「漫画BANK」摘発の舞台裏 中国農村に住む運営者を直撃 驚きの言い分とは…

NHK
2022年7月19日 午後5:16 公開

先週、日本で閲覧可能な最大規模の漫画海賊版サイト「漫画BANK」の摘発が明らかになりました。

この摘発の立役者となったのが、著作権団体を中心に結成された“デジタルGメン”と呼ばれるスペシャリストたち。私たちは半年間にわたり彼らに密着取材をしてきました。

Gメンたちの執念の調査の末、特定された発信源はなんと中国の農村でした。

取材班の前についに姿を現した運営者が、言い放った驚きの言い分とは…。

(クローズアップ現代 取材班)

 

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“タダ読み”1兆19億円 世界に誇る「漫画」の危機

去年1年間、海賊版サイトで漫画が“タダ読み”された金額は1兆19億円(一冊あたり500円、サイト平均滞在時間など踏まえ試算)にのぼります。これは正規の漫画販売額である6700億円を超えています。日本が世界に誇るコンテンツである漫画が危機的な状況に追い込まれているのです。

海賊版サイトで近年大きな社会問題となったのが「漫画村」。3年前、日本人の運営者が警察によって逮捕され、国内でその罪が裁かれました。

しかしその後、アジアなど外国が発信源とみられるサイトが急増し、国外から日本人に向けて運営する形態が主流になりました。こうなると日本の警察による捜査は難しく、実質野放しの状態になってしまったのです。

 

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“デジタルGメン” vs 最大の敵・漫画BANK

この状況を打破するべく立ち上がったのが“デジタルGメン”です。

彼らの正式名称はコンテンツ海外流通促進機構CODA。都内のオフィスビルの一角に居を構え、法律やITのスペシャリストたち20名が在籍しています。ネット上にあふれる海賊版サイトに24時間・365日体制で目を光らせ、これまでに数多くの違法サイトの摘発に関わってきました。

私たちが取材を始めたのは去年11月のことでした。

Gメンたちが“宿敵”とするのが「漫画BANK」です。過去最大規模の海賊版サイトで、6万点以上(URL数)の漫画が違法に掲載され、無料で読み放題の状態になっていました。

その特徴はシンプルな仕組みにあります。それまでの海賊版サイトと異なり、読みたい作品のタイトルを検索窓に打ち込むと、すぐさま漫画が読めるページが表示されます。さらに非常に多くの漫画を網羅的に取り扱っていることから、これまでで10億近いアクセス数を集めました。このアクセス数を“タダ読み”された金額に計算すると実に2000億円以上にのぼります。

30年以上著作権団体に所属し海賊版対策の最前線に立ち続けてきた“Gメンのトップ”後藤代表理事は、「漫画BANK」をいち早く摘発しないと危険であると感じていました。

 

コンテンツ海外流通促進機構=CODA 後藤健郎 代表理事

「漫画BANKは若者の関心をとらえた巧妙で非常に悪質なサイトだと思います。野放しにしていたら大変な影響がある。アクセス数や被害額を見ても、これ以上広がらないようにいち早く退治しなければいけません」

 

 

居住地は中国・重慶 運営者ににじみ寄るGメン

運営者の居住地に関するオンラインミーティング

運営者を突き止めるためにGメンが足がかりにしたのが、漫画BANKがデータを保管する通信会社でした。運営者の住所や名前などの情報を明らかにするよう通信会社に求めたのです。

およそ1ヶ月後、裁判所の命令が下り、回答が得られました。

契約者の居住地としてあがったのは、なんと中国の重慶。細かな番地や電話番号まで出てきました。本丸の運営者かどうかまでは分かりませんが、関係者である可能性は高く、中国の行政当局に連絡を取るなどして摘発へ向けて進めていく方針になりました。

居住地が海外であったことから、日本から現地の捜査機関を動かさなければなりません。国内での摘発に比べ難易度の高い状況になりました。

そこでGメンたちは日本が受けた被害を可視化しようと、掲載された漫画作品のURLを一つ一つ記録してまとめた資料を現地の当局につきつけることにしました。

資料を少し見せてもらっただけでも『HUNTER×HUNTER』『幽遊白書』『僕のヒーローアカデミア』といった人気漫画が全話掲載されていて、改めてとてつもない量であることが実感できました。

中国人弁護士たち

さらにGメンたちは中国国内で当局とパイプを持つ弁護士たちを雇い、現地の当局に直接働きかけてもらいました。

中国人弁護士チームは、サイトの違法性が中国の司法部門で証拠として認められるようにするため、掲載されていた部分を中国語に翻訳するなど、できることを地道に積み重ねていきました。

 

 

摘発できない? 立ちはだかる国境という壁

3月。ついに中国の行政当局によって運営者への事情聴取が行われました。しかしGメンたちは雇っていた中国人弁護士から思わぬ知らせを聞くことになりました。

事情聴取を受けたその日に運営者がサイトを完全に消去。当局は事前にデータを保存しておらず、証拠が消えてしまいました。残されたのは日本側が事前に収集した資料のみですが、現地当局が自ら証拠を得られない以上、摘発できない可能性が出てきたというのです。

 

中国人弁護士

「海外から出てきた証拠なので、中国当局が使うには難しさがある。当局も(調査を進めるべきか)疑問視している」

 

中国人弁護士とのオンラインミーティングを終えると、うなだれた様子の後藤代表理事は、弱気な言葉を口にしました。

 

後藤さん

「トーンが低くなっちゃったね。なかなか、厳しいかもしれない。時間かかるかもね。そう簡単にはいかないね…」

 

 

