データの“オープン・シェア化”のメリットは? 青山学院大学・原晋監督インタビュー

NHK
2021年4月14日 午後0:16 公開

企業の間で進む「オープン化」や「シェア」というトレンドが今スポーツ界にも広がりをみせています。実践しているのがメジャーリーグのダルビッシュ投手(サンディエゴ・パドレス)です。変化球の投げ方を自らのツイッターで紹介したり、そこから他の選手が学んで取り入れたりしています。いわば“極意”を惜しげもなく公開することに、どんなメリットがあるのでしょうか。さらに目標達成のために鍛えるべき項目を徹底的に数値化する部活動も現れています。根性論や精神論はもう古い、変わりつつあるスポーツ界で指導者はどんな役割を果たしていけばいいのでしょうか。若者の力を伸ばし箱根駅伝を制してきた青山学院大学・陸上競技部の原晋監督にお話を伺いました。若手の育成に悩む管理職の方、子育てに悩む方々へ、発見満載のインタビューです。

4月14日放送 「ダルビッシュ投手が!青学陸上部が! 能力伸ばす“オープン・シェア革命”」

原 晋さん

1967年広島県三原市生まれ

元営業マンという大学陸上界の監督としては異色の経歴を持つ。2004年に青山学院大学・陸上競技部(長距離ブロック)の監督に就任。当時成績が低迷していた同陸上部を立て直し2015年に箱根駅伝・総合優勝に導く。2019年には同大学の教授に就任。組織マネジメントやリーダーシップ論などが専門。

「オープン・シェア」は業界 そして自らの能力アップにつながる

保里:今ダルビッシュ投手が自身SNSで変化球の投げ方などの技術、データを公開しているんですね。そういった動きを率直にどう見ていますか?

原監督:様々な技術をオープン化させることによって、それを取り入れる選手がいる、イコール業界のレベルがあがるわけです。その結果、野球界の魅力やスリリングさが増してファンからすると、わくわくしますよね。

保里:よりエキサイティングなものになっていく。

原監督:その1番バッターをダルビッシュ投手が手がけているのかなと思いますね。

保里:ただ、そのダルビッシュ投手の取り組みを知った時、手の内を明かしていいのって驚いたのですけど。

原監督:今までは感覚でやっていたものを人に教えるということで、自分の技術力の向上にもなるんです。ノウハウや技術を自分の中でかみくだいて、ある種「論文化」させている。それをきちっと形にしてSNSなどで発信することで、自分の頭脳と技術力を接続させて、さらに磨きがかかると思います。

原監督もいち早く手の内をオープン化した先駆者

(原監督が書籍化した「青トレ」)

2015年に青山学院大学を箱根駅伝で初優勝に導いた原監督。その約半年後に走りを支えるトレーニング手法をまとめ、出版しました。チームでは「青トレ」と呼び、効率よく走るために鍛えるべき体の箇所とその鍛え方を独自に体系化し実践してきた、いわば虎の子のメソッドでした。今から6年前に原監督はスポーツ界でいち早くオープン化していたのです。

保里:青山学院大学で原監督は箱根駅伝で優勝したその年に強化手法を盛り込んだ本をすぐ出されましたよね、それは、どんな思いから?

原監督:私はサラリーマン生活を10年間経て、青山学院の駅伝部の監督になったんですね。一旦陸上界を離れていて戻ったときに、箱根駅伝って素晴らしいのに情報がオープン化されてないよね、オープンにしてもっと情報をお伝えすることによって、より魅力あるコンテンツに間違いなくなると思ったんです。ライバルは駅伝の他大学ではなく、野球界やサッカー界だと思っていたんです。

保里:はっとさせられるのですが、そうはいってもやはり研究されちゃうんじゃないのと、どうしても思ってしまうのですけど。

原監督:いま冷静に振り返ってみると、しれっとオープン化せずにいたほうが、もっと箱根駅伝で勝てたかもしれないなと(笑)。いつのまにか他のチーム強くなってきたなと感じる部分は正直あります。でもこの駅伝の社会的地位や人気度があがってきたというふうに思っているんですね。箱根駅伝をやりたいという子どもがずいぶん増えてきたんです。

また結果として、陸上界で選手たちは輝いて走っていますよね。マラソンや5000メートル、1万メートル、トラック競技で記録がどんどん伸びているんですよ。

保里:陸上界全体が底上げされて、元気になっているという実感がある?

