スピードスケート女子団体「パシュート」とは?北京オリンピック注目ポイントを解説

NHK
2022年2月2日 午前9:40 公開

2月4日に開幕する北京オリンピック。五輪連覇を目指しているのが女子団体「パシュート」です。どんな種目なのか?そして、北京五輪で注目するポイントは?パシュートをもっと楽しめるポイントを、2人の“プロ”に教えてもらいました。


田畑真紀さん(写真左)

1994年のリレハンメル大会をはじめ、冬季オリンピックに5回出場したスピードスケーター。2006年のトリノ大会では、初めて五輪種目として採用されたパシュートに出場して4位入賞。2010年のバンクーバー大会ではこの種目で初のメダルとなる銀メダルを獲得しました。現在は母校の駒大苫小牧高校・スピードスケート部で監督を務めながら現役を続けています。

 

NHK 近藤健太カメラマン(写真右)

2009年に当時中学3年生の髙木美帆選手を取材したことをきっかけに翌年のバンクーバー大会ではスピードスケートを担当。高木美帆選手は田畑さんとともに臨んだパシュートで、100分の2秒差でドイツに敗れはしましたが銀メダルを獲得。再びオリンピックに挑む日々を記録したい!と考え、以来ずっと取材と撮影を続けています。

 

 

パシュートってどんな種目?

オリンピックで行われるスピードスケートの種目で唯一の団体種目である「パシュート」。3人一組になって、1周400メートルのリンクを女子は6周、男子は8周滑ります。

空気抵抗を大きくうける先頭を入れ替えながらレースを戦うのが通常の作戦で、そのタイミングや回数などの戦術が重要なカギを握ります。

オリンピックでは2006年のトリノ大会で初めて実施されたパシュート。比較的歴史が浅く、今もなお新しい戦術が生まれている、目が離せない種目です。

 

 

Q.日本女子・団体パシュートの強みは?

 

田畑さん:

私がバンクーバー五輪に出場した時は、全員が同じ所属チームではなかったので、パシュートの練習が数回しかできず、五輪開幕前に行われるW杯で技術を高めていったことが多かったです。なるべくロスのない先頭交代をすること、3人とも専門種目は別々だったため、個々の能力とその時のコンディションにあわせて、先頭を引っ張る回数を決めること、ロスなくゴールすることなどを、短い時間の中で検討。本番ではその時のベストで滑ることができましたが、終わってからできていなかったと気づいたことがいくつかありました。

ソチ五輪以降に日本スケート連盟がナショナルチームを結成し、今の日本チームは同じメンバーで年間300日以上一緒に練習をしています。そのため、自然に相手の滑りに合わせられるので、あらゆる課題に取り組みやすく、精度がかなり上がっています。いろいろなパターンを試して、細かいところがどんどん進化しています。

また、髙木姉妹、佐藤選手は1500mが世界のトップレベルにあるということで、パシュートに必要なスピードと持久力を兼ね備えていることが日本チームの強みだと思います。

 

 

選手たちを取材してきた近藤カメラマンも日本の「チームワーク」に注目しています。

 

近藤カメラマン:

4年前のピョンチャン大会の準々決勝は、先頭の髙木美帆選手の好スタートに対して出遅れた後続の選手が「待って!」と声かけし、隊列が乱れそうなピンチをチームで修正して全体2位のタイムで準決勝進出を果たしました。常にともに過ごし、声を掛け合いながら戦う選手たちの強い絆が最大の武器だと思います。

 

 

パシュートの世界で起こっている“大革命”

後ろの選手が前の選手の腰を押し続ける「プッシュ作戦」

 

いま、パシュートの世界に大きな波が押し寄せています。パシュートは先頭を滑る選手が風の抵抗を大きく受け疲弊するため、先頭の選手を何度も入れ替え、負担を分散する作戦が当たり前でした。しかし、その「先頭交代」に頼らず、後ろの選手が前の選手の腰を押し続ける、いわば「プッシュ作戦」という新たな作戦が生まれたのです。

