トー横キッズ ”ひとくくり” ”ネタ化”への違和感

NHK
2022年2月22日 午後6:00 公開

「トー横キッズ」ということばを世に広めたZ世代のライター佐々木チワワさん(22歳)

歌舞伎町のガイドブックの製作やイベントの運営などを担い、“歌舞伎町のオフィシャル・アーカイバー”を名乗るジャーナリストの寺谷公一さん(56歳)

歌舞伎町の路上にたむろしている未成年について話を聞くと、2人も10代のときに歌舞伎町に出入りする子どもだったといいます。

2人の体験から彼らの求めているもの、そして大人がどう向き合うのかを探ります。

(クローズアップ現代+取材班)

関連番組:クローズアップ現代+「トー横キッズ ~居場所なき子どもたちの声~」

NHK+で配信(~3/1まで)※別タブで開きます


 

“ただの若い子”でいられる心地よさ

東京都新宿区の歌舞伎町。去年、その中心部にある大型商業ビルの周辺にたむろする数十人の未成年が「トー横キッズ」として話題になりました。

関連ニュース:東京 歌舞伎町「トー横」に未成年集まる 犯罪ケースも 実態は

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2018年ごろから彼らに注目し、話を聞きとって著書にまとめた佐々木チワワさんに話を聞きました。

 

佐々木チワワさん:

「おもしろい子たちがいるなぁ、と思って話を聞いていたら、いつの間にかトー横キッズの専門家みたいに言われるようになって驚いています。きょうも取材が4つ入っています」

(佐々木チワワさん 歌舞伎町にて撮影)

 

2000年生まれの佐々木チワワさん。慶応大学に在学中の現役大学生でライターとして活躍しています。佐々木さん自身も15歳の高校生のころから歌舞伎町を訪れていました。当時は歌舞伎町で同世代に出会うことは無かったといいます。

 

佐々木さん:

「渋谷とか地元に近い池袋だと、知り合いがたくさんいるから学校生活と地続きの感覚で。けれど、歌舞伎町は知り合いの目を気にせずのびのびと遊べるから、友達と2人で行き始めました」

 

小学校から高校まで都内の進学校に通っていた佐々木さん。ビジネスコンテストに出場したり、ライターの仕事を始めたり、注目されることが多い日々のなかで、息抜きをするための場所が歌舞伎町でした。

 

佐々木さん:

「歌舞伎町では肩書とか何をしているとかどうでもよくて、ただの若い女の子でいられたので居心地がよかったです。年齢制限がある店には入れないですが、たまたま知り合ったおじさんとかお姉さんにおごってもらって話したり、キャッチのお兄さんと仲よくなったり。歌舞伎町では外で泣いている女の子とかがいると、大丈夫?って街の人たちが声をかけてくれるんです。ほかの街よりよっぽど温かいなと思いました」

  

佐々木さんは、自身がそうであったように「トー横キッズ」も“学校や家に居場所がない子”ばかりではないといいます。

 

佐々木さん:

「“居場所がない子どもたち”というのがそもそも大人の偏見というか。じゃあ大人も会社に居場所があるのかと言いたいです。会社も家もあるけどこの飲み屋のほうが落ち着くなとか、それと一緒だと思うんですよ。日常を頑張るために非日常な場所で息抜きをしているというか。なかには居場所がない子もいるかもしれないですけど、こっちのほうが自分らしくいられるなとか、こっちのほうがちょっと楽しいなと思って来ている子もいっぱいいます」

 

「トー横キッズ」が問題ではない

「トー横キッズ」が注目されたのは、去年、彼らがたむろしていた周辺で事件やトラブルが相次いだからでした。

6月に15歳の少年が路上でホームレスの男性の頭を踏みつけるなど暴行。11月には18歳の少年2人を含むグループが雑居ビルの屋上で40代の男性を暴行し死亡させた容疑で逮捕されました。また、未成年の喫煙や飲酒、援助交際やビルからの飛び降りなどが確認されていて、薬物事件や性犯罪に巻き込まれるケースも指摘されています。

 

しかし、佐々木さんは、「トー横キッズ」とひとくくりにされ、全員が問題視されるのは違うと感じています。

 

佐々木さん:

「私はよくトー横を、放課後の教室みたいな空間だな、って表現します。なんとなくお互いに顔は知っているけれど、それぞれのグループに分かれているんです。ただ友達と話したいだけの子や、興味本位で来た子、みんなで自撮りしたり踊ったりしたい子など、いろんな子がいます。それをひとくくりにして排除するのはどうなんだろう」

