現役の不動産業者が語る なぜ今「地上げ」なのか

NHK
2023年4月3日 午後6:50 公開

バブル期を超えて、マンション価格が過去最高値を更新するなど、活況を呈する首都圏の不動産市場。そんななかで今、都市部で進められているのが地上げです。

小さな土地をまとめてマンションやビルの用地を生み出していく地上げは、バブル期には手荒な手法で大きな社会問題にもなりました。
それがなぜ令和の今、再び進められているのか。背景には何があるのか。
みずから地上げを手がける不動産業者が取材に応じ、証言しました。                       

(首都圏局 記者 古本湖美)

令和に相次ぐ地上げ

共用部の出入り口付近につるされた生の魚や肉

(共用部の出入り口付近につるされた生の魚や肉)

東京都心の一等地のビルの出入り口に吊り下げられた生の魚や肉。傍らにはスプレーで文字も書かれています。

この異様ともいえる写真は去年、不動産業者による地上げの現場で撮影されたものです。

なぜ令和に地上げ?

「地上げ」とは居住者を立ち退かせるなどして複数の土地をまとめ、広い土地を確保することです。マンションやビルなどを建てることができるようになれば、利用価値が高まり、土地は高値で売却できるようになります。
一方で地上げを進めるには、もともと住んでいる人に立ち退いてもらう必要があります。居住者は不当に退去させられないよう法律で守られているため▼立ち退き料▼退去時期の交渉が必要で、数年単位の時間がかかるケースも多いとされます。

バブル期に横行した地上げ

(バブル期に横行した地上げ)

地上げが特に活発に行われていたのは不動産価格が右肩上がりに高騰していたバブル期のこと。それから30年あまりがたった令和の今、なぜ冒頭で紹介したような地上げが各地で進められているのか。私たちは地上げをみずから手がけるという人物を取材しました。

増える依頼

匿名を条件に取材に応じたのは40代の不動産業者。ふだんは賃貸や売買など不動産に関する一般的な業務を行っていますが、依頼があれば地上げや立ち退きの仕事も引き受けています。
自身は冒頭で紹介したような「強引な地上げは行わない」と断ったうえで、今、地上げや立ち退きの依頼が増えていると明かしました。

取材に応じる不動産業者

(取材に応じる不動産業者)

「実際のところ立ち退きの案件が増えました。依頼者は大家さんやオーナーさんがほとんどです。資産整理のため立ち退きしてきれいな状態にして売却したいという意向が強いですね。 建物と土地を売りたいと思ってもデベロッパーは住人やテナントがいる古い建物は買いません。売れるとしても安い値段になってしまいます。だから立ち退きを終えて住んでいる人がいない状態にしてほしいということです」

家賃半年~1年分で交渉

「住人に退去してもらいたい」「隣の土地を手に入れたい」といった依頼を受けて、立ち退きや地上げを進めるというこの業者。どのような方法で進めるのか、ケースにもよるとしながらも、年単位の長い時間をかけて対応することも多いと話します。

「立ち退いてもらうわけですから、相手とはコミュニケーションをとっていかないとだめです。例えば大雨や大雪のなかでわざわざ訪問したり、飲食店が相手の場合には頻繁に食べに行ったり。話を聞こうかと思ってもらうように動きますね。建物が古ければ『老朽化』ということで耐震補強をやらなきゃいけないとか、いろいろな理由をつけますね。実際に建物がボロボロの場合は『もう老朽化で建て替えるので、半年後になりますが別のところに移動してもらえませんか』と。とはいえとにかく時間が必要なので、1年はかかると考えないといけない」

その過程で必要になるのが“立ち退き料”の交渉です。
この業者が、賃貸住宅に住む人に対して提示する立ち退き料の“相場”として話したのは家賃の半年分~1年分。そこを基本に条件に応じて交渉を進めるのが一般的だといいます。

不動産業者

「賃貸物件から出て行ってもらう場合は、家賃が10万円なら120万円+移転先の敷金礼金を払うというような形。でもなかには私たちの相場感の10倍もの金銭を要求してくる人もいます。そういう場合は地道に話をしていかないとしょうがないですね。 昔はゴキブリやニワトリを使って臭いや騒音を出すなどの嫌がらせをするやり方もありました。でも今の時代は、私はそういうことはしません。目立ってしまうようなやり方はあまりうまいやり方ではないと思いますね。入居者は借地借家法で守られているので、家賃を払っていれば無理矢理退去させられません。大家さんのために僕らのような人間が行って交渉を続けるしかないですね」

地上げした土地がマンション用地に

地上げされた土地はその後、誰の手に渡るのか。その一つがマンション建設などを行うデベロッパーです。各社がマンション用地の確保を競うなか、高値での売却を期待できるといいます。

地上げについて説明する不動産業者

(地上げについて説明する不動産業者)

「そもそも東京には権利関係がきれいで、まとまった土地なんてなかなかないんです。そんな土地があれば大手のデベロッパーはほしくてしょうがない。許す限りお金を出して、ほかの業者に取られないようにしたいと思っているはずです。 そういう状況ですので、地上げを行う業者は少しでも土地面積を広げる動きをしますよね。周りを少しでも地上げする、立ち退きだなんだ、もう何でもやるしかないんですよね。うまくいけばその土地の売値がパカーンっと跳ね上がるからです」

求められているからやる

今、都市部で進められている地上げの背景について語った男性。
マンション用地の供給は自分たちのような中小の業者が支えている側面もあるといいます。

「立ち退きや地上げと聞くと一般論からすると悪い印象にならざるを得ない。大手はコンプラだ反社だと騒ぐので、みずからはやらないですよ。大手は権利関係がきれいなピカピカの土地しか買いたくないんですよ。ほかの誰かがイメージの悪い地上げや立ち退きをやって、ちゃんと売り物に変身させないといけない。実は末端で汚いドブさらいみたいなのが動いているんですよ、不動産ひとつとっても。それがあって初めて大手は『私たちはきれいにやっています』と言えるわけです」

その上で、地上げという仕事について繰り返しこう話しました。

「そもそも決して悪い仕事ではないし、悪いイメージを持ってほしくないんですよね。困っている人がいるから依頼があり、私たちがやっているわけです。マンション用地にしても誰かが商品を作って売り物にしないといけない。だから私たちがやっているんです」

 

【関連記】】

【関連番組】

放送内容をテキストで読む