いま「トレーディングカード」(“トレカ”)の中古市場での価格が急騰しています。
5枚で定価200円ほどのカード1枚に、家よりも高い値がつくこともあるといいます。
幅広い世代に親しまれてきたカードゲームに、いったい何が起きているのでしょうか。
トレカショップが続々とオープンしているという東京・秋葉原を訪れ、トレカ価格高騰の舞台裏を探ることにしました。
(クローズアップ現代 取材班)
100万円超は当たり前!? 店頭に並ぶ高額トレカ
秋葉原の駅を降りると、雑居ビルの至るところにトレカを扱う店の看板を見つけることができます。その一つに入ってみると、店内はカードを物色する多くの人たちでにぎわっていました。
ショーケースに1枚ずつ並べられているのは、中古品として売りに出されたカードです。
1枚50円のものから数万円するものまであり、中には何百万円もするカードも並んでいました。いったいなぜカードによってここまで価格に違いがうまれるのでしょうか。
店頭で、中古トレカを購入したばかりの親子に話を聞くことができました。
購入したのは、好きなキャラクターの中でも特にゲームで強く、しかもイラストが特別仕様のカード。希少性の高い「レアカード」の中でも、新品ではなかなか手に入れることができない「スペシャルアートレア」と呼ばれているものだと言います。イラストには光る加工が施され、キラキラと輝きを見せていました。
(小学2年生の男の子がお年玉を使い2万円で購入したカード)
お父さんが、購入した際のレシートを見せてくれました。お値段はなんと2万円。お父さんもその高さに驚きを隠せないようでした。
「さっき買うか買わないかで子どもともめました。お年玉でというからまあいいかと。私の時代はビックリマンカードがあったので、欲しい気持ちは分かるけれど、子どもが扱ってもいい値段かというと迷うところ。カードの高さにはびっくりしますよ…店には280万円のカードもあった。すごいよね、いま」
5枚で定価200円ほどのカードがなぜ高額に?
もともとトレーディングカードは、ランダムに封入された5枚のカードが1パック定価200円ほどで販売されています。どんなカードが入っているのか、レアカードはあるのか、開けてみるまで分からないドキドキが一つの醍醐味とされ、ゲームをする人やコレクションをする人たちに買い求められてきました。
しかし、カードがランダムに封入されているため、既に持っているカードが入っていたり、なかなか欲しいカードが手に入らなかったりもします。そのため、カードを売りたい、お目当てのカードを確実に購入したいという人たちは多く、中古市場の需要を生んできました。
中古カードの買い取り販売を行うトレカショップ店長の渡辺翔さんに、どんなカードが高額化する傾向にあるのか聞いてみました。
(トレカショップ「晴れる屋2」店長 渡辺翔さん)
渡辺翔さん
「欲しい人の人数に対して配布数が少ない、イラストがいい、中でも特に人気のキャラクターなどはすごく高額化することがあります。例えばメーカーが公式に抽選配布した希少性の高いカードは、中古市場で当初40万円から50万円ぐらいだったものが、いまだと120万円になっているものがあります」
安全面を考慮して店頭には置いていませんでしたが、600万円を超えるものや、最高で2億円の値段で販売しているものもありました。
(2億円で販売されているカード)
ここ数年の大幅な価格高騰の要因として、渡辺さんは3年前に始まったコロナの巣ごもり需要をあげました。カードゲームをしていた人たちがゲームの機会を失ったことで、自宅でコレクションを楽しむ需要が増加。また、カードの開封動画などが発信されることで関心を持つ人が増え、希少なカードや人気の高いカードを求める人の数が急増したのではないかと見ています。
渡辺翔さん
