「大谷語録」からひもとく人間・大谷翔平とは

NHK
2023年7月10日 午後2:51 公開

今年も投打で歴史的な活躍を続ける大谷翔平選手。その現場を取材する記者たちが質問をぶつける「会見」や「囲み取材」で大谷選手が発してきた数々のことばに注目すると、プロ選手が日々しのぎを削る野球の舞台だけでなく、私たちが生きていく上でも参考になる、参考にしたいことばや考え方があふれていた。

(アメリカ総局 スポーツ担当 山本脩太記者)

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「憧れるのはやめましょう」の真意は…

まずは、日本中が歓喜に沸いたWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)から。WBCでの大谷選手のことばであまりにも有名なのが、決勝を前にチームメートに語った「きょう1日だけは、憧れるのはやめましょう」のことば。

出場チーム中で唯一、全選手がメジャーリーガー、スター選手がずらりとそろったアメリカに対して「憧れてしまったら超えられない」ときっぱり言い切った大谷選手。後に映画のタイトルにもなるほど、今大会のWBCを象徴することばになった。実は、その決勝の後、深夜2時すぎに球場からホテルに移動して行われたその日最後の会見で大谷選手はそのことばの真意について説明していた。

「僕らはアメリカの野球にかなりリスペクトを持っているし、すばらしい選手たちのラインナップを見るだけで尊敬のまなざしが弱気な気持ちに変わってしまうが、きょうだけは対等な立場で、必ず勝つんだという気持ちをみんなで出したいと思っていた」

(3月22日 大谷選手、WBC優勝後の記者会見)

夜中の2時すぎ…。優勝の大興奮が覚めやらない中とはいえ、さすがに疲れ切って眠そうな選手、報道陣もいた中で、大谷選手はいつも通りの落ち着いた口調で「憧れるのはやめましょう」の真意を語った。淡々と語られたことばだったが、その中身はめちゃくちゃ熱かった。

人は誰でも、ともすれば腰が引けてしまうような相手と一戦を交えなければいけない状況に置かれることがあるだろう。自分の人生を振り返っても、学生時代に部活動で強豪と対戦した場面、就職活動…。そんなシーンが思い浮かぶが、そういう場面で大谷選手のこのことばはきっと背中を押してくれるはずだ。

先輩として見せた、さりげない同僚への気遣い

(大谷選手とオホッピー選手)

次に紹介したいのは、28歳(当時)の大谷選手が若手選手に見せた気遣いが感じ取れたことばだ。ことし4月12日のナショナルズ戦、7回をヒット1本、無失点に抑えて今シーズン2勝目をあげた試合後の取材。開幕からキャッチャーのレギュラーポジションをつかんでいた2年目の23歳、ローガン・オホッピー選手について聞かれた場面だ。

この中で大谷選手は「これまで経験の少ないキャッチャーと組むことは少なかったが、意識していることは?」と聞かれ、こう答えた。

「経験があるからといって良いキャッチャーと言えば別にそうではないと思う。新しい考え方を持っているキャッチャーもいる中で、彼も彼なりに配球もあるし、いろいろフレーミング(きわどいボールをストライクに見せる捕球技術)だったりとか、構える位置とか、いろいろコミュニケーションをとってやっているので。僕が投げている時は僕からも球種を出しているので、なるべくオフェンスに集中してもらえるように。まずはディフェンス面での(彼の)不安はなるべくなくしたいなと思っている」

(オホッピー選手)

オホッピー選手は、エンジェルス期待の若手選手。2018年にドラフト1巡目(高校生では最高の全体3位)でフィリーズに入団したが、攻守での貢献が求められるキャッチャーという難しいポジションにあってなかなかメジャー昇格のチャンスをつかめなかった。去年、シーズン中のトレードでエンジェルスに移籍し、シーズン終盤の9月に念願のメジャーデビュー。力強いバッティングを買われ、ことし初めて開幕メジャーの座をつかんだ。

このことば、ぜひオホッピー選手の気持ちになって聞いて見て欲しい。メジャーリーグでMVPも受賞しているスター選手が「経験がなくたって気にするな」「まずはオフェンス(自分の打席)に集中しなさい」と背中を押してくれているのだ。これほど力強いエールがあるだろうか。

残念ながらオホッピー選手はこの8日後に肩のケガで離脱し、今シーズン中の復帰は絶望的な状況になった。それでも手術を経てリハビリ中の今も、メジャーのチームに同行して試合中に大谷選手と笑顔でコミュニケーションを取る姿も見られる。つい先日は、選手たちのロッカーが並ぶクラブハウスの中のテレビで「大谷選手のシーズン中のトレードの可能性について」というテーマの番組が突然始まる場面があった。大谷選手も見てはいないが、当然室内にいる。すると、すぐにテレビ画面がオフになった。リモコンを手にしていたのは、他でもないオホッピー選手。大谷選手の目に入らないよう、黙って静かに番組を消したオホッピー選手の気遣いも紹介しておきたい。

自分のやるべき事は…

(大谷選手 6月9日マリナーズ戦)

最後に紹介したいのは、大谷選手が「今シーズンの中でもいちばん悪いんじゃないかなというくらいの出来」と表現した6月9日のマリナーズ戦の試合後に話したことば。この試合の大谷選手は、ピッチャーとしては5回3失点の内容で勝ち負けはつかなかったが、フォアボール5つとデッドボール1つを出すなどコントロールに苦しんだ。

その一方で、バッターでは17号ツーランホームランをはじめ3安打でサイクルヒットに王手をかける活躍を見せ、チームも5連勝を飾った。ピッチングで「全体的に体が動いていなかった」と話す中でバッティングではお構いなしにサイクルヒットに王手をかけるあたりは、いかにも大谷選手らしい試合だったが、試合後の取材でかいま見えたのは、良いときも悪いときも自分がやるべきことにフォーカスする大谷選手の姿勢だった。

「いちばん自分自身がやんなきゃいけないのは、どういう形で投げたいかを、きょう終わって次の登板までにどうしたいかっていうのを、ブルペンなりキャッチボールなりで調整していくということ」

今シーズンの大谷選手は、先発登板する試合と試合の間隔を「中5日」にして投げ続けている。昨シーズン、前半は基本的に「中6日」を守り、シーズン後半から「中5日」にシフトチェンジしたが、ことしはシーズン前にWBCがあったにも関わらず間隔を詰めた。指名打者として毎日試合に出続ける中で当然、ピッチャーとしての調整は限られた時間の中で行わざるを得ない。それでも大谷選手は言い訳を一切しない。彼にとっては、それがずっとやってきた当たり前の作業だからだ。ここ最近は中指の爪が割れ、マメの影響もあってマウンドを降りざるを得ない場面もあるが、そんな状況でも「みんな100パーセントで出ているわけじゃない」とローテーションを空けることはしない。大谷選手のエースとしての自覚や責任感がかいま見えたことばだった。

終わりに

今シーズン大谷選手が、試合直後の報道陣との囲み取材や会見で語ったことばを集めた「大谷語録」。

ことしからNHKのHP内にページを立ち上げてもらったが、取材する自分自身にとっても「この時はなんと話していたかな」などと確認するのに重宝している。読み込んでいて思うことは、私たちがその日の大谷選手の試合内容について聞くことが多い中で、思いがけず「人間・大谷翔平」の考え方に触れる瞬間があるということだ。大谷選手のことばにはいつも一貫性があり、読めばきっとどなたでも私たちが現場で体験していることを追体験して頂けるのではないかと思っている。それは明日の、もしかしたら今日の私たち自身の生き方にも取り入れてみたいエッセンスがあると信じて、これからも記していきたい。

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