“終わらない苦しみ”忘れないで 旧統一教会“養子縁組”の2世

NHK
2023年1月30日 午後4:46 公開

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「信者間の養子縁組で、子どものいなかった今の養父母の養子となりました。自分のことを、ずっと異物のように感じ、後ろめたい存在であるように感じてきました。養母は長年の教会活動で貯金もなく、年金もなく、私が養わなければ、あすの生活もままなりません。私の運命を勝手に決めた大人たちのツケを払わされていると感じます」

 

世界平和統一家庭連合=旧統一教会の元信者の30代女性が、番組に寄せた投稿です。彼女が声を上げたきっかけは、去年11月のクローズアップ現代で養子としての苦悩を語った、元信者の女性のことばでした。

番組をきっかけに連なり始めた、養子の2世たちの声。埋もれてきたその声が投げかけたのは、法整備や返金などの救済策では決して“終わらない苦しみ”があるという現実です。

(クローズアップ現代取材班)

▼関連番組:クローズアップ現代


報道を機に寄せられた声

去年11月、クローズアップ現代では旧統一教会の新たな問題として、「養子縁組」について取り上げました。旧統一教会の教義では、子どもを多く産み育てることが重要だとされていて、教団の動画や出版物では、「天からの子宝の恵を受けた祝福家庭は、その恩恵を子女の授からない祝福家庭にも分かち合う使命と責任がある」「養子の約束を交わすのは捧げる側の妊娠前が最も望ましい」などと説明しています。

これについて信者の2世から相談が弁護士に複数寄せられているほか、専門家からは、無許可のあっせん事業として養子縁組あっせん法に触れる可能性があるという指摘が出ています。

旧統一教会のハンドブックに載る養子縁組に関わる記載

 

報道を機に、番組にはさまざまな投稿が寄せられました。

「周りに養子縁組の2世もたくさんいますが、幸せに喜んで過ごしている方も多いです」

「私も娘2人、養子縁組をさせて頂きました。そのご家族とは、今も親戚のようなお付き合いをしていますし、子どもたちも仲良く交流しています。養子縁組を旧統一教会が行っているから全てが悪いということはないと思います」

 

そうした中、信者間での養子縁組によって苦しんできたという投稿を寄せたのが、冒頭でメッセージを紹介した、元信者のまなみさん(仮名・30代女性)です。

 

まなみさんの投稿

「幼い頃からきょうまで、絶えることのない痛みを抱えて生きています。実父母でさえ、養父母でさえ、決してわからない痛み。こんな思いは、わたしたちの世代で終わりにするべきだと強く思います」

 

自分が抱える痛みは、自分の家の中だけの、誰にも話してはいけない問題だととらえていたというまなみさん。その認識が大きく変わったのが、去年の番組で養子の苦悩を語った、元信者のようじよさん(仮名・20代女性)の記事でした。

▼ようじよさんについての記事はこちら

 

記事でようじよさんが語った「私たち2世の代で、こうした不幸は終わらせて欲しい」「自分の経験を話すことで、同じ思いをする人がでないようにしたい」ということばをきっかけに、まなみさん自身も声を上げる決断をしたといいます。

養子縁組された旧統一教会2世、まなみさん(仮名)

まなみさん:

「このことばに、はっとしました。私も、もう誰にも自分と同じ思いをしてほしくないという思いがあったからです。でもこのまま待っていたら、ある特定の宗教にはまってしまった家族とその子どもたちの、気の毒な出来事、個人的な問題として終わってしまうかもしれない。そうならないために、自分の葛藤や思いを声に出して、記録として社会に残し、二度と同じ苦しみを生み出さないことにつながれば、と思いました。

(自分が感じているのは)自分だけの苦しみ・違和感・疑問ではなくて、他にも悩んでいる人がいると気づいたことが大きかったです」

 

家族のなかで自分は「異物」だった

覚悟を決めて取材に応じてくれたまなみさん。養母から聞いたという、自分が養子に出された経緯を教えてくれました。

  

まなみさん:

