旧統一教会 韓国に渡った日本人女性信者のいま

NHK
2023年1月30日 午後7:01 公開

教団が結婚相手を決める旧統一教会の合同結婚式。90年代に入るとその数は急増し、日本人女性が韓国人男性と結婚するケースが相次いだ。

いまも韓国に7000人いるという日本人女性信者の歩みや現状を取材した。

(クローズアップ現代 取材班)

 

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目の当たりにした日本人女性信者の数

去年8月。韓国に旧統一教会の日本人女性信者がいかに多いか、実感する出来事があった。

ソウルの中心部で教団が開いた、日本メディアの報道を批判する集会。集まった3000人(警察関係者による)の信者の大部分は、韓国各地からバスに乗ってやってきた日本人女性だった。年齢は40代から60代くらいの人が多く、あちこちから日本語の会話が聞こえてきた。

90年代に盛んに報じられた合同結婚式のウエディングドレスの女性たちが、韓国で変わらず暮らしてきたことを感じた。

 

韓国にいる旧統一教会の日本人女性信者は7000人とされる。

外務省の『海外在留邦人数調査統計』では、韓国に暮らす在留日本人女性はおよそ2万5000人(平成29年)。およそ3割が、旧統一教会の信者であることになる。

彼女たちはいったい、どのような人生を歩んできたのか。

1月。その声を聞くために、韓国の農村部を2週間にわたり、訪ね歩いた。

  

韓国の地域に受け入れられる日本人女性たち

 

ソウルから高速道路で3時間。山に囲まれた農村地帯にある、人口200人ほどの集落を訪ねた。地区の班長だという男性に話を聞くと、ここにも数人の日本人女性信者が暮らしているという。

 

地域の男性

「日本人女性は、とてもよくやるよ。褒めてやりたいよ。農作業も必ず手伝ってよく働くし、夫婦間でも文句を言わない。金持ちに嫁げばいい思いができたのに、貧しい家に嫁いできたんだ。頑張って暮らしているよ」

 

日本人女性信者は、韓国メディアでもたびたび取り上げられてきた。国際結婚によって農村部にやってきた日本人女性が、嫁ぎ先で懸命に親孝行している姿や、地域で活躍するという話題が多い。

私たちはその声を届けたいと、現役信者を訪ねテレビのインタビュー取材を申し込んだが、「教団からマスコミの取材は断るよう指示されている」として実現しなかった。

 

在韓現役信者の声

そうした中、25年以上韓国の農村部で暮らす現役女性信者が、匿名を条件に話をしてくれた。

(取材メモより)

農村で一緒に暮らし始めた時、地域の人たちが、嫁が来てくれたと喜んでもらえたのを記憶しています。最初は、農作業も分からないし、韓国語も分からないので大変でした。

私が暮らす地域には日本人が20名ほどいて、みな祝福結婚で来た人でした。教会に通い続ける理由も、この仲間たちとの関係を大切にしたいからという面が大きいです。

韓国と日本の教会との違いがあるとしたら、日本では教会を一番大切にしなければならなかったのですが、韓国では家庭を一番大切にしています。韓国では献金の要請があっても、家庭の状況次第では断ってきました。私も要求にはすべて応えなければならないとは、考えてきませんでした。

韓国人の夫との間にできた子どもたちは、いまは社会人となりみな独立しています。教会の祝福結婚で、子どもたちとも巡り会えて幸せです。

 

信仰のない夫との祝福結婚

一方で、結婚生活が思い描いていた形とは全く違っていたという女性にも出会った。

2000年代前半から、韓国の地方都市で暮らすちはるさん(仮名・50代)。

母親に暴力をふるう父親の下で育ったちはるさんは、そうした家庭環境を断ち切りたいと10代で旧統一教会の信者となった。海外に宣教に出るほど熱心に活動したちはるさん。教祖が選んだ同じ信仰を持つ男性と家庭を築く「祝福結婚」に、希望を感じていた。

 

韓国人男性が結婚相手に決まった時には、「神様が準備してくださった人だと信じ、喜びが大きかった。お互いが支えって、尊重しあって、神の国を実現するために笑顔で幸せな家庭を作りたい」と願ったという。

しかし結婚後1年ほどで、夫とはすれ違うようになっていた。その理由は、思いがけないことだった。

 

ちはるさん

「(夫は)信仰がなかったんです。最初は一緒に教会に行ってくれたのですが、自分には信仰がないと言っていました。結婚したかったから来たんだと言っていました。ショックというより、『えっ?』という感じで、そうなの、と思いましたね」

 

夫は、信者には禁止されている酒やたばこをたしなみ、次第に女性が接客する飲み屋にも出入りするようになった。それでも教会からは「教祖の選んだ相手との結婚を破綻させてはいけない」と言われたといいます。

ちはるさん

「(教会からは)あなたが変わらなければいけないと常に言われていた。日本人が韓国の男性を変えなければいけない。祝福結婚が理想と全然違うところが本当に疑問でしたね」

  

