答えのない“アイドル”という仕事 密着 関ジャニ∞ 大倉忠義

NHK
2022年8月31日 午後5:08 公開

📺特別版 放送決定!2022年12月29日(木)後10:30~(総合)


関ジャニ∞ 大倉忠義さん、37歳。2004年のデビューからいままで第一線を走ってきた。

自身もアイドルとして活躍する一方で、4年前から関西の若手たちのプロデュースを手がけている。新たに立ち上げるグループのメンバー選出、楽曲提供、ライブの演出など、多岐にわたるプロデュース業を担ってきた。

毎年のように新たなグループが生まれては消えていく…熾烈(しれつ)な世界。どんなアイドルを生み出していけばよいのか、模索の日々が続いている。Z世代の8割が「推し活」にハマり、いまや社会に大きな影響力を持つアイドル。

その最前線に立つプロデューサーとしてどんな思いを持っているのか。

NHKは、ことし3月から大倉さんのプロデュースの舞台裏への密着取材が許された。そこで何度も口にしたのは「個性を打ち出せ」ということ。

変わりゆく時代の中で求められるアイドルとはー

                         (クローズアップ現代 取材班)

👉クロ現「ジャニーズそしてBTS アイドル新潮流 舞台裏を追う」(2022年8月31日放送)


アイドルとは…“答えがない”

12歳のとき、みずから履歴書を送りジャニーズ事務所に入った大倉さん。

関ジャニ∞はデビュー18年目を迎え、10年連続で紅白に出場するなど、いまやジャニーズの中核を担っている。

長きにわたり第一線で活躍する大倉さんに、私たちは率直に「アイドルとは何か、考えることはあるのか」という質問を投げかけた。

大倉さん)

『考えますよね』

ディレクター)

『それって答えは見つかるんですか?』

大倉さん)

『見つからないです。“人生とは”と一緒くらい難しいですね。全く見つからない』

大倉さんは去年、プロデューサーという肩書きを添えたツイッターアカウントを開設。その直後にプロデュースに乗り出した当時の心境をつづっていた。

 

「誰のために、何のためにやっているんだろう? 自分は必要とされているのだろうか?」

(2021年9月22日に投稿された大倉さんのツイート)

みずからの存在意義すら見失ったという投稿。そのときアイドルという特殊な存在の難しさを感じていたと語った。その答えはまだ見つかっていない。

 

大倉さん)

『アイドルと呼ばれる年齢も変わってきているじゃないですか。活動期間も変わってきているし、いつまでアイドルでいられるんだろうって不安になることもあるし、お客さんがいなくなっちゃったら成立しないお仕事でもあるから、その不安はやっぱり常にありますよね。何かすごくアイドルの定義がちょっとふわっとしているじゃないですか。どんな仕事なんだろうみたいな。そこを自分で定義づけて頑張っていくのが難しかったりもするんですかね。いろんなフェーズがあって、ある程度までは目標とか夢とか、何も考えずがむしゃらにやっていける時期もありつつ、俺ってこのままで大丈夫なんかなとか、何かそういう時期も越えたみたいな、何かそういうときにやっぱり悩むんじゃないですかね。アイドルって何なんだろうって』

ジャニーさんに直談判した“プロデュース業”

「アイドルとは何か」という模索を続ける中、4年前に始めたプロデュース業。

それは長年ジャニーズ事務所を引っ張ってきたジャニー喜多川氏が亡くなる前の年だった。いまでは、関西の若手たち総勢56人の育成を担っている。

去年デビューした「なにわ男子」のプロデュースを手がけ、平均年齢 18.1歳の「AmBitious」(アンビシャス)においては、メンバー選びからグループの命名まで大倉さんが行ってきた。

新たなグループの立ち上げから、売り出す楽曲、コンサートの演出まで、現役のアイドルとしての仕事も抱えながらのプロデュース業、多忙な日々を過ごしている。

“プロデュース”という言葉から、何から何まで全部決めているのかと思っていたが、大倉さんが考える「プロデュース」は違っていた。

 

大倉さん)

『プロデュースっていう言葉がつくことで、すごく難しくなってるような気がして。単純にいままで自分がやってきたことを、後輩たちに伝えることができたらっていうのが、プロデュースだと思っていて。大きく見ると育成という部分もある。年代的にも、僕はいま30代で、10代の子と会話してると、自分のことを先生だとは思わないけど、そういう年齢だよなとか思いながらやっています。伝えるのが難しかったり、何かいろいろ難しさは感じていますが…』

