「この2年コロナが続いて、収入が全くなく、心が折れて売りに出す人が多いんです」
新潟県妙高市・赤倉温泉の物件を扱う不動産会社の男性が見せてくれたのは、「売りに出ている物件」が掲載された地図です。厳しい経営状況で、旅館やペンションを売りに出す経営者が相次ぐ中、複数の物件で進む商談の相手は…。
「外国人ばかりです。買われないよりは買われた方がいい。町にとって最善の策だと思います」
今、日本各地の観光地で、外国人投資家に対して不動産が盛んに売買されています。日本の不動産に投資する魅力とは?「買い手」の不動産業者たちにその理由を聞きました。
(クローズアップ現代 取材班)
関連番組:クローズアップ現代「バーゲン・ジャパン 世界に買われる“安い日本”①不動産」
「これから日本の不動産価値は上がる」
香港にオフィスを構える、不動産会社「ジャパンハナ不動産」。代表取締役のガラス・ウーさんは今、投資家からの依頼でたびたび来日し、箱根や京都などの観光地、都心のタワーマンションなどの不動産売買の商談を進めています。
ジャパンハナ不動産 代表取締役 ガラス・ウーさん:
「私たちの会社では、数億円~100億円以上の資産を扱っています。北海道の高級リゾート地、東京にある一戸建て、大阪では物流の倉庫も買いました。
お客様は、投資ファンドや富裕層の投資家の方、上場企業の創業者一族の方などです。みなさんの目的は投資です。長期保有するか、数年間所有して、価値が上がったら売却して利益を得る。そうしたリクエストに応える物件を扱っています」
ウーさんのような海外の投資会社が日本の観光地の不動産に注目するのは、その価格の安さにあります。世界の不動産価格の推移をみると、この30年で、香港ではおよそ8倍になり、欧米などの国も軒並み上がっていますが、日本は下がっています。
ウーさんの会社では、先月も箱根の旅館を内見し、購入する取引を進めているといいます。金額はおよそ4億円。その金額について、ウーさんは「割安だ」といいます。
ウーさん:
「元々香港の物価が世界的に高いということもありますが、日本の不動産はすごく安いと感じます。数億円という金額だと日本ではホテルが買えますが、香港ではアパートしか買えませんからね。特に最近、円安が進んだことでお客様の問い合わせはさらに増えている状況です」
世界の富裕層から、「バーゲンセール」のように日本が買われている状況。ウーさんは、それはネガティブなことではないと言います。ウーさんが強調するのは、日本は安さだけで投資家の注目を集めているのではなく、世界から見て日本の不動産が、潜在的価値を持つ「成長株」だと見られているということです。
ウーさん:
「私たちから見ると、日本はすごくポテンシャルがあると思います。香港、中国以外でも、アメリカやイギリスなどのファンドと話をしていても、日本はインバウンドで国際化も進んで、成長株だと。コロナで海外に行けない時でも、お客様に一番行きたい国はどこかと聞いたら、みんな日本だと言います。2025年には大阪で万博もありますし、カジノの誘致という話もある。これから不動産価値が上がると見込めるので、今のうちに投資をしておきたいのです」
日本は憧れ 東南アジアからも続々と買い手が
バブル景気に沸いたおよそ35年前、日本は世界の不動産を「買う側」でした。ニューヨークの高層ビルや、ハワイのビーチ沿いのホテルなどを次々と買収。しかしその後の長引く不況、そして円安の加速で、日本は「買われる側」へと変化していきます。
マレーシアで貿易会社を営む、ニコル・タンさんは28歳という若さで 、日本のリゾート開発に30億円規模の投資を行っています。
ニコル・タンさん:
「いまは北海道のニセコに18戸のコンドミニアムを建設しています。1戸の価格は200万ドルから600万ドル。すでにマレーシアの資産家に売れて、シンガポールや香港の顧客も興味を示していますね。
欧米では、コロナ禍で郊外のリゾート地の不動産価格が上がりました。人が多い都会から離れて別荘にするためです。コロナが落ち着いても、不動産価格は落ちることはないでしょう。日本も、入国規制が撤廃されれば不動産価格はリゾート地の不動産価格は、さらに確実に上がるでしょう」
