「⾼校⽣の男⼦です。⼥⼦トイレで盗撮をしてしまいました」
17歳の男⼦高校生からNHKに届いた1通のメール。⼥⼦トイレに侵⼊し、個室にいる⼥性をスマートフォンで盗撮したといいます。
盗撮の検挙件数は去年5019件と過去最多に。取材を進めると、被害者が⼼に深い傷を負う⼀⽅で、加害者は若い世代を中⼼に驚くほど安易に盗撮を⾏っている実態が⾒えてきました。
(「性暴⼒を考える」取材班 村山世奈 飛田陽子 信藤敦子)
※この記事では、盗撮の被害を未然に防ぎ加害をなくしていくために、⼿⼝や加害者の⼼理を具体的に伝えています。あらかじめご留意ください。
“⼥⼦トイレで盗撮した” 男⼦⾼校⽣の告⽩
NHK「性暴⼒を考える」取材班では、3年前から、双⽅向サイト・みんなでプラス「性暴⼒を考える」に寄せられる、被害者や家族からの多くの声と対話しながら、記事や番組を継続発信しています。
私たちの元に、1通のメールが寄せられました。
寄せられたメール
メール(抜粋)
「⾼校⽣の男⼦です。⼥⼦トイレで盗撮をしてしまいました。その後⼥性から警察へ通報し、現在警察の捜査は終了しました。私の⽅から被害者に謝罪の意思を伝えましたが受け⼊れていただけず、まだ謝罪できていません」
盗撮⾏為をしてしまったという、17歳の男子高校生からの告⽩。
私たちに寄せられる投稿は、性暴⼒の被害に遭った⽅がほとんどの中、加害者、しかも高校生というのは珍しいことです。
さらに、次のような⾔葉もつづられていました。
メール(抜粋)
「⾃分の⽅では再犯を⼆度としないと固く決意をしていますが、被害者に対して取り返しのつかないことをしてしまい申し訳なく、⾔葉で⾔い尽くせません。被害者の⽅も今回の事件で悩んでいると思いますが、加害者の⾃分も今後の⼈⽣をどう考えていくべきなのか、問いかけながら教⽰してほしい、欲張りですがそのような場が私に必要だと感じました」
私たちは、詳しい話を聞きたいと取材を申し込みました。
“パッと思いついた” ふとした衝動で及んだ盗撮
17歳の男子高校生
取材の⽇。
待ち合わせ場所に、頭を下げながら恐る恐る近づいてくる男性の姿がありました。
「●●さんですか?」と尋ねると、声を出さず、ただコクリとうなずきました。
どこにでもいる“普通の”男子高校生の姿に、私たちは拍⼦抜けするほどでした。
なぜ、そしてどのように盗撮⾏為に及んだのか。高校生は冷静に語り始めました。
(※被害に遭った⼥性に配慮し、⼀部表現を変えて伝えます)
⾼校⽣:
「事件を起こした⽇、電気のついていない⼥⼦トイレが⾒えました。中に誰もいないのだろうし、周りを⾒渡しても⼈の気配もなかったので、⼊ってみようかなという衝動に駆られて、そのまま⼥⼦トイレに⼊ったっていう感じです。
空いている個室が⾒えたので、中に⼊りました。⼼臓がばくばくして、どうしようかって考えたんですけど、1回落ち着こうと思って、適当にスマホを⾒ていました。そのあと5分ぐらいか…あんまり覚えてないんですけど、ちょっとしてから隣の個室の扉が開く⾳が聞こえて、⼥性が⼊ってきたのだと分かりました」
高校生が上を⾒ると、個室を仕切る壁と天井の間にスペースがありました。
シャッター⾳が鳴らない無⾳カメラアプリを開き、⽴ち上がり、腕を伸ばしてス マートフォンを差し込み、写真を連続撮影したといいます。
そのとき。
⾼校⽣:
「カメラ越しに⼥性を⾒たら、⼥性が⾃分のカメラの⽅を⾒上げていました。慌ててすぐにカメラを引いて、やばいと思ってその場で写真を消しました。そうしていると、⼥性がトイレを出て、⾃分のいる個室のドアをノックして『すみません、お話したいんですけど』と⾔われたので、私もドアを開けて、それで対⾯しました。『何してるの』って⾔われて、⾃分としては『すみません』ということしか⾔えなくて。『写真撮ってたよね。消して』と⾔われて、『消しました』って⾃分のスマホを⾒せました」
私たちは、さらに高校生が語った⾔葉に驚きました。
盗撮への罪の意識はおろか、どうしても盗撮したかったわけではないというのです。
⾼校⽣:
「正直⾃分の中では、あまり計画していなかったっていうのもあって。どういう⾔葉がいいのかよく分かんないんですけど、ただ⼥⼦トイレに⼊ってしまったんだったら、逆にその場でしかできないことっていうと、パッと思いついたのが多分、盗撮だったのかなっていう」
あふれる“盗撮”動画・画像 下がる⼼理的ハードル
無計画に盗撮に及んだという高校生。いったいなぜなのか?
いまインターネット上には、盗撮⾵に撮影されたアダルトコンテンツがあふれ、年齢制限 なく使えるSNSにも、実際に盗撮したとみられる画像や動画が数多く出回っています。
盗撮動画や画像を掲載したサイト
高校生も、こうした画像や動画に⽇々、触れてきたといいます。
⾼校⽣:
「インターネットとかで、本当に盗撮されている被害者の画像っていうのも出回ってはいるし、簡単に⽬に⼊るっていうか、⼿に⼊る。だからこそ⾃分のなかでそれ(盗撮)は⾝近になってきて、⾃分もできるんじゃないかとか、やってみたいっていう気持ちが湧いてきたと思います。結局誰にも分からなきゃ、やっちゃっていいって。
盗撮っていう罪の重さ⾃体を理解してなかったかなと思いました。どこか軽いものだっていうふうな認識が⾃分の中ではあったんじゃないかと思います」
いまや⼩学⽣の40.2%、中学⽣の74%、高校生になると98.5%が利⽤しているスマートフォン(内閣府調査)。
この男子高校生も性的な興味を持ち始めたころには、容易に性的コンテンツにアクセスで きる環境にあったといいます。
⾼校⽣:
「携帯電話だと⼩学校⾼学年から持っていましたし、スマートフォンは中学校のときにはもう持っていました。中学校3年⽣のときには(性的コンテンツを)⾒ていたかなとは思います。スマートフォンもそうですし、あとは⾳の出ないカメラアプリとか、それこそもっと⼩っちゃいペンの形をしたカメラとかもあるので、実際そういうのを⾒ると⾃分でも(盗撮が)できるんじゃないかなっていうふうな気持ちにはなりますね」
盗撮開始の平均年齢は21.8歳 全体の約3割が10代
精神保健福祉⼠・社会福祉⼠ ⻫藤章佳さん
加害者臨床が専⾨で、⻑年性犯罪者の治療プログラムに携わる中で盗撮加害者の治療や調 査をしてきた、精神保健福祉⼠・社会福祉⼠の⻫藤章佳さんです。
⻫藤さんが盗撮の加害者521⼈にヒアリングした調査結果によると、盗撮を開始した平均 年齢は21.8歳。
10代と答えた⼈は27%となりました。
盗撮を始めた動機として最も多かったのは、興味本位など「盗撮⾏為に対する軽視」が 26%。
「盗撮サイト」が16%。「無⾳カメラアプリ」が10%。
“⾃分にもできるだろう”と錯覚し、実際に最初の⾏動に移してしまう⼈がいると指摘しま す。
⻫藤章佳さん:
「例えばTikTokの動画でたまたま、きわどいラインで下着が⾒えるか⾒えないかぐらいの⼥⼦⽣徒の動画があって、それを⾒た男⼦⽣徒が『この⼦は下着を⾒られてもいいと思っているんだ』と認知して、盗撮したというケースがありました。