原監督:あります。そして手足が長くて、体つきも良くて、本来はサッカーや野球をやって活躍するような身体能力の高い選手が陸上界に入ってきてくれているんですよ。そして回りまわって青山学院にそういった優秀な人材が入ってきたことは、結果として私がやってきたことは間違いじゃなかったかなと思っているんです。

オープン・シェアによって変わる指導の現場

いま情報のオープン化が部活動など指導の現場でも進んでいます。広島にある私立・武田高校野球部では140キロのボールを投げるために必要とされる筋力や跳躍力などを数値化。目標に対して今の自分の現在地を明確にし精神論や根性論とは一線を画す指導を行っています。またメンバー選抜のためのコーチ陣のミーティングも音声で収録し部員にSNSで共有。意思決定の過程もつまびらかにする風通しの良い組織作りにも取り組んでいます。青山学院大学で若者の能力を引き出し強豪校に育ててきた原監督はこの取り組みをどのように読み解くのでしょうか。

(目標の球速達成のため必要とされる数値を見える化)

保里:武田高校の取り組みについて、率直にどのような感想を持ちましたか?

原監督:感覚やセンスを求めていくんじゃなくて、数値に落とし込んで取り組むことになるので、選手達のモチベーション向上につながるんじゃないでしょうか。自分の成長度合いがわかってきますよね。140キロが出るか否かっていうような目標管理にすると、マルかバツかの世界だと私は思うからです。

保里:数値で選手達を導いていくというのは原監督の指導の方針とも重なりますよね。

原監督:私たちも箱根駅伝が最大の目標ですけれど、そこに出て勝った負けただけではなくて、そこに至る過程を可能な限り数値化していて、実際にその課程で小さな目標をクリアすることが喜びになり大きな目標をクリアすることにつながっています。また数値化することで監督と選手が同じ物差しで会話できることになります。

保里:物差しがあることで、上意下達ではなくて、対等に議論ができる。

原監督:そうです。高校から大学、プロと上位組織に行けば行くほど、選手の自立が必要だと私は思います。そのためには自分自身を分析する能力を身につけていかなくてはいけません。また、引退してビジネスの分野へ進むでしょう。そこでまたその枠組みは利用できるんですよね。スポーツとビジネスは、ある種一緒なんですね。

(武田高校 コーチミーティング)

保里:コーチのミーティングの様子も録音して、選手に共有している取り組みもすごいことだなと思ったのですが。

原監督:スポーツにおける人事評価はやはり選手選考だと思うんですね。そこを見せることで選手は平等に扱われてるんだな、自分が外れる要因は何かな 、といったことがわかるので、指導者と選手の信頼関係が増すと思います。ビジネス界においても人事評価が不透明な会社では、やはり選手のやる気はなかなか出てきません。いつの間にか出世、いつの間にか左遷、そんな組織に発展はないと思うんですね。

保里:こうした時代に指導者に求められる役割はどう変わってきているのでしょうか。

原監督:情報化社会の中で、監督の経験則だけで指導していくのは、もはや時代遅れです。いかにその情報を利用していくか。見える化していくか。そのことが指導者に今、求められてるんじゃないですか。威張り散らす指導に誰も選手はついてきません。

原監督:そして今の若い世代の人たちはいくら厳しく指導しても、それが論理的でまっとうな手法だったら頑張ります。でもそれが理論性もなく、ただ理不尽な指導だったら学生はやりませんよ。

保里:納得できたら、それがどんなに大変でもやるのですか?

原監督:やる。自分でやる。だからより具体的に数値化して、見える化して、頑張らせる、その指標をつくってあげること、枠組みをつくってあげることが僕は大切だと思います。