事件の現場となった和歌山県雑賀崎漁港。1台の報道カメラがその一部始終を記録していた。
岸田総理大臣が現場に到着してから、爆発物が投げ込まれ、容疑者の逮捕、そしてパトカーが現場を出るまでの時間はわずか「14分54秒」。この間、現場で何が起きていたのか。映像と収録されていた音声を元にその詳細を伝える。
(クローズアップ現代取材班)
クローズアップ現代 4月17日放送(4月24日まで見逃し配信)
事件の現場となった雑賀崎漁港 切り立った崖に街が築かれている
事件の現場となった和歌山市にある雑賀崎漁港。その景観が世界遺産・イタリアのアマルフィに似ていることから、市が新たな観光名所にしようとしている地区だ。
4月15日土曜日、漁師たちの町として知られる雑賀崎が賑わっていた。港には「岸田文雄 自由民主党総裁、内閣総理大臣。予定では11時20分頃にこちらに到着をいたします」とアナウンスが響く。
NHKで収録されたディスクに記録された時刻では11時17分ごろ、黒塗りの車が港に到着した。降りてきたのは岸田総理大臣。
午前11時17分ごろ 岸田首相の車が到着。
岸田首相 降車(到着から7秒)
聴衆が一斉にスマホで撮影を始める。岸田総理大臣は笑顔で手を振りながら会場に入っていく。
始まったのは、地元でとれた魚介類の試食だった。割り箸が手渡され、用意されていたしょうゆが総理の皿に注がれる。総理はマダイに手を伸ばす。
用意されたマダイ(到着から4分25秒)
笑顔で撮影に応じる(到着から4分41秒)
マダイ、そして名産の足赤エビを試食し、「おいしいです。素晴らしい。やっぱり いきが違いますね」と感想を述べた。
その後、演説の場所に向かうため移動する岸田総理大臣。聴衆もそれに合わせて動き始めた。
その中に、このあと爆発物を投げ込む木村隆二容疑者の姿もカメラのフレームに入ってきた。現地の天気は雨。木村容疑者は左手に傘を持ち、目線を岸田総理大臣の方に向け徐々に前の方に進んでいく。
岸田総理大臣に目線を向け移動する木村隆二容疑者 ※赤丸部分(到着から8分28秒/午前11時26分ごろ)
聴衆と握手を交わす岸田総理大臣(到着から8分47秒)
(到着から9分28秒/午前11時27分ごろ)
演説を前に雑賀崎の町並みに岸田総理大臣が目を向けたその直後。
金属が地面に落ちた音が響く(到着からおよそ9分38秒)
反応する岸田総理大臣(到着からおよそ9分38秒)
地面に金属が落ちた音が響く。その瞬間、警護の警察官が動く。岸田総理大臣もすぐに音に反応し振り返る。
「おい!」という男性の声、同時に「きゃー」という女性の悲鳴。「なにやっとる!」。大きな声に反応しカメラは容疑者の方(画像赤丸部分)に向けられた。
総理大臣が振り向いてから1秒半(到着から9分40秒)
何人かの男性が木村隆二容疑者に向かっていく。
赤いシャツにベストを着た男性は首に手をかけ、後方からから近づいた男性は右手で容疑者のリュックサックをつかみ後ろに引っ張る。そのすぐ近くには赤ちゃんを抱える女性の姿も写っていた。
2人の男性が取り押さえにかかる(到着から9分41秒)
それからおよそ5秒後、警護の警察官とみられる男性も容疑者に接触。地面に倒された。
「きゃー」という悲鳴が途切れない。
容疑者から離れる人がいる一方で、スマホを手に近づく人、そしてカメラを手にした報道関係者とみられる人たちが集まる。容疑者の周辺に人だかりが出来た。
容疑者を囲む大きな人だかり(到着から10分1秒)
「逃げて!」という男性の声。しかし、人だかりはすぐには解けない。「離れてください!離れてください!」。徐々に大きな声で「離れろ!」という声がかかる。
警護の警察官によって報道関係者や聴衆が、ようやく容疑者から離れつつあったその瞬間。
「ドーン」という爆発音が現場に響く(到着から10分30秒)
「ドーン!」。大きな爆発音に反応し、身を縮める人々。カメラのレンズは、先ほどまで岸田総理大臣が立っていた場所に向けられる。そこにはすでに総理大臣の姿はなく、爆発の後の白煙が立ちこめていた。
爆発後の白煙
花火のような火薬のにおいがした。誰かが「爆弾だ!」と叫ぶ声も現場に響いた。「離れてー!離れてー!」。強い口調の男性の叫び声。
(到着から10分39秒)
カメラが再び、容疑者の方に向けられると、爆発の状況に目を向けながら、5人がかりで容疑者を爆発の現場から離そうと引きずるように移動させていく。
容疑者を爆発現場から離す(到着から10分46秒)
持ち上げられ運ばれる容疑者(到着から10分55秒)
岸田総理大臣到着からおよそ11分後。地面にうつ伏せに押さえつけられる容疑者。「もっと離れろー」という大きな声。カメラの近くでは、落ち着いた口調で「もっと離れて。もっと離れてください。もっと離れてください。離れてください」と連呼する声も収録されていた。
うつ伏せに押さえつけられた木村隆二容疑者(到着から11分15秒)
報道陣も現場から離れるよう呼びかけられた
「危ないです」「下がってください」「避難してください」。
報道陣や聴衆に避難を促す呼びかけが続く。現場から距離を取りながら、録画を止めずにカメラは移動する。
現場から避難する人々(到着から12分22秒)
緊張した面持ちで手をつなぎながら現場から離れる女性たちの姿も写っていた。
人々が避難した現場 (到着から12分34秒)
人が避難した建物の奥に、取り押さえられた木村容疑者の姿があった。警察によると、このとき容疑者は抵抗はしていなかったという。
(到着から13分2秒)
警察官は左手で容疑者の背中をたたき何か話しかけているように見えた。
警察のパトカーが容疑者の近くに到着(到着から13分21秒)
(到着から13分55秒)
「現場保存してー」この後の警察による鑑識活動に備えた指示も出される中、容疑者がパトカーに乗せられた。
パトカーに乗せられる木村隆二容疑者(到着から14分17秒)
警察のパトカーが現場を出発 (到着から14分54秒)
岸田総理大臣の車が現場に到着してから、木村隆二容疑者を乗せパトカーが出るまでの雑賀崎漁港「14分54秒」の詳細ドキュメント。
犯行に及んだ動機や、警備体制の検証はこれから行われていく。
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