『から揚げ』フランチャイズ店 オーナーたちが語る「一獲千金だけが夢じゃない」

NHK
2022年5月30日 午後2:34 公開

「最近、から揚げ店が増えたな…」と思ったことはありませんか?

「日本唐揚協会」の調査によると、その数は10年前の10倍にとなり、全国で4000店舗を超えています。

新たにフランチャイズ店のオーナーとなった人たちの経歴は様々。子育てを終えた人、会社勤めを辞めた人…。飲食業未経験の人も多くいます。

なぜから揚げ店を始めたのか。取材から見えてきたのは、「一獲千金」を狙った起業とは異なり、働くことに様々な思いで向き合う、人生模様でした。

(「クローズアップ現代」取材班)

 

5月30日放送「から揚げ店“急増”の秘密~令和の食と幸福論~」

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店長は元証券マン から揚げで変わる人生観

兵庫県姫路市のから揚げ店のオーナー藤田輝陽さん(54)は元・証券マン。いわゆる「脱サラ」をして店を開きました。

<藤田輝陽さん>

 

証券会社では30年以上働き、売り上げは常にトップクラス。しかし、50歳を超えて給料が頭打ちになり、起業を考えるようになりました。そのとき、ホームページでたまたま見つけた「から揚げ店のフランチャイズ展開」に興味を持ち、2020年12月に今の店を開きました。

藤田さんの当初の目的は飲食業で「ひと山当てる」こと。年収1000万円以上も夢ではない…、と始めたものの、売り上げはまだまだ理想には届きません。

売り上げアップを目指して、試行錯誤の毎日だと言います。

  

藤田さん:

「オープンした月の売り上げは、グループの中で始まって以来の記録でした。ただ、そこからが続かなかったので、思ったほど甘くないですね」

<証券会社時代の藤田さん>

 

証券会社時代よりも収入は下がったという藤田さん。しかしから揚げ店を続ける中で「お金」とは違う部分に、充実感を感じるようになりました。

組織の歯車としてではなく、オーナーとして自分の裁量で店を運営することが「楽しい」と思うようになったのです。

さらに「から揚げ」というお客さんの食卓と直接つながる商売を通じ、藤田さんは「お金を稼ぐ」ことに対する考え方自体も大きく変わったと言います。

 藤田さん:

「(証券会社時代と比べると)売り上げの額は桁が違います。証券会社ではお客様から1000万、2000万円を預かり、そこから数百万円増やして返す、ということを喜びにしていました。ある意味ドライな世界でしたね。

今はから揚げひとつ数百円の売り上げでも、お客様から『おいしいね』『また来るね』という言葉を受け取れることが、心底嬉しいと思うようになりました。

お客さんが美味しいと言ってくれる時の顔は、うまく言えないですけど、嬉しさが全然違いますよね」

 

から揚げ店フランチャイズは「細く長く」

植元裕太さん:

「から揚げ店は、一気に儲かるわけではありません。ただ、“細く長く”やっていける商売なんです」

 290店舗以上のフランチャイズ展開を手掛ける会社の常務、植元裕太さんは、から揚げ店ビジネスの特徴をそう表現します。  

<植元裕太さん>

 

植元さんは、から揚げが名物として知られる大分・中津でノウハウを学び、11年前に埼玉県でから揚げ店を開業。6年前から、新たに店を開きたい人を支援するフランチャイズ事業を始めました。

植元さんが考えるこの商売の最大の利点は、開業資金が他の飲食業に比べて低いこと。調理に必要なのはフライヤーのみで、通常の飲食店のおよそ半分、700万円程で開業することができると言います。

企業秘密のタレを含めた味付け、揚げ方、経営のコツなどを2週間で習得できるマニュアルを作ることで、これまで飲食店で働いた経験のない人でも開業できると話します。

植元裕太さん:

「新しく始めるオーナーさんは、約8割が飲食業未経験。家族経営の店も多いですね。

利益は、年間400~500万円ほどの店が多く、完全地域密着型で半径1~2キロに住む方々に愛されればリピーターになってくれます。」

  

コロナで本業が激変… から揚げと大道芸を二本柱に

5月に大阪府守口市で店をオープンしたばかりの中川彰洋さん(42)も、「細く長く」ビジネスができる点にメリットを感じて、開業したひとりです。

<中川彰洋さん>

 

取材に訪れたこの日、お客さんがから揚げの注文をしてからでき上がりを待つ間に、中川さんは「バルーンアート」を披露していました。

実は中川さんは、15年のキャリアを持つ大道芸のパフォーマー。バルーンアートで日本チャンピオンにまで上り詰めた経験があり、いまもそちらが本業です。

から揚げ店は本業の収入を補うための、仕事のひとつです。

<パフォーマンスする中川さん>

 

新型コロナで各地のイベントの中止が相次いだことで、パフォーマーの仕事は「壊滅状態」に。バルーンアートは続けたい、しかし、別の収入源も必要な状況。新たなチャレンジを探している中で出会ったのが、から揚げ店でした。

平日はから揚げ店をやりながら、休日はこれまで通りパフォーマーの仕事も続ける。中川さんは、この2本柱で収入を得ていくつもりです。

 

中川さん:

「コロナ以降よく言われるようになりましたが、仕事は2本柱、3本柱を持っていて、時と場合によってシフトしていく方がいいんだと思います。だから僕は、から揚げを柱のひとつにしたいですね」

