1190人。
これは厚生労働省が公表した「新型コロナワクチンを接種した後に死亡した人」の数です。 (10月1日公表・9月12日時点での集計結果)
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ワクチン接種と死亡に因果関係はあるのかどうか。
厚生労働省の専門家部会はこの1190人について次のように判断しています。
「ワクチンと死亡との因果関係が否定できないもの」・・・0人
「ワクチンと死亡との因果関係が認められないもの」・・・8人
「情報不足などで因果関係が評価できないもの」 ・・・1182人(全体の99.3%)
厚生労働省は「現時点では接種との因果関係があると結論づけられた例はなく、死亡との因果関係が統計的に認められた症状もない」としています。
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そもそも副反応に関する国の調査はどう行われているのでしょうか?
そのプロセスは、一般には国民からはわかりにくく「ブラックボックス」とも言われています。改めて日本の副反応の報告・検証の仕組みを調べてみました。
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どのようにして「副反応」を評価しているのか
副反応に関する国の評価は、いくつものプロセスと複眼的なチェックを経ておこなわれています。「副反応疑い報告制度」と呼ばれ、大きく分けて4段階のプロセスがあります。
①医療機関・製薬会社
↓
②PMDA(医薬品医療機器総合機構)
↓
③外部の専門家
↓
④厚生労働省の専門家部会
それぞれのプロセスを詳しく見ていきます。
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①医師・医療機関、製薬会社が3種類で評価
副反応が疑われる症状が確認された場合、ワクチン接種を行った医師や医療機関は、予防接種法によって国に報告することが求められています。
その症状とワクチン接種との因果関係について、「関連あり」「関連なし」「評価不能」の3種類から選んで報告します。
また製薬会社も、副反応が疑われる症状について医療機関などから情報を収集し、医薬品医療機器法に基づいて報告します。
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(「接種後に死亡」についての医師や医療機関からの報告には「評価不能」が並ぶ)
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②PMDAが情報を蓄積、精度を上げる
これらの報告を受けるのが、独立行政法人のPMDA(医薬品医療機器総合機構)です。
2004年(平成16年)に設立され、薬やワクチンの承認審査、副反応などの健康被害の「情報収集」などを担っています。
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ㅤㅤ (今回の取材で、初めてPMDA内部の撮影が許された)
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PMDAでは、新型コロナワクチンの副反応が疑われる報告が増えることを想定し、ことし2月に体制を拡大しました。会議室が並ぶフロアの一つを新型コロナワクチン対応の特設スペースに変更し、300人以上増員して対応しています。
一つ一つの症例を検証につなげるためには、報告される情報の精度を上げることが重要です。そのため、患者の詳しい病歴やワクチン接種前後の状態などについて、PMDAから医療機関などに直接電話で問い合わせることもあります。
医療機関や製薬会社などから報告された情報を蓄積。その中で同じ症状の人がいれば、基礎疾患や、年齢や性別などに共通点がないかを探り、ごくまれな副反応でも見つけ出そうとしています。
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③複数の外部専門家が評価
こうして収集した症例について、PMDAは、症例ごとに医師や薬剤師など外部の専門家2人に因果関係の評価を依頼します。
この2人の意見が異なる場合には、さらに別の専門家にも評価を依頼します。
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④すべての情報を国の専門家部会で検討
外部専門家による評価が終わると、厚生労働省の専門家部会にすべての情報が報告されます。
正式名称は「厚生科学審議会(予防接種・ワクチン分科会 副反応検討部会)」。医師や長年にわたり感染症研究に携わってきた専門家など15人が「報告内容は妥当かどうか」を検証します。
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副反応が疑われる症例は、こうして何重にも評価が重ねられています。それでも、接種後に死亡した1190人のうち1182人について「因果関係が評価できない」とされています。
因果関係を判断することは難しいといいます。
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ㅤㅤ (専門家部会長 東京医科歯科大学 森尾友宏教授)
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専門家部会の部会長を務める東京医科歯科大学の森尾友宏教授は、「個別の事例に関する因果関係の評価は常に難しい」とした上で、「『評価できない』というのは現時点のことであり、評価は継続して行われる。国内外をあわせてできるかぎりの情報を集め、問題がある副反応のシグナルがないか検討していきたい」としています。
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因果関係を調べる“もうひとつの仕組み”も
国はもうひとつ、接種との因果関係を調べる仕組みを設けています。それが「予防接種健康被害救済制度」です。接種後に副反応が疑われる症状が出た場合、本人や家族などが市町村に申請できます。
(厚生労働省の専門家審査会・9月13日撮影)
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認定を行うのは「疾病・障害認定審査会」と呼ばれる厚生労働省の専門家の審査会です。ここで、医師や弁護士、感染症の専門家などがカルテの確認なども行い、因果関係をより詳しく調査します。一定の因果関係が認められれば、医療費の自己負担分や月額最大で3万7000円の医療手当などが支払われます。
8月19日から審査が始まっていて、10月21日時点で、あわせて66人が「新型コロナウイルスのワクチン接種によってアナフィラキシーや急性のアレルギー反応などを起こした可能性が否定できない」と認定されました。接種後に死亡した人の審査も、今後行われる見通しです。
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副反応の検証制度 アメリカでは?
