「逃げ恥」の監修者が答えます! 家事代行の素朴な疑問

NHK
2023年8月22日 午後3:49 公開

(クローズアップ現代 取材班)

【関連番組】8月29日までNHKプラスで配信中

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高橋ゆき(たかはし・ゆき)さん/家事代行会社 取締役副社長 一般社団法人全国家事代行サービス協会会長 海外で働いていた20代半ばの時に出産。異国の地での仕事と、家事育児の両立に不安を感じる中、フィリピン人のメイドに支えられる。この経験から「働きながら家事育児をする人々の役に立ちたい」という思いを持つように。帰国後の1999年に、夫婦で家事代行会社を設立。2019年からは一般社団法人家事代行サービス協会の会長を務める。

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目次 家事代行の素朴な疑問

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どんな家事が頼めるの?

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―家事代行サービスでは、どんな家事を依頼できるのでしょうか?

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高橋さん

普段ご自身でやっている一般的な家事は、ほとんど依頼できると考えていいと思います。

キッチン・お風呂・洗面所・トイレといった水周りの掃除、床の掃除機がけ、拭き掃除、洗濯や片付け。料理であれば、献立作り、買い出し、数日分の作り置き、離乳食作りなどまで対応できるケースもあります。また事業者によってはクリーニングの受け渡し、パーティーの飾り付け、引っ越しの手伝いなども基本的なメニューとして依頼可能な場合があります。

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―お願いできない家事はありますか?

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高橋さん

身体に接触する行為、危険を伴う行為は禁止している事業者が多いです。例えば、高所の清掃や家具等の重い物の移動などです。また介護とベビーシッターは、専門的なサービスですので、対応スタッフやサービス内容を制限しているケースが多いです。

例えば介護については、介護保険外の家事や病院への付き添い等はできるが、食事の補助や要介護のお客様の外出付き添い等は依頼できなかったり、お子様のお世話がある場合、ベビーシッターなどの資格を持つスタッフに限定する、お子様から目を離さないでできる家事に限定するなどの対応です。

後でも述べますが、トラブル防止のためには細かい点を事前にすり合わせておくことが必要です。

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ハウスクリーニングとの違いは?

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―ハウスクリーニングというサービスもあります。家事代行とは何が違うのでしょうか?

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高橋さん

ハウスクリーニングは専用の洗剤や機材を持ち込み、可能な限り分解し、スポットごとに徹底的にきれいにするプロの清掃サービスです。

一方で家事代行は、日常の家事を行うサービスです。掃除の場合、基本的に依頼者のお宅にある洗剤や道具を借りて日常的な掃除を行うということになり、分解までは行わないケースがほとんどです。

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―料金体系に違いはありますか?

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高橋さん

ハウスクリーニングはエアコンの清掃や換気扇の清掃などスポットごとの料金設定が基本です。それに対して、家事代行は基本的に「時間制」です。

つまりハウスクリーニングの場合、例えばエアコン清掃に何時間かかっても料金は一定ですが、家事代行は基本的に時間あたりの料金と最低利用時間が決まってます。どのくらいの時間がかかるかわからない場合、依頼したい家事の内容を伝えれば、目安となる時間を回答してくれると思います。

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料金の相場は?

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―家事代行の料金の相場はいくらでしょうか?

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高橋さん

事業者によって大きく違います。今年7月に経産省が発表した、企業を中心に家事支援サービスを行う事業者に対するアンケートでは、1時間当たりの平均単価は3,692円。最大値は8,500円、最小値は2,500円でした。最低1時間から依頼できるものもありますが、2時間ないし3時間が最低利用時間となっていることが多いと思います。

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―例えば3時間の利用をお願いした場合、どれくらいの家事を行ってもらえるのでしょうか?

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高橋さん

それに関しては依頼者のお宅の広さや状態によって違ってくるので、事前にヒアリングをするのが一般的だと思います。マンションか戸建てか、何平米か、家族の人数、洗面所とお風呂場の数。これらを教えてもらえれば大体の回答はできます。試しにディレクターさんのお宅の場合で考えてみましょうか?

