円安と物価高のダブルパンチ 生活への影響は? 3人の専門家に聞く

NHK
2022年5月25日 午後6:53 公開

急激に進む「円安」。私たちの暮らしや家計にも影響すると専門家は指摘します。すぐに実践できる節約術は?この状況はいつまで続く?3人のスペシャリストに聞きました。

(クローズアップ現代 取材班)

円安で海外旅行客が悲鳴

まず海外旅行の最新状況をひもといていただいたのは、航空・旅行アナリストの鳥海高太朗さんです。

航空・旅行アナリストの鳥海高太朗さん

(航空・旅行アナリスト 鳥海高太朗さん)

3年ぶりの制限解除となった大型連休では、ハワイへの観光客は前の年の5倍になりました。しかし、旅行先では、現地に行った日本人観光客によると、ランチで食べたロコモコが2200円、あるカップ麺が550円と、驚きを隠せなかったと言います。免税店でブランド品を安く買うことを楽しみにしていた人も多かったのですが、なんと日本で買うより高い状態となっていたそうです。

円安による割高感が、格安旅行で人気のタイでも起こっていました。タイの定番料理のガパオ、円安前、今年初めは200円だったのが、現在は220円。まだ安い感じはしますが、10年前は物価の影響もあって130円でした。トムヤムクンは2~3人前で円安前は920円。それが今は、およそ1000円。10年前は565円でした。こちらもずいぶん割安感はなくなっています。

タイの日本語観光ガイドの方によると、大型連休には、久しぶりに日本人観光客が訪れたものの、滞在日数が減り、オプションツアーもほとんど頼まないなど、旅行の仕方が随分変わったといいます。

さらにはショッピングでも、安価なものは買うのですが、タイシルクや木彫り、宝石類など高額商品の購入が減っていると言います。ホテルも、かつては、日本人は5つ星に泊まるというイメージだったそうですが、今回は1万円前後のスタンダードなホテルに泊まっていた方が多かったといいます。

鳥海さんによると、昔は、日本人観光客はお土産文化などもあり、たくさんお金を使うので世界的に歓迎されてきましたが、今は財布のひもが固く、現地の人たちにがっかりされている現状はあるかもしれない。といいます。

世界各国の通貨とくらべても進行している「円安」

ハワイやタイだけでなく、今回の円安は世界各国の通貨に対しても進行しています。

アメリカのドルに対して、今年の初めは1ドル115円だったのが、5か月ほど経った5月24日時点で1ドル=127円と10.0%の円安に。ほかにも中国の人民元や韓国のウォンに対しても、3%、4%の円安。さらに、日本人の旅行で人気のオーストラリア、ヨーロッパや南米でも円安は進んでいます。

こうした状況について解説していただいたのは、マクロ経済が専門の日本総合研究所の石川智久さんです。

日本総合研究所 石川智久さん

(日本総合研究所 石川智久さん)

なぜ円安になっているのか?そこには、日銀の金融政策が大きく関係しているといいます。

そもそも今回、急激な円安が起きたのは、日米間の金利格差と言われています。アメリカの中央銀行が金利を上げ、金融の引き締めを行っている中、日本は引き続き低金利の金融緩和政策をとっています。

そうすると、世界中の投資家たちが金利の高いドルで資産運用をしたいと、大量に円を売り、大量にドルを買ったため、円安ドル高になっているという状態です。そんな中、日銀の黒田総裁は、「円安は日本経済全体としてはプラス」と述べ、円安を事実上容認しているため、当面は円安が続く見込みだと石川さんはいいます。

円安は私たちの生活にどう影響するのでしょうか?

日本は、生活品のほとんどを輸入に頼っているため、円安が進む、つまり円の価値が下がると、輸入するのに多くの円が必要となります。するとコストがかさんで、今、企業はモノの値段を上げざるを得なくなっています。すると、私たちの家計の負担も増えてしまいます。

逆に、海外から見ると日本の製品は安くなるため、以前よりたくさん買ってくれることが期待できます。すると、日本の輸出企業は利益があがるというメリットがあるのです。

20年ぶりの円安!私たちにどんな影響が?

今回の急激な円安は、一時1ドル=130円まで進みましたが、これは何年ぶりのことなのでしょうか?

円とドルの為替レートを見ると、今回の円安は、2002年以来であることがわかります。

では、20年前の日本も円安で苦しんでいたのでしょうか?