ついに摘発・・・しかし不十分な処罰

中国当局の事情聴取から3ヶ月後、事態が動きます。当局のホームページに「運営者を処罰した」という情報が掲載されたのです。

収集した資料から、最終的には違法性が認められ、摘発に踏み切ったとGメンは考えています。

しかし処罰の内容は十分に納得のいくものではありませんでした。違法収益とされるおよそ30万円の没収と、60万円の罰金が科されたのみ。被害の実態とはかけ離れていました。

 

中国人弁護士

「新たに調査が進められない以上、さらなる罰を与えるということは、考えにくいだろう」

 

 

運営者は何者か 中国の農村で本人に直撃取材

「漫画BANK」の運営者はいったい何者なのか。私たちは日本から3000km離れた中国西部の都市・重慶を直接訪ねることにしました。

居住地とされる場所は、意外なことに市街地から遠く離れた山あいの農村でした。私たちは「運営者を知らないか」村人に尋ねていくことにしました。

 

取材班「人を探しています。■■■という名前です。年齢は30歳くらいです」

村人「聞いたことがありません。この村では若い人たちはほとんど出稼ぎに行っている…」

 

聞き込みを続けていると、運営者を知る人物に出会いました。

 

取材班「■■■は知っていますか?」

村人「ああ、彼の家はこの近く」

取材班「え?」

村人「この家の近く。ネット関係の仕事をしててよ、一晩中」

 

運営者の自宅を知るという村人。彼に案内をしてもらうことにしました。

 

村人からの情報をもとに、ついに自宅へたどり着くことができました。運営者本人とみられる男が出てきたところを直撃してみると、けげんな顔をしながら取材にこたえました。

その人物は小学生の子を持つ30代の男性でした。どのように日本人向けの海賊版サイトを運営していたのか、疑問をぶつけました。

 

取材班「サイトは、すべて1人でやったのですか?」

運営者「そうですよ」

取材班「私は協力者がいるのかと思いました」

運営者「違います」

取材班「お金を儲けたのでは?」

運営者「ほとんど儲け(もうけ)はありません。私はそんなにお金を持っていません

 

サイトの運営はすべてひとりで行い、儲け(もうけ)はほとんどないと話した運営者。たしかに家の中を見渡してみると、どこにでもありそうな木製の椅子や使い古した子どものおもちゃが置いてあり、豪勢とは言えない生活をしているように見受けられました。

さらにサイトを始めた動機について尋ねると、日本のユーザーの“ある声”がきっかけだったと話しました。

 

運営者

「当時は漫画村というサイトがありました。それがつぶれたのです。つぶれた後、一部の日本のユーザーが『避難先をつくってください。漫画を見られる手段がないのです』と言っていました。そんなのは簡単だと思ったのです。(みんなのために)私がやろうと思ったのです」

 

運営者は最後に「自分はこれ以上追及されることはない」と言い放ちました。

 

運営者

「あなたたちは状況がわかってますか?彼ら(日本人)がどのように調べているのか。サイトはもう閉鎖しているので、彼らは追及しようがないのです。私をどうすることもできないのです」

 

 

“億単位の利益”の闇 浮かび上がったヨーロッパのIT企業

「儲け(もうけ)はほとんどない」と話した運営者。しかし巨大サイト「漫画BANK」は億単位の利益を生んだとみられています。運営者の話が本当だとすれば、金はいったいどこに消えたのでしょうか。

それを調べるためにGメンたちが着目したのが広告収入の流れです。

漫画BANKにアクセスした際に掲載されるネット広告。表示回数に応じて広告収入が発生します。広告代理店に情報の開示を求めれば、資金の流れが追えるのではないかと考えたのです。

手がかりはサイトの設計図に当たる「ソースコード」にありました。ソースコードから企業名をたどり調べてみると…

「漫画BANK」に広告を配信していたのは、ヨーロッパのIT企業でした。

ホームページは「様々な作品を取りそろえる漫画サイト、広告を掲載すれば “巨額の収益を生む”」と謳っていました。

どういった人がその漫画を見る傾向があるかという情報なども掲載されていて、Gメンによれば「海賊版サイトの運用を推奨しているようにみえる」といいます。

私たちはGメンに断った上で直接取材することにしました。

事前に質問項目を送り電話をかけると…

 

(電話が切れる音)

Gメン「ん?なんか切られた感がある。途中で切られている感じに聞こえる」

取材班「警戒されているんですかね…」

 

一度つながったものの、すぐに電話を切られてしまいました。何度かけてもその繰り返しでした。

取材の直後、ホームページから情報が削除されました。いまに至るまで企業からの回答はありません。

 

 

半年の密着取材まとめとGメンたちの今後

ここまでが“デジタルGメン”への半年間の密着取材の記録です。

最後に「漫画BANK」摘発に関して今わかっていることをまとめました。

 

▼運営者が重慶の男性とわかったのは去年12月。法的手続が取られるなか本人はサイトの名前やアドレスを次々と変え、違法な海賊版サイトを存続させようとしていた。

▼しかし3月、当局から事情聴取を受けるとサイトは完全に閉鎖。これ以上はアクセスできず、被害は食い止められた形になった。

▼一方、アクセス数などからサイト全体で億単位の広告収入を得ていたとみられており、その資金の流れなど、詳細はわからないまま。

▼運営者の男性は「日本語が全くわからない」としているが、他に関与した人物や協力者がいないのか疑問は残る

 

Gメンたちは今後、「漫画BANK」に広告を掲載していた会社に対して法的手続をおこない、送金記録などの情報を得て金の流れを追いたいとしています。そこから共犯者など背後関係を明らかにしていこうと考えています。

   

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