中川さん:

「コロナで1年半、散々守りに入っていたので、自ら積極的に攻めに行きたいですね。

これまでパフォーマーとして一人で仕事をしてきましたが、40歳を過ぎて経営も勉強してみたいと思っていました。それが将来イベントを運営する時に生きるかもしれない。

実はイベント業界やの仲間を、この店のスタッフに入れようと思っているんです。パフォーマーは明るくてよくしゃべるので接客は自身があるし、お客さんにバルーンアートをプレゼントしたりして、彼らが活動していく下支えになればいいなと思います」

一方でから揚げ業界の現状については、「さすがに店が増えすぎで、甘くない。一攫千金は難しいと思う」と、冷静な目線で見ています。それでも挑戦すると決めたのは、から揚げ店に、大きく儲けること以外の価値を見出したから。

中川さんは、以前の自分との変化を次のように語りました。

中川さん:

「これまでの自分は、キザなパフォーマーとして自分を売ってきました。週末働いて10~15万円のギャランティをもらって、金銭感覚も狂っていたと思います。でも、コロナ禍でお金の考え方も変わりました。から揚げのフランチャイズをやることで、自分のお金への価値観が社会と合っているのか、確かめたい。これからは地に足をつけて生きていきたいです。

だからコロナ禍の2年間は悪いことではなかったですね。これからどう生きるか立ち止まって考えて、から揚げ店という道を選べた。自分で人生の選択ができたことは、よかったのかな」

 

から揚げと歩む 家族との時間

から揚げ専門店を始める人たちの中には、家族で取り組むケースも少なくありません。4月にさいたま市で店を開いた、柳典子さん(54)もその一人です。

オープン直後や繁忙期にはスタッフを増やしますが、通常は柳さんが毎日店に立ち、長男の龍太さんが店を手伝います。

<柳典子さん>

 

この春まで運送会社で宅配の仕事をしていた柳さんは、8年前に離婚し3人の子どもたちを育ててきました。残業も多く多忙を極める仕事のため、子どもたちの学校行事にも満足に参加できませんでした。家族との時間がとれないことが、大きな悩みだったと言います。

 

柳さん:

「授業参観でもね、なんとか時間を作って見に行くんだけど、宅配の制服を着て汗だくで入ってくるお母さんは、ちょっと嫌がられたかもしれない。もっと構ってやりたかったな、と思いますよね」

長女はすでに独立し、今は91歳になる父親と、二人の息子と暮らしています。

これからは家庭の時間を増やしたいと考える中で、から揚げ店のフランチャイズの話を聞きました。翌日の準備を済ませることができれば残業も必要なく、定休日や営業時間もある程度自分で決められる、自由度の高さが決め手となり、450万円を借り入れて起業を決断しました。

柳さん:

「安定的に、長くやっていきたいですよね。細く長く。一攫千金のように大きく稼ぐのではなく、安定して稼いでいければ」

 

オープンからおよそ1か月。店には徐々に常連客も増えてきました。

普段の暮らしでは、毎朝、次男のお弁当を作ったり、出勤前にコーヒーを飲んで一息ついたりする時間ができるようになりました。

一攫千金とはいかなくとも、家族との時間を大事にしながら、「細く長く」店を続けていくつもりです。

柳さん:

「まずは自分が64歳まで、10年弱は続けられたらいいですね。そのころには子どもたちもみんな30代になって自立して、家族の環境も変わっているんでしょうし。その後は、年齢関係なく、できるなら続けていきたいですね。年金までのつなぎ、じゃないですけど、(から揚げ店が)生きがいや楽しい人生の選択肢のひとつになればいいなと思います」

  

令和の“ジャパニーズドリーム”

日本社会を独自の視点で読み解いてきた演出家で作家の鴻上尚史さんは、「から揚げ店」のオーナーたちの姿に、現代の日本人の”つつましい戦い”が見てとれると話します。

 

鴻上尚史さん:

「これが今の”ジャパニーズドリーム”ですよね。細く長く着実に、どんな時代でも生き抜くにはどうしたらいいか、選んでいるということ。

コロナ禍で、“自助・共助・公助”といわれたけど、公助には期待ができない。自助でなんとかしようという、庶民の抵抗が見えるような気がしますね。ドーンと当てるのではなく、から揚げで手堅く行こう。細くつつましい未来が着実に見えているということが、大きいのではないでしょうか」

 

取材を終えて

急増したから揚げ店。業界の競争は激しく、撤退する店舗も少なくありません。それでも新しく店を持とうとするオーナーを取材すると、一攫千金を狙って大きな勝負にでるのではなく、「細く長く」「地に足をつけて」懸命に商売に取り組む姿がありました。

食卓に親しみ深い「から揚げ」で人生の新しい一歩を踏み出し、思い思いに“夢”を叶えようとするその姿に、「働く」ことの意味を改めて考えさせられる思いでした。

実質賃金はなかなか上がらず、コロナで思うような生活ができなくなったいま、働き方は大きく変わりつつあるようにみえます。せわしなく日常が過ぎ去っていく中で、「どうして自分はこの仕事をしているんだろうか」と思いをめぐらせてみるのも、悪くないのかもしれません。サクッとジューシーな「から揚げ」を食べながら。