「新電力に切り替えて電気代が安くなった」という方もいるのではないでしょうか。
2016年に始まった「電力小売の全面自由化」によって、「新電力」と呼ばれる企業がこれまで続々と新規参入してきました。
価格競争やサービスの多様化を進めるために、700社を超える「新電力」が参入しましたが、実は今年に入って経営破綻や事業撤退が相次いでいます。
「電気代の高騰」、「電力供給の契約停止」など、その影響は、私たちのすぐそばに迫っています。
いま、何が起こっているのか…取材しました。
(クローズアップ現代取材班)
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ある日届いた1通のメール
首都圏で一人暮らしをしている大学生です。ことし3月、ある一通のメールが届きました。その内容は…「電気の供給停止の予告」
電力会社から契約を打ち切られ、他の電力会社を探すよう求められたのです。
大学生:
「何回見返しても私の名前と私の家の住所で何かの間違いじゃないかと思いました。正直意味がわからないじゃないですか」
大学生が契約していたのは、電力の自由化で新規参入した「新電力」。2年前から利用していました。
コロナ禍で大学の授業がリモートになり、自宅で過ごす時間が増えたことで、電気の消費量が多くなっていました。
少しでも電気代を抑えたいと、ネットで月に1000円以上安くなる会社を見つけます。「新電力」に切り替えることで少しでも電気を安くして生活を楽にしたいと思っていました。
大学生:
「少しずつ安くなるというのが長く使っていくと積み重なって大きなお金になっていくので」
しかし、その「新電力」が経営悪化で供給を停止するという連絡が。急いで、他の新電力に乗り換えようと手続きをすすめます。
当時、大学生は、就職活動の大切な時期。電気が止まると通告された日には、大事な採用面接が予定されていました。結局、期限ぎりぎりで新しい会社と契約できましたが、精神的に追い込まれたといいます。
大学生:
「なんで私が…みたいな、いろいろとこみ上げてくるものがあって、涙が出ちゃって…。電気は、ライフラインのうちのひとつで、お湯はガスで沸かしますが、給湯器は電気で動いていたり。ほとんどのものが電気で動くので、止まってしまうっていうことがどれくらい大変なのかっていうのを身に染みて感じました」
電気代30%の値上げ通告
新電力の経営悪化の影響は、産業にも大きな影響を与えています。
その余波を受けた企業のひとつ、リサイクル技術の研究や事業化を手がける、富山のベンチャー企業です。
開発用の設備は電気使用量が多く、少しでも電気代を抑えようと、2年前、大手電力会社から「新電力」に切り替え、安い電気料金を前提に事業を進めてきました。
ベンチャー企業 水木伸明 代表取締役:
「うちの会社は、スタートアップ企業なので、しっかりとコストを抑えて、社会実装めがけて試験研究費を増やしていきたいと思っていました。「電気を安く買える」のはいい話だなと思い、「新電力」にしました」
しかし、ことし3月、新電力から突然、基本料金の30%の値上げを通告されます。
慌てて大手電力会社へ切り替えも検討しましたが、同じような申し込みが相次ぎ、受け入れる余裕はないと断られてしまいました。
当面は、電気代の値上げを受け入れざるをえません。雇用や給与に影響を出さないよう、できる限りの節電を行っています。
そして、事業の中心である開発用の設備を十分に稼働できないジレンマを抱えているのです。
ベンチャー企業 水木伸明 代表取締役:
「(電気代の値上げは)世界情勢など、いろいろ言われたので、うちにも来たかっていうことで思いますけど。そこをすんなりと受け入れられるかというと、やっぱり経営者としては何かを削っていかなきゃいけない。やはり社員を大事にしたいので、何を削るかというところはなかなか厳しいですね。電気料金がこのまま落ち着くとは誰も言っている人がいなくて、そこはちょっと怖いですね。利用者側としてはちょっと一体どういうことなんですかっていう話です」
電力市場に何が起こっているのかー
新電力が参入するきっかけとなった電力自由化は、なぜ行われたのか。
それまでは、発電、送電、小売りを一貫して手がける大手電力が事実上独占していました。価格競争がないため、電気代が高止まりする懸念がありました。
2016年、国は、小売り事業に新たな会社を参入させることで競争を促し、電気代の値下げや、サービスの多様化を図ろうとしました。その結果、700社以上の新電力が次々と生まれたのです。
発電施設を持たない新電力の多くは、主に自由化ともに作られた「卸電力市場」から電力を調達してきました。
発電事業者から市場に卸された電気を新電力が入札、購入し、消費者に届けます。その際、価格に手数料等を上乗せした差額分が、利益になる仕組みです。
しかし、ウクライナ危機などによる燃料費の高騰で発電コストが上昇、市場価格が1年でおよそ4倍に跳ね上がります。
市場価格が販売価格を上回ったことで、黒字を確保するどころか、販売すればするほど、赤字になるケースが生まれました。そのことが電気代の高騰や、経営破綻・事業撤退につながっていったのです。
これまでに経営破綻や事業撤退をした新電力は全国で40社近く。その影響で、どの会社とも契約できない状態にある企業や病院などは1万を超えています。
利用している電力会社が倒産・撤退したら
① 契約中の電力会社から、契約廃止に関する通知が届く(はがきやメールなど)
契約の廃止後もただちに電気が使えなくならないよう電力会社が調整を行います。事前の連絡がなく電気が使えなくなることはありません。
資源エネルギー庁によると、解除予告通知は15日程度前までに行うこととされています。あくまでも目安のため、通知が届くのは電力会社によって異なります。電力会社から通知等が届いた際は、早めに内容を確認したほうがよいです。
② 電力会社の中から、新たな契約先を決める
別の新電力か、または旧一般電気事業者(東京電力や関西電力など各地の大手電力会社)
※供給停止日までに新たな契約先に切り替えられなくても、しばらくは大手電力会社が電力を供給してくれます。しかし、一定期間を過ぎても新たな契約先に切り替えない場合は、いずれ電気が止まってしまうため、可能なかぎり早く新たな契約先に切り替える必要があります。
一方で、新規の受け付けを停止している新電力もあるため、確認が必要です。
新しい電力会社への切り替えに必要なものは何?
■現在契約している電力会社名や契約者名義などの基本情報
■供給地点特定番号
■お客様番号
必要な情報は、毎月送られてくる検針票や契約会社のマイページなどから確認ができます。また、倒産・撤退を知らせる案内にも記載されている可能性が高いです。
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クローズアップ現代 2022年6月13日放送
☛「ある日、電気が来なくなる!?どう切り抜ける“電力クライシス”」※6/20まで見逃し配信中