限りある時間の豊かな過ごし方とは? 時間学の第一人者が行動チェックリストで解説!

NHK
2023年6月20日 午後1:36 公開

人の一生を90年と仮定し時間に換算すると、およそ79万時間になります。そのうち3分の1が睡眠にあてられるとすると、活動している時間は53万時間。限りある時間をどう過ごせば、人生が豊かになるのか?そのヒントが私たちの時間の感じ方にも、隠されているそうです。

「あれ!?もうこんな時間?」と思ったことや「まだ、これだけしか時間がたっていないのか。」と感じた経験は皆さんにもあるのではないでしょうか。実は、時間の感じ方は、様々な状況によって伸びたり縮んだりする不思議なものなんだそうです。

限りある時間を豊かに過ごすにはどうすればいいのか?今回は時間学の第一人者で、日本時間学会の会長を務める千葉大学の一川誠教授に行動チェックリストを作成してもらい、そのヒントを教えていただきました。

  

(クローズアップ現代 取材班) 

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【関連番組】6月27日までNHKプラスで配信中

千葉大学 一川誠教授 日本時間学会の会長 タイパ タイムパフォーマンス

 一川誠さん/千葉大学大学院 人文科学研究院 教授 日本時間学会会長ㅤ

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豊かな時間の使い方のポイントは「心理的な時間」

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一川さん

「時計の時間」は客観的で揺るぎないものですが、人の心の中には、それとは別の「心理的な時間」が流れています。「時計の時間」と「心理的な時間」の錯覚を利用すれば、限りある時間を、より充実させることができるのです。「心理的な時間」は、基本的に代謝の状況や環境などによって伸びたり縮んだりと変化していきます。

代謝とは、生命の維持のために、外界から取り入れた無機質、有機化合物を素材として、体内で行われる合成や化学反応のことで、いわゆる新陳代謝です。代謝が盛んな時には、「心理的な時間」が速く進むため、相対的に「時計の時間」はゆっくりと進みます。

子どもの頃は時間の流れが遅いのに、大人になると時間の流れが速くなるという現象の一つの理由が、年をとって代謝が落ちたことです。普段の生活でも代謝が活発な時には「時計の時間」が1分しか経っていないのに、2分は経っているように感じることがあります。このように「時計の時間」と「心理的な時間」の錯覚を利用すれば、楽しい時間をさらに充実させたり、苦しい時間を短縮することも可能になり、今よりももっと自分の時間を大切にできるようになるかもしれません。

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サーカディアンリズム チェックリスト 監修は日本時間学会会長 千葉大学の一川誠教授

ㅤ限りある時間を豊かに過ごすための行動チェックリスト 監修:千葉大学 一川誠教授

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午後にまとまった時間があれば体を動かす

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一川さん

代謝が盛んになる時には「心理的な時間」が速く進み、「時計の時間」は相対的に遅く進むため、山歩きやウォーキングなど体を動かして代謝が盛んになれば、時間はゆっくりと進んでいるように感じられます。午後になって体が十分に動く時間帯になれば、ちょっとした息抜きのために、体を動かすことは健康面だけでなく、時間の使い方の観点からも優れていると言えます。

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――逆に時間があっという間に過ぎてしまうのはどのような状況でしょうか?

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一川さん

寝転がってスマホを眺めているなどの行動は、代謝が低下しているため、時間もあっという間に過ぎてしまいます。基本的に人間はラクなほうにどうしても流れてしまうために、漫然とスマホを眺めることは、怠惰な流れに身をまかせてしまう可能性が高くなります。

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経験していないことも前向きにチャレンジ

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一川さん

初めての体験も「心理的な時間」が早く進みます。子どもの頃が充実した時間だと感じられる理由の二つ目がここにあります。子どもは、日常で初めて経験することが多いため、「心理的な時間」が速く進み「時計の時間」がゆっくりと感じられます。

大人の場合でも、慣れない仕事や環境に身を置くと時間は長く感じられますが、慣れてきてルーティン化していくと時間は短く感じられます。日常生活もマンネリ化していくと、あっという間に1日が終わったという感覚になります。経験のない仕事にチャレンジする、新しい趣味を始めてみるなど、前向きに新しいことにチャレンジすることは、多少のストレスを感じても、日常に彩りを与えてくれます。

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部屋は整理してスペースを確保 日ざしと心地よい音楽を

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一川さん

広い空間で明るい光が入り、心地よい音が聞こえる空間に身を置くと時間がゆったりと感じられるという研究結果も出ています。目や耳で受け取る情報が多ければ多いほど、時間が長く感じられるのです。机の周りをきれいに整理してスペースを確保し、壁に向いていた机を窓に向けるだけでも変化が実感できるでしょう。

さらに、適度な音量でクラシック音楽などを流すと、ゆったりとした時間を過ごすことができます。美術館や音楽の野外フェスなどに足を運ぶのも同様におすすめです。特に野外の音楽フェスは明るい、広い、音楽がかかっている、イベントの数が多いなど、多くの情報にさらされるので、時間がゆっくり進むように感じます。

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――仕事に集中したい時はどうすればよいでしょうか?