20年前の2002年の日本は、就職氷河期が続いた時代でしたが、円安を機に輸出産業が活発となり、日本経済にとってプラスに働いていました。

それでは、輸入コストが増したことによる値上げに関してはどうだったかというと、それほど影響がなかったといいます。一体なぜなのでしょうか?石川さんによると、当時、日本は他の国に比べ物価が高かったため、輸入にかかるコストが上がっても、それほど大きな影響がなかったといいます。

石川さん:

「持っているお金が多い時と少ない時で比べるとわかりやすいと思います。たとえば1万円持っているときに、100円のものが200円に上がっても気になりませんが、1000円しか持っていないときに、100円のものが200円になったら、かなり厳しくなりますよね?それと同じです。当時、円は今と比べてかなり強かった、実力がありました。だから、多少、円安で輸入コストが上がっても、企業にも家計にもそれほど大きな影響はなかったんです」

この「円の実力」は「購買力」ともいわれていて、どのくらい円で買う力があるかを表しています。たとえば、1000円を持ってアメリカに行って、何が買えるか?と考えると、為替レートだけではなく、現地の物価も影響することがわかります。物価が安ければたくさん買うことができますが、高ければ少ししか買うことはできません。つまり、円の本当の実力は、為替だけでなく、物価も一緒に考えなくてはならないということです。

この物価を踏まえた円の本当の実力は今どれほどのものなのか?なんと50年前の水準と同じだというのです。

50年前の1972年の日本は、どんな生活だったのか?海外旅行に行くのは、主に“富裕層”で、一般の庶民はなかなかいけない時代。さらに、海外の商品はかなりぜいたく品だった時代です。

この円の購買力を比べるのに、よく使われるのがビッグマック指数です。各国で材料や調理法がほぼ同じであるハンバーガーの現地での値段を比べることで、その国の購買力がわかるといいます。

今年発表された数値がこちらです。

1位はスイスで804円、2位はノルウェーで737円、3位がアメリカで669円。日本は57か国中33位の390円でした。タイや韓国や中国よりも安い。つまり実力が低いということになります。

「円安」を乗り切るテクニックは?

不安定な先行きの中、生活を維持するためにはどうすればいいのか。ファイナンシャルプランナーの深田晶恵さんに節約テクニックについて聞きました。

ファイナンシャルプランナーの深田晶恵さん

(ファイナンシャルプランナーの深田晶恵さん)

深田さんによると、値段が上がっている小麦から米に切り替えるというのは、最近よく聞く節約テクニックですが、ふるさと納税の活用など、米と同様、その地方にある特産品、つまり国産品に目を向けることも大切だといいます。さらに、円安の不安から、年金や老後の資金をドル貯金や仮想通貨に移すことを検討する方も多いですが、手数料などがかさむこともあるため、冷静に判断し、慌てて資産を動かさないことも重要だといいます。

日本は、これからどうなる?

円安がしばらく続くことが予想される中で、日本これからはどうなるのでしょうか?実は円安は悪いことだけはないといいます。まず期待できるのは「インバウンド需要の増加」です。先月の訪日外国人の数は、2年ぶりに10万人を超えました。

日本観光が人気のタイでは、今のうちにバーツを円に替え、入国制限が解除されたら日本へ旅行したいと、両替所に人が殺到。先月の取引量は前の年の2.5倍になっているといいます。さらに、スイスのダボス会議では、日本が観光競争力・世界ナンバーワンに選ばれています。

そして、円安のメリットのもうひとつが「輸出の活性化」です。

今年の3月期の決算では旧東証一部のうち前年度に比べて利益が増加した企業が7割にのぼり、多くの大企業で過去最高益を記録しました。

しかし、これは海外展開している大企業の話。国内で事業を展開する中小企業にとっては厳しいという声もあります。

先月日本商工会議所が行ったアンケートによると、53.3%の中小企業が円安には「デメリットの方が大きい」と答えています。

日本総合研究所の石川智久さんによると、日本の企業は99%が中小企業のため、日本全体でみると円安のメリットはそれほど大きくなく、特に日本のGDPのうち70%を占めるともいわれるサービス業が大きなあおりを受けるため、日本全体にとっても円安は痛手になりかねないといいます。

石川さんが、大企業だけではなく日本全体を良くするために重要だと指摘するのが「賃上げ」です。

上のグラフは、先ほど紹介した円の実力=為替と物価の影響も反映させた形で世界各国の賃金上昇の推移を表したものです。

各国の賃金が上昇している中、日本では、ここ30年ほど賃金があがっていません。

石川さん:

「最近、メガバンクが賃上げを行ったという良いニュースがありました。まずは大企業から賃金を上げていき、中小企業がそれに付随する形で日本全体の賃金をあげていくべきです。賃金を上げて労働者のやる気を刺激して成長率を高め、成長産業を生み出す。成長→雇用・賃金の上昇→成長という好循環を生み出していくべきです」

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クローズアップ現代 2022年5月25日放送

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