「カードの価値を知っているユーザーが増えれば増えるほど、この金額なら買ってもいいなという人が1%でも現れる、高額で買ってもいいという人が増えていくという感覚です。欲しがっている方が多ければ、もっと高値で買う人はいないか、調整を続けると同時に、手放したい人がどの価格なら手放してくれるのかを考える。株式市場とやっていることは変わらないです」
トレカを買い求める外国人 その理由は…
(ドバイから来た男性)
トレカ売買高額化の背後には、外国人の購買意欲の高まりもありました。
ドバイから来たという男性。日本のトレカを自分のコレクションのために購入するとともに、ドバイのトレカ仲間に少し手数料を上乗せして売っていると言います。
「小さいころから僕らはポケモンを見て育ちました。人によってそれぞれ好きなキャラクターは違いますが、僕は小さいころからピカチュウが大好きです。特に日本限定のポケモンのカードを集めるのが好きで、そのためにこうして日本に旅行にきて、カードを探しているんです」
男性も、ここ最近のカードの価格高騰を肌で感じていました。
「コロナ禍、ポケモンカードのコレクションについて有名人が配信する動画を、世界中の人たちが目にしました。7億円でポケモンカードを買った有名な格闘家の動画もその一つ。趣味を持ちたがっている人たちがトレカに関心を持ち、市場に入ってきました。多くの人が求めれば価格が上がるのは当然です。それにしても最近の値上がりはすさまじいです。さすがにこれではもうコレクションを続けられないと思う人も出てくるでしょう。なにか価格高騰が抑制される力が働いて欲しいと思います」
一方、秋葉原のトレカショップを訪れていたフランス人の男性は、価格の高騰を好機ととらえ、趣味だったトレカの収集を「投資目的」で行うようになったと言います。
(日本に暮らすフランス人の男性)
「購入したカードは大切にクリアケースに入れてしまっています。高くなったときにきれいな状態で売るためです。9万円で買ったカードを持っていますが、更に値上がりすると思っています。これまでにトレカの売買で200万円ほど儲けました。どんなカードが高くなるのか、どうやって売ればいいのかを友達から教えてもらい勉強したら、うまくいくようになりました。いまは3割は趣味、7割は投資目的でカードを購入しています」
トレカは金券!? カードをお金に換える人たち
秋葉原のトレカショップには、カードをお金に換えようとする人たちが次々と訪れていました。
6枚のカードを売りに出し、一日で16万円を手にしたという男性がいました。カードが高額で買い取られると聞き、自宅に眠っていた昔遊んだカードを売りに来ていました。
カードを売りにきた男性(20代)
「自分が持っていることも忘れていたようなものなのでラッキーみたいな感じですかね。棚ぼたみたいな」
中には、トレカのゲームを楽しみながらも、不要になったカードは現金に換え生活費にあてているという人もいました。
カードを売りにきた男性(20代) 「言い方あれなんですけど、ちょっと手持ちが足りなくなったから来たって感じですね。レアカード当たったりして、それで遊ばないんだったら売り飛ばす。リアルな話助けになることはあります」
店頭には、買い取り価格表に熱いまなざしを向ける親子の姿もありました。
確認していたのは、箱買いした新品のカードから出てきたレアカードの買い取り価格。
高額で買い取られるうちに、売りに出そうとしていました。
トレカを売りに来た父親
「(レアカードが出たときは)やった!という感じでした。投資対象というと変ですが180円ほどのものから、こういうプレミアムな5万円とかになるものが出てくる。子どもは遊ぶ用、大人は売却用みたいな形で楽しんでいますね」
ゲームを楽しんでいるという小学5年生の息子に、せっかく出てきたレアカードを手放すことに未練はないか聞ききました。少し考えたあと、「高い値段で売れるうちに売って、また欲しいカードが買えるならばいい」と話してくれました。
