私たちの移動に革命をもたらすと言われる、「空飛ぶクルマ」。
“車のように身近な乗り物になって欲しい”と国が名付けたこの次世代の乗り物。実は「車」ではなく、「電動」「自動」「垂直離着陸」が特徴の新たな「航空機」です。
いま各国で進む開発競争。これまでに打ち出された機体のコンセプトは、600を超えるとも言われています。プロペラだけのコンパクトなものや、翼を備えることで航続距離を伸ばしたものなど形はさまざま。
日本に関わりのある機体を中心に、その一部を紹介します。
(クローズアップ現代取材班)
▼クロ現「空飛ぶクルマ」5月2日までNHKプラスで配信中
国産の”ツバメ”は「世界一コンパクトな機体」
日本で初めて国土交通省に「型式証明」の申請をしたのは、5年前に創業した日本のベンチャー企業「スカイドライブ」。2025年の大阪・関西万博で会場と空港などを結ぶ、「空飛ぶクルマ」の運航事業者の1つに選ばれています。
現在開発している「SD-05」は2人乗りで最高速度は時速100キロ、航続距離は10キロで、都市内の短距離の移動手段として想定されています。
設計のコンセプトは小型で俊敏に空を飛び回る“ツバメ”。「世界一コンパクトでどこでも止まれる機体」を目指しています。軽量化のため日本の素材メーカーと提携して、炭素繊維強化プラスチックの開発を進めています。
ベトナム企業との調印式
この機体はすでに都市の渋滞が課題となっているベトナムの大手不動産会社に最大100機の予約販売を行っています。
今月には個人向けの予約販売も開始。その価格は2億円です。
トヨタも出資する業界大手のアメリカ企業
トヨタ自動車が出資しているアメリカの「ジョビー・アビエーション」。
「空飛ぶクルマ」の開発が加熱したきっかけとされる、「ウーバー」の担当部門を買収した業界大手の企業です。
開発している「S4」は、浮き上がる時と前に進む時で向きが変わる6枚のプロペラに加えて、翼を備えているのが特徴です。5人乗りで最高速度は時速320キロ、航続距離240キロと、都市間を結ぶ長距離の移動手段としても期待されています。
提携するANAホールディングスと大阪・関西万博の運航事業者に選ばれていて、日本での運航を目指しています。
再来年にはニューヨークの移動に
すでにエアタクシーの計画を発表した会社もあります。アメリカの「アーチャー・アビエーション」。
開発している「Midnight」は5人乗りで最高速度は時速240キロ、航続距離は160キロ。
ニューヨークの街を飛ぶイメージ
アメリカの大手航空会社「ユナイテッド航空」と提携し、再来年・2025年の商用運航に向けてすでにルートなどを発表しています。
例えば、ニューヨーク・マンハッタンと郊外の空港を結ぶルートでは、タクシーで渋滞時ならば1時間かかる道のりを10分で到着するとしています。また価格も1座席あたり100ドルと、1人で利用するならタクシーと変わらない値段で設定されています。
大阪城を背景に試験飛行
今年に入り日本各地で試験飛行を実施したのはアメリカの「リフトエアクラフト」。
開発した1人乗りの「HEXA」は全長4.5メートルで重さおよそ200キロと超軽量で、スティックやレバーで比較的簡単に操縦できることが特徴です。
短距離の移動を想定していて、災害や救急救命の際に素早く現場に駆けつけることができるとしています。機体の下部には浮きが設置されていて、緊急時などには水の上にも降り立つことができるといいます。
大阪市では大阪城を背景におよそ8メートル浮き上がり、上空で前後左右に移動したり旋回したりしていました。
自動車大国・ドイツの業界先駆者
2011年に史上初の人を乗せた空飛ぶクルマの飛行を成功させたのはドイツの「ボロコプター」。
開発している「VoloCity」は2人乗りで最高速度は時速110キロ、航続距離は35キロ。円を描くように設置された18枚のプロペラが特徴です。
2011年 ボロコプター社の初の有人フライト
来年・2024年にはオリンピック・パラリンピックが開かれるパリで商用運航を目指しています。4月には量産化に向けてドイツ南西部に機体の最終組み立て工場などを新設し、年間に50機以上を製造できる体制を整えました。
大阪・関西万博の運航事業者となっている日本航空が機体を使用する予定で、3月には大阪で機体を紹介するイベントも行われました。
航空産業の技術が結集 イギリスの“ハチドリ”
同じく大阪・関西万博の運航事業者に選ばれている日本の大手商社「丸紅」が使用するのが、イギリスの「バーティカルエアロスペース」。
開発している「VX4」は5人乗りで最高速度は時速320キロ、航続距離は160キロ。
機体には、空中でのホバリングが得意なハチドリをイメージした塗装が施されています。
浮き上がる時と前に進む時で向きが変わる4枚のプロペラのほか、浮き上がるときのみにつかうプロペラ4枚と翼を備えています。
モーターの開発で航空機エンジン大手のロールスロイスと提携するなど航空産業の技術が盛り込まれているほか、機体の制御システムの開発ではマイクロソフトと提携しています。いまの想定価格は5億円余り。「丸紅」が25機の購入予約権を取得しています。
中国企業は低価格 「何億人もの人に空の旅を」
ことし2月、日本で国の許可が必要な屋外で初の有人飛行を実現した機体は中国の「イーハン」。
開発している「EH216」は2人乗りで最高速度は時速130キロ、航続距離は30キロ。自動運転で、パイロットを乗せずにあらかじめ決められたルートを運航するのが特徴です。すでに機体の販売を開始していて価格は約4300万円(216万人民元)。日本でも大分県の中小企業などで作る団体が購入しています。
開発中のコントロールルーム
本社がある中国・広州には、運航を一元的に管理できる管制ルームも開発中で 、中国国内などですでに3万回以上の試験飛行を行っています。ことし中には中国の観光地での遊覧飛行を実現したいとしていて、会社の中国名「億航智能」には「何億人もの人々に空の運航を提供したい」という創業時のビジョンが込められているということです。
加速する開発競争 2040年には130兆円市場?
国によりますと、このほかにも日本ではベンチャー企業の「テトラ・アビエーション」や自動車メーカーの「ホンダ」などが開発を進めているほか、世界では航空機メーカーの「エアバス」、「ボーイング」なども開発に携わっているということです。
空飛ぶクルマの市場は「機体製造」のほかに、「離着陸場」「航空管制」「充電設備」「オペーレータ」「通信」など裾野が広いと言われていて、アメリカの金融機関によりますと2040年には130兆円市場に、そして2050年には1200兆円市場になるとも言われています。
安全性の確保やルールづくり、社会の理解など普及には乗り越える必要がある多くの壁がありますが、私たちが空飛ぶクルマで移動する日も、そう遠くないのかもしれません。
この次世代の乗り物であなたはどんな未来を描きますか?
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