「産みの母親の妊娠中から、子どものいなかった育ての親の家庭に養子に出されることが決まっていました。当時、産みの親は海外に住んでいて、日本に来て出産し、生後すぐに養子に出したそうです。そんな特異な経緯だったこともあって、行政への書類の提出が数多く求められて、養子縁組を認めてもらうことが大変だったと聞いています」

まなみさん(仮名)と養母

幼少期のまなみさんと養母の写真

 

物心ついたころから、自分が養子だと知っていたまなみさんは、幼いころから「自分は教義のために養子に出された」ととらえていました。見せてくれたのは、小学生向けに教義を解説した冊子です。

 

まなみさん:

「神様がいちばん主体としてあって、祝福されたお父さんとお母さんの夫婦がいて、子どもたちがいて、初めて幸せな家庭が完成する。神様を中心とした家庭が増えていくことで、地上に天国を実現していく。教会での2世教育や親との会話のなかで何度も教えられてきて、自分が養子に来たのはこれを実現するためだと思っていました」

 

親は仕事や教団の活動でほとんど家を留守にし、稼いだお金のほとんどを献金する生活。さみしさや経済的な苦しさを感じていましたが、「お父さんお母さんは、生活の豊かさや便利さを捨ててがんばっているんだから、自分も養子としてがんばらなくては」と考えていたといいます。

しかし、旧統一教会への信仰心のない祖母や親戚たちと関わるようになり、みずからの存在に強い疑問を抱くようになりました。

 

まなみさん:

「祖母や親戚からすれば、自分たちが反対していたのにもらわれてきた子どもでした。顔も知らないよそにいる信者の家からもらってきた子どもです。家の中でも『自分はここにいていいのかな』、『異物だな』という、強烈な違和感がありました」

 

高校時代、まなみさんは旧統一教会の教義に疑問を抱くようになり、教団の活動から距離をとるようになりました。

養父はすでに亡くなり、現在は養母とふたり暮らし。養母は長年献金を続け、ほぼ無年金、無収入の状態のため、まなみさんの収入のほとんどが、生活費や医療費に消えていきます。やりたい仕事や結婚もできず、これからの人生は、母親の面倒をみていくだけだと考えています。

 

まなみさん:

「自分の運命が、産まれたときに作為的にいじられた、という感覚があります。失われたものは、自分への尊厳、時間、可能性です。本当ならこんな人生だったかもしれない、こういう人間になっていたかもしれない。どんな法律があっても、他者から手を差し伸べられたとしても、自分は納得できないし、区切りをつけられないです」

 

初めて語り合う 同じ境遇の2世

ひとりきりで、途方もない苦悩を抱えてきたまなみさん。自身の思いを語るなかで、「ほかの養子の人たちは、どうやって生きているのか」、知りたい気持ちも出ていました。

そして今月。まなみさんが声を上げるきっかけとなった、ようじよさんと対面することになりました。

待ち合わせの直前。まなみさんは、どこか不安そうでした。

 

まなみさん:

「自分のなかで解決していない問題だからこそ、相手がどういうことを考えて生きてきたのか知りたい気持ちもあります。ただ、同時に自分のなかにある葛藤や、塞がっていない傷口みたいなものを、相手を通して直視するような、怖さもあるので、話してみたい気持ちが半分、緊張するし怖い気持ちが半分です」

まなみさんとようじよさん

まなみさん(左)とようじよさん(右)

 

まなみさん:

「こんにちは。はじめまして」

 

ようじよさん:

「はじめまして。よろしくお願いします」

 

ようじよさんは、温かい声と表情で、まなみさんを迎えました。

 

ようじよさん:

「私もまなみさんと一緒で、周りに自分と同じような境遇の人がいなくて。SNSで2世の人たちがつぶやく場があって、それを見たぐらいで。まなみさんが初めてお会いしてお話する、自分と同じ境遇の方だと思います」

 

初めて、同じ“養子の2世”と語り合ったふたり。養子縁組制度は子どもの福祉のために重要な制度であるとした上で、宗教上の理由で養子となった自身の生い立ちに対して、共通の苦しみを抱えていました。

 

ようじよさん:

「まなみさんは、産まれてすぐ養子にいったんですか?」

 

