移住 新時代 ~過疎地を選ぶ若者たち~

NHK
2022年8月3日 午後3:00 公開

今や「移住は定年後」というイメージは過去のもの。地方移住を支援するNPOへの相談件数は、この10年余りで6倍以上に急増しましたが、半数以上は20~30代の若者世代です。しかも、2015年と2020年の国勢調査の結果を比較すると、これまで人口減少が激しかった過疎地域の半数近くで、20代後半~30代の若者世代が、その地域から出ていく人より、移住してくる人の方が多いことがわかりました。こうした現象は、新型コロナによる一過性のものではなく、若者の生き方の根幹に関わる価値観の変化によって生まれているようです。地域で今、何が起きているのでしょうか?

(クローズアップ現代 取材班)

テレワークで「転職を伴わない移住」が可能に

東京から移住したITエンジニア・田宮幸子さん(31)

<東京から移住したITエンジニア・田宮幸子さん(31)>

田宮幸子さん:

「東京まで新幹線で1時間あまりで行けて、自然も豊か。最初は“移住”というより、“住む場所を変えた”くらいの感覚でした」

2020年12月、温泉地として名高い群馬県みなかみ町に移住した田宮幸子さん(31)。東京でITエンジニアとして働いていましたが、コロナで在宅勤務が続き、仲間とも会えず、東京に住む必要性を感じなくなりました。そこで、いくつかの自治体のオンライン相談会に参加したり、多拠点生活できるサブスクリプションサービスを利用して千葉県で過ごしたりする中で、この町にやってきました。

仕事は町内のコワーキングスペース(テレワーク施設)で、東京で暮らしていた時と変わらず、Webサービスの開発などを続けることができました。今年3月にパーソル総合研究所が公表した「地方移住に関する実態調査」によれば、こうした田宮さんのような「転職を伴わない移住」が、53.4%に上っています。

最初は、予想外の冬の寒さに苦労したり、気軽に会って話し合える知り合いがいないことから孤独を感じたりして、「うまくいかなければ別の場所に行けばいい」という気持ちだった田宮さんの意識が大きく変わったきっかけは、地元住民や移住者との新たなつながりができたことでした。

コワーキングスペースが若者たちのたまり場に

<コワーキングスペースが若者たちのたまり場に>

私たちが取材した日にコワーキングスペースに集まっていた常連客。

東京から地元にUターンしてきたカメラマン、地元で桐製品の職人になった男性、東京の広告代理店で管理職を務めながらクマやシカの狩猟をしている女性など、経歴も仕事もバラバラ。

都会なら、ただの客同士にすぎない人々が、ここでは自然に仲良くなり、互いに刺激を与えあう存在になるといいます。

そうした出会いを通じ、定住して、そうした人たちともっと深く関わりたい、同じような生活をしてみたいと思うようになったという田宮さん。自分も人をつなげる役割を果たしたいと考え、温泉街のゲストハウス兼コワーキングスペースの共同オーナーを引き受けました。

林業チーム「木木木林(きききりん)」での活動

<林業チーム「木木木林(きききりん)」での活動>

「そこはもっと根本の方から切って。ぶれないようしっかり持って!」

そして、田宮さんが今、新たにチャレンジしているのが林業。十分な人手がなく手入れされないままの山の木を、仲間と一緒に整備しています。グループは10人。そのうち7人が移住者です。熟練者からチェーンソーの使い方を習い、田宮さんも汗だくになって丸太を切りそろえていました。

田宮幸子さん:

「都会ではお金を出せば何でも手に入ります。でも、それで本当に良いのか。食べ物や道具を自分たちで作るこの町の人たちは、本当にすごい。そうした自然の中での暮らしを通じて、本当の豊かさとは何かを考えていければと思っています」

移住者の存在は、新たな移住者の呼び込みにもつながっています。

今年6月、横浜からみなかみ町にやってきた宮﨑紗矢香さん(25)。実は、宮﨑さんがみなかみ町への移住を決めた理由の1つは田宮さんとの出会いでした。下見に来た時、田宮さんのゲストハウスに泊まり、宮﨑さんの関心が高い環境保護に関わる取り組みをする町の人を、何人も紹介してもらったからでした。

翌日、宮﨑さんが訪れたのは、利根川の水源地にある町有林。案内したのは、この町で林業などに携わる地域おこし協力隊の女性移住者です。この女性も、田宮さんの紹介で宮﨑さんにつながりました。

宮﨑さんは、都会に住む学生や若者が自然の中で過ごしながら、環境問題や生き方・働き方について考える滞在型の旅を企画・実現できないかと考えています。

地域おこし協力隊の女性移住者と横浜から移住した宮﨑紗矢香さん(25)

<地域おこし協力隊の女性移住者と横浜から移住した宮﨑紗矢香さん(25)>

宮﨑紗矢香さん(25):

「田宮さんは、先に移住した頼れる相談相手であり、いろいろな人とのつながりがどんどん増えていくハブでもあります。そういう人が1人いるのといないのとでは、全然違う。ここから、環境とか地域の取り組みを盛り上げていきたいです。他の地域にも波及していく、良い連鎖が生まれるための原点になれればなと願っています」

