日本国内でも急速に広がる「変異ウイルス」。従来のコロナウイルスよりも感染力が高いという報告もあり、第4波の到来も懸念されています。
変異ウイルスの特徴やこれから取るべき対策について、濱田篤郎教授(東京医科大学)に聞きました。
濱田篤郎さん:東京医科大学教授。渡航医学が専門で、海外の感染症に詳しい。
関連番組:3月30日放送「変異ウイルス拡大 “第4波”にどう備えるか」
変異ウイルス 感染拡大防止の鍵を握るのは「子ども」
――変異ウイルスにはどういった特徴があるのでしょうか?
変異ウイルスにはいくつかの種類があります。日本国内で想定されているのが“イギリス型”と言われる種類で、感染力は従来のウイルスより強く、最大1.7倍の感染力があるとも言われています。
もうひとつの特徴として、従来型のウイルスに比べて、子どもにもかかりやすいということがあります。従来型は子どもにはかかりにくく、感染者は大人や、高齢者が多かったのです。
しかし今回の“イギリス型”は子どもにもかかりやすく、子どものいる施設でのクラスターが国内で発生している状況があります。日本国内で確認されている例をみても、10歳未満のお子さんが感染している例は従来型より多いのです。
今後、幼稚園や保育園、学校など子どもが多い場所で“イギリス型”の変異株の流行が起こる可能性が予測されます。そうなると子どもが家庭に持ち込んで、家族に感染させることも可能性はあります。子どもは症状があまり出ませんが、家庭内に持ち込まれることで例えば高齢者がかかる可能性もあり、そうすることで重症化する人も増えてくることが考えられます。
(感染者の年代別の割合 右のグラフが変異ウイルスの場合)
――学校での感染が増えるということですか?
子どものいる学校は密集空間なので、今後、変異ウイルスの感染拡大は十分に考えられます。さらに発症しない場合は元気なので、子どもたちが広く動き回ることで感染をより拡大させることも考えられます。
海外では変異ウイルスが子どもにもかかりやすいということで休校措置の対応をしている国もあります。
従来型のウイルスの場合、子どもを介する流行はそれほど考えずに対応が出来てきましたが、今後は子どもへの対応を考えることが変異ウイルスの流行を押さえる鍵になってくると思います。
変異ウイルス拡大 「第4波」への懸念
――第4波が到来するのはいつ頃だと考えていますか?
今、大阪の感染者の数の増加を見ると、変異株による流行が始まっているのではないかと私は考えています。特に神戸市では変異株の割合が半分以上になっていることがわかっており、関西方面では変異株による流行が起きている可能性も考えられます。
――医療への影響はどうでしょうか?
昨年12月からの第3波によって、医療機関は疲弊してきました。なんとか第3波をしのいでやっとここで一息つけるという頃ですが、立て続けに変異株による第4波となるとさらに疲弊度が高まってくると思います。今後、第3波を上回るぐらいの感染者が出ることを考えて医療体制を作る必要があると思います。
――ワクチンの効果については?
“イギリス型”の変異株の場合、ワクチンが効くということで悲観的にはなっていませんが、心配なのはワクチンの効果が落ちることが報告されている“南アフリカ型”や、“ブラジル型”などの変異ウイルスです。製薬会社でも変異株に効くワクチンの開発は進めていますが、ワクチン接種を広めることで集団免疫を獲得しようという基本戦略が崩れる可能性も考えておかなくてはなりません。
変異株の検査数増加は急務 早急な実態把握を
――現状の変異株の検査数についてどう考えていますか?
変異株かどうかを検査する意味は、大きく分けて3つあると思います。
1つはどんな変異株が、どれだけ流行しているかという「実態を調べること」。そうすることで、行政の対策などいろいろ決まってくるわけです。
それから2つ目にあるのが「臨床の面」。変異株ということがわかった場合、入院して、退院をする際に検査をして2回陰性を判定する必要があり、そうしたことは臨床面にも影響してきます。
それから3つ目に、「濃厚接触者の追跡」。もしクラスターが起きているということが判明した場合、濃厚接触者を追跡し、誰から感染したかをたどる積極的疫学調査をかなり行わなければなりません。
こうしたことは、検査の割合を高めない限り、行うことはできません。そのためにも検査をする施設が増えていくことが大事だと思いますね。陽性検体の中で、新型コロナの中の変異株の検査の頻度を高めていくということも大事だと思います。
東京の場合には変異株の検査数は1割ほどしかなく、検査数をもっとあげていかなければならない。まだ東京では1カ所しか検査機関が参入していないので、今後より増やしていく必要があると思います。神戸市でやっている検査では、最近のものでは変異株が5割超えています。これは神戸が特に変異株が流行しているからというわけではなくて、東京でもそれに近い変異株の流行があってもおかしくないと私は思います。
ゲノム解析をするのには数日かかってしまうかもしれませんけど、スクリーニング的な検査であれば、何日もかかるものではなく、数時間でこれが変異株かどうかという判断はできます。
ですので、検査をする場所と、検査を行うマンパワーが増えていけば、かなり早く変異株であるかどうかを見極めることができると思います。
どんどん新しい変異株というものが世界各地で生まれています。これから日本でもこの変異株の流行は主流になってくると考えています。新しい変異株を見つけるためにはスクリーニングで引っかかったものについては、ゲノム解析というもっと詳しい方法で、それが新しい変異株かということも判断する必要がでてくると思います。そうすることで、また次なる新たな変異ウイルスが入ってきた時にも、対策につながると考えています。