きっかけは2020年2月の国際大会。アメリカ男子チームが一度も先頭を交代しない「プッシュ作戦」を披露し、世界に衝撃を与えたのです。昨シーズン(2020-2021)は女子パシュートでも海外勢が相次いで導入。日本も世界のトップを維持するため、「プッシュ作戦」に挑戦することを決めました。

しかし、前の選手を押すためには選手間の距離を極端に縮めなくてはならず、接触や転倒の恐れが高まります。一方で、接触や転倒を恐れて足下に気を取られると、今度はプッシュすることに集中できなくなってしまいます。そこで日本が独自に編み出したのが、「手つなぎ作戦」です。前の選手の腰のあたりで手をつなぐことで、常にプッシュの力を伝えることができ、さらに足を合わせることに集中できるメリットがあるといいます。

 

日本チームの「手つなぎ作戦」

 

Q.「プッシュ作戦」や「手つなぎ作戦」が戦術として加わったことで五輪のレースはどう変わる?

 

近藤カメラマン:

去年12月に行われたW杯第3戦アメリカ大会で、日本チームだけでなく強豪のオランダやカナダなどの選手・コーチにも取材をしてきました。世界は昨シーズンから「後ろからプッシュすることで体力の消耗の大きい先頭の選手を後続の選手が支える」という新たな発想を効果的に取り入れて、日本との差を詰めようとしてきたことを目の当たりにしました。

さらに、カナダチームはメンバーがいつも一緒に練習しながら話し合いを重ねている様子。戦術だけではなく、日本が強みとしてきたチームワークも磨いてきたことを知りました。

ただ、日本も後れをとることなく「プッシュ」を積極的に取り入れ、よりよい「プッシュ」の形を模索しています。ピョンチャン大会金メダル、そして世界記録ホルダーの地位に甘んじることなく挑み続けることで、日本チームもさらなる進化を遂げています。

  

 

田畑さん:

実は、「プッシュ」自体はパシュートが始まった時から行っています。日本チームは息が合っているので、前の選手の状態を見ながら、その時の感覚で上手に押せると思います。

「手つなぎ」に関しては、相当上手に合わせないと、バランスを崩したり、スピードを殺してしまったり、接触などにより、転倒してしまうリスクがあります。逆に精度が上がると、今まで出したことのない、3人の能力以上の力が出る可能性があるのではと思います。

北京五輪までに、その精度をどのくらい上げることができるか?リスクの大きい手つなぎを使わなくても勝てるのでは?日本チームは果たしてどのようなレースをするのか、楽しみです。

 

 

日本に立ちはだかる強力なライバル

カナダチーム

 

オリンピック連覇を目指す日本ですが、世界のライバルたちも負けてはいません。北京オリンピックの前哨戦となる、去年(2021年)11月から12月のW杯3戦すべてで、1位を獲得したのがカナダです。4年前のピョンチャン大会の時は準決勝で日本に約3秒差をつけられ敗退するなど、それほど強力なチームではありませんでしたが、「プッシュ作戦」を取り入れて、急速に力をつけてきました。

 

Q.日本のライバルとなるのはどこ?

 

近藤カメラマン:

カナダチームも強敵ですが、不気味なのが前回大会でも最大のライバルとして決勝で戦ったオランダです。

五輪4大会で金メダル5個を含む11個のメダルを獲得してきたイレーン・ビュスト、近年そのビュストをしのぐ実力をつけ、次世代のエースへと成長したアントワネット・デ ヨング、そして今シーズン、長距離で異次元の強さをみせるイレーネ・スハウテン。3人全員が個人種目の金メダル有力候補という布陣でレースに臨んだ先月(2022年1月)のヨーロッパ選手権では、4年前に日本が記録したリンクレコードを更新して優勝。

レース後、ビュスト選手がNHKの取材に応じ、「私たちはまだまだ速くなります。オリンピックではオランダが日本とカナダを打ち負かします」と力強く話していました。

 

オランダチーム

 

 

Q. 五輪連覇のカギは?

 

田畑さん:

対戦相手の持ちタイムに合わせて、確実に勝てるタイムで勝ち進むこと

本番ではいつも以上の力が出ることがあるから、状況判断をしながら、体力温存できるところはして、強豪に当たった時に、ベストタイムを狙っていくこと。

一人ひとりが自分の役割を確実に行い、それぞれ持っている力を出し切る滑りが出来れば、金メダルは取れると思います。

 

 

近藤カメラマン:

カギになるのは「4人目」のメンバー・押切美沙紀選手の存在だと思います。

朗らかな性格でメンバーを和ませるムードメーカーとしての顔を持つ押切選手ですが、大事なレースでは持ち前の負けん気でたびたび好レースをみせてきました。2014年のソチ大会以来、日本のパシュート代表を務めてきた押切選手は、前回のピョンチャン大会はけがの影響で、メンバーから外れてしまいました。それでも「5人目」の選手として、大会期間中もチームを支え続けた押切選手。今大会では代表メンバーに返り咲き、決勝までの3レースを戦う中で1レースでも出場して、ほかのメンバーの体力を温存する役割を果たしたい、と話しています。

押切選手も含めた4人、一人ひとりが力を出し切ることが出来れば、日本の連覇が見えてくるはずです。

 

 

日本チームのコーチを務めるヨハン・デ・ヴィット氏は「現時点でまだ、誰がどの役割を果たすのか決まっていません。直前までテストを重ねてベストの戦術を追求します」と話しています。

絶対的エースとして個人種目の金メダル獲得が期待される髙木美帆選手、今シーズンのワールドカップ1500mで自身の記録を大幅に更新し、初めてW杯での表彰台に立った髙木菜那選手と佐藤綾乃選手、そして12月の代表選考会の5000mで国内最高記録を更新した押切美沙紀選手の4人で臨む今大会は4年前よりも個の力が大きく向上しています。

準々決勝、準決勝、決勝の3つのレースをそれぞれ、どの3人で戦い、それぞれがどんな役割をつとめるのか。日本とライバルチームとのタイム差だけでなく、隊列や戦術の違いにも注目です。

 

 

日本 女子団体パシュートのメンバー

左から髙木美帆選手・髙木菜那選手・佐藤綾乃選手・押切美沙紀選手

 

 

髙木美帆(たかぎ・みほ)選手

北海道出身の27歳(1994/5/22生)。持ち前の持久力と氷に力を効率よく伝えるスケーティング技術に優れた世界屈指のオールラウンダー。女子1500メートルで世界記録、1000メートルで日本記録を保持。前回のピョンチャン大会は、1500メートルで銀メダル、1000メートルで銅メダル、女子団体パシュートで、金メダルを獲得。3回目となるオリンピックでは個人種目の金メダル獲得を狙う。姉は、同じくパシュート日本代表の髙木菜那選手。

 

髙木菜那(たかぎ・なな)選手

北海道出身の29歳(1992/7/2生) 。前回、ピョンチャン大会の女子団体パシュートと、女子マススタートの金メダリストで、日本の女子選手として初めて、オリンピックの1つの大会で2つの金メダルを獲得。オリンピックは3大会連続の出場となる。

 

佐藤綾乃(さとう・あやの)選手

北海道出身の25歳(1996/12/10生)。中長距離が専門で、初出場だったピョンチャン大会は、女子3000メートルで8位入賞を果たしたほか、女子団体パシュートのメンバーとして金メダルを獲得。今シーズンはトップスピードとカーブワークが向上し、ワールドカップの1500メートルでは連続で表彰台に上るなど力をつけてきた。

 

押切美沙紀(おしぎり・みさき)選手

北海道出身の29歳(1992/9/29生) 。パワーと持久力を生かした力強い滑りが持ち味。2014年のソチ大会では、女子1500メートルで22位、女子団体パシュートで4位に入った。前回のピョンチャン大会は女子5000メートルに出場し9位。ピョンチャン大会のあとはけがなどの影響で競技から離れていたが、2020年に3シーズンぶりに復帰した。北京大会が3回目のオリンピックとなる。

 

 

女子団体パシュート 日程

 

2月12日(土)女子団体パシュート(準々決勝)

2月15日(火)女子団体パシュート(準決勝・決勝)

 

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