 

自分たちがかつてジャニー喜多川氏や先輩たちに教えてもらっていたことを伝えたい。その思いで、プロデュースを買って出たのだ。

そもそも大倉さんがプロデュースを始めようと思ったきっかけは、若手たちのコンサートを見たときに感じたある種の物足りなさだったという。

 

大倉さん)

『自分たちの時代と比較してかもしれないですけど、すごくいい子たちがいっぱいいるなっていうのを思ったんですけど。うーん、何だろう、(本人たちに)もっとできることっていっぱいあるんじゃないのかなって感じて、そのショーを見たときに』

 

その思いを抱いたまま、ジャニー喜多川氏のもとへ向かった大倉さん。若手の公演を手伝わせてもらえないかと申し出たという。

 

大倉さん)

『自分の今までやってきたところの経験値も含めて、何か手伝えることってないですかねっていう会話から始まりましたかね。そうしたらジャニーさんは「いいよ、好きにやっちゃってよ」と。印象的だったのが、自由にやっていいし、周りから何を言われようが、いいものを作っちゃえばYOUたちの勝ちだからっていうひと言を言ってくれて、何か先が見えていたのかなって思いました。批判もあるだろうけれど、くじけずやってみたいな。いまだに、だからいいものを作らなきゃって思いますね』

唯一無二の“個性”を打ち出す―

プロデュースをする上で、大倉さんが大切にしていることがある。「個性を出す」ということ。それは、かつて自分が先輩たちに教えてもらったことでもあった。

 

大倉さん)

『自分が活動していく上で、それは幼いときから言われてきたことでもありますし、大勢いる中でお客さんに覚えてもらうっていうのが、分かりやすく自分の特技だったり、自分が人と違うところって何だろうとか、何か探すところから始まったような気がしてるんです。それが、大勢いる中で紹介しやすいところでもあったりすると思いますし。テレビ見てても、この子ってすごく、例えば計算が速い子だよねとか、頭のいい子だよねとかっていうのは、そういう特徴をすごく出してるから覚えてもらえるとかっていうのが、何かこの世界でもすごくあるのかなって思っています』

「一人一人が自分の色を打ち出さなくてはならない」―

それを実感した忘れられない経験が大倉さんにはあった。歌やダンスといった王道のアイドルの姿だけでなく、関西仕込みの笑いを武器に、バラエティーやバンドなどさまざまなことに挑戦してきた関ジャニ∞。

しかし、関ジャニ∞ができた当初はメンバーに選ばれず、バックダンサーをしていた後輩の中から一番最後に加入が決まったのが大倉さんだった。当時は他のメンバーと比べて知名度が低く、ファンの人に覚えてもらうためにはどうすればいいのか、「個性を出す」ということに人一倍悩み、もがいた過去があった。

 

大倉さん)

『(ファンに)認められてないなっていう思いもあったし、じゃあ、そのなかで自分の個性を磨いていくところってどこなんだろうってすごく悩んでましたね。もうとにかく何でもやってみた。ほかのメンバーがやってないようなこと、恥ずかしいけども、セクシーなダンスを勝手に入れてみたりとか、分かりやすく投げキスしてみたりとか、昔の映像見るとすごい恥ずかしいと思うけど、何か思い悩んでいろいろ恥ずかしながら、うーん、ほかのメンバーに「おまえってキザよな」とか言われながらもやってた気がします。これだけやっても、でも個性って分からないんですよ、結局は。考え続けて、でも分からないから、何か自分のこういうところを磨こうとか努力しようとか、自分の場合はやっぱり秀でてるところがない分、ほかのメンバーよりも努力しようとか、何かそういうところに行き着いた気がしますね』

 

がむしゃらにやれることをやり、自分自身の個性を探す時間-

振り返ってみると、その時間が自分自身を成長させたと、大倉さんは語る。

 

大倉さん)

『その過程が大事なような気がして。自分ってどんな人間なんだろうとか、どうやったらもっと覚えてもらえるんだろうって考えることが、初めて僕の場合は自分と向き合う時間だったというか。学生をしていて、そういう疑問を持つことってあまりないじゃないですか。進路を考える上ではあったりするかもしれないですけど、それが若い子でいうと12歳とか小学生だったり、中学生にぶつける質問にしては難しいかもしれないけど、そのきっかけというか、考えるっていうことが大事な気がしてるんで。「何か君のこういうところいいよね」って言うのも大事だけど、「自分ができることって、どういうことだろうな」と考えるプロセスが僕は大事だなと思っています』