まなみさん:

「そうですね。上にふたり兄弟がいまして、実の親が『もし次、3人目がおなかに宿って、その子が女の子だったら養子に出します』って」

 

ようじよさん:

「いま、ちょっと鳥肌が立ちました。一緒です。私も実の親が『いま妊娠している2人目の子が女の子だったら養子に出します』って。長男や長女は跡継ぎになるけれど、私はそうではなかった。それと、私の下にも兄弟がいるんですが、その子たちは産みの親のもとで育っています」

 

まなみさん:

「そこも同じです。自分にとってはけっこう“傷”になっているというか。“性別”や“何人目の子ども”か、で優劣をつけられて、たまたま自分が重要な順番の子どもじゃないから養子に出す、となったのかなと、ずっとひっかかっています」

幼少期のようじよさん

生まれたばかりのようじよさんと養父母の写真

  

ようじよさん:

「『どうして私だけが養子に出されなきゃいけなかったんだろう』って、私もずっと苦しんできました。もし、実の親が金銭的な問題で育てられないとかなら、まだ少し理解ができるんです。でも実際はそうではなくて、私はいったい、どこの誰なんだろう。それはずっと、生きていくなかでずっとついてきているものです。そこですよね、一番は」

 

まなみさん:

「そこですよね。自分は誰なんだろう、という問いに直面したときに、自分のルーツや自分につながっている人たちとの関係、土台になる部分を作為的にめちゃくちゃにされて、そこから自分を作っていかなきゃいけない。でもそこには大きな杭として、旧統一教会の教義が食い込んでいて、自分自身を確立させていこうと思うときに、いろいろな壁が出てくるというか。

結局答えがどこにもない。自分自身に対する根本的なクエスチョンをずっと抱き続けて生きていく、という気持ちがすごくします」

 

ようじよさん:

「そういう意味では、旧統一教会のなかには答えがあると思うんですよ。熱心な信者なら、自分は神のために生きていて、教義にそって生きられていて、幸せだと思うんですけれど、私はいま信者ではなくて、違う価値観や考え方を持っている。何より私が感じたのは『道具』だな、って。教義のために、利用されるためにこの世に生を受けたと思っているので」

  

誰にも話せなかった 家族への思い

ようじよさん

 ようじよさん 

 

現在ようじよさんは、信者の母親、そして脱会した父親と同居しています。しかし物心ついたときから、夫婦関係は険悪。いまでは彼女を通してしか両親は意思の疎通を図ろうとしないといいます。自分が『道具』だという感覚を、両親と過ごすときにも抱いていたと話しました。

 

ようじよさん:

「両親は水と油みたいな関係で、口を開けばけんか。でも祝福結婚ってそういうものだと思っていて、つながりが宗教でしかない。片方がそこから離れたときには、もう何もない。愛もなくて、ただ教義を守るために一緒にいる。育ての両親がそういう関係性なので、私は、ふたりの間をとりもつためだけにいました。本当に私は『道具』として、この家庭が家族として成り立つための存在でしかない。そこがけっこうしんどかったですね」

 

まなみさん:

「大人たちの背負うべき問題を子どもが代わりに背負わされて、そのなかでなんとか調和を保たきゃいけないポジションですよね。すごくつらかったと思います」

 

ようじよさん:

「でもただ、それが当たり前で生きてきちゃったので、逆に『共依存』というか。この両親の役に立つことによって私は存在意義がある。両親は両親で子どもに甘える状況なので、そこから抜け出すのがすごく難しかった」

 

まなみさん:

「私は父親が亡くなってから、母親とふたりで暮らしているのですが、母親は無年金で貯金もなく、経済的に私に依存している状態です。先ほど『共依存』という言葉があったんですけど、一方で私も『母親の役に立つことに、この家に養子にきた意味がある』って、どこかゆがんで満たされる部分があります。自分ががんばって働いて、それで母親が生活できて喜んでくれることに、自分がいる意味があってよかったと思ってしまう。

こんな状況で、自分はどんなふうにこれからの人生を生きていけばいいのか。物理的にも精神的にも打ち壊せない壁みたいなのがあって、どうしたらいいんだろう、というのがすごく悩みなんですよね」

