「クローズアップ現代+」のナレーションを担当している声優の浅野真澄さん。エッセイストや絵本作家としても活躍するなど、表現者として多彩な顔をもっています。番組では色々なテーマをとりあげますが、取材した内容がどうすれば見ている人に届くのか、浅野さんは毎回考え抜いて収録に臨んでいます。そんな浅野さんが「クロ現+」のナレーションに対する”こだわり”を語ってくれました。。
(浅野さんがコラムを連載している「NHKウイークリー ステラ」6/4号より抜粋)
浅野 真澄(あさの・ますみ)
秋田県出身。大学卒業後に声優活動を始める。代表作に〈Go! プリンセスプリキュア〉海藤みなみ/キュアマーメイド役など。ラジオパーソナリティー、作家、エッセイスト、作詞家としても活躍。最新著作『逝ってしまった君へ』(6月30日刊行予定)
「誰にもできること」だから
クローズアップ現代+をご覧いただいていますでしょうか?前身から数えれば、ことしで28年目を迎えた報道ドキュメンタリー番組、通称〈クロ現+〉。私は2016年4月から、ナレーションを担当しています。
ナレーションって、とっても奥が深く、難しい世界です。なぜ難しいのか。それは、誤解を恐れずに言ってしまえば、ナレーションが「誰にでもできること」だからなのだと思います。
日本語で書かれた文章を、声に出して読む。その行為自体は、子どもから大人まで多くの人が日常的にしています。それを、プロのクオリティーにまで高めて、仕事として行うわけです。私も、もう何年も「あの人のナレーションは心にスッと入ってくる。一体なにが違うの?」と頭を悩ませつつ、研究を続けています。声の出し方、テーマとの向き合い方、滑舌、力の入れ方・抜き方……一見ちょっとしたことを、一つひとつ見直し、分析し、自分なりの方法を考える。その、繊細かつ地味~な積み重ねの先に、誰でもできるけど誰にもできない、プロとしてのナレーションがあると、今は思っています。
自分の解釈を「押しつけない」
〈クロ現+〉は、オンエアが火、水、木曜日の午後10時から。ナレーション収録は、その日の午前中に行われることがほとんどです。テーマは事前に教えていただきますが、実際の原稿をもらうのは、当日スタジオに入ってから。映像も、そこで初めて見ます。原稿に目を通したら、映像に合わせて一度テスト。そのとき、映像が切り替わるタイミングの秒数や、つっかえてしまった単語を自分でチェックします。それを参考に、次は本番。事前に準備できることがほぼない分、瞬発力や対応力が問われるのです。
さまざまな社会問題や、答えの出ない課題を取り上げることが多い、〈クロ現+〉。だからこそナレーションするときは、「自分の解釈を押しつけない」よう、とても気をつけています。例えば、ナレーターである私が「悲しい」と捉えたテーマも、人によって感じ方はさまざま。なのに、私が悲しみをたっぷり声にのせてしまっては、せっかくの番組の幅を狭めてしまいかねません。映像にそっと寄り添いながら、それぞれの心の中でふわっと膨らむナレーションがしたい。これが、常に私の目指すところです。
ちなみに〈クロ現+〉では、ナレーションのことを「語り」と呼びます。この言葉、とっても好きなんです。テーマを深く理解し、咀嚼(そしゃく)できなければ「語り」と呼ぶにふさわしいナレーションにはならない気がする。5年目に突入した今も、日々精進です!