子どもがゲームで遊んでいたものが高額のお金に変わることを、お父さんはどう思っているのかたずねると、意外な答えが返ってきました。
トレカを売りに来た父親
「結構大人にとっても難しい話じゃないですか、物の値段がなぜその値段なのかって。価格が需要と供給で決まっていく、そういうことを子どもと一緒にトレカから学べるのはいいかなと思っています。ブームが続く限りは続けたいですね」
“平たく言ってバブルの時期” 一千万円の札束が飛び交う秋葉原
(東京 秋葉原)
さまざまな人たちの思惑で加熱するトレカ市場。電気の街・秋葉原では、空き店舗に続々とトレカショップが入り営業を始めています。
中古品売買の流通システムを扱う企業のもとには、トレカショップを始めたいという相談が相次いでいます。問い合わせに応じている菊地正樹さんは、その数は半年で100件を超え、前年度と比べて急増していると言います。
(NOVASTOセールスマネージャー 菊地正樹さん)
菊地正樹さん
「新規開店を行いたいというお客様が非常に多い。ラーメン屋さんから業態転換、サラリーマンからという方もいらっしゃいますし、本当にいろんな方がいます。はやりものに乗ったもの勝ちというのが世の中あると思うのですが、そのような流れの一環かなと。平たく言えばバブルの時期かなというふうに思います」
(トレカショップ「トレカル秋葉原」オーナー 渡邊麻奈美さん)
去年、秋葉原にトレカショップを新規オープンした渡邊麻奈美さんは、右肩上がりの市場に魅力を感じ、参入を決意したと言います。
小学生のころからトレカを集めていた渡邉さんは、コロナの感染拡大をきっかけに再びカードの世界に足を踏み入れるようになりました。WEB制作などを行う会社を運営し、一児の母でもある渡邉さん。コロナ禍、全てがオンラインでのやりとりで完結し、娘の入学式では親どうしの会話もままならない状況にやるせない思いを感じていたとき、手にとったのが昔夢中になったトレカでした。
渡邊麻奈美さん
「たまたま実家に帰ったときに自分がファイリングしていたカードが残っているのを見つけたんです。小さいころに集めたカードにけっこう思い入れがあって、当時の両親に買ってもらった思い出とか、そういうものが思い出されたんです。いまデジタル化社会で、全部ウェブやクラウドの時代になっているんですけど、アナログで、手元にあって、自分でそれを取得する喜びみたいなものをすごく思い出したんですよね」
そのころ、すでにトレカの価格が高騰していて、市場の賑わいを実感していた渡邉さん。開店資金のために手持ちの貯金を取り崩して開業に踏み切ったといいます。いま店には第三者機関による鑑定済みの高額なトレカがずらりと並んでいます。その売れゆきは想像以上で、つい先日には“事件”も起きました。有名なユーチューバーが店を訪れ、一千万円分のトレカを一度に購入したのです。リュックから次々と出てくる大量の札束に、スタッフ一同息をのんだと言います。
一方で店では、高額カードと同じくらいのスペースをとって、1枚数十円~数百円のカードも販売していました。いったいなぜなのか。渡邉さんにその思いを聞きました。
渡邊麻奈美さん 「もちろん高額なカードを多く売買して店の収益をあげたいという思いはありますが、同時にやっぱりカードをプレーするのが好きだという人たちにカード市場は支えられてきた面も大きいので。私も一緒に店をやっている仲間も、もともとトレカが好きな人間の集まりなので、そこは忘れたくないというのがあります。二本柱でやっていければいいのかなと」
トレカが中古市場で価格高騰することに問題はあるの?
秋葉原でトレカを巡る熱狂の正体を探るべく、さまざまな人たちの声に耳を傾けながら、私たちの頭にはずっと消えない疑問がありました。
トレカが中古市場で転売されて高額になることに問題はないのだろうか…?
