闇バイトから子どもを守る!「甘い誘い」にだまされない3つのポイント

NHK
2023年5月30日 午後5:36 公開

「簡単」「短時間」「即払い」―。
こうしたことばには要注意!
すべて「闇バイト」の募集で実際に使われたものです。

警視庁によると、去年(令和4年)1年間に特殊詐欺に関わったとして検挙された793人のうち、約63%が10代から20代の若者で、高校生が逮捕されるケースもあったといいます。

親は子どもたちを守るために、ふだんから何を伝えておけばいいのか。もし闇バイトに関わってしまったらどうすればいいのか。サイバー犯罪に詳しい元刑事に聞きました。

(クローズアップ現代 取材班)

▼クローズアップ現代 6月6日までNHKプラスで配信中

話を聞いたのは、埼玉県警察本部に22年間勤務した佐々木成三さんです。捜査一課ではデジタル捜査班の班長を務め、現在は子どもたちを犯罪リスクから守るための講演活動などを行っています。

子どもの反抗期・大学進学の前に伝えたい SNSのリスクと“考える力”

佐々木さん:
何が危険なのかをフィルタリングする能力が欠けている若者は多いと思います。
例えば過去にこんな事例がありました。ある若者が指示役に対して「これは捕まるリスクはないんですか」と聞いたところ、「警察に認知されることはない。だから捕まるリスクはないから大丈夫だよ」と説明され、それを信じて闇バイトに加担してしまったのです。素直な子が引き込まれてしまうこともあります。

反抗期にスマートフォンを持ってしまうと、その使い方や危険性について、(親ではなく)同級生や先輩といった同じ年代の人のことばのほうを信じる傾向があります。投稿を見て「これ闇バイトだと思う?」と相談したときに、「いやこれ大丈夫でしょ、だって安心安全サポートがあるんだもん」という同じ価値観の人たちの間で相談しあっても意味がありません。学校だけに任せるのではなく、保護者も一緒にそういったリスクを教えていかなければならないと思います。
こうしたことは、大学生になるまでに伝えることが重要です。大学生になると、親元を離れたり行動範囲が広がったりと、自由度が格段に上がります。18歳から消費者金融でお金が借りられる時代にもなってきました。投資詐欺などに巻き込まれる大学生も本当に多くいます。
今はスマートフォンで検索すれば何でも答えが出る時代です。若者は自分で物事を考えて解決するという回数が圧倒的に少ないと思います。「みんなやっているから」というだけで詐欺に加担してしまわないよう、自分で物事を考える能力を鍛えなければいけません。


ではどうやって子どもたちに伝えていくのか。佐々木さんは3つのポイントを挙げました。

ポイント①SNSの危険性を日常会話でしっかり伝える

まず重要なのは、親がSNSの特性を理解し、その危険性を子どもに伝えることだといいます。

佐々木さん:
SNSに起因する犯罪は年々増えています。一方でコロナ禍以降、オンライン化が急激に進み、子どもにはスマートフォンを持たせないという選択肢がとれなくなってきました。どのような危険があるのかを子どもがスマートフォンを持ち始めたときから一緒に学び、コミュニケーションの中で伝えることが大切です。
SNSに関しては、その特性をよく知ることです。SNSでは年齢・性別・性格、全部うそをつけます。僕は47歳のおじさんですが、例えば17歳の女子高校生と知り合いたいとなれば、18歳の高校生や20代の大学生というアカウントを作って、いい人をよそおって近づくことができる。これがSNSの1つの特性だと思います。
また、SNS上で自分の個人情報を相手に教えないこと。どこの誰か分からない相手に運転免許証や学生証を写真で送ることはかなり危険だということも伝えなければいけません。

道路の危険性は誰が教えていたかというと、僕は親だと思うんです。公園デビューするころから、一緒に公園に行くときに道路は端っこを歩くんだよ、信号は青になって渡るんだよ、ここは車の通りが多いから気を付けようね…。日常の会話の中で子どもは道路の危険性を学んでいくと思います。これは親が道路の危険性をよく知っているからですよね。 SNSにおいてもその危険性をよく知った上で、日常会話の中で小さいころから伝えていくことが大切です。