ニコルさんによれば、海外のスキーリゾートに比べて、ニセコの不動産価格はおよそ半分。良質なパウダースノーや温泉などが揃い、海外からの人気が高く投資対象として非常に魅力的だと語ります。その上で、東南アジアの投資家から見た日本の魅力を聞きました。
ニコルさん:
「円安はもちろん投資する上で追い風ですが、それだけではありません。タイやインドネシアのリゾートに投資する選択肢はありますが、東南アジアは年々不動産価格が上がってきています。一方、日本は長年不動産価格が上がらずにきたため、投資の計画が立てやすかったんです。
日本はまだ東南アジアほど安くはありません。でも山や海などの美しい景色、そして大都市に行けばあらゆるものがそろっています。治安もよく、日本人は親切で礼儀正しく、旅行しやすい国なんです。だから私は日本に投資をするんです」
「日本と東南アジアの差は縮まっている」
東南アジアからの投資は、ニコルさんのような超富裕層だけにとどまりません。円安が続く中で、東南アジアの国々からの投資はさらに広がっています。
6年前から外国人向けの物件を扱う不動産会社「日本エイジェント wagaya Japan」。これまではアメリカや中国が主な買い手でしたが、今年に入り、東南アジアや南アジアからの問い合わせが急増していると言います。
日本エイジェント wagaya Japan ゼネラルマネージャー 草薙匡寛さん:
「インドネシア、ベトナム、マレーシア、フィリピン…。それにバングラデシュやスリランカも。これまで経済的に後進国と言われていた国からも問い合わせがあります。
日本が投資対象として手の届く範囲に来ている、他国との差が間違いなく縮まったということだと思います」
この会社には、数億円の高額投資だけでなく、数千万円の不動産への投資に注目する投資家も増えていると言います。
7月中旬、商談を行っていたのは、はじめて日本へ不動産投資をすると言うマレーシア人の主婦(30代)です。都内のマンションやアパートを投資用に購入したいと言います。
マレーシア人主婦:
「夫が日本に赴任しているので日本には行ったことがあります。美しい風景がたくさんあり、とても清潔で滞在していて良いと感じました。今は日本円がとても安いので日本に投資する絶好の機会だと思っています。まずは1千万円で都内近郊のマンションやアパートを探しています。決して高いとは思いません。(コロナが終わって)日本が観光に力を入れれば、不動産の価値は上がると思います」
海外投資が進んだ観光地 その先の課題は
海外から積極的な投資を受ける日本の観光地では、経営難や担い手不足などに陥った宿泊施設に「買い手」が見つかるというメリットの半面、課題も見え始めています。
新潟県妙高市・赤倉温泉は1980年代に発展した温泉地・スノーリゾートとして知られています。バブル崩壊後のスキーブームの終焉(えん)で観光客が激減。一時はインバウンドで盛り返したものの、コロナ禍の業績不振もあり、売りに出される施設が相次いでいます。現在、66ある宿泊施設のうち、少なくとも17の施設は外国人が経営しています。
しかし、地域には外国人に売却されたものの、手つかずで「空き家」状態になっている旅館やホテルも見られるようになりました。コロナ禍で買った外国人オーナーが来日できず、維持管理ができないまま放置されているというのです。今月には、空き家状態になっていた旅館で火災も起きました。
観光協会の会長、中嶋正文さん:
「外国人の方に転売されて以来、空き家状態じゃないかな。住んでいる人がちゃんといらっしゃれば、火事はもっと小さく収まったかもしれないし、通報が早ければ、火事も大きくならなかった」
今月、赤倉温泉観光協会の会長に就任した中嶋正文さんは、地域を再生させるため、赤倉に暮らす外国人経営者やガイドと意見交換を続けています。
中嶋さん:
「外国人の方は赤倉のお客様に喜んでもらうことを非常に考えているから、どういう形で協力してもらえるかしっかりコミュニケーションをとりたい。お客様に喜ばれる地域は一人じゃ作れませんから、外国の方々と一緒になって盛り上げることが大事だと思います」
国籍を問わず、地元に魅力を感じている人と手を携えていく。地域の新たな魅力を生み出すための模索が続いています。
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