みなかみ町では、東京駅まで最短65分という地の利を生かし、移住者の新幹線通勤に月額最大3万円を補助したり、経営難の町営宿泊施設などを改修し、テレワークを推進したりするなど、移住促進施策に力を入れています。こうした取り組みの結果、2019年度には4組9名だった移住者が、2021年度は30組64名に急増しました。

「大会社に勤めるよりも、自分の裁量で豊かに暮らしたい」

福島県の奥会津地方、昭和村。東京から新幹線を使っても5時間近くかかる、人口1200人ほどの山里でも、20代30代の移住が増えています。この村で若者をひきつけているものの1つが、村伝統の「からむし織」です。からむしは、麻に似た繊維で、糸を一本一本手で紡ぎ、織り上げていきます。村役場が「からむしで自分の帯を1年かけて織りませんか」と呼びかけたところ、全国から若い世代が集まるようになりました。

からむしを織る千葉からの移住者・門元有寿さん

<からむしを織る千葉からの移住者・門元有寿さん>

今年も4人が村に1年の体験移住にやってきました。その一人、神奈川県出身の木内咲希さん(22)。栄養士を目指して大学で学んでいましたが、就活を前に大学を休学。伝統の「からむし織」を体験することにしました。

木内咲希さん:

「大きい会社に勤めることよりも、自分が好きでやれる仕事を探しているのかもしれないです。自分の暮らしの形を、自分で作って行くことをやりたいなと思って」

畑で採れた野菜を手にする木内咲希さん(22)

<畑で採れた野菜を手にする木内咲希さん(22)>

吉村菜々子さん(23)は、去年、大学を卒業してすぐに、宮城県亘理町から1年の体験移住にやってきました。今は村から支給される月8万円で、からむし織の研修生として暮らしています。

吉村菜々子さん:

「大学時代、就活をして分かったことがあるんです。面接で、会社のためにこんなことをしたい、ユーザーのためにあんなことがしたいと立派なことを話すことが、きつくて。私は、自分が楽しいか楽しくないかを大事にしたいと思ったんです。自分が納得できる範囲で出来ることをしていきたいと思います」

1年かけて作ったからむし織を見せる吉村菜々子さん(23)

<1年かけて作ったからむし織を見せる吉村菜々子さん(23)>

取材して見えてきたのは、若い世代の移住者たちは、「何のために、誰のために働くのか」を考え抜いての移住だったということ。「人に使われるのではなく、自分の裁量で仕事をしたい」「自分が自分らしくいられる環境を手にしたい」という思いが、伝わってきました。

東京の病院などで栄養士をしていた吉川美保さん(43)は、2年前、コロナ禍で移住を考え、からむし織の体験に応募しました。植物の繊維から糸を一本一本紡ぐなど、自分の手で作ることに魅力を感じたといいます。吉川さんも、研修生として村で暮らして気づいたことがあるといいます。

吉川美保さん:

「東京にいるとお金とかに依存していないと生きられないじゃないですか。でも、生きていくために必要なことって、そんなにないと気づいたんですよね」

村にいれば、自分たちで野菜を作ったり、食べきれないからと村の人から分けてもらったり、家賃も安く、お金はそんなにかかりません。今、アパレル関係で働いていた夫の裕一朗さん(40)と一緒に、地元産の会津木綿を素材にした、服作りを始めました。廃校した小学校の空き教室を利用したチャレンジショップに、時々出店しています。

吉川裕一朗さんと美保さん夫婦

<吉川裕一朗さんと美保さん夫婦>

夫)裕一朗さん:

「東京にいた時は、売れるものを作り続けないといけないプレッシャーはありました。今は穏やかにやれていますね」

からむし織の一年の移住体験をきっかけに、自分の手でものを生み出す面白さに気づいた吉川さん。都会での買う暮らしを離れ、つくる暮らしを始めたことで、時間の使い方も、働き方も自分の裁量でできる、理想の暮らしを手に入れることができたといいます。

美保さん:

「お金ももちろん大事ですけど、水も食べ物もあるし、何が起きても生きていける暮らしがここにはあるように思えるんですよね。気持ちの余裕が大きいです」

今年4月、吉川さん夫婦に第一子の弥寿(みこと)ちゃんが生まれました。

美保さん:

「村に来て、子どもを産みたいと思うようになったんですよ。不思議ですね」

過疎地域こそ起業のチャンスあり

宮崎県美郷町の「ちくせん(地区別定住戦略)」の取り組み

<宮崎県美郷町の「ちくせん(地区別定住戦略)」の取り組み>

今、過疎地域に移住者を呼び込む新たな戦略として注目されているのが、地域生活を維持するために必要でありながら人材が不足する職業を割り出し、その職業と移住者をマッチングさせる取り組みです。宮崎県美郷町もそうした取り組みを行っている自治体のひとつです。