 

「自分にできることを考え続けなければならないー」

誰かに言われた個性ではなくて、自分自身が考え抜いた個性を大切にしていくこと。失敗してもいい、すべての経験がアイドルとしての生き方につながると、みずからの経験をもとに若手たちと向きっている。

なにわ男子が見つけた「かわいい」という個性

そんな大倉さんがプロデュースを手がけ、去年デビューしたのが「なにわ男子」。

ピンクの衣装やかわいい振り付けなどがZ世代の心をとらえ、ことし「高校生がいま一番好きなアーティスト・アイドル部門」で1位に輝いた。大倉さんがなにわ男子をプロデュースするにあたって重視したのが「かわいい」という個性。

なにわ男子のメンバーの一人、大西流星さんがインタビューに答えてくれた。

グループ結成当初に大倉さんから繰り返し言われたのは、「かわいさをどう打ち出していくか」。かっこよさが求められがちな男性グループにあって、難しい課題だった。

 

大西さん)

『自分って何が特技なんやろであったりとか、なんか自分の立ち位置が分からないなっていうときに大倉くんからめちゃくちゃ長文のメッセージで「こういうところは流星できていると思うし、かわいいところもかっこいいところも両立できたら、もっと流星としても一回り大きくなれると思うから」って同じ目線になって話してくださったのですごく響きました』

悩んだすえ、大西さんが打ち出したのが、得意だったメンズメイク。

SNS上には大西さんのメイクをまねた動画を出す人が増えた。ジェンダーレスを求める若い世代に広がり、女性だけでなく男性のあいだにも多くのファンが生まれたのだ。

  

大西さん)

『かわいい曲やるときとか、初めのほうは恥ずかしさももちろんありましたし、グループとしても振り切れていない部分とかもあったんですけど、意外とアイドルの中でいないな、このキャラクターみたいなのは、徐々に見つけていけるかなと思っています。「自分たちで色づけしていく」という作業があるからこそ、無理やり着飾っている感がないというか、なにわ男子らしさというのがいいバランスで出せているのかなと思います』

 

大倉さん)

『(かわいいという個性は)彼らの持っている空気、まとっているものじゃないですかね。やっぱり合わないものを無理やりやっても違和感だと思うので。SNS中心の時代だし、それこそ男の子だけどメイクしたりする子もいるし、なんかそれが僕らの時代ではまったくなかったような文化だったりもするけど、そこは彼らの感覚で彼らの良さでやっていくべきだと思いますね』

 

ことし4月、難聴と耳鳴りが悪化し、活動を一時休止していた大倉さん。アイドルとプロデュースの両立が重荷にはなっていないのか、思い切って聞いてみた。

 

ディレクター)

『両立というのは、結構負担というか難しい部分もあるのでは?』

大倉さん)

『うーん、勝手に自分が詰め込みすぎたって感じですかね。これは年齢的なこともあるでしょうし、自分が若いときのままの感覚で、おっしゃ、何でもできるわってやってるのと違かったみたいな』

 

変わりゆくアイドル像

1980年代、90年代、2000年代…20年代と移りゆく時代の中で、求められるアイドル像も変化していると、大倉さんは感じている。

 

大倉さん)

『いまは多様性というか。いろんなところでいろんなものが生まれて、何かそれが大小関係なく、いろんなコミュニティーになっているのが令和なんだなと思いますね。いろんなことを発信できるからこそ、いろんなところでいろんなジャンルのスターが生まれてて、それが海を渡っていたりだとかを見ていると、おもしろいなと思います』

 

そのうえで、ファンとのコミュニケーションのあり方にも機敏に対応していかなくてはならないという思いもあった。

 

大倉さん)

『それこそファンとのコミュニケーションの取り方というか、距離感も変わってきているし。僕たち18年やっていると、そこの距離感がやっぱりデビューした頃とは、全然違いますよね。時代時代の変化しているところに自分たちが対応しなきゃいけないっていう感じだし、それこそ携帯が変わってきたりとか、ネットが速くなったりっていう時代の変化に自分たちも生きているので、それに対して難しいなとは思わないですよね。今、これがベストなんだなみたいな』