数ありきで増やされた男性信者

韓国人男性が結婚のために入信したという話は、 ほかの場所でも耳にした。

この女性は90年代半ば、息子の結婚相手として、日本人女性を迎え入れた。きっかけは集落を回ってきた旧統一教会の勧誘だった。

 

女性

「結婚適齢期の息子がいたので、旧統一教会の人たちが訪れてきたんです。結婚させてあげると言って。それで私が受け入れ、結婚させたんです。もともと(旧統一教会について)知らなかったんです。結婚してから通うようになったんです。それで、今は信仰心が厚いんですよ」

 

「統一教会 日本宣教の戦略と韓日祝福」より

 

これは、当時農村に貼らていた旧統一教会関連のビラ。「理想的な配偶者 結んで差し上げます」と書かれ、日本人女性との結婚をうたっています。

 

旧統一教会 韓国本部関係者

「こうしたチラシが、電信柱や掲示板にたくさん貼られていました。1000枚配って1人入信すれば、十分もとが取れます」

 

韓国本部に長年関わってきた関係者は、こうした勧誘方法は、1990年代に入るとあちらこちらで行われていたと証言する。教団内で祝福結婚の総数が設定されるなかで、結婚のあり方が変質していったという。

 

旧統一教会 韓国本部関係者

「祝福結婚の数合わせが行われていました。92年が3万家庭。95年は36万家庭というように目標数が定められたのです。それを達成するためには、外国から新婦が入ってくるのだから、韓国で新郎を探さなくてはならないでしょう。

そのため、とりあえず短期教育を行って、祝福結婚をしてから事後教育を行おうとなった。しかし次の相手探しに追われ、事後教育をする余裕はなかったのです。当時あのように宣伝した責任は、問われなければなりません」

 

帰るに帰れない 元信者の苦しみ

信仰はなかったという夫と結婚したちはるさん。

借金で経済的に追い詰められる中、献金や教会行事への参加を求められることに次第に疑問が積み重なっていった。

さらに教会を離れた人たちが発信する情報に触れたことで、脱会を決断。数年前から教会には一切通わなくなった。

ちはるさん

「元信者さんのブログを見たとき、『あれ、教会に行かなくても、こんなにみんな頑張って生きている人がいるんだ、元気にやっているんだ』と気付きました。

とにかく怖かったので、教会を辞めてしまうことが。先祖を裏切ることになるし、堕落よりも、もっと堕落の世界に行ってしまう、地獄に行ってしまうことが怖かったから。でも、いろいろなブログを見ていくうちに、教義の間違っていると思い始め、それで離れていった感じですね」

 

ちはるさんには2人の子どもがいる。小さい頃は教会に連れて行ったが、信仰は持っていない。まもなく子供たちが成人し、独り立ちする時が近づくにつれ、ちはるさんは、日本に帰国したいという思いが強まっているという。

ちはるさん

「30年自分が信じていたものが違ったという空虚感で、いまどうやって生きていけばいいのかわからないんです。年齢はもう50歳以上ですけど、生き方がよくわからないんです。

信仰がなくなって、なんで韓国にいるんだろうと思うけど、日本には帰る場所がありません。お金もないし、家もない。日本で就職したこともないから、履歴書に書くものもない」

 

合同結婚式のその後 旧統一教会の回答

教団が行う合同結婚式によって、苦しみを抱えている人たちがいる状況をどうとらえているのか。日本の教団本部に問うた。

統一教会 本部の回答 ※抜粋

「韓国家庭連合には、在韓日本婦人信徒および韓国で生活するすべての外国人婦人信徒を支援するための組織、国際婦人協会が存在する。主要都市に地方支部を配置し、信仰および生活上の不安や心配に寄り添うべく、きめの細かいサポートをおこなっている」

  

専門家の見解は

宗教社会学が専門の、北海道大学の櫻井義秀教授は、在韓日本人女性信者を取り巻く問題について、次のように語る。

北海道大学 櫻井義秀教授

「韓国に自らの意思で嫁いだ女性信者に対して一部、自己責任だという声もありますが、実際には、女性たちの信仰心の篤さが韓国の結婚難と結びつき、教団の信者獲得に利用された形となりました。結婚目的で形式的に入信した男性と、教団の指示のもとで結婚することは、幸せな家庭を築くことを掲げる教義を信じた女性たちへの裏切りであり、組織的に生み出されたことは看過できない問題です」

 

取材後記

取材に応じたちはるさんは、「私は自分の意志で韓国にきて、みずからもこの教義を伝道してきた」ことにしょく罪の気持ちがあると語る。

いまそこから再び立ち上がろうとしても、これからどう生きていけばいいのか見通しは立っていない。

そうした人たちをどうサポートしていくかは、残された課題となっている。

 

韓国から相談できる窓口

▽法テラス(日本司法支援センター)「霊感商法等対応ダイヤル」

https://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken03_00156.html (※NHKサイトを離れます)※別タブで開きます

▽在大韓民国日本国大使館領事部:邦人援護班

E-mail:ryojisodan.seoul@so.mofa.go.jp 

TEL:(国番:+82)02-739-7400 (代表)

 


旧統一教会の問題について、当事者の方の情報提供をお待ちしています。NHKでは、引き続き取材を続けていきます。

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