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―お願いします。うちはマンションで、家族は妻と子ども1人、たぶん70平米くらいです。洗面所と風呂は1つずつです。

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高橋さん

ペットは飼っていますか?

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―飼っていません。

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高橋さん

その状況ですと、全室の掃除機がけ、家具やテーブルの拭き掃除、あとはトイレ、洗面所、お風呂場、キッチンのお手入れまでは3時間でできると思います。ここに窓を拭いてくれとか、玄関のポーチをきれいにしてほしいとか、ゴミの分別、洗濯物を畳んで、ということが増えてくるとおそらく3時間では足りなくなってくるのでは思います。ただお宅の状況以外にも事業者やスタッフのスキルで変わってくるので、あくまで標準的なケースと思っていただければと思います。

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家事代行に補助を出す自治体が増加中

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高橋さん

料金に関しては、最近、家事代行の利用料金に補助を出す自治体が増えています。

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―驚きです。どういった理由でどれくらいの公的補助が出るのでしょうか?

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高橋さん

多くは産前産後や育児の支援です。例えば、東京都は港区、中野区、渋谷区、台東区、世田谷区等、地方都市では福岡市や豊橋市等では既に事業が始まっています。どの自治体も利用時間や頻度、子どもの年齢など制限はありますが、通常は1時間3000円以上するサービスを、1時間あたり1000円以内で利用できる自治体もあり、世田谷区では3歳未満の多胎児がいる家庭では全額補助、つまり利用料金は無料です。

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―こうした家事代行の補助制度は全国に広がっていきそうですか?

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高橋さん

今年6月岸田政権が示した「経済財政運営と改革の基本方針2023」、いわゆる骨太の方針では、女性活躍に関する施策として男性の育児休業の取得促進などと共に「家事支援サービス利用の普及」が掲げられました。家事代行サービスに関する補助や支援事業は、今後ますます全国の自治体に広がっていくのではと思います。

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失敗しない家事代行選びのコツ

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―企業や個人を含め多くの事業者がいます。依頼者は、どんな基準で事業者を選ぶ傾向がありますか?

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高橋さん

難しい質問ですね。

家事代行サービスの利用が初めてなので、自分に合った家事のやり方の提案を求めたり、スタッフの選定はお任せしたという方もいますし、自分でスタッフを選び、細かく指示を出してその通りにしてほしいという方もいらっしゃいます。

そんな中でも「とにかく“いい人”をお願いします」という依頼は多いような気がします。単純にスキルが「いい」ことを指すこともありますが、人柄や笑顔、マナーといった感じの良さ、安心感、加えて自分に合った人かどうかを指すことが多いと感じています。

もちろん料金やサービスなどはHP等で確認した上での話ですが、“いい人”がいるか、いそうかというのは、事業者選びの大きなポイントになっているのではないでしょうか。

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―“いい人”とめぐり会うためには、どうしたらいいでしょうか?

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高橋さん

家事代行サービスには主に2種類あり、マッチングアプリ等に登録されたスタッフを自分で直接選んで契約し依頼するケース、企業と契約を結び、その企業に雇用されたスタッフが派遣されるケースがあります。 

いずれの場合も大切なのは、HPや口コミの情報だけで判断せず、まずは自分が気になること、確認したいことを電話やメール等で細かく尋ねてみることです。その際の対応で「いい人」「いい会社」は大体判断できるのではないでしょうか。

家事代行スタッフ個人との直接契約でなく、企業からの派遣型の場合、現場で作業をするスタッフと事前に直接やりとりすることは難しいかも知れませんが、その企業のコールセンターや受付の対応と実際に現場のスタッフの人柄や信頼感はリンクしているように思います。 

また派遣型の場合、まず企業による採用試験や面接があり、現場に出る前の研修もあるので、あいさつやマナー、サービスレベルなど「人柄」「品質」を構成するいくつかの要素については一定レベルの安心感があるのではと思います。

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―正式に依頼する前に、確認しておいた方がいいことは?