群雄割拠のアイドルの世界 ジャニーズの強みは

新たなグループが生まれては消えていくアイドルの世界。いまは、K-POPなど海外のライバルも増えている。その中で「未熟さも含めて見てもらうこと」がジャニーズの強みの一つだと大倉さんは語る。

 

大倉さん)

『完成形を求められるのもいったら、そのグループの個性だし、それは僕はすごくステキだと思うけど、完成されてなくてもいいものってあるかなって思いますね。未熟だけれど、すごい笑顔で頑張っている子とかがすごい輝いて見えて、その青臭さというか、いずれ全部できるようになるんだなと思いながら。期待感だったり、未来が見えない、いい意味で。こうなるんだろうなじゃないようなところって、ちょっとわくわくするというか。僕自身もそのプロセスを見させてもらうのもぜいたくだし、お客さんも今のその姿を応援したいって思ってくれているんだなって、熱量を感じます』

時代の変化を感じつつも、大倉さんは「いつの時代にも“ライバル”はいる」と動じていなかった。だからこそ唯一無二を追い求め、たゆまぬ努力が必要だという。 

 

大倉さん)

『この時代じゃなくても、いつの時代でもライバルはずっといる状態だと思うんで、変わらないと思うんですよね、厳しい状況っていうのは。そこでやっぱりひとつ抜けなきゃいけないとか、もっと違うことをやらなきゃいけないっていう状況はずっと変わらないと思うんで。だから、いろんなところでいろんなアイドルが生まれてるかもしれないけれども、でもアイドルとしてライバルと思ってていいんじゃないですかね。全員救われる世界ではないっていうのは厳しいですけど、厳しい世界にいるからこそちょっとでも手助けじゃないけど、言えるような存在でありたいなと思います』

長くアイドルでいるためには…

「SMAP」「嵐」など、愛されるアイドルを輩出してきたジャニーズ事務所。

その中で息の長いアイドルとして活躍していくためには何が必要なのだろうかー 

 

大倉さん)

『本当自分たち次第な気がするんですよね。どう歩んでいくのかとか、それこそ自分が全部道決めちゃうと、すぐ消費されるようなアイドルになってしまうと思うんですよ。それがちっちゃい頃からやってる子の自主性とか個性とかって、ずっとやっていく上で必要なことというか、今いっぱいタレントさん、グループがいる中で、自分たち、誰もやってなくて、自分たちにできることは何だろうとか、ずっと多分考え続けなきゃいけないことだと思うんで』

改めて、アイドル像とは…

インタビューの最後、大倉さんにとっての「アイドル」とは何か、改めて問いかけた。

大倉さん)

『新しいアイドル像というのも難しいし、自分が考えつくものってないような気もするので、それこそ、今の感覚を持った若い子たちが変えていくというか、自然と変わっていくような気がします。テクノロジーもそうだし文化もそうだし人間性もそうだし、新しいものはそういう世代がつくっていくんでしょうけれど、でもやっぱり影響力がある、人前に立つ仕事っていうところにいる限り、どんな形であっても感動はほしいですね。僕たち(関ジャニ∞)は日本人が持っているど真ん中のアイドル像にはいないんだろうけど、それが間違っている、間違っていないとかじゃなく、そのときに自分たちが正解だって思うことをやってきて、で、それが自分のアイドル像なんだっていうと分からないですけど、自分が積み上げてきた今現在っていう感じですかね』


インタビュー中、私たちがぶつけるさまざまな質問に対して、「質問難しいですね。37歳に答えられるかな」と冗談を言いながらも、今の思いを率直に飾らない言葉で語ってくれた。

その中でも、アイドルとは何かを考え続ける姿が印象的だった。

「みんな考えることじゃないですかね」と、その場ではさらりと返されたが、アイドルとは何かは、“人生とは何か”を考えるのと同じことだとも語った大倉さん。

アイドルというステージに立つことはない私たちでも、仕事とは何か、人生とは何か、ときに考えさせられる瞬間がある。だが、目を背けてなんとなく日々を過ごしてしまう人もいるだろう。

アイドルとして、プロデューサーとして職業に真正面から向き合うからこそ悩み、答えのない答えを探し続ける大倉さんの姿は、変わりゆく時代を見つめる“真のアイドル”だと感じた。


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