ポイント②考える力を鍛える

佐々木さん:
僕がネットリテラシー(インターネットを正しく使うための知識や能力)の授業でいつも出しているクイズがあるので考えてみてください。

小中高生に出すと、残念ながら2割弱の生徒が「お店のものを取っていく」という答えを出します。「何をやってもかまいません」というワードが出ているからです。

僕がそれに対して「はい、逮捕」と言うと、「ずるい。何をやってもかまいませんって言っているじゃないですか」と子どもたちは言うのですが、僕は一般人です。「一般人が何をやってもかまいませんと言ったから万引きにならないという法律はないんだよ」と伝えます。
そんなのずるいと言われますが、「そうなんだよ、社会はずるいんだよ」「そういったことばで誘導していくのが悪い人なんだよ」と伝えていきます。

またこの問題では、我慢するか食べるかを選択できるはずですが、どうしても子どもたちは欲を満たす方向に対して解決を求めてしまいます。例えば知り合いの大人にお金を借りるとか、そういうのもありなんです。でも、そういったことを子どもは想像ができなかったり、恥ずかしくてできなかったりという中で、やはり安易に万引きという回答が少なからず出てしまう。そういったことに関して情報モラルを伝えていかなければと思います。そうやって、ことばを額面どおり受け取ってはいけないと伝えています。

ポイント③さまざまな経験を積む機会を与える

さらに、日頃からさまざまな経験を“アナログ”で積むことも、情報モラルを身につけるのに有効だと佐々木さんはいいます。

佐々木さん:
“経験”はデジタルの中ではなくアナログな、例えば山を登るといった自然体験や団体行動の中でいろいろな価値観に触れる機会を与えることが大切だと感じています。いろいろな年代、性別、価値観を持っている人と関わることで、想像力や他者への共感、相互理解を学ぶことができます。
また、アルバイトを経験させてみるというのも手だと思います。 1時間1000円とか1500円のアルバイトをすることで、1日5万円稼げる仕事というのは、それくらいの生産量がないともらえないお金だと分かります。自分には特殊な能力がないのに1日5万円というアルバイトを募集している、社会ではそんなことはありえないということが分かります。

そういった機会の中でとりあえず失敗してみることも大切です。 親もすぐ答えを出すのではなく、子どもの答えを待って失敗させるというのも情報モラルを身につけるために大切な経験だと感じています。

もし闇バイトに関わってしまったら

それでももし自分の子どもが闇バイトと関わりを持ってしまったら、どうすればいいのでしょうか。

佐々木さん:
「楽して稼げる」ということばにだまされて申し込み、運転免許証や学生証など自分の個人情報を伝えてしまうと、そこから一気に相手の態度が変わって、手伝わなければ学校に言うぞ、親に言うぞと。そして一度手伝ってしまったら、それを警察に言うぞと。そういった脅しが始まり、一度入ってしまうと抜けられなくなってしまう。これが闇バイトの怖さです。

もし連絡を取ってしまったら、無視することです。相手がどんな相手でも、DM(ダイレクトメッセージ)が来たら無視をする。しつこかったら警察に相談してもかまわないと思います。
もし脅しのようなメッセージがきたら、すぐ警察に相談することです。勇気を振り絞って、まず連絡をシャットアウトします。1つの罪に加担してしまい、抜けられなくなってさらに罪を重ね、捕まってしまうのが闇バイトの結末です。

 

闇バイトに申し込んでしまった、実際に加担してしまったという場合は、すぐに最寄りの警察署に相談してください。
こちらのサイトもご参照ください。

警視庁ホームページ「#BAN 闇バイト」 (※NHKサイトを離れます)※別タブで開きます

粘り強く伝え「だまされない力」を養おう

佐々木さん:
闇バイトはハイリスク・ノーリターンです。お金を得たとしても逮捕されてしまう。関わってしまえば損害賠償請求をされたり、就職や進学にも悪影響を及ぼしたりします。闇バイトとは全くプラスがなく、人生をマイナスにするものだと粘り強く伝えていく。そのことを親も知った上で、「自分の子に限って…」ではなく日常のコミュニケーションで伝えていくことが大切です。真実は見えていないもののほうが多いわけです。見えていない真実を見抜く力を身につけてほしいと思います。


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