(ラブホテルや風俗店が立ち並ぶ歌舞伎町)

 

その一方で佐々木さんは、自身が10代のころよりも歌舞伎町に集まることがカジュアルになりすぎている現状を心配しています。SNSやネットの掲示板を見て流されるように歌舞伎町に足を踏み入れる子が多いといいます。

 

佐々木さん:

「やっぱり歌舞伎町には性的なものとか、お金を使うことに価値があるとされる商売がすぐ近くにあるので、“転落しやすい”と思います。『トー横キッズを助けたい』と寄ってくる大人の中には、子どもたちを利用しようとする人もいて、彼らが売春やトラブルに巻き込まれることも起きています。難しいことですけど、子どもたちが何を望んでいるのか、決めつけないでまずは耳を傾けることが大事だと思います」

 

かつては子どもの街だった

20年以上にわたって歌舞伎町のコマーシャルやガイドブックの製作、歌舞伎町のオフィシャルウェブサイトやイベントの運営などを行っている寺谷公一さんも、歌舞伎町に初めて足を踏み入れたのは10代のときだったといいます。現在56歳の寺谷さん。1980年ごろの歌舞伎町の様子を聞きました。

(寺谷公一さん)

 

寺谷公一さん:

「当時、渋谷は大学生たちがいる街で、やんちゃな中高生は歌舞伎町のディスコにいました。安くて朝まで営業している店が多かったからかな。自分は、学校の部活の先輩に連れられて地元でマージャンをするようになったのがきっかけで、上達すると腕試しに歌舞伎町に行っていました。自分のなかではずっと歌舞伎町は“子どもの街”というイメージで、未成年が関わる事件や事故は昔からあります。いまあえて『トー横キッズ』とキャッチーなワードでひとくくりにして雑誌やテレビが“ネタ化”することには違和感があります」

(1980年代 歌舞伎町のディスコ)

 

「トー横キッズ」が巻き込まれる事件やトラブルが相次いでいることについては。

 

寺谷さん:

「繁華街で生きるにはそれなりに危険を回避するスキルが必要で、それは子どもであっても同じ。当然、上手に立ち回れる子とそうじゃない子がいます。自分がディスコにいた時代も、いちばん後ろの席には暴力団関係の人がいて、若い子に声を掛けてスカウトしようとしていました。やばいなと距離をとって縁を持たなければ大丈夫だけど、引き込まれていく子もいました。また、自分は17歳で家出をしたときに住む部屋もアルバイト先も見つけられたけど、いまは親の許可なく未成年を受け入れてくれるところなんてないから、探しているうちに甘いことばに誘われて悪い方向へ行ってしまう構造もあると思います」

 

大人への不信感

ボランティアで歌舞伎町の清掃活動やパトロールをしていたこともある寺谷さん。子どもたちが問題を起こす背景には、大人への不信感もあると感じています。

 

寺谷さん:

「ぼったくりが社会問題になったとき、客引きの若者たちになぜぼったくりをするのか聞いたんです。そしたら『悪いジジイたちをこらしめて何が悪いんだ』と言われてハッとしました。おそらく彼らは歌舞伎町でろくな大人を見てきていないんです。例えば、女の子がスマホを見て立っているだけで『いくら?』と聞いてくる大人がたくさんいる。もしかしたらそのおじさんも人生の99%はまともで、1%の欲望を歌舞伎町で見せちゃっているのかもしれないけど、あの子たちはそういう大人の欲望ばかり見ているから、自分たちを守るためにつるんだり、悪いことに手を染めたりする。子どもたちが問題になったときは、大人のほうこそ襟を正すべきではないかと強く思います」

 

“安全な街”という危険

寺谷さんは歌舞伎町をPRする活動をしてきましたが、手放しに「安全な街」と言わないようにしているといいます。それが子どもたちや、ふだん繁華街に来ない人をトラブルから守ることにつながると考えています。

 

寺谷さん:

「行政は特にそう言いたがるのですが、『歌舞伎町は安全になった』と宣伝しないほうがいいと新宿区長に助言したことがあります。やっぱり子どもが繁華街に来る以上はリスクがあると分かって来ないと、事件に巻き込まれやすくなります。ちょっと危ない街だと思われているほうがちょうどいいと思うんです。実際に欲望が入り乱れている街なわけで。歌舞伎町はちょっとドキドキしながら行く街であり続けたほうが、訪れる人と迎え入れる側の双方にとって具合がいいと思います」

 


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