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高橋さん

あげればキリがありませんが、まず料金やキャンセルポリシーは必ず確認しましょう。それ以外には大きく5点ほどあります。これらについてもトラブル防止のために必ず確認した方がいいと思います。

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―「依頼可能な家事の範囲」とはどういうことでしょうか?

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高橋さん

例えば料理を依頼したい場合、献立作り、買い物から依頼できるケースもあれば、買い物は依頼できず冷蔵庫にあるものでしか作れないというケースもあります。依頼したい内容を整理し、実現できるかどうかを確認しましょう。ペットの世話や庭の手入れなども各事業者によって対応が大きく異なります。できれば問い合わせの前に、自分が依頼したい家事の内容をリスト化しておくことをお勧めします。

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―「不在時でも依頼できるか」についてはいかがでしょうか?

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高橋さん

不在時に家事代行をお願いしたいというニーズも非常に高いです。事業者やプランによっては不在時の作業はNGだったり、作業の開始と終わりには自宅にいることが求められることがあります。

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―「鍵の管理体制」については?

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高橋さん

不在時でも依頼が可能なケースでは、合い鍵を渡す必要があります。自宅の鍵を渡す以上、自ずと防犯のリスクは高まります。事業者が、鍵をどんな形で管理しているのかはしっかりと確認しておきましょう。

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―清掃用具についてですが、最初にうかがったことですが、そもそも家事代行では自宅にあるものを利用して作業してもらうのが一般的なんですね?

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高橋さん

そうですね。お子様やペットのいる家庭では洗剤にこだわりのあるケース等もありますので、基本的には依頼者にご用意いただくケースが多いと思います。ただ単身世帯ではそもそも清掃用具がほとんどなかったりするケースがあります。その場合は、依頼者の方に当日までにご準備をお願いしたり、事業者側が用意して費用をいただくということも事業者によってございます。

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―「物損などトラブル時の対応」についてはいかがでしょうか?

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高橋さん

事業者が損害賠償保険に加入しているか否かは必ず確認しましょう。大手の事業者であれば基本的に加入していると考えてよいと思いますが、小規模だったり個人事業者では、料金の安さと引換にトラブル時の対応を整えていないケースもあります。

また、マッチングサイトなどを通じた、家事代行スタッフ個人への依頼の場合、トラブル時も直接スタッフ個人とのやりとりや示談交渉となるケースもあるので事前に確認しておく必要があります。

全国家事代行サービス協会と日本規格協会グループが行う「家事代行サービス認証」を取得した事業者は、損害賠償保険の加入が認証の取得要件となっているので一つの目安として考えられると思います。

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変わりつつある家事の価値観

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―最後に読者に伝えたいことはありますか?

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高橋さん

家事は決して楽なものではなく、体力的にもとても負担の大きいものです。さらに子育てや仕事、介護をしながらとなると、その負担感ははかり知れません。かつては「家事をアウトソーシングするというのはぜい沢だ」という風潮もありましたが、女性の社会進出、共働き世帯の増加に伴い、時代の価値観も急速に変わってきています。

内閣府が22年11月から23年1月に実施した調査では、「育児での配偶者との役割分担で家事代行などの外部サービスを利用したいか」という質問に対して「利用しながら家事をしたい」という回答が74.1%に達していました。前回19年の調査より40.6%の上昇です。

家事代行は、人生を豊かに送るための重要な選択肢の一つとして日本社会でも認められつつあります。もし、あなたが「家事は自分たちでやらなくてはならない」という固定観念にとらわれているとしたら、そこからあなた自身を解放してあげてもよいのではないでしょうか。そこで捻出した時間を仕事や趣味、そして家族との大切な時間に振り向けることで、人生をさらに豊かにできるかもしれません。

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―貴重なお話、ありがとうございました。

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