高額転売問題に詳しい弁護士の福井健策さんが、一連のトレカ転売において問題のあるなしを考える際のポイントを教えてくれました。
(1次流通と2次流通)
カードの流通には、メーカーが製造した製品を小売り店を通じて消費者に販売する「1次流通」と、消費者が購入したのちに、不要になった等の理由で中古品買い取り店や個人間で売買する「2次流通」とがあります。消費者が2次流通で転売し、価格が高騰していくことにはさまざまな感情はあるかもしれないが、「法的には何も問題はない」と言います。
ただし、中古品の売買を事業として行う場合は、個人や法人にかかわらず「古物商許可証」が必要となり、違反すると罰せられることもあります。一定以上の収入を得る場合には確定申告も必要で、怠ると脱税とみなされることがあります。ブームがあまりに過熱すると、カード欲しさの窃盗、偽造カードなどの詐欺を招きやすく、また素人が無理な売買を重ねて損失を出し負債を抱えるなどの社会問題につながることにも警鐘を鳴らします。
一方で1次流通において、店が転売目的での購入を禁止する旨を明示しているにも関わらず、転売することを隠して商品を購入した場合には、「詐欺罪」が成立する可能性があると指摘します。
福井健策 弁護士
__「現在、例えばポケモンカードの公式オンラインショップでは規約で営利の転売目的での購入禁止を明示しています。更に人気商品の購入は抽選で、1人1回などの制限があります。社会的に見ても1次流通における『買い占め転売』は、いわゆる“転売ヤー問題”として度々問題視されており、よい印象を持たれていません。 こうした中で、営利転売禁止の規約に同意しておきながら、実際には転売目的でカードを購入したり、回数制限などのある商品をバイトや複数アカウントを駆使して入手すれば、まず規約違反です。更に、ショップ側への詐欺や業務妨害に該当する可能性は十分あります」
その上で次の3点が、現状を“問題”と捉えるかどうかの重要なポイントなるのではないかと言います。
- 1次流通における「買い占め転売」が起きているか。
- それによっての販売元のビジネスデザインが毀損されたり、1次流通で消費者が商品を手にすることができないなどの状況が生じているか。
- 行き過ぎたバブル的高騰の中で、偽造・窃盗などの関連犯罪、無理な購入・損失による破産、脱税などの負の副産物が増えていないか。
トレカ熱狂の裏で…
(朝6時 新作トレカの発売日にできていた行列)
あるメーカーの新作トレカの発売日。お店の前には、商品を買い求める人たちの長蛇の列ができていました。販売開始時刻になるとあっという間に商品は完売し、売り切れという現実を前に肩を落とす人たちの姿がありました。しかしその姿を横目に、新作トレカから出た新たな“レアカード”が続々と中古品買い取りカウンターに持ち込まれ、高額な値段で買い取られていました。
(トレカのゲームで友達になったという20~30代の男性たち)
その2日後、再び店を訪れると、高額の買い取り価格表を苦々しい顔で眺めるグループがいました。トレカのゲームで出会ったという20~30代の男性たちです。新作トレカが購入できなかったようです。
「こうした高く売れるカード欲しさにカードのパックを大量に買ってしまう人がいて、我々プレーヤーが買えないという問題に困っています。株みたいな扱いをされ、みんなが買うから値段が上がっていく。中古カードだけならまだいいですが、結果、新品のパックが買えなくなると、ゲームを楽しむ人たちが対戦できなくなってしまいます」
そう教えてくれた男性に、トレカゲームの魅力について聞いてみました。
(大人になってから再びトレカゲームを始めた3人)
「ルールが分かりやすくて、小学生から大人までとっつきやすく始めやすいゲームだと思います。自分たちの小さいころからポケモンはあるので、幅広い世代の人たちがカードの名前とかも知っているんですよね。それでコミュニケーションが活発にとれるところが、長い歴史からくる共通語みたいな感じで楽しいんです」
物の“価値”とはいったいなんなのか、いったい誰が決めるものなのか…。
秋葉原のトレカショップに集まるさまざまな人たちの思いに触れながら、ふだんあまり意識することなく支払っている物の値段や物の価値について改めて考えさせられました。
もちろん、いまの右肩上がりの価格の高騰がこの先ずっと続くかどうかは誰にも分からず、価格が大きく下落することもありえます。しかし同時に、自分の手が届く価格だったものが、あるとき手の届かない存在になってしまうことがある世界を想像すると…、背筋が冷たくなる思いがしました。
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