美郷町の人口は現在、4600ほど。このまま何もしなければ20年後に半減し、その後も減少し続けると予測されています。そこで、去年、美郷町が研究機関と一緒に行ったのが、町内38世帯の家計簿から町民の消費動向を明らかにする「家計調査」でした。

美郷町における食費全体の消費額と町外購入率

<美郷町における食費全体の消費額と町外購入率>

食費の品目別町外購入率

<食費の品目別町外購入率>

調査の結果、美郷町全体の年間食費消費額が14.2億円に上り、そのうち7割にあたる約10億円が、町外で消費されていることがわかりました。中でも「生鮮肉・冷凍生肉」の78%、「惣菜おかず・弁当等」の81%、「外食」は96%が町外で消費され、これらの食費の半分でも町内の消費に転換できれば、飲食店や弁当屋、パン店など新たな起業や雇用につなげられることが明らかになったのです。

調査を担当した美郷町・地域おこし協力隊の髙城陽子さん

<調査を担当した美郷町・地域おこし協力隊の髙城陽子さん>

髙城陽子さん:

「10億円、70%が流出してるということは、これだけ町内に、食料品市場があるということになりますので、そのパイをちょっと取るような経営戦略を練れば、おかずなりお弁当の新たな起業はできるんじゃないかなと。移住で一番問題になるのは仕事があるかということなので、その根拠が示せたのかなと」

「いらっしゃいませ! 今日は美郷町の卵を使ったクリームパンがお薦めです」

<「いらっしゃいませ! 今日は美郷町の卵を使ったクリームパンがお薦めです」>

2年前、パン店を開業した岩佐遼太郎さんと千香子さん夫婦。町唯一のパン店が廃業するのを受けて、町が行った公募をきっかけにやってきました。買えば1000万円以上する調理器具をそのまま利用できたため、開店資金は150万円ほどに抑えることができたといいます。

実は遼太郎さん、大阪や福岡でチェーン店などに勤め、長時間労働で体を壊し、一時、パン作りから離れていました。今は、国産小麦と地元の食材を使ったパンを、無理のない範囲で販売。週末には、昼過ぎには完売するほどの人気です。

岩佐 遼太郎さん:

「町の支援のお陰で、美しい自然に囲まれながら、スムーズに商売を始めることが出来ました。お客さんたちに喜んでもらえるのは、本当にうれしい。とても感謝しています」

人口の減少による新たな起業の可能性は、食料分野だけでなく、介護や保育などのケアワークや再生エネルギーなど、さまざまな分野に及びます。そうした中、移住者が地域をより魅力的な場所にするための原動力になっているのです。

変わる若者の価値観 「軽やかな移住」への変化

今回、取材を通じて地方移住に踏み出した多くの方々と出会って驚いたのは、これまでは、仕事や収入の心配から、なかなか一歩を踏み出せなかった地方移住を、現役世代の若者たちが、驚くほど気軽に始めていることです。

こうした状況を、移住や関係人口へ向けた情報提供を行うメディアであるSMOUT移住研究所の増村江利子編集長は、「軽やかな移住」への変化だと述べています。

SMOUT移住研究所 増村 江利子 編集長:

「親世代に人気の人生ゲームは、“ぜったいに金持ちになりたい”というものでした。しかし、現在の現役世代は、ブランド品も車もいらない、等身大以上に稼ぐ必要性も感じないという人が増えています。何を豊かと感じるかという価値観が変化していて、バリバリ働くより、地域の人と人とのつながりや距離感の近さを豊かだと感じているのです」

現役世代の若者たちが、豊かな自然と人のつながりを大切にしながら、都市から地方へと向かう「移住新時代」。全国の過疎の町から、日本を変える新たな生き方のモデルが生み出される日も遠い未来の話ではないのかもしれません。

移住支援情報サイトまとめ

移住に関する心配事を少しでも解消できる移住支援サイトをご紹介します。

● はじめての移住応援サイト いいかも地方暮らし

内閣府 地方創生推進事務局が運営するウェブサイトです。地方への移住等に、より関心を持ってもらうため、実際に移住した人の体験談や「移住のてびき」を掲載しています。また、おすすめの移住情報サイトも紹介しています。

👉 はじめての移住応援サイト いいかも地方暮らし (※NHKサイトを離れます)

● ふるさと回帰支援センター

全国各地域の自治体と連携して、地域の情報を提供するほか、移住相談に対応しています。実際に移住を体験した方や自治体の担当者によるセミナーも開催し、その地域に住む人と直接話すことも出来ます。

👉 ふるさと回帰支援センター (※NHKサイトを離れます)

● ニッポン移住・交流ナビ JOIN

各都道府県や市区町村など自治体が発信している移住関連情報をまとめています。全国の自治体が提供している移住支援制度や地域の仕事情報、空き家情報、移住相談会といったイベントなどの最新情報を掲載しています。

👉 ニッポン移住・交流ナビ JOIN (※NHKサイトを離れます)

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👉 若い世代の移住 増減マップ

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クローズアップ現代 2022年8月3日放送

👉 移住新時代 過疎地域にチャンスあり ※8月10日まで見逃し配信