「正直不動産」原案 夏原武さんが語る“借金投資”のわな

NHK
2022年5月24日 午後5:32 公開

今、若者など資産を持たない人たちに広がる“借金投資”。

学生ローンや住宅ローンを不正利用して高額の投資につぎこむ”借金投資”のトラブルが続出しています。

漫画「クロサギ」や「正直不動産」の原案者で、詐欺や不動産業界に詳しいライターの夏原武さんが、この問題について語りました。

(クローズアップ現代 取材班)

【関連番組】クローズアップ現代 2022年5月24日放送

トラブル急増!不正ローンで広がる”借金投資”  ※5/31まで見逃し配信

誰もが狙われる”借金投資”の罠

● “借金投資“とは

資産のない人が、借金をすることで高額の投資をしてしまう“借金投資”。業者の提案で、本来は審査が通らないはずのローンを不正に契約してしまうトラブルが急増しています。

業者はまず、若者など生活に不安がある人たちにマッチングアプリなどを通して接近し、将来の資産形成をうたう投資話を持ちかけます。そこで業者は、顧客に投資の元手となるお金を用意させるため、金融機関から不正にローンを引き出す方法を提案します。そして、顧客はその提案通りにローン申請をし、引き出した多額のお金を仮想通貨や不動産などに投資してしまうのです。しかし、これらの投資は、実際には金額に見合った価値はなく、業者はその差額を手にして巨額の利益を得ていると言われているのです。

Q)“借金投資”のトラブルが増えている背景とは?

夏原さん:

僕が一番こういう事件を見てて思うのは、「与信」というもので金を借りられるようになった時代になったことで、ありとあらゆる人が詐欺とか悪徳商法のターゲットになってしまったということですよね。お金がなくてもいいんですよ、借りさせればいいわけだから。一番手っ取り早くて、なおかつターゲットが広い。今後も成人年齢が変わったことによって、さらに裾野が広がる可能性も高いと思います。

マンガ「正直不動産」原案 ライター・夏原武さん

(マンガ「正直不動産」原案 ライター・夏原武さん)

Q)“借金投資”で数千万円もの不動産まで…いったいなぜ?

夏原さん:

普通に勤めていて給料が上がっていってというのが人生設計の第一歩なんですけど、今それが望めなくなってきています。となると、仕事以外の部分で何とか利益を得たいと考える。その中で、やっぱり一番大きなお金が動くのは投資。なかでも不動産投資は多くの人が興味を持ちやすいと思います。結婚もできないし、車も買えないしというような状況のときに、「家が買えますよ」というのは光り輝く話ですよね。ローンがあっても、とりあえず不動産の所有者になれます。日本人はすごく不動産への信仰心が強いので、その持ち主になるということは1つの成功者への道のように感じられてしまうのです。

投資といっても色々な種類があって、イメージがつきにくいですよね。株にしてもFXにしても、素人が手を出すのは難しそうなイメージがある。でも、誰でも家は必要ですし、不動産にはなじみがあるように感じられる。昔から「大家さん」は得をしているみたいな意識が僕らにはあります。だから「家を貸してる」とか、「マンションを貸してる」なんてすごいねっていう意識がある。でも、どうせ自分は”そっち側“には行けないだろうというふうに思ってきたのに、投資をすれば行けるんですよ、と勧誘されて、その気にさせられてしまうのです。そういった怪しい投資セミナーも多いですし、コロナになってからは、SNSや動画サイトをきっかけにリモートで開催されるセミナーも多くなり、周囲に相談する機会もないまま安易に踏み込んでしまうことが増えているように思います。

住宅ローン「フラット35」を不正利用した”借金投資”

「フラット35」不正利用とは

“借金投資”トラブルのなかでも、金額が大きく深刻な不動産投資。特に、住宅ローン「フラット35」を悪用するケースが続出しています。「フラット35」とは国が創設した長期固定金利の住宅ローン。マイホーム購入のためのローンであり、投資に使うことはできません。

住宅ローン「フラット35」

(住宅ローン「フラット35」)

Q)マンガ「正直不動産」で描いた 住宅ローン「フラット35」不正利用の“悲劇”とは?