 

「私には 私自身の人生を生きる権利がある」

家族への複雑な思いを抱えながら、これからをどう生きていけばいいのか。問いかけたまなみさんに、ようじよさんは4年前、みずから命を絶とうとしたときの経験を打ち明けました。

病院イメージ

 

ようじよさん:

「私は、『自分の何かが悪くて捨てられた』という潜在意識を持って生きてきたんです。その積み重ねで、どんどん自分がすり減っていって、生きる必要がないっていうことに至ってしまった。それをきっかけに、心理療法士さんのカウンセリングで治療していくことになったのですが、そこで初めて、自分自身と向き合うということをしたんです。

そこで、『私自身には、私自身の人生を生きる権利がある』とことばをかけられました。私は、『あ、あるんだ、私に』と思って。今までそういう考えがまずなくて、常に誰かのために、何かのために利用されるために生を受けたと思っていて、むしろそこで自分の存在意義を確認していました。自分のしたいことをして生きていい、生きる権利がちゃんとある、と気づくことができたのは大きかったですね。

気づけたからといって、実践していくのはなかなか苦しいです。もちろん今も現在進行形ですけど、考えがちょっと変わるきっかけではありましたね」

まなみさんとようじよさん

まなみさん(左)とようじよさん(右)

 

まなみさん:

「今の話を聞いていて、自分自身に何かを許していく、きっとそういうことが必要なのかなって思いました。自分に自分の人生を生きていいんだ、と許す、みたいな」

 

ようじよさん:

「まなみさんにはその力があると思うんですよね。今日お話していて、考え方とかすごくしっかりしていらっしゃって、本当にすばらしいなと思います。もう遅いんじゃないかとか、まったくそういうことはないと思います」

 

まなみさん:

「ありがとうございます。自分の力で、自分の人生を取り戻すというか、立て直すというか。そういう覚悟で、毎日いろんな決断を自分の力でして生きていくなかで、いつかもしかしたら答えがひとつ見つかるかもしれないし、親たちが何か変わるのかもしれない。そういう希望を持って生きていくほうがいいのかな」

  

自分のために生きることをあきらめていたまなみさんに、小さな変化が起きていました。

 

“終わらない”問題があることを忘れないでほしい

2時間にわたる対話の最後。ふたりが語ったのは、“終わらない”問題があることを忘れず、考え続けてほしいという願いでした。

 

まなみさん:

「私たちの苦しみは一生続くし、何年たったからもう解決というわけにはいかないですよね。何か具体的なことができなかったとしても、意識として根づくことが大事だと思うので。いま、いっときの話題として取り上げるのではなくて、しばらくしたらまるで『なかったもの』のように忘れ去れる、ということだけはしてほしくない問題だと思います」

 

ようじよさん:

「私もそれがいちばん嫌です。なかったことにされてしまうというのが。もう二度と、私たちのような思いをする人を出さないために、考え続けてほしいです」

 

取材を通して

「自分と同じ境遇を、1人の人が、傷ついたり闘ったりしながらすごくがんばって生きてきたんだ。その時間の積み重ねを感じられて、勇気をもらえました」

 

ようじよさんとの会話のあと、まなみさんが話したことばです。

勇気と覚悟を持って上げた声が連なることで、これまで埋もれてきた問題が可視化され、当事者たちが苦しみのなかを生き延びる力になるのだと感じました。

今月、旧統一教会で行われてきた信者どうしの養子縁組をめぐり、厚生労働省は教団に対し、法令を順守して養子縁組のあっせん事業にあたるような行為をしないことの徹底を求める、2回目の行政指導を行いました。現在もさまざまな対応が進められていますが、養子の当事者たちの苦しみは、簡単には区切りをつけられないものです。

「そんな苦しみを抱えた人が、隣にいるかもしれない」。

そう心にとどめ、私たちもこの問題を考え、伝え続けていきます。

 


旧統一教会の問題について、当事者の方の情報提供をお待ちしています。NHKでは、引き続き取材を続けていきます。

▼クローズアップ現代「スクープリンク」


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