信だけでなく、ここだけで見られる特別な動画が公開されていたり、アーティストが投稿する「きょうは○○に行きました」などの日常の様子にファンがコメントし、時にアーティスト自身が返信してくれることもある。

アプリには自動翻訳機能も搭載されているため、コンテンツは瞬時に翻訳され、世界246以上の国と地域にいるファンとも交流することができるのだ。

 

ハン・ヒョンロックCEO)

『ツイッターやインスタグラムなどは、より広いライトなファンの方々にも認知をしていただくために、非常に有効なSNSだと考えています。一方でWeverseは「よりファンとアーティストの距離を縮める」ということを大切にしています。アーティストとファンがつながり、コミュニケーションをとっていくことで、アーティストをより近く感じてもらえ、親密度も増します』

 

デビュー前から“グローバルなファン”を獲得

実際にいま動いている公開オーディションでも、このアプリは存在感を光らせている。

8月24日に開催されたファンイベント。

1300人が入る会場を埋めたファンだけでなく、自社のアプリを使った同時配信は、リアルタイム視聴数が25万に上っていた。中には海外からのファンも…

HYBEは、デビュー前にも関わらず、公開オーディションに参加しているメンバーについてもこのアプリで情報や本人からのメッセージなどを公開している。

すでにこのアプリ内では、BTSなどを含むアーティストのファンが活動しているため、ユーザーはアプリを使っているうちにオーディションのことを知り、自然とファンがついているというのだ。

その結果、オーディション番組は、日本で放送されたにもかかわらず、アプリを通じて、世界各国のファンたちがメンバーを決める投票にも参加しているという。

日本をベースにしながらも、海外でも愛されるアイドルを育成しようという狙いだ

 

ハン・ヒョンロックCEO)

『デビュー前にファンイベントを企画して、グローバルプラットフォーム(Weverse)を使ってライブ配信をして、投票の前に世界のファンと交流するイベントをすることも、どれもかなり類を見ない試みではあります。デビュー前から(その先を)意識をしてやっています。私たちはより日本のファンに寄り添ったアプローチだったり、日本になじみのある形でビジネス展開をしたりつつも、やはり2歩3歩先ではグローバルな環境を見据えながらアクションを起こしています。日本語で活動しながらもアプリを使って海外へもアプローチできるというのが、(Weverseを活用する)一番ユニークな部分だと思っています』

 

アプリを使って「先を読む」戦略を

さらに、現在のアプリ登録者数をエリア別にみることも大事な戦略だと語る。

現在、オーディションに参加するメンバーをフォローしているファンは、日本のみならず、東南アジア、ヨーロッパ、アメリカ大陸など世界中に分散している。このデータをもとに新たな戦略につなげたいと考えている。

  

ハン・ヒョンロックCEO)

『実際このような数字を見ていくと、日本発だとしても、やはりほかのK-POPのアーティストと同じで、いろんな国や地域のファンの方々が反応してくださる。これは、日本発のグローバルアーティストへの展開に向けたひとつの兆しと言えますし、これからも非常に大切に追っていくような数字だと思っています。

これからこのアーティストがどんどん成長していくにつれて、どの地域にどれぐらいのファンの方々いるのかということを事前に知っていれば、例えばツアーを組んだり、実際にどういうところでどのような活動をしていくかという上でも非常に大事になってきます。実際にその地域にファンがいるというのが分かれば、私たちの対応もアーティストのモチベーションも全てが変わってくるので、非常に大事なデータだと思っています』

 

日本発のアーティストのコンセプトは…「チームワーク」

次なるBTSを日本で生み出そうとしているHYBE LABELS JAPAN。

オーディションに参加するメンバーは、10代~20代のZ世代。彼らはインターネットの発展などを通じて、社会との関わり方やコミュニケーションがこれまでと異なっていると、ハン・ヒョンロックCEOは指摘する。

だからこそ、この時代の変化の中で、改めて「人と人とのつながり」や「チームワーク」をオーディションでも問いかけていきたいと話す。このオーディションでは、個人のパフォーマンスだけでなく、チーム全体としてのバランスも評価されるルールになっているため、練習を助け合ったり、個々の技術向上のみならずチーム全体でのレベルアップに努めたりしているのだ。

ハン・ヒョンロックCEO)

『一般的にオーディションというと、競争というのがキーワードになりがちですが、私たちはその中でも競争ではありながらも共存だったり「チームネス」というのを、今回のオーディションにおける非常に重要なコンセプトとして位置づけています。これは普遍的なものですし、時代においても、やはりチームワークというのはどんどんどんどん大事になってきているんですよね。これは必ずしも、日本だからチームワークを重視しようというような考え方で決めたコンセプトではないですが、やはり日本のカルチャーにおいても、チームワークというのは非常に美しい価値観のひとつとして、日本にいるファンの皆様にも共感していただければなと思っています。そして最終的にできるチームにおいても、5年10年とチームワークをベースとしてつながっていってほしいと、本当に本気で思っています』


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