個別の事例を一つ一つ検証する日本に対し、アメリカでは日本とは異なるアプローチもとっています。
それがワクチン接種と接種後に出た症状との因果関係を、統計的に検証できるシステム、「VSD(ワクチン安全データリンク)」です。1990年に、CDC=疾病対策センターによって設けられました。
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ㅤㅤ (VSD・ワクチン安全データリンク)
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このシステムには、全米各地の9つの病院グループが参加していて、およそ1200万人の医療データが、日常的にほぼリアルタイムで集められています。
新型コロナウイルス感染拡大以前の医療データも蓄積されているため、新型コロナワクチンを接種した人に出た症状や死亡の頻度が、接種していない人の場合と比較できるようになっているのです。ある症状の出た頻度が、ワクチンを接種した人たちの間で高ければ、その症状は“ワクチンによって引き起こされた可能性が高い”と判断できます。
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VSDは統計的にワクチンと症状の間の因果関係を調べるシステムで、一人一人に出た症状がワクチンによるものかどうかを調べるものではありません。
アメリカでは、VSDを軸にしたモニタリングシステムを活用し、日本でも使用されているファイザーとモデルナのワクチンについて、接種と死亡の間に因果関係は確認されていないと発表しています。
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アメリカでVSDが導入された背景には、1970年代に豚インフルエンザのワクチンを接種した人たちが「ギラン・バレー症候群」を発症したことがあります。手足などにまひが起き、まれに呼吸ができなくなり死亡することもある疾患ですが、それがワクチンによるものなのか、因果関係を明確に調べる仕組みがないことが問題になりました。
その教訓から、ワクチンの安全性を確保するためには因果関係を調べるシステムが必要だとして、VSDが設けられたのです。
同様のシステムは、ヨーロッパなどの国々でも導入されています。
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VSDによって突き止められた“副反応のリスク”
VSDを使って、新型コロナウイルスのワクチン接種によってそれまでに知られていなかった副反応が起きていることが、実際に突き止められました。
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ㅤㅤ(CDC新型コロナワクチン安全チーム トム・シマブクロさん)
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その症状とは、心臓に炎症が起きる「心筋炎」や「心膜炎」です。
ファイザーやモデルナの「mRNAワクチン」を受けた人と受けていない人で、症状が出る頻度と比較すると、ごくまれではありますが、10代や20代の若い世代では接種を受けた人の方が高かったことがわかりました。
2021年6月、CDCはワクチン接種のメリットはリスクを上回るとしながらも、「接種と関連している可能性がある」とする見解を示しました。
その後、世界各国で、mRNAワクチンの副反応として「若い世代ではごくまれに心筋炎が起こりえる」とする注意喚起が行われています。
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スマホで「誰でも報告できる」仕組みも
副反応が疑われる症状があった症状があった場合、アメリカでは、医師だけでなく、接種を受けた人などから手軽に情報提供してもらうことも重視しています。
新型コロナウイルスのワクチン接種を進めるにあたっては、新たにスマートフォンからも報告できる「V-safe」と呼ばれるシステムが導入されました。
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ㅤㅤ (「V-safe」の登録者には、CDCから体調を伺うメールが届く)
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このシステムでは、接種後に出た症状の情報を広く集めるとともに、接種した人の体調の変化のモニタリングもできるようになっていて、ワクチンの安全性や信頼を高めようとしています。
専門家からは、日本にも「V-safe」のような接種後の情報を広く集める仕組みや、ワクチンを接種した人と接種していない人で症状の頻度を比較できる「VSD」のような仕組みが必要だとする声があがっています。
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