企業が金利負担ゼロ(無利子)、担保もゼロ(無担保)で融資を受けられる、通称「ゼロゼロ融資」。2年前に国が始めた制度で、これまで貸し出された額は実に42兆円にのぼります。コロナ禍で経営が悪化した企業の倒産を食い止めるのに一定の成果をあげてきました。
ところが今、いよいよ返済が本格化するなかで、今度は「お金を返せない」という企業が相次ぎ、かつてない危機感が広がっています。
コロナ禍の2年間、企業を支えた巨額の“借金”。その反動で今なにが起きようとしているのか。
返済に苦しむ中小企業、それを支えようとする人たちの最前線を取材しました。
(クローズアップ現代 取材班)
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ゼロゼロ融資とは?
ゼロゼロ融資とはどのような仕組みなのでしょうか。
通常、企業は金融機関からお金の「融資」を受け、お金を返すときに元々借りていた分である「元本」に加え、「利子」をつけて返します。
2年前に国が始めたゼロゼロ融資は、この「元本」と「利子」の部分が異なります。
まず、コロナ禍で影響を受けた中小企業が、銀行などの金融機関に申請をします。審査を経て、最大で3億円まで融資を受けることができます。
「利子」は都道府県が負担します。
また万が一中小企業が行き詰まり、返済できなくなる場合にそなえ、中小企業はその保証を各地にある信用保証協会に申請します。経営が行き詰まった場合は、国などが財政面で支援する信用保証協会がその「元本」の返済を肩代わりする仕組みです。
多くの企業がゼロゼロ融資を利用し融資の総額は42兆円にのぼります。その効果もあって企業の倒産件数は歴史的低水準に抑えられてきました。
貸し倒れの穴埋めをするのは、国=私たちの税金で?
一方で、ゼロゼロ融資にはリスクもあります。
金融システムが専門の一橋大学の安田行宏教授によれば、企業にとっては借りやすい分、本来の身の丈に合わない額まで融資を受けてしまう可能性があるといいます。金融機関にとっても、確実に融資を回収できて利子も稼げるので、今の低金利時代においてゼロゼロ融資は“恵みの雨”といえます。
多額の融資を受けた結果、企業がもし返せなくなり貸し倒れてしまうと、補償する財源の一部は最終的に国のお金=税金から穴埋めをすることになります。つまり影響を受けるのは私たちということになるのです。
企業を支える側も危機感
企業が「ゼロゼロ融資」の返済をできなかった場合、それを肩代わりするのが全国に51ある信用保証協会です。全国で屈指の規模を誇る大阪信用保証協会を取材すると、相談の電話がひっきりなしに鳴っていました。
大阪信用保証協会が返済を肩代わりすることになった中小企業は8万社あまり。保証の総額もコロナ前の2兆円を超えています。
ゼロゼロ融資の返済が、本格化するのはまさにこれからです。大阪では、現在返済が始まっている企業が46%あまり。来年度までみると、8割を超える企業が返済に追われることになります。
しかし中には、回復のメドが立たず、先延ばしを申し出るケースが出てきているといいます。
(大阪信用保証協会の担当者)
「月々の負担がしんどくて、毎月ずっと返すのは継続できそうにないというご相談をいただいています。返済していたら“やっぱりしんどい”というケースは徐々に増えてきています」
「一番ひどい状態で企業さんがお手上げをされる、いわゆる“突然死”的なことも起こりえます。そういうリスクがこのゼロゼロ保証にはあります」
多額の返済をかかえる企業 どう支援する?
ゼロゼロ融資の返済による企業の倒産を回避するために、いま大阪信用保証協会では、直接企業を訪問し経営のサポートを行う取り組みに力を入れています。本来は、直接融資をした金融機関が担当しますが、ゼロゼロ融資は対象の企業も多く、金融機関が全てを回りきることは難しいためだといいます。
この日訪れたのは、オーダーメイドの婦人靴を百貨店などのイベントで販売してきた会社です。コロナ禍でそうした機会が激減し、4000万円の「ゼロゼロ融資」を受けました。
新しい収益を確保するために信用保証協会が提案したのが、全く異なる販路を持つ企業とのマッチングでした。マッチング先の企業は量販店や海外にも販路をもっています。百貨店のイベントとは異なる新たな客層を開拓しようという狙いです。
一方、金融機関では、貸付先の企業の経営状態を改善するため、金融機関どうしの大規模な連携を始めています。
東京都から神奈川県の一部を営業エリアとする、城南信用金庫。およそ1万件、3500億円のゼロゼロ融資を行ってきました。
城南信用金庫など国内に209ある信用金庫が進めようとしているのが、新たなネットワークの構築です。それぞれが受け持つ企業どうしを営業エリアを越えてつなぎ、新たな販路を開拓しようというのです。
取材をしたこの日、城南信用金庫は奈良中央信用金庫からテレビ電話で相談を持ちかけられていました。ゼロゼロ融資を受けた奈良の老舗和菓子店について「将来性がありそうな事業をさらに拡大できないか」という相談です。
奈良中央信用金庫の担当者が将来性を感じていたのが、老舗和菓子店の「和菓子作り体験」でした。そこで城南信用金庫は、自分たちが取引をしている東京の百貨店のバイヤーを紹介。彼らが体験型ビジネスに注目していることを伝えました。
打合せでは両者をマッチングさせるため早急に商談を進めるよう検討していくことになりました。
3つのポイント 中小企業再生への道は
中小企業の再生にはなにが必要なのか。最後に金融システムが専門で一橋大学教授の安田行宏さんに、鍵となるポイントを3つ挙げていただきました。
1)自主再生
2)財務・事業の再構築
3)事業をたたむ
安田行宏さん(一橋大学教授)
「病気の治療に似ていて支援は早いほど良い。1つ目は金融機関や税理士による伴走型の支援です。自主再生が可能なフェーズで有効で、いかにこの段階でおさえるかが大事です」
「それがうまくいかなった場合、2つ目の財務・事業の再構築に向かいます。病気の治療に例えるなら“外科的処置”と言えます。多くは債権カットや経営者の交代を伴い、民事再生手続きの活用なども期待される局面です」
「最後に、再生の可能性が見込まれないなら、傷が浅いうちに会社をゆるやかにたたむのもひとつの支援といえます。従業員の再就職支援をしながら経営者を次のステップへと送り出します」
また、こうした支援の担い手として安田さんがキーパーソンとして挙げる人がいます。
安田行宏さん(一橋大学教授)
「事業再生に向けて支援をする人の数がいま圧倒的に足りていない。そこで期待したいのは税理士や弁護士、公認会計士といった“士業”の人たちです。日頃から中小企業とかかわる時間が多いので、こうした人を積極的に活用しチームで立ち向かうことが必要です」
倒産=経営者の破産というイメージがありますが、安田さんによれば「支援を段階的に進めていけば円満に事業をたたむことも可能」だといいます。コロナ禍、円安、物価高と日本経済にとって苦しい状況はしばらく続きそうですが、“失敗を許す風土づくり”を進めることで再チャレンジしやすい環境を整えることも大事だと話していました。
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