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一川さん

さまざまな情報を遮断できる小さな会議室などにこもって仕事をするといいでしょう。音の情報も遮断されれば、さらに効果的です。

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休日は家事などルーチンワークから離れる

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一川さん

せっかくの休みの日があっという間に…。そんな悩みを持つ人は意外と多いかもしれません。休みの日は、家事などのルーチンワークから離れて、旅行に行ったり、映画を見に行ったりすることがおすすめです。

身近なところでは読書なども有効ですが、普段はあまりできない体験に時間を使うように心がけましょう。旬の食材を食べることや、いつもと違うレストランで食事をするなど、イベント事を作ることも大切です。食事のみならず何も工夫しないでいると、どんどん時間が圧縮されて感じられるのが、大人の時間です。

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1日の出来事は記録して振り返る

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一川さん

「今日は友人と食事をした。」「大事な仕事が少し進んだ。」など、日々の行動を記録しておくと、1日を客観的に振り返ることができます。1日の出来事を記憶として定着させることで、人生の時間を主体的に引き延ばすことができます。

逆にせわしない毎日に追われ、1日1日を振り返ることもなければ、その時間はあっという間に過ぎてしまったように感じられます。経験したことの満足度は実際におこなっている時よりも、後から振り返った時に評価されます。

仕事も遊びも、時々、立ち止まって「反すう」することをおすすめします。実務的な観点から見ても、一つの仕事に無駄に時間を使いすぎたなど反省材料にもなります。毎日、記録することは難しいかもしれませんが、気がついた時だけでもいいので試してみましょう。

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午前中は企画書の作成など頭を使う仕事

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一川さん

多くの人は、午前9時頃から正午にかけて代謝が徐々に上がっていきます。脳の活動量が上がっていき、論理的な判断力が高まってきます。こうした時間は企画のアイデアを練ることや、資料を読み込んで考えるなど、頭を使う作業に向いていると言えます。

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――はやりの朝活などはいかがでしょうか?

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一川さんㅤㅤ

朝が苦手にもかかわらず、無理をして早朝からトップギアで仕事をしたりするとミスが増えたり、予想以上に時間がかかったりします。もちろん、朝型、夜型、中間型など人によって体のリズムは、遺伝子レベルで異なり、変えていくことが難しいことも研究で分かっているので、それぞれの体調にあわせて行動することが大切です。

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お昼休みは場所を変えて食事

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一川さん

貴重なお昼休みは、自席ではなく外の公園やレストランに出かけるなど、なるべく場所を変えるようにしましょう。1日の出来事を記録しておくことと同様に、何かを始める時や終えた時は、区切りをつけることが大切です。区切りをつけないでいると、お昼休みも仕事の延長上にあるひとかたまりの出来事として、時間の流れが速まり、あっという間に1日が終わってしまいます。

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午後は営業など外に出ていく仕事

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一川さん

午後4時ごろから6時ころまでは、代謝がピークに達するので、体が活発に動く時間帯です。スポーツの世界でも、最も優れたパフォーマンスを発揮することが分かっています。

営業の外回りや社外での打ち合わせなど、体を動かす仕事に向いた時間帯になります。活動的になるこの時間帯は新しい仕事に取り組むなど、エネルギーを使うことに費やしたい時間帯です。

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夜は静かに過ごし重要な仕事はしない

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一川さん

夜から未明にかけては、代謝が下がっていく時間帯です。夜になると時間が早くたつと感じる人が多いのもこのためです。集中力も落ちるため、基本的には作業に適しません。

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――仕事を遅くまでしてしまう時もありますが・・・

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一川さん

特に眠気を感じた場合などは、速やかに仕事をきりあげたほうがいいです。結果的には、次の日に行うほうが効率は上がります。仕事のミスが増えるのも、代謝がおちて注意力が散漫になるためです。

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――最後に時間の使い方で、何か大切なことはありますでしょうか?

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一川さん

私が最も伝えたいのは、「時間の使い方は自分で決めることが大切だ」ということです。限りある人生の時間をどう使うのかということは、どう生きるかということにつながるからです。人間は死を運命づけられた生物です。その一生が有限であることを知っているからこそ、「自分で決めた時間の使い方」がとても重要な意味を持つのだろうと思います。

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――少し勇気がいることでもありますよね?

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一川さん

そうですね。ただ、たとえ自分の選択が失敗だったとしても、自分で選択したという行為自体に自尊心を高める効果があることは、心理学の研究でも示されています。ですから、他人が考えた失敗しない道を進むよりは、失敗したとしても、自分の意志で歩む道を選択した方が、最終的には満足度の高い人生になると思います。

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――貴重なお話、ありがとうございました。

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