夏原さん:

「フラット35」は、できるだけ多くの人が利用できるように、年収や資産の少ない人でも借りられるようになっています。しかし、その特性が悪用されて、たくさんの不正が起きています。

不正利用の流れを見ていると、僕はローン契約の間に入った悪質な不動産業者が一番たちが悪いと思ってますね。「お金がなくても不動産投資ができて、毎月の家賃収入で借金は払えるし、いずれは老後の資産になる」といった言葉で勧誘していきます。

不動産業者は投資物件を売りたいわけですよ。でも、投資物件を買える人は年収や資産の条件からある程度限られる。しかし、「フラット35」など住宅ローンを不正利用すれば、もっとターゲットを増やすことができる。そうやってトラブルを拡大させていったことは悪質です。

マンガ「正直不動産」

(マンガ「正直不動産」より)

夏原さん:

さらに、「不正利用は発覚しませんから」「バレないためのテクニックがある」などと言って、不正に引っ張り込む不動産業者もいます。でも、不動産業者がそう言ったという証拠がないんですよね。彼らもある意味プロですから、録音されてないかとか、自分が紙に書いて残すようなことも絶対にしない。そうなると、最終的に残るのはローンを貸し出す金融機関と契約者しか残らない。不動産業者は契約が終わってしまった後は、もう無関係者なんですよね。実際には不動産業者が不正を指示したり、値段をつり上げた投資物件を売りつけているにも関わらず、これは単なる不動産業の行為にすぎず、違法性はないと判断される。だから、いくら「不動産業者に言われたからやった」って契約者が言ったとしても、「契約したのはあなたでしょ」で終わってしまう。非常に悪質かつ巧妙ですよね。

(マンガ「正直不動産」より)

(マンガ「正直不動産」より)

(マンガ「正直不動産」より)

夏原さん:

ところが、この問題の場合って、借りた人を「被害者」と簡単に呼んでいいものかどうか。実際には本人が行かないと契約はできません。その際に、通常は金融機関から「投資には使えない」と説明されており、ローンの規約にも明記されています。その場合、契約者は金融機関に対してうそをついたことになり、「被害者」ではなく「加害者」ではないかと判断されることになるのです。「あなたたち悪くないよ」とも言えない。

ただ、僕はいずれにしても借りた人にとっての“悲劇”であろうと、そこは間違いないだろうと思います。その悲劇を自分で呼び込んだにしろ、あるいは本当に騙されてしまったにしろ、悲劇であることだけは本当に間違いない。単純に「被害者」とは呼べませんが、悲劇で不幸で気の毒なことだと思います。

だから、非常にね、やりにくいんですよ。契約の間に入った業者が一番取材に応じないんので、「よく分かりません」とか「担当者はおりません」とか、あるいは会社自体がもう存在しなかったりするんですよね。金融機関は「うちはちゃんと説明もしたし、契約して書面もありますよ」と、だから「うちは普通に融資しただけで、それを不正に使われたんだから、返済してもらうのは当然でしょう」と。でも、金融機関だってきちんと審査や調査を行えば、見抜けたケースもあるはずです。

だからこの問題は、関わった全ての人間(ローンの契約者、契約を仲介した業者、金融機関)に問題があると僕は思っています。

Q)"借金投資”の落とし穴に陥らないために、どうしたらいいのか?

夏原さん:

契約内容について「よくわからないな」と思ったら弁護士に相談するとか、契約前が大事なんですよ。契約した後だと、たとえ弁護士であってもどうにもならないこともある。けれど契約前ならば「いや、これはやめたほうがいいです」というアドバイスもできるし、「この条項は削ってもらわないと駄目ですよ」とか、そういう事前の闘いができます。いくら気に入った物件があったとして、値段もちょうどよかったとして、営業マンも感じがよかったとしても、だから「契約しよう」ということではないわけですよ。契約の手前にきちっとやるべきことをやる。お金がかかってもきちっと法律のプロに相談をして契約書を見てもらうと。その上で「大丈夫ですよ」って言ってくれるかどうか。やれることは何でもやるぐらいの気持ちじゃないと、安いものを買うわけじゃないんでね、家を買うっていうのは。人生最大の借金をするわけじゃないですか。だから、そのくらいのことはやっぱりやって欲しいなと思います。

夏原さん:

詐欺に遭ったり、だまされて消費者トラブルに巻き込まれてしまった人って、まただまされたりするんですけど、その最大の理由は家族や身内に隠すからなんですよ。もちろん家族は怒るかもしれない、でも、そこで終わるじゃないですか。でも、黙ったままでいると、結局うそをつくわけですよね。で、その場を取り繕っていると、また引っかかるんですよ。詐欺師は一度だましたやつは二度だませるっていうのが彼らの考え方ですから。

だから失敗したらそれをちゃんと家族に話して、みんなで事情を把握して、反省することですよね。そこで反省して、これはいけないっていうことを覚えておくことを常日頃から家庭でやっていくと、これから社会に出る子供たちとか、あるいはご高齢の方々の被害も減ってくるんじゃないかと思います。やっぱり恥ずかしいから隠すっていうのは、詐欺師の思うつぼだっていうことを分かってほしいですよね。恥ずかしいんじゃないんですよ。だまされたんですから。そして、できることならちゃんと被害届を出すことです。出さなければ、彼らは喜ぶだけですからね。

それから教育の問題ですよね。本来であれば少なくとも高校、できれば義務教育で契約の恐ろしさであるとか、そういうことをちゃんと教えていけば、僕は少しはこういうことは減るだろうと思います。まして今度、成人年齢が引き下げになったことで、よりいっそう危惧しています。

Q)"借金投資”のトラブルを減らすには、世の中がどうあるべきなのか?

夏原さん:

まず、不動産業界についてお話しますと、不動産の取引っていうのは全て上限値というのがあって、もらえる手数料が決まっているんです。外部の人間が思ってるほど不動産業というのはコストかかる割に利益がなかなか上げられず、大変と言えば大変なんですよ。ノルマ制度があるケースも多く、とにかく数をこなさなければいけない、お客さんをどんどん見つけなきゃいけない。そういうときに「この抜け道を行けば一気にもうかるじゃん」と考えてしまう人もいます。まして、それが法的にグレーゾーンだったり、あるいは自らが責任を取らなくてもいい立場ならば…と、不正に踏み込んでしまうのです。

今後、不動産業界がさらに健全化していくためのアイデアとして、「営業マンは宅建士でなければならない」ということを考えています。特に一般の消費者に対して商談をする場合は宅建士の資格を持った人間であるべきだと思います。あとは、取引に関わった者の名前も全て記録に残すことも有効かもしれません。つまり、物件を案内してくれた人、ローンを案内してくれた人、全て社名も担当者名も明らかにした契約手続きの「経過書」のようなものを時系列で残すこと。金融機関が取引の経過がきちっと記録されていることを審査の条件にするようになれば、より問題を是正できるのではないでしょうか。

夏原さん:

「正直不動産」って作品を始めてみて分かったこととしては、真面目にやってる方もかなりいるという現実です。なかには全員が宅建士の会社もあるし、あるいは1人でやっていても、良い物件じゃないと判断すれば、たとえお客さんが気に入っていても「やめましょう」って言ったりとか、そういう正直な不動産屋が大勢いるんですよ。そういう方が実際に業績を伸ばしてるんですね。真面目にやってもうかるなら、実は、みんな真面目にやりたいんですよ。うそをついたり、ごまかしたりなんて、やっぱり人間ですから、だんだんつらくなってくるんです。ですから、そういう会社に伸びていってほしいし、業界に影響力を与えてほしい。となると、消費者はどうすべきかといったら、やはり良い会社を探すことが大切なんです。自分の家から近くて便利だからとか、よく宣伝して有名だから…という選び方をするのではなくて、一番いいのは、自分の知り合いなど、なるべくたくさんの人に相談して、出来るなら実際に家を買った人から評判を聞いて「あそこはおすすめだよ」という会社を選んでいくことです。その会社が大きくなればなるほど業界への影響力も出てくるし、真似をしようという会社も絶対に出てきます。

つまり、不動産業界を変えていくには、上からの改革じゃなくて下からの改革が大切だと思います。それがじわじわ広がることによって、意識が変わっていくんじゃないかな。実際に、それで成功している人はたくさんいるわけですから。どうか業者の皆さんには、そういう真面目な商売をして、十分な利益を上げている人がたくさんいることを、より深く考えてもらいたいと思います。

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