ことし7月、静岡県熱海市で起きた大規模な土石流。26人が亡くなり、1人が行方不明(9月21日時点)となっています。被害を拡大させたとみられるのが「盛り土」です。いま、台風などで大雨が頻発するなか、全国各地で「盛り土」のリスクが広がっていることが分かりました。
この記事では、「盛り土」について知っておきたいポイントをわかりやすく解説します。
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(9月21日放送「クローズアップ現代+」取材班)
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【この記事で分かること】
Q 「盛り土」って何?
Q 「盛り土」の被害は?
Q 危険な「盛り土」なぜ放置?
Q 法制化に向けた動きは?
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「盛り土」は、その名の通り土地を使いやすくするために土を盛ることをいいます。
地形的に平地が少ない日本では、山の斜面を切り開いたり、谷を土で埋め固めたりして平らにし、住宅地や道路を整備するなど、一般的な土木の工法として広く利用されています。斜面を削って出た土をその場で利用することもあれば、湾岸部などへ運んで埋め立てることもあります。
主に建設工事で出た土は、他の場所で再び使うことができることから、「資源」として扱われています。木くずやプラスチックなどの廃棄物とは、扱いが異なるのです。
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一方で、土の需要が減っていることもあり、建設現場で出た土を盛る場所がなく、行き場がなくなった土の置き場として、盛り土をするケースも多くなっています。
人工的に造られた「盛り土」は、一般的には元の地盤に比べて弱いとされ、大雨で水を大量に含むと、地盤と盛り土の境界部分が滑って崩れるおそれがあります。
このため、盛り土の斜面の角度や高さを安全な範囲で行い、地下水を排水する施設を設けたり、斜面をコンクリートなどで補強したりするなど、適切な対策が求められます。
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(左図)ことし8月 滋賀県大津市で発生した崩落 →国道が通行止め
(右図)ことし6月 千葉県多古町で発生した崩落 →1人がけが、通行止め
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適切に対応していれば問題のない盛り土ですが、いま、崩れて土砂が流れ出すケースが全国で相次いでいます。
NHKの取材では、この20年間で少なくとも22件起きていることが分かりました。ことしだけでも、滋賀県大津市や千葉県多古町などで崩落が発生しています。さらに過去にもさかのぼって詳しく調べてみると、崩れた土で住宅が被害を受けたり、亡くなったりする人もいました。
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ことし7月に静岡県熱海市で起きた大規模土石流も、その一つです。
離れた場所の建設工事などで出たとみられる土が、熱海市に持ち込まれて盛り土され、それが崩れたことで、多くの人の命や住まいが奪われました。
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静岡県熱海市で起きた土石流(ことし7月)
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これまでの静岡県の調査では、適切な排水設備は確認されていません。あらかじめ自治体に届け出ていた量を超える盛り土をしていたほか、過去には、盛り土に産業廃棄物がまざっていたとして行政指導が行われていたことも判明しています。
犠牲者の遺族は、盛り土を造成した当時の不動産会社の代表や今の土地所有者に刑事責任があるとして告訴状を提出、警察が捜査を進めています。
不動産会社の代表の代理人を務める弁護士は「内容が分からないのでコメントできない」と話し、また、今の土地所有者の代理人を務める弁護士は「捜査には全面的に協力し、証拠の提出にも応じる。責任の所在については、捜査や行政の調査の結果を踏まえて主張する」と話しています。
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いったいなぜ、盛り土の崩壊が相次いでいるのでしょうか。
その背景の一つには、盛り土の管理や規制をめぐる制度の問題があります。
まず、土は「資源」のため、ゴミとしては扱われず、廃棄物処理法の対象にはなりません。一方で、盛り土をする場合、その目的に応じてルールが決まっています。例えば、農地を転用する場合は「農地法」、森林を伐採する場合は「森林法」などで、盛り土の高さや斜面の角度、排水設備の設置などが義務づけられています。
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しかし、こうした法律の対象になっていない土地に盛り土をする場合には、特段のルールはありません。盛り土を一律に規制する法律はないのです。
このため自治体のなかには、盛り土に関する条例を独自に制定しているところがあります。
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NHKが全国の都道府県を対象に行ったアンケートでは、独自の条例をつくっていると答えたのは全国で25の府県。詳しく見てみると、届け出のみで盛り土が許可され、審査されることがなかったり、一定の規模までであれば条例の対象でなかったりするケースが見られ、業者から見れば抜け穴になってしまっています。
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また、条例では最も重くて「2年以下の懲役、100万円以下の罰金」と罰則も限定的です。例えば、廃棄物処理法では不法投棄した業者に対する罰金が「最大3億円」となっていて、法律の規制と比べると条例の罰則だけでは抑止力につながりにくいと専門家は指摘しています。
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NHKが情報公開請求で入手した関係省庁会議の議事録
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盛り土を一律に規制する法律はありませんが、必要性について、これまで議論されたことがなかったわけではありません。
建設工事で出た土や廃棄物のリサイクルについて検討する国土交通省の会議や、2014年に大阪・豊能町で起きた盛り土の崩落をきっかけに開かれている複数の省庁が参加した会議でも、出席者から「盛り土に関する法整備の必要性」について、たびたび意見が出されていました。
しかし、いずれの議論でも法律の制定については見送ってきました。
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「法律ですべての土の管理をすると手間とコストがかかるため、建設業界への配慮があった」
「盛り土の崩落や不適切な事案が起きているのは一部の地域であって、全国の問題ではないので新たな法律までは必要ない」
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NHKが情報公開請求で入手した議事録や当時の関係者への取材で、法整備を見送った背景には、こうした事情があったとみられることも分かりました。
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NHKが47都道府県に行ったアンケートでは、9割以上が「国の法律が必要だ」と回答し、自治体の条例だけで対応することは難しいと、自治体は感じています。
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また、ある官僚は私たちの取材に対し、
「抜本的な対策をしていれば、熱海の土石流は防げたかもしれない」
とも言いました。
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二度と同じような被害を繰り返さないため、国には安全を最優先するとの立場で、早急に盛り土を管理する法律の制定に取り組んで欲しいと思います。
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