食品から日用品、光熱費にもおよぶ“値上げラッシュ”。しかしいま起きているのは『始まりに過ぎない』とも言われ、今後さらなる値上げが予想されています。
私たちの暮らしにどれくらいの影響があるのか。専門家に家計への影響を独自に試算してもらったところ、驚きの数字がはじき出されました。
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解説してくれたのは…
酒井 才介さん
みずほリサーチ&テクノロジーズ上席主任エコノミスト
新型コロナウイルスの感染拡大による影響など、日本経済の調査・分析が専門。
元財務省官僚。
専門家が予想する“値上げ予報”
(酒井さんによる“値上げ予想図”)
上の図は、酒井さんの試算にもとづく今後の“値上げ予報”です。矢印の色が濃い時期ほど、それぞれの値上げが進むことを示しています。
以下、酒井さんに詳しく解説してもらいました。
酒井さん:
食パンやスパゲティなど小麦関連の商品を含めた食料品。ガソリン代や電気代。日々の生活に密着した日用品の価格が上がっていくということが、今回の物価上昇の特徴です。
多くの人にとって物価が上がりやすいと実感せざるを得ない、非常に負担感の大きいインフレということになります。
食品の値上げ 家計への負担増は?
去年と比較して家計の負担は年間でいくら増えるのか。2人以上で年収400万円~500万円の世帯(日本の平均的な世帯)で、酒井さんに試算してもらいました。
※原油が1バレル150ドル程度になるなど、原材料などが2月末の時点の水準から50%程度高騰し、その後、横ばいで推移した場合
<食料品>
・小麦関連商品:パンやうどんなど、小麦に関連する商品は4,447円
・水産物:サーモンやウニ、カニなどで3,193円
・肉類:4,576円
・乳製品や卵を使った食品:2,297円
酒井さん:
小麦に関しては、不作により世界的に価格が上がっています。さらに、小麦や穀物の生産大国であるウクライナ情勢が緊迫化。これによって、半期に1回改定される「政府の売渡価格」(輸入した小麦を製粉会社などに売り渡す価格)が上がることが予想されます。
去年10月から今年3月までの半期で政府が決めた価格を、製粉会社はことし4月から9月にかけて適用していくことになります。
そのため、小麦関連商品の価格はこれからまた上がっていきます。今年の夏、それから今年の年末から来年にかけて上がるタイミングがあります。
日本は直接ロシア、ウクライナから小麦を仕入れてはいませんが、世界的な供給不足で価格上昇の影響は広がっていくと見られます。
水産物も、ロシアからの輸入が止まる、あるいはロシア上空の飛行を停止するということで、例えばノルウェー産のサーモンなどが日本に入りにくくなっていて、価格がすでに上がってきているわけですね。
全般的にというよりは、ウニやカニなど一部の商品が特に上がる、そんなイメージかなと思います。
それ以外にも大豆加工品、乳卵類、肉類、油脂などが原材料の世界的な高騰を受けまして、国内でも値上がりが避けられないという状況です。
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光熱費はどうなる?
<エネルギーなど>
・輸送費:輸送コスト増による商品への価格転嫁で1万2,330円
・電気代やガソリン代:3万9,510円
酒井さん:
また、食料品などの運送費も値上がりが予想されます。原油価格の上昇などを受けて、輸送コストが上がってきますから、これが広く商品の小売価格に波及していくと予想されます。
電気代は、日本の場合は燃料費調整制度という制度がありまして、数か月かけて転嫁されていくんですね。燃料費の上昇が電気代に3か月~5か月ぐらいあとに転嫁されていきます。
ですから、今上がっている燃料費、原油価格の上昇が電気代に転嫁されていくのはこれからです。ガソリンはすぐ上がりますが、電気代に関しては夏場にかけて上がっていくのではないでしょうか。
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年7万円・月6千円の家計負担増も
酒井さんはこのほか、原油や小麦の代替需要の増加による値上げも懸念されると指摘。
これらを全部足し上げると、年間で7万1,203円、月6,000円近い家計負担の増加になるのではないかと予測しています。
※2人以上で年収400万円~500万円の世帯。原油が1バレル150ドル程度になるなど、原材料などが2月末の時点の水準から50%程度高騰し、その後、横ばいで推移した場合
世帯年収別の年間負担額を酒井さんに試算してもらいました。
300万円未満 58,849円
300万~400万円 65,745円
400万~500万円 71,203円
500万~600万円 73,712円
600万~700万円 76,570円
700万~800万円 77,822円
800万~900万円 82,084円
900万~1000万円 85,170円
1000万円以上 91,878円
(総務省「家計調査」をもとに酒井さん作成)
その上で酒井さんは「今回の物価上昇の特徴からすると、日用品の価格の上昇が目立つため、特に低所得の方、日用品の支出の割合が高い世帯の方々にとっては、負担感の大きい状況が続くだろう」と指摘しています。
日本にとっては“望ましくないインフレ”
世界的に進む原材料費の高騰。日本の置かれた状況が、値上げによる影響をさらに大きくしていると酒井さんは指摘します。
酒井さん:
日本は、これまではどちらかというと、物の値段が上がらない、デフレを懸念する声が多かったんです。しかし、ここに来て原油や穀物の価格は高騰しています。
去年の後半ぐらいから新型コロナウイルスのワクチンが普及するにつれて、経済活動は回復し始めています。アメリカなどでは、強い需要に対して供給が追いつかないことが、去年の後半以降顕在化し、原油や穀物の値上がりが続いていました。そこに今回、ウクライナ情勢の緊迫化という新しい要因が重なったということになります。
日本は資源輸入国なので、国際的な相場の値上がりの影響をダイレクトに受けてしまいます。ロシアからの直接の輸入が止まったとしても、直接そんなに影響は大きくありません。
しかし、例えば小麦はロシア(輸出量世界第2位)からでなくても、ほかの国から輸入しています。このように日本は多くを輸入に頼っていますので、国際的な原油や穀物相場の上昇は影響が大きくなるのです。
さらに、日本は賃金の伸びが弱い状況も長く続いています。“いいインフレ”“悪いインフレ”といった言い回しを使うことがありますが、日本からすれば、いまは賃金の伸びを伴っていないインフレ、つまり、日本人にとって望ましくないインフレです。
日々の生活が圧迫される、家計が圧迫される状況かと思います。
酒井さん:
これまで企業は価格をなかなか転嫁できない状況だったわけです。しかし、さすがに原材料がここまで上がってくるとある程度転嫁をせざるを得ない、そして物価が上がっていく…。
日本経済は原材料の高騰に伴って、日本人の賃金を引き上げていかないと、企業側も十分に価格転嫁できない状況になります。その結果、収益も下押しされてしまうので、日本経済全体の縮小につながっていく可能性があると認識しています。
ウクライナ情勢が収束したとしても、その後の経済のことを考えると、やっぱり賃金の引き上げというのは避けて通れない課題というふうに思います。
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