いまの社会では、盗撮について正しい知識や認識を学ぶ機会がないままにスマホというテクノロジーを⼿にし、正しい情報を選択する能⼒が備わっていない段階で誤った情報にさらされます。
『もしかしたら⾃分にもできるかもしれない』という⼀線は、彼らにとっては越えてしまいやすいものです。同意なく撮影することに対する暴⼒性というものは、家庭や学校の教育の中できちんと教わらないと、正しい判断ができない⼦どももいます。私の印象では、思春期を迎えてしまってからでは遅いと感じます」
盗撮の被害者が抱え続ける深い⼼の傷
全国の盗撮の検挙件数は去年、5019件と過去最多。この10年で2倍以上に増加していま す。
私たち取材班の元には、⽇常⽣活に⽀障をきたすほど深い⼼の傷を負った被害者から、多 くの声が寄せられています。
10代のころ同級⽣にスカートの中などを盗撮され、写真をSNSにさらされたという20代⼥性:
「⾝近な⼈から盗撮されるなんて思ってもみなかったから、初対⾯の⼈が信じられなくなりました。特に男性と⼈間関係を築くことが難しくて、すべての男性が悪い⼈じゃないと頭では分かっていても、恋愛ができないんです。ほかの⼈が当たり前にできるようなことが、私にはできない。普通に⽣きられなくなったことがつらくて、あの事件がなければ何か違ったかもしれないのに…という思いにかられます」
職場の更⾐室やトイレで盗撮被害に遭ったという50代⼥性:
「⼈間不信になり⾃宅以外のトイレは極⼒使わず、また、町で男性がこちらを⾒ていれば、ひょっとして盗撮データが出回っているのではと動悸(どうき)がして動けなくなります。若い⼥性のみならず、中年になってもこんな⽬に遭うのかと、つくづく⼥性であることが嫌になりました」
もし 盗撮が⾒つかっていなければ…
17歳の男子⾼校⽣
女子トイレに侵入し、盗撮を⾏ったという17歳の男子高校生です。
高校生は、被害に遭った⼥性の通報により、警察の取り調べを受けたといいます。
未成年で初犯だったとして処罰には⾄りませんでしたが、警察官から「被害に遭った⼥性 がネット上に写真が流れていないか不安がっている」と聞かされ、初めて、被害者を深く傷つけた罪の重さに気づいたといいます。
⾼校⽣:
「⾃分は相⼿のことを全然考えられていなかったんだなと…。盗撮したときに、まずそれが犯罪だということと、そこには被害者がいて、被害者がどれだけ傷つくことなのか。その先を考えられていなかったことはすごく⼤きいことだと思いました。
⾃分が男だということもあって、⽇常⽣活の中で性的な⽬で⾒られるという経験もないで すし、そういう⽣活の中で、どうしても被害者の感情というのをあまり考えにくく、その機会⾃体が少なかったと思います。
今回のことで、被害者に⼀⽣記憶に残るような傷をつけることをしてしまい、本当に申し訳ない思いです」
「再犯はしない」と固く決意しているという高校生。 私たちは最後に、あることを問いかけました。
もし被害者に⾒つかっていなければ、あなたはどうしていたと思いますか。
⾼校⽣:
「正直…それはやっぱり…絶対にやらないとは⾔い切れなかったかもしれないです。今回、相⼿の⼥性に⾒つかっていなかったら、そのままばれずに進んでいたとしたら、⾃分で2回⽬3回⽬の盗撮⾏為を⽌められる⾃信はなかったと思います」
盗撮という⾏為は、取り返しのつかないことです。
若い世代が安易にそうした⾏動に⾄る背景には何があるのか、社会全体で考え続ける必要 があると感じます。
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